山下智久主演で人気のNHKドラマ『正直不動産』第8話「信じること」が5月24日(火)夜10時~放送されました。

 

今回の物語は、主人公の永瀬財地(演:山下智久)と月下咲良(演:福原遥)が、デベロッパーや地主も集う不動産取引流通協会の懇親会で紹介された人物のせいで5億円の詐欺被害に遭いそうになったという話でした。

 

宅建士の私は売買仲介担当として8年従事した経験があります。その経験を交えて『正直不動産』8話に出てきた不動産取引をするうえでのトピックについて解説します。

 

※REDS「不動産のリアル」では、いち早く当日の放送直後にドラマの内容紹介と、作中で登場した不動産業界の商慣習などをまとめて、コラム記事として公表しています。こちら『正直不動産』ドラマ第8話最速レビュー~令和の世でも暗躍する地面師! 永瀬はどう見破った?もご覧ください。

 

更地

(写真はイメージです)

 

地面師とは?

 

地面師とは、偽造書類などを用いて土地の所有者になりすまし、言葉巧みに売却の話をもちかけ、代金を不法に手にする詐欺集団や、詐欺行為のことです。

 

2017年に大手ハウスメーカーが、地面師の巧妙な手口に詐欺だと気がつかず、土地の購入代金として55億5,000万円をだまし取られたニュースは記憶に新しいでしょう。私も同じ業界のひとりとして大きな衝撃を受けました。あれほどの大手で、しっかりした契約をするはずなのに、こんな古典的詐欺にだまされてしまうのかと。

 

この事件では、本当の所有者から、内容証明郵便で「売買契約はしてはいけない。仮登記を抹消しないと法的手段を取る」という警告があったにもかかわらず、地面師の「関係が悪化している内縁の夫が送ってきたもの」との説明をハウスメーカー側は信じてしまったそうです。地面師側は書類に地番を間違えて書いたり、干支を間違えて答えていたりしたのに、ハウスメーカー側は疑わなかったとの情報もあります。

 

この土地は誰もが欲しがる好立地であったため、他の業者には絶対に取られてはいけないという気持ちが働き、不審な点があっても自分にいいように解釈して、地面師の説明をすべて信じてしまったのでしょう。マスクで見えない相手の顔を、自分の理想の顔だと想像してしまう心理によく似ているのかもしれません。

 

不動産のプロでもこのように間違うわけですから、不動産売買を検討されるみなさんも、取引の途中でひとつでも違和感や不審な点があったら、自分にとってよいほうに解釈せず、怪しいと考えるようにしましょう。その違和感はだいたい当たっていることが多いものです。

 

私自身、宅建士として売買を担当しているときに、怪しい相談を受けたことがあります。来店した人物は地図を広げ、「ここの土地を所有しているのだけれど、いくらぐらいになるか?」と査定依頼をうけました。本当の所有者であればすごい金額になると思いましたが、話に一貫性がなく、怪しさの方が勝っていたため、近隣の相場を伝えるだけにとどめておきました。その人物とのやりとりはそれっきりだったので、深くかかわらないでよかったと思いました。

 

売主は本当に所有者なのか?

 

地面師の存在にかかわらず、不動産売買の実務を担う不動産会社の担当者にとって、売主が本当に所有者であるかという確認は、非常に大事な作業です。確認作業はどのように行われているのか、簡単に解説します。

 

不動産会社が物件の売却相談を受けたら、担当者はまず法務局でその物件の情報が掲載されている登記簿謄本(登記事項証明書)を取得します。現在の不動産の所有者のほか地目、土地や建物の大きさなどが分かるため、不動産査定の際は必ず取得します。そして免許証やパスポートなどの身分証明書で本人確認をします。

 

作中では土地の所有者を名乗っていた男は入院していました。私も所有者が入院中だった場合は、病院へ会いに行き、売却の意思を確認し、売却に対しての委任状をいただいていました。意識がはっきりしている場合はいいのですが、集中治療室に入っている場合、家族以外は入室できないため、本人確認が困難になるので注意が必要だったことを覚えています。

 

本人確認資料を巧妙に偽造されていたら、私もだまされる可能性は十分あったと思います。本人確認はもちろんのこと、「知人による確認」や印影が印鑑証明書と相違ないかなど、すべてにおいて「間違いないだろう」でなはく、「間違っていないか」という視点で確認する慎重さが不動産会社の担当者には求められます。

 

所有権移転請求権仮登記は安心できるのか?

 

所有権移転請求権仮登記とは、債権者が債務者の所有する不動産の所有権移転請求権(売買予約や代物弁済予約)を保全するために行う仮登記のことです。作中では永瀬が、けやき野興業が地面師だろうと判断し、事情があり高井戸の土地の手付金を支払えなくなったと謝罪した際に、酒井専務らはこれから司法書士のところへ行き、所有権移転請求権仮登記をしようと提案します。

 

一見して安全のような気がしますが、実は2017年の55億円地面師事件でも大手ハウスメーカーはこの登記をしていながら、結局はだまされています。仮登記というと何だか聞こえはいいですが、権利証がなくても仮登記できるため、安心材料にはなりません。

 

買付証明とは?

 

もうひとつ、作中で地面師たちが永瀬に執拗に要求したものに「買付証明書」があります。買付証明とは、売主に購入を希望していることを証明する書面です。「購入申込書」などともいわれます。作中で永瀬は、この書面とともに、従業員証と免許証、会社の登記事項証明書を提示しています。けやき野興業は、パスポートを本人確認書類とし提示しています。

 

買付証明書は購入の申し込みをしている書類であって、契約書とは異なります。その後、必ず契約しなければならないわけではありません。中には、買付証明を書いて、金額や条件が折り合ったら、必ず契約しなければならないと説明する不動産会社や営業担当者がいるかもしれません。何かしらの理由により契約を急いでいる場合がありますので、気を付けましょう。

 

売主の話が物件の状況とかみ合わないときや、身分証明書に不自然さがある場合はもちろん、重要事項説明書の内容に腑に落ちない点がある場合は、不動産売買契約当日であっても、不動産会社の担当者に相談することをおすすめします。不動産売買契約は重要事項説明を受けた後に、締結するものです。万が一、怪しいと感じる場合は、契約締結前にきちんと意思表示をしましょう。そして納得されたうえで不動産売買契約をしていただきたいと思います。

 

重要事項説明は宅建士がしなければならない決まりになっています。不動産会社によっては、重要事項説明は宅建士が書面を読み上げるだけのいわば〝儀式〟になっていることもあります。不動産売買は高額な取引ですので、全神経を集中させて説明を聞くようにして、どんなわずかな疑問でもぶつけるようにしましょう。

 

 

桜木理恵(宅地建物取引士)
大学4年時に宅地建物取引士に合格。新卒で私鉄系不動産会社入社し、約8年間売買仲介担当として従事。その後出産・子育ての為、大手ハウスメーカーのリフォームアドバイザーに転身し、5年間勤務。信託銀行にて不動産調査や不動産管理会社にてPMの経験あり。保有資格は他に2級ファイナンシャル・プランニング技能士(AFP)。