『正直不動産』宅建士のプロはこう見る!SHOJIKI-FUDOSAN

最終更新日:2023年12月25日
公開日:2022年11月8日

騙された人がまた騙される! 不動産業界の敵、原野商法~『正直不動産』をプロが解説(13・14巻 103・104話より)

『正直不動産』は、小学館発行の「ビッグコミック」に連載されている漫画作品です。単行本は、現在第14巻まで発売されており、2022年4~6月にはNHKで、山下智久さんを主役としてドラマ化され大人気となった、まさにベストセラー作品です。

契約のためなら嘘もいとわない不動産屋の営業マン「永瀬財地」が、地鎮祭の時に祠を破壊したおかげで嘘がつけない体質となってしまい、「正直な」営業スタイルで不動産業界の商慣行にまつわるトラブルやお客や大家のわがままに対応していくというストーリーです。ストーリーの中で不動産業界独特の商慣習を面白おかしく説明していることや、世間を賑わす事件がリアルタイムに挿入されていることなどから、人気を博しています。

今回ご紹介するのは、第13巻103話~第14巻104話の「原野商法」についてのエピソードです。

相談する高齢者夫婦

(写真はイメージです)

「騙された者は、また騙される」?原野商法とはなにか

永瀬の後輩の月下が、祖父からの電話に応えているところから物語は始まります。なにやら相談があるとのことでしたが、商談に向かう永瀬に急かされて、「次に会った時に聞かせてね」と電話を切ってしまいました。

月下の祖父は「人がよすぎて詐欺にあったこともある」といいます。かつて不動産会社の営業マンに「ノルマを達成できなければ、一家離散」と泣きつかれ、「原野商法」にひっかかり400万円で千葉県の田舎の土地を買わされたことがある、というのです。このため、月下は不動産業界に就職したときに「不動産関連で何かあったら、必ず私に相談してね」と約束したとのことでした。

祖父の口から出た「相談」というキーワードで心配になった月下は、永瀬に「詐欺なんて、そう何度も引っかかるもんじゃないですよね」と問いかけます。しかし、永瀬は「騙された者は、また騙される」「今、原野商法の二次被害が増えてんだぞ」と諭し、月下を祖父の元へと走らせます。

ここで、「原野商法」についてもう少し詳しく解説してみましょう。

原野商法とは、1960年代から1980年代に大流行し、社会問題化した悪徳商法です。高度成長期で都市部の不動産価値の上昇を背景に、格安の原野をあたかも将来確実に開発が見込まれ、価値が何倍にも上がるような土地であると宣伝して売りさばくという手法です。

購入者が実際に転売しようとしても売れず、業者に苦情を言おうとしても業者は計画倒産や行方不明となっており、泣き寝入りを余儀なくされる、というケースが多いということです。

具体的な手口はこうです。虚偽のリゾート開発計画や分譲宅地開発計画を掲載したパンフレットを作成し、計画段階の高速道路や新幹線の建設計画と絡めて、原野を「値上がり確実」と宣伝します。一筆の土地を自由に分筆登記できる制度を利用して、山林や原野をあたかも区画整理が実施されたような整然とした分筆登記を行った公図を購入者に提示し、架空の街区や道路を高額な価格で販売します。政治家や芸能人、スポーツ選手などに無償で区画の一部を提供し、広告塔として利用することも行われていました。

また、対象の土地は、人里から離れすぎており公共インフラもなく、物理的に居住や耕作が不可能な場所にあることが多く、現地を訪問しようとしても区画を特定することも困難で、販売する土地と違う土地に案内することも多かったといいます。

しかし、架空の土地の販売ではないことから、詐欺と特定することも困難な商法でした。

2010年代以降は原野商法の「二次被害」が拡大

近年でも同類の詐欺は見られます。2010年代以降は、外国人向けに北海道などのリゾート地に近い原野を高額で売りつける商法や、「水源地」として無価値な土地を高価で販売する商法が急増しており、国民生活センターなども注意を喚起しています。ちなみに、北海道の水源地への投資をめぐって数百人の高齢者から25億円以上をだまし取った詐欺グループに関しては、2019年までに45人が摘発されています。

