エージェントブログAGENT BLOG

菅野 洋充(宅建士・リフォームスタイリスト)

社会に必要とされ人に役立つ企業を目指します

4.9

18

このエージェントに相談する

公開日:2022年10月11日

菅野です。

今、不動産投資家界隈で大変な話題となっている「限界ニュータウン 荒廃する超郊外の分譲地」を読みました。

 

千葉県北東部に、家が疎らにしか建っていないような小規模分譲地が、無数に存在するそうです。

これは多くがバブル期前の1970年代に造成されていて、それは投機目的購入者を狙ったものが多く、インフラがお粗末だったり未整備だったり管理不十分で使用できなかったりするそうです。

そういった分譲地は「限界ニュータウン」もしくは「限界分譲地」と呼ばれ、地域や自治体はその問題に目をそむけているというのです。

著者の吉川祐介さんは、結婚を機にそういった限界分譲地、限界ニュータウンに移住、実態を目の当たりにし、問題点を挙げたブログを開設したそう。

そのブログを見つけた出版社「太郎次郎社エディタス」が、自費出版ではなく商業出版を勧めたそうで、見つけた編集者さんはものすごい目の付け所だったな、と思います。

著者はその宣伝となればと今年の2月よりYouTubeチャンネルを始めたところ大変な人気となっていて、どの動画も10万回以上の再生数となり、最も多い再生数の動画は100万回に迫る勢いというブームとなっています。

私も実は、YouTubeで吉川さんの動画がおすすめに出てきたため見たところ、一気に引き込まれてしまった口です。

こちらの本も、9月30日の発売直後、Amazonで販売ランキングがジャンル1位となり、私も遅ればせながら購入し拝読しました。

 

このテーマですが、不動産業者はあまり触りたくないものだろうと思うのです。

そもそも、限界分譲地の不動産というのは価格が非常に低く(0円物件なんてものもあるそうですが)、不動産業は取り扱う物件価格が手数料を左右するという仕組みが法で定められているため、仲介では全く商売にならないのです。

文中にあった限界分譲地を扱う地元業者さんのおっしゃるとおり「ここには儲け話などない」のです。

しかし、分譲当時の不動産業者は田畑としても利用されていない二束三文の土地を買い取り、造成して濡れ手に粟だったわけです。

この問題の最初の原因は、昔の不動産業者の乱開発なわけで、本当はどこかで誰か(不動産にかかわる者)がこのけじめをつけないといけないと思うのです。

 

吉川さんはもともとライターでもなく、別のお仕事をされていたそうですが、筆力があり読ませます。

YouTubeでもそうですが、わかりやすい語り口で人を納得させる力があるように思われます。

構成としては、「限界ニュータウン」「限界分譲地」の現状、このようになった歴史と筆者がこの問題に関わるようになった経緯、問題点の洗い出しと解決につながるかもしれない管理がうまくいっているケースの紹介、という流れになっていて、先に希望を感じる終わり方でした。この構成もうまいですよね。

 

ただ、吉川さんの提言として「自己責任」という言葉を使っていわば自由主義的な方向性が解決につながるのでは、ということを述べられていますが、ここに関しては正直なところ、私としては異論ありです。

 

この問題の原因の一つとして「強すぎる所有権」というのがあります。

私は共産主義者ではないので所有権自体を否定するものではありませんが、日本の不動産の所有権というのは権利に付随する責任や義務があまりにも軽いのではないか、と考えています。

法人が所有している不動産の権利関係があまりにも入り組み塩漬けになっているというケースを、直近の吉川さんのYouTube動画で紹介されていますが、これは本来であれば法人が倒産や解散した後に精算すべき権利が放置されている、というケースです。

それ以外にもこの限界分譲地の問題にとどまらず、ゴミ屋敷問題や大都市の空き家問題、朽廃しかけた区分所有建物の行政代執行による取壊しなどの都市問題は、不動産の所有権やその処分にかかる問題です。

登記をするような一定以上の規模の現物については(これは動産不動産問わずなのですが)所有することに付随する義務、最後の処分までの責任を明確にして、所有者がいなくなった場合の処分をもっと効率的に行えるよう法で定める必要がある、と考えます。

不要な不動産、いわゆる「負動産」については、実は「ゴミ問題」に近いアプローチが必要なのではないかと考えます。

そして不動産については、所有者責任を善管注意義務に準ずるような重いものにすべきだと考えます。

それに併せて、不動産を管理できない所有者が国に土地等を比較的容易に納められるような仕組みも作るべきだと思います。

結局のところ、不動産は自由主義、市場主義的に所有者が管理するもの、という考え方は人口減少社会では行き詰まってきていて、個々人が管理できない不動産は国全体の問題として社会でしっかり管理すべきで、ある程度の権利制限もやむなしではないか、と私は考えます。

 

とても不動産屋の意見ではないな、とも思っておりますが、皆様はどのようにお考えになりますか?

最近の世界情勢も踏まえると、国土の保全に関わるような大きな問題のような気がしております。

田舎の土地

※画像はイメージです。

カテゴリー:

アーカイブ