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最終更新日:2016年9月10日
公開日:2016年7月18日

なぜ不動産業界で「囲い込み」が続くのか ーグローバル化に取り残され、衰退の道をたどるのかー

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中古住宅流通を活性化するために、建物状況調査(インスペクション)の活用を促すことなどを目的とした宅地建物取引業法(宅建業法)を改正案が5月27日に国会で成立しました。改正案の内容は、不動産業界が抱える問題を解消するものになり得るのでしょうか。不動産業界に詳しい三平弁護士と不動産流通システム 代表取締役の深谷が、不動産業界で「囲い込み」が続く構造や仲介手数料の自由化、TPPが不動産業界に与える影響について語っています。
 
 

業界内に根強い「囲い込み」の動き

 
深谷:昨年、レインズ(不動産流通標準情報システム)※の独占的な運用によって生じる「囲い込み」がマスコミでもテーマとして取り上げられるようになりました。特に問題なのは、業界を代表する団体である一般社団法人 不動産流通経営協会(FRK)の体質が疑われている点です。有名なビジネス誌では、会員の中でもっとも影響力のある数社の卑劣な囲い込みの手口がイラスト付きで紹介されたりもしています。
 
(編集部注:レインズ(REINS)とは、国土交通大臣指定の不動産流通機構が運営・管理している不動産流通の標準情報システムで、宅建業者のみが利用することが出来ます。)
 
昨年、ヤフーとソニー不動産が中古物件の流通活性化を名目に資本提携したことも不動産業界で波紋を広げています。広告媒体として巨大なポータルサイトだけに、寡占化を狙っているととらえられ、多くの業者から新たな囲い込みだとの反発を招いている状況です。
 
 

消費者利益のためにレインズのオープン化を

 
インターネットの普及により多くの消費者がWEB利用し、ポータルサイトや不動産会社のHPから自由に物件情報を取り出せる時代なのに、レインズだけは宅建業者専用の閉ざされたシステムとなったままです。私は、レインズを一般消費者に開放することにより、情報の非対称性はもとより不動産業界の不透明感が解消されていくと思っています。業界は何を怖がっているのでしょうね。
 
ネクストのHOME’Sをはじめ、リブセンスのイエシルやソニー不動産は、いわゆるビッグデータを活用し、誰にでも確認できる不動産価格の指標を示そうとしています。膨大な売買・賃貸履歴や需給などをもとに、適正な価格をピンポイントに提示するサービスを提供しようとしていますが、私は少し懐疑的です。というのも、売り手が100人いたら100人とも、なるべく高く売却したいのは当たり前です。一方、買い手は1円でも安く購入したいというのが世の常です。お互いに相反する目標を持っているので、相場観ならともかくピンポイントにどれだけの説得力があるのでしょうか。
 
むしろ、「売りたい」や「買いたい」という状態には段階があり、例えば「売りたい」状態には、①どうしても売りたい、②売れるなら売りたい、③いずれ売りたい、といった段階があるので、それぞれの状況に応じて価格を決めるのが効果的だと思います。ただ、これを形にするまでには相当な時間が必要でしょう。
 
 

次の課題は両手仲介の禁止・仲介手数料の自由化

 
深谷:かねてから私は、不動産の売主と買主は相反する立場なので、ひとつの仲介業者だけで双方の要望を組み入れた取り引きを行うことは難しいと考えています。最大の要望=価格だからです。だからこそ、売主と買主の双方に信頼のおける仲介業者がいて、それぞれの立場で主張し合い、その交渉過程に納得して契約することが適当な取り引きだと思います。またこれが仲介業者に求められる大きな役割と考えます。でも、より多くの手数料が期待できる両手仲介に対して、それを否定するような踏み込んだ話は、ほとんど出ませんね。両手仲介をしていても、赤字の業者がたくさんいるのが現状なので、仕方ないかもしれませんね。
 
それなら一層のとこ、“仲介手数料の自由化”を目指して、業界として政治に働きかけてはどうでしょうか。また、そうでもしないと目先の利益に固執して小手先に走り、いつまでたっても本質的な改善に繋がらないような気がします。
 
三平氏:たしかに、民法では双方代理は禁止されていますが、仲介は代理と違い、売り手や買い手の代理人にはならないというのも問題ですよね。また、売り手と買い手には、それぞれ不動産を購入するか手放すかという個別要因があるので、そこに相場をつけるのは易しくありません。さらに、現在は法律で定められた仲介手数料の上限が定価のように扱われ、業界全体が『暗黙の価格協定=カルテル』とも言える状態ですが、“仲介手数料の自由化”により、この上限が撤廃されれば新たな価格競争が生まれ、いい意味で業界の活性化につながるかもしれません。
 
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みずほ中央事務所    
代表弁護士 三平聡史氏 
 
深谷:「大手ブランドに契約を任せるのだから、手数料は高くても満足する」、あるいは、逆に「知名度はあまりないけど安い方が助かる」など、自由な競争が打ち出せればいいですよね。
 
