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最終更新日:2016年9月10日
公開日:2016年7月25日

2016年5月に宅地建物取引業法(以下、宅建業法)を一部改正する法律案が成立しました。改正された内容は、不動産業界が現状抱える問題を解消するものになり得るのでしょうか。対談連載の最終回ととなる今回は、不動産業界に詳しい三平弁護士と不動産流通システム 代表取締役の深谷が、新たな不動産流通の仕組みについて語っています。
 
 

新たな不動産流通の仕組みは作れるのか

 
深谷:私は不動産を市場相場で値を付けるのは難しいと思っています。売り手は1円でも高く売りたいと考えるのに対し、買い手は1円でも安く購入したいと考えるわけですが、不動産のように取引単価が高く、情報の非対称性がある中で、双方を満足させるような落としどころを見出して、それを相場とすることは、そもそも可能なのでしょうか。
 
三平氏:売り手と買い手、相反する立場を仲介する場合において、不動産の相場を断定することは、確かに難しいと思います。少しケースは異なるかもしれませんが、慰謝料などについても明確な基準はないものの、裁判において目安になる請求額の相場はあります。それぞれプラスとマイナスの事情があって、それを軸に、ある程度落ち着きどころを模索していくわけです。
 
これと同じように、新しいサービスも、マーケットが大きくなれば自ずと相場にもトレンドが発生していくのではないでしょうか。先ほどの「①どうしても売りたい」、「②売れるなら売りたい」、「③いずれ売りたい」といった、それぞれの要素を持つ人たちがたくさん集まることで、新たな基準値が生まれるということです。これはある意味、「我々が相場を作る」くらいの気持ちが必要かもしれません。
 
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みずほ中央事務所    
代表弁護士 三平聡史氏
 
深谷:レインズ(不動産流通標準情報システム)※にそのような機能を持たせる方が早い気がしますが、いかがでしょうか。
 
三平氏:標準の情報システムが1つしかないと、どうしても独占的な運用になりますよね。
 
深谷:ご承知のとおり、既にIT系から進出してきた新興勢力は、ビッグデータを活用した不動産情報サービスに着手しています。将来的には第二のレインズのようなものをつくろうとしているのかもしれませんね。ただ、不動産仲介の現場は、そう単純なものではありませんので、当面のあいだ紆余曲折が有る様に思います。
 
(編集部注:レインズ(REINS)とは、国土交通大臣指定の不動産流通機構が運営・管理している不動産流通の標準情報システムです。)
 
 

情報のオープン化がもたらす意味

 
深谷:先日、横浜市のマンションで不十分な杭打ち工事を実施し、マンションが傾斜した問題がありましたよね。ビッグデータには当然、そういった施工不良の情報も蓄積されていくと思いますが、たくさん瑕疵のある物件が出てきた場合、中古マンションの仲介市場にも大きな影響が出そうですね。
 
三平氏:ですが、情報を隠蔽して売買するのは詐欺行為になってしまいませんか。
 
深谷:買い手側からすれば当然そのように映りますが、売り手には少々厳しいものになるかもしれません。「ごまかす」というわけではなく、今までならその事実を伝え相応に安くすれば売却できたものが、もしもビックデータが算出するプログラムの中に、不十分な杭打ちは係数0と決めてしまったら、その物件の資産価値は0なんてことも有り得ますよね。戸建でもマンションでも基礎の欠陥は、建て替えも余儀なくされる場合もありますから。
 
三平氏:詐欺行為は法的な問題になってしまうので、売買価格の話とは別に考えた方がよさそうですね。
 
横浜のケースのように、すでに販売してしまった後で不具合が発覚すれば、元請けの施工・管理はもちろん、多方面に大きな責任が問われます。こういうリスクを回避するために、インスペクション(建物状況検査)の活用に本気で取り組むのであれば、何らかの不具合が発覚した場合には公的資金で補助するなど、国を挙げての仕組みづくりが必要でしょう。
 
