株式会社不動産流通システムREDSの宅建士・宅建マイスター、菅野です。
前回のブログに引き続き、令和7(2025)年5月23日に成立した「老朽化マンション等の管理及び再生の円滑化等を図るための建物の区分所有等に関する法律等の一部を改正する法律」について、解説させていただきます。

(画像はイメージです)
老朽マンションの再生を目指す
こちらの法律は、昨今問題となっている管理不全マンションや老朽化して維持が難しくなっているマンションの管理の円滑化や“再生”を推進するために制定されたものです。
「再生」という言葉は、「建替えだけでなく一棟リノベーションや土地建物一括売却という問題解決方法もあるよ!」ということを包含した言葉として使用されています。
この法律は、建物の区分所有等に関する法律(以下「区分所有法」といいます)、被災区分所有建物の再建等に関する特別措置法(以下「被災区分所有法」といいます)、国土交通省が所管するマンションの管理の適正化の推進に関する法律(以下、マンション管理適正化法といいます)、マンションの建替え等の円滑化に関する法律(以下、マンション建替円滑化法といいます)など(以下、これらを総称して「マンション関係法」といいます)を一括して改正するものとなっています。このうち、区分所有法及び被災区分所有法の改正に関する部分については、令和8(2026)年4月1日から施行されます。
この改正区分所有法を「管理の円滑化」と「再生の円滑化」の二つに分けて解説し、前回のブログでは「管理の円滑化」について解説いたしました。
「管理の円滑化」まとめ
- 通常の管理・修繕等:欠席者に引きずられない「出席者多数決」へ
- 連絡不能所有者問題:裁判所認定により「所在等不明者」を母数から外す
- 管理不全・所有者不明住戸/共用部:マンション管理に特化した管理命令・管理人選任
いない人、連絡が取れない人、所有者不明、自分の部屋自体もちゃんと管理できていない人への対策となる改正内容といえます。
主な改正内容(再生の円滑化)
今回は「再生の円滑化」について、主な改正内容(再生の円滑化)を解説します。
建替え決議の要件緩和(区分所有法62条)
1.原則は「5分の4」維持(62条1項)
建替え決議は引き続き、区分所有者・議決権の各5分の4以上が原則です。
2.一定の客観的事由があれば「4分の3」へ(62条2項)
改正で重要なのは、次のような客観的な支障(安全性・衛生など)がある場合に限り、建替え決議の多数決要件を各4分の3以上へ緩和できる点です(新62条2項)。
代表例(条文内に類型化されているもの)として、耐震性不足、火災安全性不足、外壁等剥落のおそれ、給排水管腐食などによる衛生上有害のおそれ、バリアフリー基準不適合が挙げられています。
上記の「客観的な支障」をどのように明示するかという課題はありますが、やはり問題のある建物に対しての建替え決議の議決権緩和は、これまでに求められていた改正内容といえます。
「建替え以外」の再生手法を多数決で可能に(建物更新/売却/取壊し)
今回の改正の中核は、従来は(法上での明文化がされていなかったため)原則として全員同意が必要になりがちだった「建替え以外の再生」を、建替え決議と同様の発想で“新たな多数決決議”として明文化した点です。国交省も、令和8年4月1日施行事項として「建物更新決議等の新たな多数決による決議の創設」を明示しています。
1.建物更新決議(いわゆる一棟リノベ)— 64条の5
- 改正で「建物更新決議」が新設され、建替えに至らないが大規模な性能向上などを図る“更新(リノベーション)”を、多数決で進める道が制度化されました。
- 多数決要件は原則として区分所有者(議決権を有しない者を除く)・議決権の各5分の4。
実務的には、「建替え」だけが“多数決でできる再生”だった状態から、“解体しない再生”を事業として成立させやすくなる点が大きいです(ただし計画・費用配分・工事中の使用制限等の設計が重要になります)。
2.建物敷地売却決議 — 64条の6
- 老朽・危険等のマンションについて、建物と敷地を一体で売却して区分所有関係を解消するための多数決ルートが、区分所有法上の決議類型として明文化されました。
3.建物取壊し敷地売却決議 — 64条の7
- 建物を除却(取壊し)した上で敷地を売却する、といった手法も、決議類型として明文化されました(64条の7)。国交省資料でも「建物取壊し敷地売却決議」への対応が施行事項として整理されています。
4.取壊し決議 — 64条の8
- 売却まで含めない「取壊し(除却)」自体についても、多数決決議の枠組みが整備され、明文化されました(64条の8)。
反対者・賃借人がいる場合の“実行可能性”を上げる仕組み(64条の2の準用)
再生・再建を円滑化するうえで、意思決定(決議)だけでなく、実行段階で詰まりやすい論点に手当てが入っています。
賃貸借の終了請求(64条の2)を横展開
建替え決議があった場合、賃貸人でなくても一定の者が賃借人に対して終了請求でき、請求から6か月経過で終了させ得る仕組み(64条の2)が整備されました。
そしてこの64条の2の枠組みは、建物更新決議(64条の5)、建物敷地売却決議(64条の6)、建物取壊し敷地売却決議(64条の7)、取壊し決議(64条の8)にも準用される整理です。
実務では、「賃借人がいるから再生が進まない」という詰まりどころに対し、“決議→明渡しの工程”を制度として描きやすくなるのがポイントです(もちろん補償の設計もセットになります)。
決議だけで終わらせず、事業手続(組合・権利変換等)に接続する(関連法との連動)
国交省は、令和8年4月1日施行の整備として、区分所有法側の新決議(建物更新決議等)に対応して、「マンションの再生等の円滑化に関する法律」(旧:マンション建替法)側の事業手続を整備するとしています。
具体的には、区分所有法の「建物更新決議、再建決議、一括建替え等決議」に対応したマンション再生事業(組合設立、権利変換計画等)の整備や、区分所有法の各種売却決議に対応した売却事業・除却事業の整備が、施行事項として明示されています(隣接地・底地の権利を権利変換の対象に追加する等の“事業性向上”策も、この枠組みで整理されています)。
まとめ(再生の円滑化として何が変わるか)
- 建替え:原則5分の4(62条1項)を維持しつつ、客観的な支障があれば4分の3へ(62条2項)。
- 再生手法の多様化:建物更新(一棟リノベ)・売却・取壊しを、区分所有法上の多数決決議(64条の5〜8)として明文化。
- 実行可能性の向上:賃借人対応(64条の2)を、建替え以外の新決議にも準用して“工程”を描きやすくした。
- 事業手続に接続:新決議に対応する再生事業・売却事業・除却事業の枠組みを関連法で整備。
最後に
「建物の区分所有等に関する法律」は、昭和37(1962)年に成立してからもうすぐ64年を経ようとしています。いろいろと課題のある法と言われている区分所有法ですが、成立当時には想像できなかった様々な課題に対応しながら現在まで続いています。その間に、東京のマンション価格はバブルで上がり、その後の「失われた30年」で下がり、また平成の終わりから令和にかけて高騰し続けています。
その一方で、旧耐震マンションや管理不全マンションの対策は、南海トラフ地震が必ず来るといわれている昨今、待ったなしと言えるでしょう。
本法律が施行されることによって、少しでも問題解決が進んでいくことを願うのみです。
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