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菅野 洋充(宅建士・リフォームスタイリスト)

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公開日:2024年5月31日

REDS不動産流通システム、宅建士・宅建マイスターの菅野洋充です。

今回は、2024(令和6)年3月29日に「特定都市河川および特定都市河川流域」の指定を受けた「中川・綾瀬川」(埼玉県~東京都)について、流域周辺の不動産への影響を考えます。

中川

(写真はイメージです)

特定都市河川とは

「特定都市河川」とは、「特定都市河川浸水被害対策法」に基づき、国土交通大臣または都道府県知事が指定する河川のことです。

本法第二条にその定義があります。

“この法律において「特定都市河川」とは、都市部を流れる河川(河川法(昭和三十九年法律第百六十七号)第三条第一項に規定する河川をいう。以下同じ。)であって、その流域において著しい浸水被害が発生し、又はそのおそれがあるにもかかわらず、河道又は洪水調節ダムの整備による浸水被害の防止が市街化の進展又は当該河川が接続する河川の状況若しくは当該都市部を流れる河川の周辺の地形その他の自然的条件の特殊性により困難なもののうち、国土交通大臣又は都道府県知事が次条の規定により区間を限って指定するものをいう。”

その川の周囲の都市化が進み、ダムや堤防などの一般的な治水事業のみでは洪水被害を防ぐことが難しく、さらなる治水対策が必要な川であると国や都道府県で指定された河川が「特定都市河川」です。

特定都市河川流域とは

「特定都市河川流域」は「特定都市河川」の“流域”をさすわけですが、「流域」ってなんでしょうね。

コトバンクの説明文です。

“河川の流れに沿う地域。また、河川に流れ込む降水の降り集まる地域。集水地域。その河川の分水界に囲まれた地域。”

「その土地に雨が降ると○○川に流れ込むよ、というのが○○川流域」というわけです。ですので「特定都市河川」に水が流れ込む土地が「特定都市河川流域」として指定されます。

何が規制されるのか

この法律によって「面積1000㎡以上の土地の雨水の浸透阻害行為」が制限されます。具体的には、以下のような行為を行う場合には都・県知事の許可が必要となります。

  1. 宅地ではない土地を宅地などにする土地の形質の変更(例えば農地を宅地造成する)
  2. 土地の舗装(コンクリートなど水の浸透しない材料で土地を覆う)
  3. ゴルフ場、運動場などの施設を新設、増設すること
  4. ローラーなどの建設機械を使って土地を締め固める工事

と、ここまでは足立区や埼玉県のホームページを見ればだいたいわかることを書きました。では、流域の宅地化が、どんな感じで進んだのかを八潮市を一例にて見てみましょう。

国土地理院地図で年代別の航空写真を見ることができます。これは1979(昭和54)年~1983(昭和58)年の間に撮られた、つくばエクスプレス「八潮駅」周辺の航空写真です。

1979年~1983年

見てのとおり、農地だらけです。昔は市街化調整区域だったと聞いています。綾瀬川が1980(昭和55)年から15年連続ワースト1の汚さとなったその最初の時期に撮られたものです。中川の水が茶色です。

続きまして、これは1984(昭和59)年~1986(昭和61)年の航空写真です。

1984年~1986年

首都高速6号三郷線が開通しています。でも周りは農地が多く、この頃から、都内から高速道路を使って運びやすくなったということで、産業廃棄物置場が増えてきたそうです。

そして、つくばエクスプレス開通して2年後になる2007(平成19)年の航空写真がこちら。

2007年

駅ができて、開発が進んでいく様子が見えます。農地はどんどん減っていきます。

そして最後に2019(令和元)年の航空写真です。

2019年

農地はどこ?って感じで、完全に市街化してしまいました。ちょっと緑が見えますが、区画整理事業地ですので、ここにもこれから建物が建っていきます。

宅地化が進むと雨水が……

と、八潮市南部の八潮駅周辺の開発の変遷をご覧いただきましたが、これ以外にも中川・綾瀬川流域では、例えば八潮駅と同じつくばエクスプレスの「六町駅」周辺や、JR武蔵野線「越谷レイクタウン」「吉川美南」「新三郷」などの大型宅地開発地があり、流域内で宅地化が急激に進んでいることがお分かりいただけると思います。

宅地化が進むと、表土が減ります。表土が減るということは、雨水が浸透する土地が減るということになります。そのため、下水道などの排水施設が十分でない場合に、大量の雨水を土に浸み込ませることができず、宅地からあふれた水で内水氾濫を起こすことになります。

こちらのページに、そういった過去の事例があります。

直近ですと2015(平成27)年に越谷市で大規模な床上浸水、道路冠水が起こっています。八潮市では豪雨のときにいつも冠水する交差点があり、冠水した交差点を自動車がのろのろと越えていく動画がSNSにアップされていたりします。

特定都市河川に指定されてどう変わる?

今回、中川・綾瀬川が特定都市河川に指定されたことにより、流域自治体で今年度に流域水害対策計画が策定されます。そして、中川・綾瀬川流域でこの法律が施行されるのは2025(令和7)年7月1日からとなります。施行後には前に説明した「雨水浸透阻害行為の許可」だけでなく、流域内の開発行為は流域水害対策計画に沿った形で行うことが求められます。

先に特定都市河川に指定されている「鶴見川」流域では、

  • 流域内の住民・事業者には雨水を貯留浸透させるよう努力
  • 新たに「雨水浸透阻害行為(面積:1000㎡以上)」を行う場合の許可の取得(雨水の流出を抑制する最小限の対策実施を伴う)
  • 既存の雨水の流出を抑制する役割を持つ防災調整池の保全

が行われています。中川・綾瀬川流域も同じような形で、建築・開発時に雨水を土地から流出させない対策が求められるものと思われます。

最後に

八潮市南部では現在、下水道の整備が進められています。東京都隣接地区で何故か下水道の整備が遅れていましたが、もともと八潮の市街地は市役所周辺から整備されていて、現在整備している地区は八潮市のいちばん端にあるため整備が遅れていたものと思われます。

しかし、道路冠水がよく起こるのは、下水道が整備されているはずの古い市街地方面です。新しい開発地である八潮市南部には、洪水対策用の調節池などが数多く作られていて、下水道も最新の設備となっているため、冠水などの話を聞くことはありません。これは「越谷レイクタウン」についても同様です。

「市街化≒雨水浸透阻害行為」ではあると思いますが、きちんと対策をしたうえでの開発はむしろ水害対策になると私は思いますので、下水道だけでない最新の水害対策を備えた開発分譲地はより安全な住宅地になることと思います。

今回の指定をきっかけに、より安全で住みやすい土地となってくれると思いますので、皆さん、家を買うときは新しい開発地をご検討してみてはいかがでしょうか。

 

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