このように考えていくと、すべてが詳らかになったとき、日本の不動産は売れなくなるのでしょうか。だとすると、不動産業界には大きな膿が溜まっているような気がしてなりません。
 
深谷:最大手のマンション分譲会社ですらこのありさまですので、残念ながら、膿を持っている物件も多くあると考えるのが自然かもしれません。
 
ところで、不動産物件の中には、いわゆる「事故物件」というものが存在します。もちろん物件を紹介する際に事故があった旨を買主に告知しなければなりませんが、これがマンションの場合は複雑で、当該住戸以外の事故の場合、個人情報を盾に管理会社が知らせてくれない場合もあります。
 
三平氏:法的に管理会社に告知する義務を設けるしかないかもしれないですね。
 
深谷:2005年に発覚した耐震偽装事件は、マンションの設計で構造計算の不正が行われ、大きな社会問題になりました。この事件をきっかけに建築基準法などが改正されましたが、このときも一部の管理会社は戦々恐々としていました。
 
三平氏:一度、膿はすべて出し切った方がいいでしょう。
 
 

情報価値は自由化によってこそ活きる

 
深谷:HOME’Sを運営するネクストやソニー不動産、また、リブセンスなどは、透明化=不動産情報の非対称性の解消と捉え、基幹となるような情報サービスを始めています。
 
三平氏:システムの基本のプラットフォームが同じですから、それぞれのベクトルは同じ方向性を向いているとは思います。いずれにしろ、見込み客がいるという情報は経済的価値になります。レインズもインスペクションの件も、その情報をオープン化することが業界発展にとっては急務でしょう。先ほども触れましたが、私は情報共有システムを1つに限定する必要性を感じていません。媒介契約を望む消費者の情報と、物件評価の情報は、全く別のものです。それら別々のデータベースが存在し、消費者も含めて全体で情報を把握することができれば、自ずと相場も作り上げられる、そのような状態に期待しています。
 
深谷:インターネットの普及と技術の進歩が目覚ましいこの時代、あえて情報の非対称性を守ろうとする行為は、既得権へのこだわりであり、けっして消費者は見逃しません。ようやく不動産業界にもイノベーションの風が吹き出したなか、業界関係者だけしか見ることの出来ないレインズは、その存在価値をどんどん失って行きます。誰でも自由に見られる、日本最大の不動産情報サイトとしての“レインズ”が望まれます。
 
(おわり)
 
 
○弁護士法人 みずほ中央法律事務所・司法書士法人 みずほ中央事務所
代表弁護士 三平聡史氏 
1973年生まれ。早稲田大学理工学部資源工学科卒業後、学習塾で講師をしながら法律学を学び、2000年(旧)司法試験合格。2007年弁護士法人 みずほ中央法律事務所・司法書士法人 みずほ中央事務所開設、現在は同事務所代表弁護士。主な著書に『Q&A事業承継に成功する法務と税務46の知識』『会社法対応 株主代表訴訟の実務相談』などがある。
 
聞き手:株式会社不動産流通システム 代表取締役 深谷十三
2008年株式会社不動産流通システムREDS設立。開業当初より運営の合理化を徹底し、仲介手数料を最大無料とする独自の料率を設定し、宅建士と宅建マイスターの資格保有者によるエージェント制での仲介サービスを展開している。

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最終更新日:2016年9月10日
公開日:2016年7月18日

中古住宅流通を活性化するために、建物状況調査(インスペクション)の活用を促すことなどを目的とした宅地建物取引業法(宅建業法)を改正案が5月27日に国会で成立しました。改正案の内容は、不動産業界が抱える問題を解消するものになり得るのでしょうか。不動産業界に詳しい三平弁護士と不動産流通システム 代表取締役の深谷が、不動産業界で「囲い込み」が続く構造や仲介手数料の自由化、TPPが不動産業界に与える影響について語っています。
 
 

