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井原 直樹(宅建士・リフォームスタイリスト)

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公開日:2023年10月28日

REDSエージェント、宅建士・宅建マイスターの井原です。

資産価値が維持しやすく節税効果もあるということで、タワーマンションは長らく富裕層に人気がありました。相続税の評価額が実勢価格を下回ることを利用して相続税を節税するために高層階を複数購入するケースも見られましたが、過度な節税の是正のために2024年1月から国税庁が新たな算定ルールを導入すると見られています。

タワーマンション

節税できたのは相続税と固定資産税

富裕層がタワーマンションの、特に「高層階」を複数購入するケースが多いのは、希少性があるため資産価値を維持しやすいという不動産的な一面に加え、通常の20階建て未満の中低層マンションや一戸建てに比べて、相続税や固定資産税を節約できることが多かったためです。

多くのタワーマンション高層階が、はっきりと、節税目的に購入されていたのです。

しかし、こうしたケースは税の公平性に欠けるのではとの議論があり、固定資産税については2017年度の税制改正で是正されました。是正前の固定資産税は、高層階でも低層階でも専有面積が同じなら固定資産税が同額だったので、一般的には購入金額が高い高層階のほうが、低層階に比べて相対的に固定資産税がお得な状態でした。この点について、高層階になればなるほど固定資産税が高くなる仕組みが導入されたのです。

具体的には、2018年以降に建設されたタワーマンションが対象で、中間階は増減税なしとした上で、中間階から1階高くなるごとに0.256%ずつ増税されます。その一方で、1階ずつ低くなるごとに0.256%ずつ減税される仕組みになりました。

現在は2018年以降に建設されたタワーマンションに限られた話ですが、今後は全てのタワーマンションにも対象が拡大されるものと思われます。

相続税の算出根拠「評価額」にメスが入ります

来年から始まる新しい算定ルールでは、タワーマンションの相続税評価額と時価(売買価格)との間に、大幅な乖離が生じていることにメスが入ります。

現行制度では、相続税を計算する際に適用される相続財産の評価額は、現金ならそのままの価格(現金100万円=相続評価額100万円)であり、株式は時価で評価されています。

一方で、マンションをはじめとする不動産は、相続税評価額が主として用いられており、中低層のマンションでも、相続税評価額は実際の売買価格よりも3割程度は低く設定される傾向がありました。そのため、節税効果が期待できていたのです。

さらに、タワーマンションのように少ない敷地に対して、住戸数が非常に多い建物になると、一戸あたりの持ち分となる土地の面積が小さくなるため、中低層マンションにくらべて、更に相続税評価額が大幅に低くなる傾向にありました。このため節税のための不動産購入として非常に人気がありました。

実勢価格の60%を下回る評価額は許さない国税庁

来年からの新ルール(案)では、従来の相続税評価額に、マンションの築年数や部屋の階数などから国税庁が一定の根拠があると考える係数によって算出される「乖離率」を掛けて求められます。

この乖離率が1.67倍以上の場合、従来の相続税評価額に「乖離率と0.6」を掛けた価格で評価し、1.67倍未満であれば、従来の相続税評価額で評価されます。

なぜ1.67倍を境界線にしているのかといえば、「1.67倍の逆数が60%だから」というのが理由のようです。「従来の相続税評価額が60%を下回っているかどうか」という判定です。

つまり、「相続税評価額が実勢価格の60%を下回るのは許さない」という国税庁の意思が見て取れるわけです。

影響を受けやすいタワーマンションの特徴は

まずは「乖離率」の計算式を見てみましょう。

乖離率:A+B+C+D+3.220

〈A築年数〉=築年数×△0.033
〈B総階数指数〉=総階数÷33×0.239
〈C所在階数〉=専有部分の所在階×0.018
〈D敷地持ち分狭小度〉=土地持分面積÷専有床面積×△1.195
※「総階数指数」は1を超える場合は1で計算されます。

この計算式を見ると、築年数が浅く、マンション全体が超高層で、所有している階が高層階になればなるほど、敷地持ち分狭小度が小さくなればなるほど、乖離率は1.67倍を超えやすくなりますので、影響は大きくなるでしょう。

いたって普通のマンションでも、評価額が倍近くに!

モデルケースで計算してみましょう。
〈従来の評価額3,600万円のマンション、築15年、28階建ての10階、74㎡の住戸で土地持分7㎡〉

いたって普通のマンションです。しかし、このケースの乖離率を計算すると、なんと「3」になります。

乖離率が1.67倍を超えている場合は、評価額=「従来の評価額×3.0×0.6」と計算されますので、従来の評価額が3,600万円だったとしても、新たな評価額では6,480万円になってしまいます。

法定相続人が1人であれば、相続税の基礎控除額が3,600万円あるので、マンション以外の相続財産がなければ、相続税はかかりません。しかし、相続税評価額が6,480万円になると、基礎控除の3,600万円を超えた部分の2,880万円が相続税対象額なります。

マンション以外の相続財産がなく、特例などがないとした場合、2,880万円に対する相続税はこちらになります。

2,880万円×15%=432万円
-50万円の控除額
382万円が相続税額になります。

相続税がかかるはずではなかったのが382万円になるのは非常に大きいものです。

今後の備えとして

国税庁の「マンションの相続税評価額と市場価格の乖離率の推移」によると、全国平均の乖離率は、2013年は1.75倍でしたが、2018年には2.34倍にまで上昇しているようです。

また、2018年時点で乖離率が2.0以上、つまり評価額が売買価格の半分以下になっていると思われるマンションの割合は全体の約65%を占めるようです。

「タワーマンションの相続には相続税がかかるもの」と肝に銘じておけば、後顧の憂いを断つ物件選定と、ライフプランニングができるのではないでしょうか。

物件選定の段階からぜひお問い合わせください

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