公開日:2023年2月6日
任意売却が急増中? 住宅ローンのある人全員が読むべきエピソード(後編)~『正直不動産』をプロ宅建士が解説(6巻 43・44話より)
漫画『正直不動産』の任意売却について取り上げたエピソードについてこちらのコラムで解説しましたが、今回はその後編です。
今回も「任意売却」について描かれたエピソードについて、宅建士の経験から解説します。
(写真はイメージです)
任意売却は予想以上に難しい
漫画では、永瀬の過去が描かれました。永瀬の学生時代、永瀬の父親は友人の保証人になったがために、自宅を売却せざるをえなくなります。そのとき、競売になる前に任意売却(任売)をして助けてくれたのが、登坂不動産の登坂社長でした。それが縁となり、永瀬はのちに登坂不動産で働くことになります。
永瀬は登坂社長がしてくれたように、自分が苦しいときに助けてくれた恩人でもある希志の家を任売するために奔走します。
とはいえ、競売の入札まで時間がない中、任意売却の購入相手を探すのは大変です。希志は「思い出の詰まった家に住み続けたい」という希望が強く、かなえるためには、家賃収入を目的とする投資家を探さなければなりません。
投資家は価格や利回りに対してシビアです。実際、同僚の瀬戸が紹介してくれた投資家にも購入の打診をしますが、売買代金や賃料が折り合いませんでした。
1週間後、仕事が見つかったと嬉しそうに話す希志に、もう打つ手がない永瀬は「希志が家族とこの家でもう一度暮らすには、もう俺が買うしかないんだ」と自分が買うことを提案します。しかし希志は永瀬に迷惑をかけられないと断ります。どうなるのでしょうか。
今後も任売は増加する?
一般財団法人不動産競売流通協会が公表している競売物件統計データによると、競売物件は2012年から2021年にかけて減少傾向にあることが分かります。その一方で、裁判所が介入しないため実際の数字はつかめませんが、任売の件数は増加傾向を続けているとの見方が一般的です。競売が減少傾向なのに、なぜ任売は増加傾向にあるのでしょうか。
政府は2008年に起きたリーマン・ショックの金融危機を受けて、2009年に「中小企業金融円滑化法」を施行しました。モラトリアム法とも呼ばれる法律で、中小企業や個人に対し住宅ローンの返済について猶予を与えるという内容です。
期間は当初2011年までの予定でしたが、2年延長し2013年の3月末までとなり、金融庁からの指導により、その後も金融機関は猶予期間などを設けるなど、すぐには競売とせず柔軟な対応を行いました。その結果競売が減少し、任売が増加したとみられています。またインターネットの普及とともに、任売について認知度が上がったことも要因でしょう。
長期化するコロナ禍による業績不振や、ロシアのウクライナへの軍事侵攻による物価高、アメリカを中心とする利上げが影響している円安など、不安材料はつきません。現在でも競売の件数は減少傾向にあるため、あまり大きな問題になっていませんが、任売の数は想像以上に増えている可能性があります。
心身の病気など滞納は誰もが陥る可能性
作中の希志が住宅ローンを支払えなくなった原因は病気でした。住宅ローンの支払いに対して不誠実だったわけではありません。誰しもが陥る可能性があります。万が一、住宅ローンの返済が難しくなった場合は、まず信頼できる不動産会社へ相談することをおすすめします。任売を専門とする業者も存在しますが、通常は不動産会社で対応することは可能です。
永瀬は競売による入札が行われる前に、希志の父親に任売することに成功します。家業を継がなかったためにできてしまった親子間のわだかまりも払拭することができた上に、希志は家賃を父親に払うことによって、家族でマイホームに住み続けられるという最高のエンドとなりました。
桜木理恵(宅地建物取引士)
大学4年時に宅地建物取引士に合格。新卒で私鉄系不動産会社入社し約8年間、売買仲介担当として従事。その後出産・子育てのため、大手ハウスメーカーのリフォームアドバイザーに転身し、5年間勤務。信託銀行にて不動産調査や不動産管理会社にてPMの経験あり。保有資格は他に2級ファイナンシャル・プランニング技能士(AFP)。
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