業界内に根強い「囲い込み」の動き

 
深谷:昨年、レインズ(不動産流通標準情報システム)※の独占的な運用によって生じる「囲い込み」がマスコミでもテーマとして取り上げられるようになりました。特に問題なのは、業界を代表する団体である一般社団法人 不動産流通経営協会(FRK)の体質が疑われている点です。有名なビジネス誌では、会員の中でもっとも影響力のある数社の卑劣な囲い込みの手口がイラスト付きで紹介されたりもしています。
 
(編集部注:レインズ(REINS)とは、国土交通大臣指定の不動産流通機構が運営・管理している不動産流通の標準情報システムで、宅建業者のみが利用することが出来ます。)
 
昨年、ヤフーとソニー不動産が中古物件の流通活性化を名目に資本提携したことも不動産業界で波紋を広げています。広告媒体として巨大なポータルサイトだけに、寡占化を狙っているととらえられ、多くの業者から新たな囲い込みだとの反発を招いている状況です。
 
 

消費者利益のためにレインズのオープン化を

 
インターネットの普及により多くの消費者がWEB利用し、ポータルサイトや不動産会社のHPから自由に物件情報を取り出せる時代なのに、レインズだけは宅建業者専用の閉ざされたシステムとなったままです。私は、レインズを一般消費者に開放することにより、情報の非対称性はもとより不動産業界の不透明感が解消されていくと思っています。業界は何を怖がっているのでしょうね。
 
ネクストのHOME’Sをはじめ、リブセンスのイエシルやソニー不動産は、いわゆるビッグデータを活用し、誰にでも確認できる不動産価格の指標を示そうとしています。膨大な売買・賃貸履歴や需給などをもとに、適正な価格をピンポイントに提示するサービスを提供しようとしていますが、私は少し懐疑的です。というのも、売り手が100人いたら100人とも、なるべく高く売却したいのは当たり前です。一方、買い手は1円でも安く購入したいというのが世の常です。お互いに相反する目標を持っているので、相場観ならともかくピンポイントにどれだけの説得力があるのでしょうか。
 
むしろ、「売りたい」や「買いたい」という状態には段階があり、例えば「売りたい」状態には、①どうしても売りたい、②売れるなら売りたい、③いずれ売りたい、といった段階があるので、それぞれの状況に応じて価格を決めるのが効果的だと思います。ただ、これを形にするまでには相当な時間が必要でしょう。
 
 

次の課題は両手仲介の禁止・仲介手数料の自由化

 
深谷:かねてから私は、不動産の売主と買主は相反する立場なので、ひとつの仲介業者だけで双方の要望を組み入れた取り引きを行うことは難しいと考えています。最大の要望=価格だからです。だからこそ、売主と買主の双方に信頼のおける仲介業者がいて、それぞれの立場で主張し合い、その交渉過程に納得して契約することが適当な取り引きだと思います。またこれが仲介業者に求められる大きな役割と考えます。でも、より多くの手数料が期待できる両手仲介に対して、それを否定するような踏み込んだ話は、ほとんど出ませんね。両手仲介をしていても、赤字の業者がたくさんいるのが現状なので、仕方ないかもしれませんね。
 
それなら一層のとこ、“仲介手数料の自由化”を目指して、業界として政治に働きかけてはどうでしょうか。また、そうでもしないと目先の利益に固執して小手先に走り、いつまでたっても本質的な改善に繋がらないような気がします。
 
三平氏:たしかに、民法では双方代理は禁止されていますが、仲介は代理と違い、売り手や買い手の代理人にはならないというのも問題ですよね。また、売り手と買い手には、それぞれ不動産を購入するか手放すかという個別要因があるので、そこに相場をつけるのは易しくありません。さらに、現在は法律で定められた仲介手数料の上限が定価のように扱われ、業界全体が『暗黙の価格協定=カルテル』とも言える状態ですが、“仲介手数料の自由化”により、この上限が撤廃されれば新たな価格競争が生まれ、いい意味で業界の活性化につながるかもしれません。
 
