REDSエージェント、宅建士の菊池です。
8歳から18歳までの10年間、私の青春のすべてはサッカーと共にありました。
泥だらけになってボールを追いかけた日々から時が経ち、初めて観た2002年の日韓ワールドカップから24年。33歳になった今でも、ワールドカップがもたらすあの独特な胸の高鳴りは全く変わりません。今回の大会も、本当に楽しみな気持ちで心待ちにしていました。
先日のブラジル戦は、気心の知れた友人たちとパブリックビューイングへ足を運び、声を枯らして応援しました。結果こそ悔しい敗戦となりましたが、優勝5回を誇り世界のトップに君臨する絶対王者を相手に一歩も引かず、強烈なインパクトを残したあの戦いぶりには、胸が熱くなるのを抑えきれませんでした。
ピッチの上で繰り広げられる世界水準の攻防に興奮が冷めやらない毎日ですが、ふと「彼らの母国の暮らしはどうなんだろう?」と、一人の生活者、あるいは不動産に携わる身として気になる瞬間があります。
世界中が熱狂するワールドカップ。ピッチの上では各国のプライドをかけた激しい戦いが繰り広げられますが、一歩ピッチの外に出て彼らの「日常」に目を向けると、国ごとに全く異なる驚きの世界が広がっています。特に「住まい(不動産)」の環境は、その国の経済、法律、そして治安を映し出す鏡です。
本記事では、一般の家探し層向けに、日本の対戦国である4か国の大都市エリアにおけるリアルな住宅事情を徹底比較。日本の常識がいかに世界の非常識であるか、そして私たちが日本で家を探す際に知っておくべき「不動産の本質」をわかりやすく、深く解説します。

(画像はイメージです)
4か国と日本の住宅スペック・市場データ比較
まずは、各国の主要都市において「4人家族(子供2人)」が暮らすためのファミリー向け物件(3LDK、約80㎡相当)を基準とした、家賃と購入価格の最新相場を見てみましょう。日本の東京・大阪の都市部と比較すると、驚くべき格差が見えてきます。
| 都市(国) |
家賃相場(月額) |
購入価格相場 |
市場の最大の特徴 |
アムステルダム (オランダ) |
約35万〜45万円 |
約9,000万〜1億3,000万円 |
極端な住宅供給不足と、厳格な家賃規制による市場の硬直化 |
チュニス (チュニジア) |
約5万〜8万円 |
約1,200万〜2,000万円 |
日本円換算では格安だが、現地平均月収を上回る住宅インフレ |
ストックホルム (スウェーデン) |
約25万〜38万円 |
約8,000万〜1億2,000万円 |
公的賃貸(低家賃)の入居待ちが「10〜20年」という異常事態 |
サンパウロ (ブラジル) |
約12万〜20万円 |
約3,500万〜7,000万円 |
「安全」が最優先。24時間警備付きコンドミニアムが必須条件 |
東京23区 / 大阪市 (日本) |
約18万〜30万円 |
約6,000万〜1億円超 |
お金を出せば「いつでも、誰でも、自由に」家を借り・買える先進国 |
このデータをもとに、それぞれの国の具体的な住宅事情の裏側と、そこから得られる不動産の学びを深掘りしていきましょう。
各国のリアルな住宅事情とその背景
オランダ(アムステルダム):政策の善意が裏目に出た「住宅難民」の街
サッカーでは美しいトータルフットボールを展開するオランダですが、住宅市場は極めて深刻な機能不全に陥っています。アムステルダムをはじめとする大都市圏では、ファミリー向け物件の家賃が35万円を超え、購入価格も1億円に迫る勢いです。
この背景には、深刻な家不足に加え、政府による「借り手を守るための家賃規制(Affordable Rent Actなど)」があります。一定の基準を満たさない物件の家賃上限を法律で厳しく抑えた結果、大家側は「低家賃で貸すくらいなら、物件を売却して現金化してしまおう」と一斉に動き出しました。その結果、民間賃貸市場から物件が完全に消滅し、お金があっても家を借りられない「住宅難民」が街にあふれることとなったのです。
※ここが勉強になる!:不動産の「流動性」と規制のリスク
オランダの事例は、「過度な市場規制は、巡り巡って消費者の選択肢を奪う」という経済の基本を教えてくれます。日本の賃貸市場も「借地借家法」によって借り手が非常に強く守られていますが、オランダのように「大家が部屋を貸さなくなる」ほどの極端な家賃上限規制はありません。私たちが日本で多様な物件から自由に家を選べるのは、健全な「流動性(市場の回りやすさ)」が保たれているからなのです。
