『正直不動産』宅建士のプロはこう見る!
SHOJIKI-FUDOSAN
最終更新日:2025年3月12日
公開日:2025年3月10日

不動産の売主を欺く「囲い込み」。大手ほど手を染め、処分開始後もおそらく足を洗わない~『正直不動産』をプロ宅建士が解説(REDS監修 177話「専任返し」前編)

不動産業界の光と闇、本音と建前を笑いに包みながらもシリアスに描く人気コミック『正直不動産』。発行部数は累計360万部を超え、NHKでは実写ドラマ化(監修はREDSが担当)。嘘がつけなくなってしまった不動産営業の主人公・永瀬財地を山下智久さんが演じて好評を博し、そして2025年2月には2026年公開の映画化がプレスリリースされました。まさにとどまるところを知らない大人気シリーズです。

今回の記事は、ビッグコミックに連載されている『正直不動産』の最新作でREDSが監修した177話「専任返し」(前編)について、宅建士がわかりやすく解説していくものです。ご参考になれば幸いです。

囲い込み

(写真はイメージです)

高額査定は、「囲い込み」への最初の一歩?

永瀬が勤務する登坂不動産のライバル会社であるミネルヴァ不動産では、営業の西岡が相場で5,000万円という物件を「7,000万円で売却できます。専任媒介契約を結びましょう」と顧客にセールストークをしています。

一方、登坂不動産では、永瀬の後輩の月下が永瀬に「やっぱり大手の住井不動産販売はすごいんですね!~相場8,000万円なのに1億円で売れるって言われたって」と話しかけますが、ため息をつきながら永瀬は「それ、“囲い込み”だぞ」と諭します。

いったいどういうことでしょう? 相場よりも高く売ってくれるという不動産会社がいるなら、一見喜ばしいことに思えます。西岡や「住井不動産販売」は売主に寄り添ったよい不動産屋じゃないの?と。

インターネットの広告でも時折見かけるじゃないですか、「相場よりも何百万も高く売れました」「こうすれば不動産の売却で損をしない」などという不動産の一括査定サイトの広告。「一番高く査定をしてくれる不動産会社を見つければ、不動産を高く売ることができます」ってやつです。

筆者は、そもそも「査定が高ければ、相場よりも高く売れる」なんて広告は、〝大嘘〟で、誇大広告で訴えられても仕方ないくらいだと思っています。

宅地建物取引業法(以下「宅建業法」といいます)34条の2第2項では、「宅建業者が売買すべき価格または評価額について意見を述べるときには、必ずその根拠を明らかにしなければならない」と定められています。これを根拠の明示義務といいます。

「査定価格」とは、ここでいう「宅建業者が意見として考える売買すべき価格」です。国交省の「宅建業法の解釈・運用の考え方」では、価格の意見の根拠とは「取引事例等他に合理的な説明がつくもの」としてあります。

つまり、査定価格とは、「その地域で同レベルの物件の取引事例などを根拠として、合理的な説明のつく売買予想価格」です。物価や不動産の価格トレンドや将来予測、リフォームや修繕状況、物件の特異性などにより各社の見解に違いはあれど、本来的にはおのずと査定価格は収束するはずのものです。その価格帯を我々は「相場」と呼んでいます。

したがって「相場よりも大幅に高い査定価格」など本来はあり得ません。そうしたフレーズが不動産屋から出た時点で「おいおい、うさんくさいぞ」と疑ってかかるべきなのです。

大手にこそいまだにはびこる「囲い込み」とは?

囲い込み

永瀬がいう「囲い込み」とはいったいどういうことでしょうか? 詳しく説明します。

「囲い込み」とは、売主から売却を依頼された不動産会社が、自社で売却と購入の「両手仲介」を完結させるため、他の不動産会社に物件を紹介しない行為をいいます。

永瀬は「両手仲介」を「不動産の売買で不動産の儲けは仲介手数料だ、上限は(売買価格×3%+6万円)+消費税。それを『元付け』(売主側の仲介業者のこと)と『客付け』(買主側の仲介業者のこと)を同じ不動産業者が兼ねる“両手(仲介)”なら(手数料が)倍になる」と説明します。

「両手は違法じゃないし、それ自体は悪いことでもない、ただ囲い込みが起こりやすい」ともいいます。「不動産屋は片手で1億の物件を売るより、両手で6,000万の物件を売った方が儲かるんだ」と。

月下は「囲い込みって大手でもするんですね」と問いかけますが、永瀬は「大手だから、有名上場企業だから、とか関係ねえ」と切り捨てます。

2024年上期の資料ですが、住宅新報社が主な不動産会社に、売買の仲介実績などをアンケート調査し発表したデータをもとに、筆者が下記の集計表を作成しました。

大手不動産会社の、「手数料を取扱高で割った手数料率」は平均で4.39%となっています。手数料の上限は〈3%+6万円〉ですから、おおむね取扱件数の半分程度が、両手取引」ということになります。住友不動産販売に至っては、5%に近い割合ですから取扱件数の7割程度は両手取引だった、という計算になります。

すべてが囲い込みの結果というわけでは、もちろんないのでしょう。しかし、どの不動産会社も両手取引を目指し奨励して営業をしているのでなければ、このような結果にはなりえないでしょう。西岡が「囲い込みなんてどこでもやってるしな」とうそぶくのも、「漫画の中の話で盛りすぎだろ!」とは言えないかもしれません。