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みずほ中央事務所    
代表弁護士 三平聡史氏 
 
深谷:「大手ブランドに契約を任せるのだから、手数料は高くても満足する」、あるいは、逆に「知名度はあまりないけど安い方が助かる」など、自由な競争が打ち出せればいいですよね。
 
三平氏:不動産流通情報が本当の意味でオープンになり、消費者がよく理解して選ぶのであれば、多様化は大変よいことだと思います。
 
深谷:「囲い込み」をする仲介業者にも、大きな利益が出ているならばまだしも、利益すら出ていないのであれば、仲介手数料の仕組み自体を見直すべきです。
 
 

仲介手数料自由化でサービスは多様化する

 
三平氏:“仲介手数料の自由化”に踏み切ると、消費者に対して良い価値を提供するサービスだけが残っていくことになるでしょうね。
 
深谷:「とにかく値引きが得意」、「定価で売るのが得意」、「掘り出し物件を見つけるのがうまい」など、不動産会社によって多彩なアプローチが出てくるでしょう。
 
三平氏:「ネームバリューはないが、手数料は下げる」といったアプローチもありますよね。不動産業界に限られた話ではありませんが、「大手だから良い」ということはなく、サービス内容によって中小規模の業者も適正な評価を受けることができます。「自分で調べるのでサービスは不要」、という人もいれば、「フルサービスを求めるから仲介手数料は10%でもいい」という人もいますから、多様な消費者を網羅するマーケットになのが理想的だと思います。
 
深谷:消費者レビューはいいですよね。私もよくインターネットで買い物をしますが、商品や事業者に対する書き込みは、モノを選ぶときの大きな判断材料になります。
 
三平氏:インターネットの普及によって、インターネットがあるからこそ実現できるビジネスモデルやサービスがありますが、急速に進むネット化に法律が追い付いていない現状があります。IT技術の進歩も目覚ましいので、旧態依然とした法規制は、既存の一部の顧客を守るツールにしかなりません。古い規制は取り払った方が、サービス自体が磨かれ、システムの自由化を後押しすることにつながると思います。レインズが良い例ですが、情報格差によって利益を得る既存顧客(不動産業者)は、誰にでも同じようなことができてしまうのは困るので、法律で新規参入者を規制する方向に働きかけてしまいがちなのです。
 
 

TPPが不動産業界に与える影響とは

 
深谷:これからTPP(Trans-Pacific Partnership/環太平洋連携協定)の一環で、外国のルールや情報が投入されるかもしれないというのに、国内でこのような前近代的な商慣習を続けていてよいのでしょうか。
 
三平氏: TPPの主旨は、参加国間の「関税撤廃」と「経済ルールの統一」です。日本独自の商慣習の改善につながることから、不動産業界でも注目され、いろいろと検討されていますね。海外からの新規参入規制や、免許制の適応などについて、意見書を提出していましたが、そのようなことを検討しても、世界から日本だけが取り残されてしまいます。TPPは国境を越えて経済活動を円滑にすることが目的であり、不動産に限らず日本のみの特別なルールを設けるようなことをすれば、訪日外国人旅行客が減ってしまうでしょう。
 
深谷:旧態依然の考え方がはびこったままだと、海外の企業が日本の不動産業界に参入し難いように、「日本の不動産は、日本での宅建免許がないと扱えない」などと言い出すかもしれませ。グローバル化が進展していく中で日本の不動産業者だけが取り残され、気が付けば「海外のフランチャイズに加盟しないと存続できない」、なんてことに、ならなければいいのですが。
 
他のものと同じく、やろうと思えば不動産も個人で売買できるものなので、仲介手数料を払わずに売ったり買ったりできます。しかしながら、高額なので失敗が許されず、個人や家族にまで大きな影響を及ぼすものなので、専門家である不動産仲介業者が売買に介在することは今後も変わらないでしょう。これは他の国でも同じだと思います。日本の不動産業界の古い商慣習を改め、消費者との間で生じている不動産情報の非対称性を解消する様に努めさえすれば、将来、海外企業が参入して来たとしても対等に渡り合える気がします。
 