チュニジア(チュニス):円換算の「安さ」に騙されてはいけない、現地インフレの罠
北アフリカの強豪チュニジアの首都チュニスでは、ファミリー向け物件の家賃が月5万〜8万円、購入も2,000万円以下と、日本人の感覚からすると非常に魅力的な価格に見えます。しかし、これを現地の経済水準に置き換えると、全く異なる景色が見えてきます。
チュニジアの一般会社員の平均月収は、日本円に換算すると約4万〜5万円程度です。つまり、都市部で家族4人が暮らせるまともな家を借りようとすると、「1ヶ月の給与が丸々吹き飛ぶ、あるいは足りない」という極限の住宅インフレが起きています。そのため、現地の一般家庭では親世代と同居するか、都市部から何時間も離れたインフラの未整備なエリアに住まざるを得ないのが実情です。
※ここが勉強になる!:「額面」ではなく「購買力比率」で見る資産価値
不動産を評価する際、単に「価格が安いか高いか」だけで判断するのは危険です。重要なのは、その地域の住民の給与水準に対して、住居費が何%を占めているか(返済比率・家賃比率)という「購買力とのバランス」です。日本の東京の家賃やマンション価格が高騰していると言われますが、平均年収に対する比率で言えば、世界の主要都市に比べてまだ「健全な範囲」に留まっています。家探しの際は、自分の収入に対する住居費比率をシビアに計算する視点が必要です。
スウェーデン(ストックホルム):平等を目指した結果の「20年待ち」行列
北欧の高福祉国家スウェーデン。誰もが平等に安く美しい家に住める理想郷のイメージがありますが、ストックホルムの賃貸市場は世界で最も奇妙なシステムを持っています。
スウェーデンには政府が家賃をコントロールする「ファーストハンド(直接契約)」という公的賃貸システムがあり、これを利用すれば誰もが適正な家賃で良質な住宅に住むことができます。しかし、安くて良い物件を誰も手放さないため、ストックホルムでこの契約を得るための「入居待ち期間」は平均で10年〜11年、人気のエリアでは20年に達することもあります。子供が生まれた時にウェイティングリストに登録し、その子が成人する頃にようやく順番が回ってくるというレベルです。
結果として、若いファミリーは違法に近い高額な「セカンドハンド(転貸・また貸し)」市場で家賃を搾取されるか、身の丈に合わない巨額のローンを組んで持ち家を購入するかの二択を迫られています。
※ここが勉強になる!:「時間の価値」と「市場の自由度」
スウェーデンの事例が示すのは「価格が公的に安く抑えられていても、手に入るまでに何年もかかるなら、それは市場として機能していない」ということです。不動産における最大の価値の一つは「必要な時に、すぐに住む場所を確保できる」というスピード、すなわち時間の価値です。日本の民間中心の不動産市場は、一見ドライに見えますが、「明日から住む家」を今すぐ見つけられるという点で、世界最高峰の利便性を誇っています。
ブラジル(サンパウロ):家賃の半分は「命を守るための警備費」
サッカー王国ブラジルの経済の中心地サンパウロ。ここでは、一般のファミリー(特に中産階級以上)が家を探す際、間取りや駅からの距離よりも最優先される絶対条件があります。それが「セキュリティ」です。
サンパウロのまともな住宅街のマンションは、周囲が高さ数メートルの高圧電流フェンスで囲まれ、二重の防弾ガラスで仕切られたゲートには24時間体制の武装警備員が常駐しています。このような「ゲート付きコンドミニアム」でなければ、強盗や誘拐のリスクが高く、安心して家族を育てることはできません。
家賃相場が12万〜20万円と、現地の物価に対して高額なのは、この「莫大なセキュリティ維持費」が最初から家賃や管理費に上乗せされているからです。日本のように「駅から遠いから」「古いから」という理由だけで格安のアパートに住むような選択は、ブラジルでは命の危険を意味します。
※ここが勉強になる!:日本の家賃に含まれる「隠れたインフラ価値」
私たちが日本で家を借りたり買ったりする際、夜中に一人で歩いて帰れるアパートや、オートロックがなくても危険を感じない一戸建てが当たり前に存在します。これは、「日本人は家賃や物件価格の中に、世界最高水準の『治安』と『公共インフラ』という無形の価値を、タダ同然で内包してもらっている」ということです。海外では安全はお金で買うものですが、日本では社会全体がそれを保証してくれています。この目に見えない価値を認識すると、日本の不動産価格に対する見方が変わるはずです。