永瀬が言うように、2010年代以降、原野商法の被害者を狙い、原野を高く売却することができるなどと勧誘し、新たに費用を請求したり、さらに高額な土地の購入をさせたりする原野商法の「二次被害」が拡大しています。国民生活センターでは、二次被害の内容を取りまとめて発表し、警鐘を鳴らしています。(平成30年1月25日付 報道発表資料 より深刻に!「原野商法の二次被害」トラブル

トラブルの内容としては、まずかつての原野商法の被害者をリストアップし、電話営業や訪問販売で勧誘します。「土地を高値で買い取る」などと持ち掛ける「売却勧誘型」が多く、売却のために必要だとうそをついて整地や測量などの費用を請求する「サービス提供型」と、新たな土地の購入がセットになっている「下取り型」に大きく分類されます。

従来は「サービス提供型」が多かったのですが、2010年代以降は、「税金対策」「手続き費用」など複雑であいまいな説明をしながら、いつのまにか新たな土地を購入させる下取り型が増えています。そのほか、数十年前に購入した原野などの土地の管理費を突然請求するという「管理費請求」型もみられます

図5
(国民生活センター 平成30年1月25日付報道発表資料より)

被害者は、1970年代~1980年代の原野商法の被害者ですから、60歳代以上の高齢者が90%以上を占めています。作中の月下の祖父のように、彼らは原野商法の被害にあい、少なからず家族や近親者に迷惑をかけたと思っています。

このため、「寿命が尽きる前に負の遺産を解消したい」「子供に原野を遺して迷惑をかけたくない」という思いがより強くあります。こうした気持ちに付け込んで、老人からなけなしのお金をむしり取って二次被害は拡大されていくのです。罪深いとしかいえません。

善良な不動産屋に詫びろ!永瀬とともに私も叫びたい

作中では、祖父と契約を進めようとする不動産業者の矛盾を詰めまくった月下の活躍で、無事に二次被害から祖父を救うことができました。前述の国民生活センターの報道資料でも、以下の5項目の対応を推奨しています。

(1)「土地を買い取る」「お金は後で返す」などといわれても、きっぱり断りましょう
(2)宅地建物取引業の免許を持っていても、安易に信用しないようにしましょう
(3)根拠がはっきりしない請求には、お金を支払わず毅然と対応しましょう
(4)おかしいと気づいたり、トラブルにあったりしたら消費生活センター等に相談しましょう
(5)周りの人も高齢者がトラブルにあっていないか気を配りましょう

ここで、特筆すべきなのは(2)です。業者の中には、「宅地建物取引業」の免許を取得しているケースが多いのです。しかし、山林や原野などの土地は宅地ではないため、そうした原野の売買に関しては、基本的には宅地建物取引業法の適用はなく、業法上の違反を問うことはできません。

業者が免許を取得していることを信用して契約してしまう事例も数多くあります。これは、一部の悪質な業者が、大多数の善良な不動産業者が築き上げた信頼を利用し、地に堕とすような行為といえます。

宅地建物取引業者の多くは、不動産取引の透明で公正な取引を通じて消費者に貢献する、という使命を持ち、矜持をもって日夜業務に励んでいます。にもかかわらず、一部の悪徳業者のために、国民生活センターからの公的文書で「宅地建物取引業の免許を持っていても、悪質な勧誘等を行う事業者がいるため注意する必要があります」などと明記されるような業界に成り下がっているのです。これが憤らずにいられましょうか?

永瀬が、原野商法の悪徳業者の元締めと思われるミネルヴァ不動産の鵤社長相手にこう啖呵を切ります。「大多数を占める善良な不動産屋に詫びろ。おまえらのような一部の悪徳不動産屋のせいで、世の中の不動産屋のイメージまでもが悪くなってんだよ。必ずお前らをぶっ潰してやるからな」

もちろん、原野商法やその二次被害は、被害者にとって決して許されることではなく、断固としてその芽をつぶしていかなければいけません。法的制度の整備も含めて、抜本的な解決が求められます。それは被害者だけではなく、不動産業界で働く多くの善良な不動産屋の願いでもあるのです。

 

早坂龍太(宅地建物取引士)
龍翔プランニング代表取締役。北海道大学法学部卒業。石油元売会社勤務を経て、北海道で不動産の賃貸管理、売買・賃貸仲介、プランニング・コンサルティングを行う。

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