三平氏:リブセンスを始め、大手業者が先駆けて提供をはじめているサービスに見習うべきところも少なくないと思います。
 
深谷:おっしゃる通りだと思います。
 
(つづく)
 
 
○弁護士法人 みずほ中央法律事務所・司法書士法人 みずほ中央事務所
代表弁護士 三平聡史氏 
1973年生まれ。早稲田大学理工学部資源工学科卒業後、学習塾で講師をしながら法律学を学び、2000年(旧)司法試験合格。2007年弁護士法人 みずほ中央法律事務所・司法書士法人 みずほ中央事務所開設、現在は同事務所代表弁護士。主な著書に『Q&A事業承継に成功する法務と税務46の知識』『会社法対応 株主代表訴訟の実務相談』などがある。
 
聞き手:株式会社不動産流通システム 代表取締役 深谷十三
2008年株式会社不動産流通システムREDS設立。開業当初より運営の合理化を徹底し、仲介手数料を最大無料とする独自の料率を設定し、宅建士と宅建マイスターの資格保有者によるエージェント制での仲介サービスを展開している。

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最終更新日:2016年9月26日
公開日:2016年7月11日

不動産や住宅などの取引を規定する法律で、「宅地建物取引業法」という法律をご存じでしょうか。略して、「宅建業法」(たっけんぎょうほう)と呼ばれているものです。不動産の売買の規定にかかわる重要な法律ですが、この宅建業法を一部改正する法律案が5月27日に国会で成立しました。
 
従来と比べ、どのような点が改正されたのでしょうか。気になるその内容から、今後の不動産市場に及ぼす影響まで、不動産業界に詳しい三平聡史弁護士に、不動産流通システム(REDS レッズ) 代表取締役の深谷が伺いました。
 

代表弁護士 三平聡史氏

○弁護士法人 みずほ中央法律事務所・司法書士法人 みずほ中央事務所
代表弁護士 三平聡史氏
1973年生まれ。早稲田大学理工学部資源工学科卒業後、学習塾で講師をしながら法律学を学び、2000年(旧)司法試験合格。2007年弁護士法人 みずほ中央法律事務所・司法書士法人 みずほ中央事務所開設、現在は同事務所代表弁護士。主な著書に『Q&A事業承継に成功する法務と税務46の知識』『会社法対応 株主代表訴訟の実務相談』などがある。
 
聞き手:株式会社不動産流通システム 代表取締役 深谷十三
2008年株式会社不動産流通システムREDS設立。開業当初より運営の合理化を徹底し、仲介手数料を最大無料とする独自の料率を設定し、宅建士と宅建マイスターの資格保有者によるエージェント制での仲介サービスを展開している。
 
 

2016年5月の宅建業法改正のポイント

 
三平氏:改正案のポイントは、大きく分けると3つあります。1つ目がインスペクション(建物状況検査)の活用。媒介契約締結時に、売り主に対してインスペクションの意向を確認し、斡旋することを宅建業者に義務付けます。2つ目が、その検査結果の情報開示。契約の際に介在する仲介業者は、検査結果を重要事項説明書に記載しなければなりません。3つ目は、買い主が確認した情報の特定化。検査結果を書面で交付した上で売買契約締結時に、後から「これは聞いていない」などと不明瞭なことが起きないための措置です。
 
図1・宅建業法の改正内容(概要)
図1・宅建業法の改正内容(概要)
(出所:国交省「宅地建物取引業法の一部を改正する法律案」「法律の概要」より抜粋)
 
 そもそも改正することになった理由としては、年々増え続けている空き家問題や、自社内で情報を抱え込んで他社に照会しない、いわゆる「囲い込み」など、すでに不動産業界にはびこる問題点がいくつもあり、結果として中古不動産流通市場の停滞につながっているわけなので、その解消法の一環として今回の改正案は位置付けられているはずでした。
 
