人気コミックが原作のNHKドラマ『正直不動産』第4話「いい部屋の定義」が4月26日(火)夜10時から放送されました。今回のエピソード、「正直宅建士」をモットーとし、大手管理会社で不動産管理や個人向け不動産賃貸・売買仲介業に従事してきた不動産営業マンが、ドラマに出てきた「事故物件と高齢者の入居拒否問題」について、詳しく解説します。

 

事故物件は、以前はあまりメディアで取り上げられることがなく、アンタッチャブルな位置づけでした。最近では映画のタイトルになったり、オカルト番組で取り上げられたりしてよく知られるようになりました。

 

しかし、事故物件は決してオカルトではなく、高齢者の賃貸物件の入居拒否問題と密接に結びついた大きな社会問題です。ドラマ『正直不動産』がこの問題に真正面から斬り込んだことで、多くの人に正確にこの問題が伝わってほしいと思います。

 

※REDS「不動産のリアル」編集部では、どのメディアよりも早く、当日の放送直後にドラマの内容紹介と、作中で登場した不動産業界の商慣習や不動産売買を考えている方が知っておきたいポイントをまとめて、コラム記事として公表しています。こちらもご覧ください。

 

相談をする親子

(写真はイメージです)

 

心理的瑕疵とは

 

瑕疵とはキズのことで、物件のマイナスポイントです。

 

例えば雨漏りや耐震強度不足などは物理的瑕疵、近くに暴力団事務所があったり火葬場があったりするのは環境的瑕疵、そして事故物件のように部屋の中で人が事件や事故などによって死亡した直後である場合は心理的瑕疵と呼ばれます。

 

こうした欠点が存在する物件を買ったり借りたりする人がその事実を知ったらきっとよく思わないだろうと予想される場合、売主や貸主は不動産会社を通じて売買契約をする前に、事実を説明する義務があります。違反すれば、損害賠償を求められたり契約解除となったりするほか、宅地建物取引義務違反として処分を受けるなど、重い処罰が課されます。

 

実務上は告知義務がなくなっていても、「それを知っていれば買わなかった、借りなかった」と言われると、不動産会社とお客様の意見が対立して解決が難しくなります。このため、最近では不動産会社は重要事項説明の際にしっかり説明することが普通になりました。

 

事故物件とは

 

事故物件とは部屋の中で人が死亡した物件のすべてを指すと思われがちですが、実はそうとも限りません。死亡の状況が、殺人、自殺、火災の場合と、自然死では実務上の取り扱いが異なります。

 

「畳の上で死にたい」という言葉があるように、以前は、人は病院ではなく自宅で家族に看取られながら死ぬことがほとんどでした。こうした自然死(老衰、転倒や誤嚥など不慮の死)は嫌悪をいだく死因と区別するべきでしょう。

 

2021年10月、国土交通省から「不動産取引における心理的瑕疵に関するガイドライン」として見解が出されました。国が明文化したことで、今後の自然死や準ずる死因に対しての法的取り扱いにひとつの道筋ができたことになり、不動産業界にとって大きな前進となりました。

 

ガイドラインによると、原則として告知を義務としない事例として以下の3つがあります。

 

・部屋の中での自然死や不慮の死(転倒や誤嚥)
・日常使われないボイラーやポンプ室での自然死以外の自殺など、発見が遅れたが特殊清掃した自然死、また当物件ではなく近隣の家での死亡事案
・賃貸物件の場合はさらに、マンションの共用部分において自然死以外の自殺などや、発見が遅れたが特殊清掃した自然死で、事故後おおむね3年を経過した場合

 

※ただしこれらは個別の状況を加味して判断すべきものですから注意が必要です。

 

嫌悪施設とは

 

暴力団事務所はもちろんですが、それ自体は問題ない施設でも近くにあると避けてしまいそうな施設は「嫌悪施設」と呼ばれます。たとえば墓地やごみ焼却場などが該当します。また、人によっては、危険と感じるガソリンスタンドや、子供の騒音が気になる保育園や幼稚園などの児童施設も、告知すべき施設になります。

 

人によっては、という施設については不動産会社側からあえて説明することがないかもしれません。周辺にあったら気になる施設があるかないかは、不動産会社によく尋ねておきましょう。

 

また街の顔は昼夜や曜日で変わります。内見した時間と異なる時間帯や曜日に近くを散策するなどして、少しでも多くの環境情報を自分で得るようにするといいでしょう。

 

高齢者を苦しめる単身での賃貸物件さがし

 