三平氏:不動産流通情報が本当の意味でオープンになり、消費者がよく理解して選ぶのであれば、多様化は大変よいことだと思います。
 
深谷:「囲い込み」をする仲介業者にも、大きな利益が出ているならばまだしも、利益すら出ていないのであれば、仲介手数料の仕組み自体を見直すべきです。
 
 

仲介手数料自由化でサービスは多様化する

 
三平氏:“仲介手数料の自由化”に踏み切ると、消費者に対して良い価値を提供するサービスだけが残っていくことになるでしょうね。
 
深谷:「とにかく値引きが得意」、「定価で売るのが得意」、「掘り出し物件を見つけるのがうまい」など、不動産会社によって多彩なアプローチが出てくるでしょう。
 
三平氏:「ネームバリューはないが、手数料は下げる」といったアプローチもありますよね。不動産業界に限られた話ではありませんが、「大手だから良い」ということはなく、サービス内容によって中小規模の業者も適正な評価を受けることができます。「自分で調べるのでサービスは不要」、という人もいれば、「フルサービスを求めるから仲介手数料は10%でもいい」という人もいますから、多様な消費者を網羅するマーケットになのが理想的だと思います。
 
深谷:消費者レビューはいいですよね。私もよくインターネットで買い物をしますが、商品や事業者に対する書き込みは、モノを選ぶときの大きな判断材料になります。
 
三平氏:インターネットの普及によって、インターネットがあるからこそ実現できるビジネスモデルやサービスがありますが、急速に進むネット化に法律が追い付いていない現状があります。IT技術の進歩も目覚ましいので、旧態依然とした法規制は、既存の一部の顧客を守るツールにしかなりません。古い規制は取り払った方が、サービス自体が磨かれ、システムの自由化を後押しすることにつながると思います。レインズが良い例ですが、情報格差によって利益を得る既存顧客(不動産業者)は、誰にでも同じようなことができてしまうのは困るので、法律で新規参入者を規制する方向に働きかけてしまいがちなのです。
 
 

TPPが不動産業界に与える影響とは

 
深谷:これからTPP(Trans-Pacific Partnership/環太平洋連携協定)の一環で、外国のルールや情報が投入されるかもしれないというのに、国内でこのような前近代的な商慣習を続けていてよいのでしょうか。
 
三平氏: TPPの主旨は、参加国間の「関税撤廃」と「経済ルールの統一」です。日本独自の商慣習の改善につながることから、不動産業界でも注目され、いろいろと検討されていますね。海外からの新規参入規制や、免許制の適応などについて、意見書を提出していましたが、そのようなことを検討しても、世界から日本だけが取り残されてしまいます。TPPは国境を越えて経済活動を円滑にすることが目的であり、不動産に限らず日本のみの特別なルールを設けるようなことをすれば、訪日外国人旅行客が減ってしまうでしょう。
 
深谷:旧態依然の考え方がはびこったままだと、海外の企業が日本の不動産業界に参入し難いように、「日本の不動産は、日本での宅建免許がないと扱えない」などと言い出すかもしれませ。グローバル化が進展していく中で日本の不動産業者だけが取り残され、気が付けば「海外のフランチャイズに加盟しないと存続できない」、なんてことに、ならなければいいのですが。
 
他のものと同じく、やろうと思えば不動産も個人で売買できるものなので、仲介手数料を払わずに売ったり買ったりできます。しかしながら、高額なので失敗が許されず、個人や家族にまで大きな影響を及ぼすものなので、専門家である不動産仲介業者が売買に介在することは今後も変わらないでしょう。これは他の国でも同じだと思います。日本の不動産業界の古い商慣習を改め、消費者との間で生じている不動産情報の非対称性を解消する様に努めさえすれば、将来、海外企業が参入して来たとしても対等に渡り合える気がします。
 
三平氏:リブセンスを始め、大手業者が先駆けて提供をはじめているサービスに見習うべきところも少なくないと思います。
 
深谷:おっしゃる通りだと思います。
 
(つづく)
 
 
○弁護士法人 みずほ中央法律事務所・司法書士法人 みずほ中央事務所
代表弁護士 三平聡史氏 
1973年生まれ。早稲田大学理工学部資源工学科卒業後、学習塾で講師をしながら法律学を学び、2000年(旧)司法試験合格。2007年弁護士法人 みずほ中央法律事務所・司法書士法人 みずほ中央事務所開設、現在は同事務所代表弁護士。主な著書に『Q&A事業承継に成功する法務と税務46の知識』『会社法対応 株主代表訴訟の実務相談』などがある。
 
聞き手:株式会社不動産流通システム 代表取締役 深谷十三
2008年株式会社不動産流通システムREDS設立。開業当初より運営の合理化を徹底し、仲介手数料を最大無料とする独自の料率を設定し、宅建士と宅建マイスターの資格保有者によるエージェント制での仲介サービスを展開している。

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