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「契約不適合責任」免責条項に潜む罠~『正直不動産』をプロが解説(11・12巻 87・88話より)

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公開日:2022年2月16日

ビックコミックに連載中の人気漫画『正直不動産』。2022年春には山下智久主演でドラマ化されることが決まり、今から話題を呼んでいます。

 

主人公の永瀬財地は、客に不動産を買わせるためにどんな手でも使ってきた成績トップの営業マンでしたが、ある日突然、嘘がつけない体質になってしまいます。

 

そこから一転、「嘘がつけない」という、不動産の営業マンとしてはある意味で致命的なハンデを背負いながらも、逆に「正直な営業スタイル」を武器に、果敢に不動産業界の悪しき商慣習に立ち向かう痛快劇が繰り広げられます。

 

今回はかつて民法で「瑕疵担保責任」と呼ばれていた「契約不適合責任」がテーマです。

 

不動産の契約

(写真はイメージです)

 

「契約不適合責任を負わない」という条文を契約書に忍ばせる中途入社の岩沢

 

主人公の永瀬が勤める登坂不動産に、中途採用で岩沢祐亮が入社しました。まだ25歳ですが、新卒後3年間は別の不動産会社に勤務しており、入社3週間で2件も成約した即戦力の有望株です。

 

しかし、永瀬の期待感とは裏腹に、岩沢の前職の退職理由は、商談を平気で横取りするような上司への不満であったようで、「正直営業」をふりかざす永瀬のことも「嫌いなタイプ」という印象を持ってしまっています。筆者などはこの時点で、このあたりの感情のギャップが後々のトラブルの鍵になるのでは、と深読みしてしまいます。

 

そんなある日、永瀬は中古マンションの売買契約書を準備する岩沢に、契約書の条文の変更を指示します。「契約不適合責任」についての条文です。売主の要望により「付帯設備部分について契約不適合責任を負わない」という条文を入れていたものを、懸念のある箇所(本編ではトイレの水圧が弱い場所)を修繕したうえで「付帯設備部分については、引き渡し後3カ月を経過した後は契約不適合責任の適用外とする」と変更しておいてくれ、というものです。

 

永瀬は、民法の改正によって、従来の瑕疵担保責任の規定が契約不適合責任に変更され、「契約書に書いてあることと違うことがあれば売主が負担しろ、つまり買主が有利になった」と説明します。

 

しかし、「だったら、売主は契約書にこそっと条文『付帯設備部分について契約不適合責任を負わない』を忍ばせる」「不動産屋は追加した条文のことは説明しなかったり、触れてもサラッとだったり」と、売主の契約不適合責任が免責になり、かつそれが買主との間で問題にならないような契約手法を紹介したうえで、「そういうやり方、おれはフェアじゃないと思うんだ」と契約書の変更を岩沢に指示したのです。

 

しかし、岩沢は「そんな綺麗ごとで売れんのかよ」と、永瀬の指示に従わず、契約書の変更をしないまま「ご契約の当日までに目を通しておいてください」と買主に詳しい説明もせずに写しを渡して済まそうとしました。

 

何事もなく契約日までこぎつければ、岩沢の思惑通りでしたが、3日後に、契約書を熟読してきた買主が該当の条文について質問しに来たことで岩沢の不作為が永瀬にバレてしまいます。買主に岩沢は「購入後何年経っても売主の責任にされてしまうと売主が困ってしまうので」と説明し、買主も納得しかけるのですが、そのとき永瀬の「嘘のつけない体質」が発動してしまいます。

 

「この部屋はトイレの水が流れにくいという問題点があり、修理が必要になるかもしれない、しかし「付帯設備部分について契約不適合責任を負わない」という条文がある契約書に署名捺印してしまった場合、修理費は買主の負担になるってことです」

 

永瀬の身も蓋もない発言に対し、「この、バカ正直野郎」と岩沢の心の声。ここで前編は終了です。続きが気になりますよね。

 

120年ぶりの民法改正! 契約不適合責任とは

 

ここで、本編で紹介されている民法改正と契約不適合責任について、詳しく説明しましょう。

 

2020年4月1日に施行された債権法の改正が行われましたが、これは実に120年ぶりの大改正でした。200項目以上の変更がなされ、主な改正事項だけで24項目あります。その詳細は、法務省のホームページに掲載されていますのでご参照下さい。

 

その中でも、改正の大きなポイントは以下の5つとされています。

 

・債務不履行による損害賠償
・手付
・損害賠償の予定
・売主の義務
・契約不適合責任

 

契約不適合責任とは、売買契約の際に、売買の目的物に契約の目的に適わない欠陥があった場合に、買主を保護するために売主の責任を規定するものです。従来の瑕疵担保責任を廃止して代わりに規定されました。

 

改正の目的は、商品の種類に関わらず欠陥があった場合の買主が受けることのできる救済や、「隠れたる瑕疵」といった言葉そのものをもっと明解に分かりやすくするものだとされています。

 

瑕疵担保責任からの変更点

 

改正後の大きな変更点は以下の通りです。

 

「隠れたる」という要件がなくなった

 