世界と比較して見えてくる、日本の家探し「3つの新常識」
4か国の実態を学んだところで、私たちがこれから日本で「失敗しない家探し」をするための具体的な教訓を3つにまとめます。W杯対戦国の教訓は、そのままあなたの家探しの羅針盤になります。
新常識1:日本の「購入 vs 賃貸」は、世界一贅沢な悩みである
オランダやスウェーデンのように、賃貸市場が崩壊していて「買わざるを得ない」国や、家賃規制のせいで部屋が見つからない国から見れば、日本のように「いつでも自由に賃貸に住み続けられるし、気が向いたら低金利で住宅ローンを組んで家を買える」という環境は、奇跡的なバランスの上に成り立っています。
「持ち家か、賃貸か」という論争がこれほど自由にできること自体が、日本の不動産市場が極めて健全で消費者優位である証拠です。焦って購入する必要はなく、自分のライフステージに合わせてじっくり選択肢を吟味しましょう。
新常識2:「立地」を選ぶことは「治安と住民層」への投資である
ブラジルの事例ほど極端ではなくとも、日本国内でもエリアによって治安や住民コミュニティの質、教育環境には明確な差があります。日本で家を借りる・買う際、「家賃が安いから」という理由だけでハザードマップのリスクが高い地域や、著しく治安の評価が低いエリアを選ぶのは避けるべきです。価格の差は、そのまま「将来の安心」と「街の維持力」の差です。予算を削るために立地を妥協するくらいなら、専有面積(部屋の広さ)を少し狭くしてでも、インフラと治安が安定した確かなエリアを選ぶのが、不動産選びの鉄則です。
新常識3:「売りやすさ・貸しやすさ(出口戦略)」の重要性
オランダの家賃規制の事例が示す通り、法律や社会情勢の変化によって、昨日まで優良だった物件が突然「貸しにくい物件」に変貌するリスクは常にあります。日本でも今後、人口減少や空き家問題が進む中で、市場の流動性はますます二極化していきます。家を購入する際はもちろん、賃貸で借りる際も、「もし数年後に引っ越すことになったら、この家は次の人にすぐ貸せるか、高く売れるか」という「出口戦略(流動性)」の視点を必ず持ってください。自分が住まなくなった後も価値を保ち続ける物件を選ぶことこそが、最大の自己防衛になります。
まとめ ── 日本の不動産の『本当の価値』に気づく
ワールドカップの対戦国を巡る不動産の旅、いかがでしたでしょうか。各国の実態を並べてみることで、私たちが日頃当たり前だと思っている「日本の住環境」の特殊性と恵まれた環境が浮き彫りになったかと思います。
「住宅ローン金利が世界的に見ても異次元に低い」
「お金を出せば数日以内にまともな部屋を契約できる」
「夜間に一人で歩いて帰れる場所に家を持てる」
これらの条件がすべて揃っている日本の不動産市場は、家探しをする消費者にとって、世界で最もイージーモードで恵まれた環境の一つと言えます。
だからこそ、メディアの「マンション高騰」「家探しの危機」といった過度な不安を煽る声に惑わされる必要はありません。世界各国の教訓を頭に入れ、「購買力に応じた適正な予算」「治安とインフラを重視した立地選び」「いつでも手放せる流動性」の3点を意識すれば、あなたとご家族にとって「最適な住宅」を見つけることができます。ピッチの上の戦いに興奮しつつ、日々の生活の基盤である「家」の価値を、この機会にぜひ見つめ直してみてください。
おわりに ──4年後に向けて
ブラジル戦で見せつけられた壁は確かに高かったですが、彼らが生きる「住宅市場」の壁もまた、別の意味で高いものでした。
各国の厳しい住宅難や過酷なインフレ、治安コストを知ると、私たちが暮らすこの日本がいかに恵まれた住環境であるかに気付かされます。日本代表がこの悔しさを糧に、さらに強くなって4年後のワールドカップの舞台に帰ってくるのが、今からもう楽しみで仕方がありません。
そして次の4年間に向けて、私たち自身も日々の生活の土台である「住まい」をアップデートしていく必要があります。
これからの4年は、国内のインフレの動向や経済状況の変化はもちろん、都市部の再開発や不動産トレンドが大きく動く激動の期間になるはずです。世界基準の過酷さを頭に入れつつ、日本の確かな変化とトレンドをシビアに見極めていく。
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