国内の人口構成は4人に1人が65歳以上となった現在でも、高齢者の賃貸物件探しは難しい現状があります。とくに独居高齢者は、部屋で孤独死して発見が遅れる可能性が若い方よりも高いと思ってしまう風潮が依然として強く、家主さんは独居高齢者の入居を快く思わないことが多いのです。

 

このため、不動産会社に部屋探しを依頼しても、年齢を聞いた時点で相談にも乗ってくれないケースは珍しくありません。

 

「高齢者お断り」をされない工夫

 

それでは、一人暮らしの高齢者は部屋を借りることができないのかというと、必ずしもそうではありません。工夫しだいで成功します。その秘訣を明かします。

 

まず、お子様がいらっしゃる場合、お子様の名義で部屋を借りることを検討しましょう。支払いもお子様の口座から引き落としにするといいでしょう。

 

次に、親族がいる場合、頻繁に連絡を取っているので万一の場合でも緊急対応できる、ということをアピールしましょう。親族がいない場合、定期的に面会するケアマネや自治体職員がいることを訴えるとなんとかなるかもしれません。とにかく、日常的にコミュニケーションを取る人がいることを知ってもらうことができれば、家主さんの心のハードルは下がるでしょう。

 

高齢者の部屋探しに役立つ公的支援

 

高齢者にとって厳しい現実が残る一方で、高齢者の賃貸物件探しに有効な公的支援サービスが増えています。バリアフリー工事の融資制度や補助金など、住宅金融公庫や自治体が独自で展開するものもあります。

 

公的な賃貸保証会社

 

一般財団法人「高齢者住宅財団」が連帯保証人になって賃貸住宅を借りやすくする制度があります。

 

このほか、UR都市機構の賃貸住宅では高齢者相談窓口を設け、シニアアドバイザーを設置して、無料で高齢者の住宅相談にのってくれます。URは敷金や礼金、仲介手数料、更新料などはありませんし、保証人も不要です。

 

高齢者専門の不動産会社

 

今後は、高齢者が好む賃貸住宅をメインで取り扱う不動産会社が増えるかもしれません。

 

一般的に賃貸物件でマイナスポイントとされる条件に、駅から遠い、築年数がたっている、1階や低層階、間取りが狭い、設備が古い、周辺にレストランや居酒屋、コンビニなどが少ないなどがあります。

 

しかし、こうした条件は高齢者にとってマイナスにならないことが多いのです。一般的に人気がないこれらの物件も、高齢者の生活スタイルとの相性はぴったりです。

 

高齢者と一般の賃貸ニーズのギャップを的確に捉え、高齢者をターゲットにする不動産会社と高齢者の暮らしに理解ある家主さんが少しずつ増えていけば、新しい賃貸市場や価値観、サービスが生まれるでしょう。高齢者の遠隔見守りや緊急対応をしてくれるサービスも生まれています。

 

高齢者の賃貸契約にまつわる法整備

 

それでも高齢者の賃貸契約の懸念としてつきものなのが、本人死亡後の取り扱いです。前述のとおり自然死は告知義務を免れましたが、死亡後の遺品整理や賃貸契約の解除をどのようにすべきか明確でなかったことも、高齢者が賃貸物件を借りづらくするひとつの要因でした。

 

こちらも国土交通省から、高齢者の賃貸契約で追加するモデル条項として、死亡後の遺品整理の指示や賃貸契約解除の代理手続き制度について、事前に決められるようになりました。自分が死ぬことについて考えたくないという人が大半でしょう。しかし、避けては通れない問題でもあります。事前にしっかり取り決めておくことが重要です。

 

欠点のある物件でもデメリットを隠し立てしない姿勢が重要

 

物件探しの極意はまさに、ドラマの中で永瀬が言った「物件選びは妥協も必要」に尽きます。不動産業界にとって、これを嫌味なく上手にお客様に伝えるのは大変でした。ひとり暮らしの高齢者が物件を借りにくい現状では、妥協を受け入れることが重要になってきます。そのためには、不動産仲介の現場には、物件のデメリットを隠すのではなく、適切に説明する姿勢こそ強く求められるでしょう。

 

心理的瑕疵も高齢者問題も、不動産業界にとって大きな課題ですから、これからも議論が続き、よりよい方向に体制は変化していくでしょう。今後ますます進む高齢化に向けて誰ひとりとして取り残さない社会にするために、官と民と社会が協調する世界になることを期待しています。

 

 

柴田敏雄(宅地建物取引士)
龍谷大学理工学部卒。卒業後に司法書士事務所に勤務。その後に宅建士となり、大手管理会社で不動産管理を幅広く経験。個人向け不動産賃貸・売買仲介業に従事。外資系生命保険会社で金融資産や節税についても学ぶ。