この法改正の背景にあった昨年、自民党の小委員会でまとめられた提言の中には、たとえば、すでに法律で禁じられている「囲い込み」の罰則強化や、不当な情報格差を生み出しているレインズ(不動産流通標準情報システム)(※)のルールの抜本的改善などが盛り込まれていました。ですが、フタを開けてみたら、それらにはほとんど触れられておらず、問題解消にはかなり不十分と思われます。
 
(編集部注:レインズ(REINS)とは、国土交通大臣指定の不動産流通機構が運営・管理している不動産流通の標準情報システムです。)
 
 

インスペクションで浮かび上がる問題

 
深谷:私は、インスペクションの活用が一般に定着するまでにはしばらく時間がかかると思います。なぜなら品確法(住宅の品質確保の促進等に関する法律。1999年成立)以前の戸建て住宅は、工務店や大工さんの感覚だけでつくられたものが多く、建物にとって大切な基礎や主要柱の強度・雨じまいなどの性能は品確法の実施後のものとは大きく違います。また、一律の基準でインスペクションを行った場合、建物によってはアラばかり出てきて、持ち主が落胆してしまうのではないでしょうか。もちろん、家を売るならば買主に対して正しく現状を伝えることは大切です。ただ、20年もすると建物の価値を認めない現在の不動産価格査定であるならば、インスペクションは品確法実施後の建物から始めるべきではないでしょうか。
 
 

インスペクションは誰がやるのか

 
深谷:今回の法改正の概要資料で、現在4兆円の中古住宅流通の市場規模を、平成37年までに倍の8兆円を目指すと公表されています。ただ、この数字が達成できるかどうかはかなり疑問です。改正案を提言していた人たちは、実際に売買仲介をしているわけではないので、机上の空論なのではないでしょうか。インスペクションの活用は、今後の不動産業界発展のためには大切ですが、見切り発車に思えてなりません。
 
三平氏:昨今、問題点が明るみに出た「民泊ビジネス」と同じですね。法律の整備が間に合っておらず、実例が出てから、建築基準法に違反する点はどうするのか、といった議論になっています。
 
深谷:この法律は既に国会で成立しているので、来年からインスペクションの活用が開始されます。インスペクションの実施自体が義務付けられるわけではなく、売り手に対してインスペクションの意向を確認することが義務付けられるということなので、売り手が「やりたいならやる」という形ではありますが、それでもインスペクションを実施する業者の人数は絶対的に足りないですよね。
 
三平氏:既存の住宅診断士の他に、今まで建築側にいた方々が移行するのでしょうか。
 
 

売買仲介の現場でインスペクションがついていけるか

 
深谷:ところで、この法律を考えた人たちは、実際の売買仲介の現場を知っているのでしょうか。たとえば、人気の高い地域の物件などは、販売を開始してから一週間で買主が見つかることも珍しくはありません。売主にも買主にもそれぞれの事情があるので、インスペクションの順番待ちだからと言っても、引渡し・決済をいつまでも先延ばしできません。少ない人数の検査員で、このスピーディな動きに果たしてついて来れるのでしょうか。
 
三平氏:一時的には不足するかもしれません。ただ、インスペクションを希望する顧客が増えれば、需要と供給のバランスが働き、その役目を担おうという方が増えてくるでしょう。
 
深谷:一般社団法人 不動産流通経営協会(FRK)には、大手や中堅の住宅・不動産会社が会員として加盟しているので、それなりの受け皿は用意するでしょう。でも、実際は多くの不動産売買を中小零細の会社が行っているので、かなり現場が混乱するような気がします。
 
三平氏:インスペクションサービス自体の競争がどのように起こるか、注目ですね。既存のインスペクション業者にとって、インスペクションが法に盛り込まれることは悲願だったと思いますが、新規参入の人たちにとっては、業界団体に阻まれる可能性があるかもしれないということですよね。
 
(つづく)

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