従来の瑕疵担保責任においては、瑕疵(欠陥)として成立する要件であり、買主の善意無過失(責任なく知らなかったこと)を意味するとされていました。改正された契約不適合責任では、「隠れたる」の文言は外されて、契約の内容に適合するかどうかのみを要件としています。

 

権利行使の方法に「追完請求」と「代金減額請求」が加わったこと

 

従来の瑕疵担保責任では、契約解除と損害賠償請求が認められていました。契約不適合責任については、その2つに加えて、契約不適合部分の修理や補修をするように売主に要求する「追完請求」と、商品に欠陥がある場合には「代金減額請求」が認められています。

 

権利行使期間が「知ってから1年以内の『請求』」から『通知』に変更

 

従来のルールでは買主は、瑕疵の内容を知ってから1年以内に「請求」をしなければなりませんでした。「請求」とは「欠陥の具体的な内容とそれに基づく損害賠償請求をすることを表明して損害額の算定根拠を明示して売主に伝えること」を意味します。しかし、これでは買主側の負担が大きかったのも事実で、改正民法では、おおまかな不適合の範囲を明らかにすればよいとされています。

 

瑕疵担保責任と、改正後の契約不適合責任の相違点を表にまとめましたので、ご参照下さい。

 

瑕疵担保責任と契約不適合責任の比較

比較ポイント 瑕疵担保責任 契約不適合責任
①概念 社会的通念を基準 当事者の合意を基準
②法的範囲 法的責任 契約責任
(無過失責任⇒過失が無くても売主責任) (債務不履行責任⇒過失が無い場合は売主免責も有り)
③要件 隠れたる(買主が知らず、無過失) 買主が知っていたかどうかは問わない
瑕疵 目的物の種類・品質及び数量が契約の内容に適合しない場合
④買主の権利行使方法   追完請求
(売主の過失を問わない)
  代金減額請求
(売主の過失を問わない)
契約解除 契約解除
(売主の過失を問わない)
損害賠償請求 損害賠償請求
(売主に過失が無い場合は免責)
⑤責任範囲 瑕疵があることを前提とした価値と売買代金の差額 債務不履行と相当因果関係のあるすべての損害
⑥権利行使期間 瑕疵を知ってから1年以内に「請求」 引き渡しから10年で時効
  知ってから1年以内に「通知」し、5年以内に権利行使しなければ時効
  売主が知っていた場合や重大な過失のために売主が知らなかった場合は買主の1年以内の通知義務は免除

 

契約不適合責任の特約による免責

 

契約不適合責任は、従来の瑕疵担保責任と比較しても、売主側の責任範囲が大きくなっています。しかし、契約自由の原則があるため、契約書に条文として明記してあったり、特約や特記事項に明記してあったりすれば、免責とすることが可能であることには従来と変わりありません。

 

建物そのものについては、通常契約不適合責任についての条文があり、その免責や通知期間の短縮を売主が求めた場合、特約事項として記載することが一般的です。特約事項に記載することで、注意を引きますし、説明も要求されることになるので、双方の理解にさほど不安はないでしょう。

 

しかし、付帯設備(配管・配線関係、暖房・冷房、家電・照明・調理器具など)については、現況渡しで修理は免責を希望条件とする売主も多いため、特記や特約事項とせず、条文としてそのまま契約書に記載されている場合がむしろ一般的かもしれません。まさに永瀬の指摘がそのまま現実の世界でも行われているのです。

 

調理器具や照明などは不具合も分かりやすく、費用も大きな額ではありませんが、排水・配管・配線関連などは売主や仲介業者も不具合に気づかない場合が多く、修理金額や金額もかさみます。

 

特に古い中古住宅については、付帯設備のチェックと共に、契約書のチェックは欠かせないものとなるでしょう。

 

インスペクションと常識的な契約不適合責任の免責

 

『正直不動産』本編では、売主も買主もいったんは怒って破談になりかけますが、永瀬と岩沢の誠心誠意の説得により、「買主の負担でインスペクション(建物状況調査)を実施し、不具合が見つかった場合は売主の負担で修繕、その他の付帯設備の契約不適合責任については一定の猶予期間後免責」という合意に至り、無事に契約することができました。

 

中古住宅では、付帯設備は特に、ある程度の経年劣化が想定されます。そのため新築住宅よりも割安になっているという側面もあります。

 

買主が中古住宅の割安な価格というメリットだけを享受して、設備の劣化というデメリットについては、売主に一方的にリスクを負担させるというのは、アンフェアという考え方も成り立つでしょう。筆者もある程度の不適合責任の免責はリーズナブルだと考えています。本来、住宅購入にはノーリスクはあり得ないし、低リスクを望むのであれば価格や条件に反映させるべきでしょう。

 

こうした買主のリスクを減らすためにも、専門家である宅地建物取引業者の物件調査や相場価格の助言が必要だといえます。本編のように、インスペクションを実施して、将来的なリスクや修繕・リフォーム計画の目安に利用することも重要だと思われます。筆者は、お客様が実需の購入の際には、インスペクションの実施を強く推奨しています。

 

 

プロフィール
早坂龍太(宅地建物取引士)
龍翔プランニング代表取締役。北海道大学法学部卒業。石油元売会社勤務を経て、北海道で不動産の賃貸管理、売買・賃貸仲介、プランニング・コンサルティングを行う。

 

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