(2024年「住宅新報」発表記事より作成)

囲い込みによる顧客のデメリット

不動産の悩み

不動産会社が両手取引を実現するには、まず売主を確保しなければなりません。そのため紹介や一括査定サイトなどで査定の依頼があった場合、相場より高い価格を提示して売り主の歓心を引き、他の不動産会社が売主側の仲介とならないように、専任もしくは専属専任媒介契約を結びます。

そして売却活動を始めるのですが、相場より高い価格で売り出すわけですから、たとえ露骨な囲い込みをしなくても、なかなか買い手はつきません。高いから当たり前です。不動産会社のほうも、この時点では積極的に営業をすることはありません。それには目的があります。「もう少し値引きしないと売れないかも」、と忠告するふりをしながら、結果的に相場かそれ以下に売出価格を下げさせて、売れやすくして、自社の購入希望者に売ってしまいたいのです。

露骨な囲い込みだと、さらに悪質です。宅建業法34条の2第5項では、宅建業者は専任もしくは専属専任媒介契約を締結したときは指定流通機構(通称レインズ:宅建業者が物件情報を交換するためのネットワークシステム)に物件内容を登録し、その登録証明書を売主に交付しなければならないと定めています。

しかし、永瀬が作品中でも月下に説明していますが、レインズに登録しなかったり、登録証明書を交付しなかったりするだけでなく、物件の図面を載せない、問い合わせがあっても折り返しがない、などというのは、本当に日常茶飯事で起きている話です。

そうして、購入希望者からの問い合わせを遮断することで売れない物件に仕立て上げ、価格を下げさせるのです。正直、異業種から転職してきた筆者も、不動産業界のモラルの低さにあぜんとすることがないわけではありません。

こうした囲い込みによって、「不動産会社のお客様」であるはずの売主が被る実害は、以下の3点にまとめることができます。

  1. 売却機会の損失:情報が他社に共有されないため、買主候補が限定され売却ができない可能性が高くなります。
  2. 価格競争の抑制:買主からの引き合い自体が減るため、価格が上がる要素が減り、本来得られるべき価格での取引が阻害されます。
  3. 取引の不透明化:売主が物件の取引状況や需要を正確に把握できなくなります。

登坂社長が「売主の機会損失になりかねない行為は断じて許さん!」と囲い込みを禁じる意味がわかります。

また、買主候補にとっても、本来購入候補であるはずの物件を購入できない、という機会損失が生じます。囲い込みで喜ぶのは不動産会社だけ、消費者不在の手法といえるでしょう。

囲い込みの規制強化とその効果

作中で月下が述べていますが、2025年1月1日、宅地建物取引業法施行規則が改正され、不動産取引の透明性向上を目的として以下の変更が導入されました。

  1. レインズへの登録に関して取引状況(「公開中」「書面による申し込みあり」等)を最新の状況に保つ必要を明記。
  2. レインズに登録する際に売主に登録証明書を交付することに加え取引状況を確認できることを明確に説明する義務が課せられ、それを怠ると罰則(指示処分)が課せられる。
  3. 登録証明書には新たにQRコードが付与され簡単に確認できる仕組みを導入。

こうした変更に対応せず、囲い込み行為が確認された場合は、業者が是正指示を受けたり、場合によっては業務停止や罰金の対象となったりする可能性があります。

しかし、こうした規制が強化されても、囲い込みをめぐる業者の手口と対策はいたちごっこが続くことになりそうです。作中で永瀬は「レインズの一般公開」を提案していますが、私はあまり意味がないと考えます。

不動産仲介業も企業収益の向上が課題であり続けます。不動産仲介業の収益性を高めるためには、根本的には、①取引件数増加②取引の高額化―のほかには③両手仲介の増加しかありません。取引1件当たりの手数料の上限額が規定されているからです。そして囲い込みは、両手仲介を増やすためには業界がよくやる手法なのです。

囲い込みの根絶には、両手仲介の禁止と厳しい罰則、収益性向上の別手段としての手数料の上限撤廃・自由化の2点が必要不可欠、というのが筆者の持論です。

鵤社長の一言、専任返しとは

囲い込みに疑問を持つ西岡は、「計算づくの正直不動産屋」の雪野にそそのかされてミネルヴァ不動産の鵤社長に「この物件は囲い込まずに」と提案しますが、逆に「買取再販業者に物件を紹介して往復ビンタで…12%を搾り取れ」と発破をかけられます。

「せ、専任返しですか!?」と戦慄する西岡。「見た目のまんまの極悪人が」とつぶやき、ここで前編は終わります。

この解説記事も、後編が発表されてから、続きを書くことにいたしましょう。それまでに「専任返し」について詳しく調べておきます。

(後編に続く)

 

プロフィール
早坂 龍太(宅地建物取引士・賃貸不動産経営管理士)
㈱エー・エムコーポレーション代表取締役。北海道大学法学部卒業。石油元売会社勤務を経て、北海道で不動産の賃貸管理、売買・賃貸仲介、プランニング・コンサルティングを行う。

最後までお読みいただきありがとうございました。『正不動産』監修のREDSエージェントは100% 宅建士

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