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有馬 春志(宅建士・リフォームスタイリスト)

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最終更新日:2023年9月4日
公開日:2023年9月1日

REDSエージェント、宅建士の有馬です。土地の所有権を考えた場合、お隣やお向かいなど水平方向の境界は厳密に決められていますが、上空や地下の境界はあまり気にしていない方も多いのではないでしょうか。所有する土地の上下に何かあった場合の所有権は、法律ではどのように定められているのか、解説します。

塀と空

土地の所有権、上下のどこまで?

民法第207条には「土地の所有権は、法令の制限内において、その土地の上下に及ぶ」と記載されています。土地の上下にも所有権があることは分かるものの、それがどこまで及ぶのか具体的な範囲は書かれていません。どうやら民法第207条においては、上空何メートル、地下何メートルといった土地所有権の範囲に関する厳密な決まりはないようです。

しかし、「厳密な決まりがない」=「上空も地下もすべて自分のもの」というわけではありません。「法令の制限内において」という文言です。つまり、この条文のほかにも土地所有権の範囲に関する法律が存在し、それによって制限を受ける場合があるということです。

空中権は建築基準法や景観法で制限

土地の上空を使用する権利「空中権(空間地上権)」に関係する法律には、「建築基準法」「景観法」などがあります。これらの法律には、それぞれどんな制限があるのでしょうか?

建物を作る際に適用される「建築基準法」では、第一種、第二種低層住居専用地域での建築物の高さの上限を10メートルまたは12メートルまでと定めています(一部の例外を除く)。これは低層住宅専用地域の住環境をよくするための法律で、どちらの高さになるかは都市計画により規定されます。

「景観法」は、都市や農山漁村の美しい景観を守るための法律です。この法律により「景観地区」に指定された地域では、建築物の高さの最高限度または最低限度が制限されます。制限の内容は地区ごとに異なりますので、景観地区で建物を建築する際は各市町村区へ確認する必要があります。

空中権の2つの意味

空中権には2つの意味があります。

空中権1:土地の上空の空間の一部を使用する権利

契約により設定する空間の上下の範囲を定めて土地を独占的に使用する権利をいい、その法的な形式によって「区分地上権」または「区分地上権に準ずる地役権」に分かれます。

区分地上権による空中権は、工作物(例えば空中電線)を所有する目的で上下の限られた空間を排他独占的に使用する権利する権利のことです。また、区分地上権に準ずる地役権による空中権は、自己の土地(例えば電柱の設置場所)の便益のために他人の土地の空中を使用する(例えば電線を設置する)権利のことです。

いずれも、民法上の物件として認められています。

自宅の敷地内を電線が横切るとなると、たとえ現時点で影響がなくても、電波障害や電線が切れたらどうしようと、不安に思うかもしれません。電線が通っているのが近隣の方の電線である場合、電力会社に頼んで位置をずらしてもらうか、または先方と話をして敷地の上空を貸し借りする契約を交わすか、どちらかの対処方法で改善することになります。

電力会社が管理する送電線などが通る場合は、その前に企業側が承認を求めてくるケースが多いようです。承認すると企業からは費用が支払われますが、提示された条件に納得できない場合は拒否することもできます。

少し話はそれますが、以前は届かなかった隣家の木の枝が、すくすく伸びて我が家の敷地に入ってくると気になります。しかし、たとえ邪魔でも木は隣家の所有物ですので、こちらの判断で勝手に切ることはできません。こんな時は、隣家の方にお願いして切断してもらうのが最善策です。もしも「面倒だからそちらで切ってほしい」などと言われた場合には、後のトラブルを避けるために必ず「同意書」を書いてもらいましょう。

また、「切ったら枯れてしまう」などの理由で応じてもらえない時は、紐などで枝先をくくって逆方向に誘導するという方法など、対処方法を提案してはどうでしょうか。いずれにしろ、普段から隣家と交流して信頼関係を築いておくことが重要になりそうです。

空中権2:未利用の容積率を移転する権利

都市計画で定められた容積率(建築物の延べ面積の敷地面積に対する割合の限度)のうち、未使用のものを他の土地に移転する権利をいいます。

一定の条件のもとで容積率を割増しする方法(実質的に容積率が移転される)としては、「特定街区」「一団地の総合的設計」「高度利用地区」「連担建築物設計」などの制度はありますが、連坦建築物設計を除いて移転対象建物が隣接していなければならないほか、既存建物の未利用容積率を移転することはできません。

もっと広範囲で容積率を移転できる制度としては、「特例容積率適用地区制度」があります。これは、都市計画で一定の区域を定め、その区域内の建築敷地の指定容積率の一部を複数の建築敷地間で移転することを認める制度です。

現在、東京都千代田区の一部が「大手町・丸の内・有楽町地区特例容積率適用地区」(都心部の高度利用を図るために、他の敷地で未利用となっている容積率を、離れた土地に移転して活用しようとする地区です)として指定され、東京駅の駅舎敷地で未使用となっている容積率(東京駅は復元改修後、それ以上容積率を使用しないで保存される)を、その周辺の新築ビル(東京ビルディング、新丸ビル、丸の内パークビル、八重洲側の南北グラントウキョウビルなど)に移転して、本来の容積率以上の高層ビル化を実現しています。

容積率の移転は建築確認によって認められるもので、当事者が空中権を直接に取引する制度が確立しているわけではありませんが、容積を移転する敷地に対して移転先の敷地所有者が地役権を設定し、移転敷地所有者にその対価を支払うという方法が取られています。

 

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