『正直不動産』宅建士のプロはこう見る!SHOJIKI-FUDOSAN

最終更新日:2023年12月25日
公開日:2022年11月22日

古い既存不適格マンションが売れにくい理由と売れやすくする裏技~『正直不動産』をプロが解説(7・8巻 55・56話より)

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小学館発行の「ビッグコミック」に連載されている漫画『正直不動産』は2022年春、NHKでドラマ化され、大変話題になりました。契約のためなら嘘もいとわない不動産屋の営業マンだったのに、ある日突然、嘘がつけない体質となってしまい、「正直な」営業スタイルで不動産業界の商慣行にまつわるトラブルやお客・大家のわがままに対応していくことになった主人公の永瀬財地を山下智久さんが演じたこともあり、さらに若い女性ファンが増えた印象です。

「正直不動産」7巻第55直・8巻第56直「既存不適格マンション」(前編・後編)について、宅建士の視点でご紹介していきます。

マンション

(写真はイメージです)

既存不適格マンションって違法物件?

登坂不動産の永瀬は吉祥寺のマンションを所有している藪征郎から、マンションの売却相談を受けます。藪は長年の夢である手打ち蕎麦屋を開くために、長野の物件を購入する計画があり、早急に現金が必要だというのです。

吉祥寺といえば住みたい街ランキング常連の街ですから、早期に売却できそうなものですが、永瀬は「既存不適格のマンションだから売れにくい」という理由で、売却価格の値下げを主張します。

既存不適格とはどういう物件なのでしょうか。国土交通省により以下のとおり定義が定められています。

「適法な建築物が法令の改正等により違反建築物とならないよう、新たな規定の施行時又は都市計画変更等による新たな規定の適用時に現に存する又は工事中の建築物については、新たに施行又は適用された規定のうち適合していないものについては適用を除外することとし、原則として、増改築等を実施する機会に当該規定に適合させることとしている」

つまり、建築時に適法であった建物が、新たな法改正や都市計画の変更により不適合となったとしてもただちに違法とはせず、増改築や建て替えをする時に適合すればよいとしています。既存不適格物件の存在は国が認めているわけです。

違法でないのであれば問題ないように思いますが、金融機関の対応は異なります。住宅ローンなどを融資する際にはその不動産を担保とするため、金融機関は既存不適格の建物は査定での評価が低くなるのが普通です。

不動産営業をしていた当時、私は、金融機関は基本的に既存不適格物件対してはほぼ融資しないという実態を見てきました。もちろんすべての金融機関に相談したわけではありませんが、そういう前提で仕事をしていた営業マンは多いと思います。

作中で永瀬も藪に対し、既存不適格の場合、銀行の住宅ローンを通すのは不可能に近いと説明しています。

建築基準法だけではない? 地方公共団体の条例も重要

建物を建築する場合、建築基準法以外にも守らなくてはいけないルールがあります。たとえば地方公共団体ごとに条例を定めており、マンションも条例に沿って建築されています。

建築物を建築する場合には接道義務があり、幅員4メートル以上の道路に間口が2メートル以上接していなければならないというルールがありますが、地方公共団体は必要に応じてさらに制限を付加することができるとしています。

たとえば東京都では建築安全条例により、延べ床面積が1,000㎡を超えるマンションは大規模建築物に該当し、1,000㎡を超えるマンションは6メートル以上、2,000㎡を超える場合は8メートル以上接道しなければならないと規定されています。また延べ床面積が3,000㎡を超え、建築物の高さが15メートルを超える場合は幅員6メートル以上の道路に10メートル以上接道しなければなりません。

※東京都建築安全条例(建築物の敷地と道路との関係)
第四条 延べ面積(同一敷地内に二以上の建築物がある場合は、その延べ面積の合計とする。)が千平方メートルを超える建築物の敷地は、その延べ面積に応じて、次の表に掲げる長さ以上道路に接しなければならない。
2 延べ面積が三千平方メートルを超え、かつ、建築物の高さが十五メートルを超える建築物の敷地に対する前項の規定の適用については、同項中「道路」とあるのは、「幅員六メートル以上の道路」とする。

延べ面積 長さ
千平方メートルを超え、二千平方メートル以下のもの 六メートル
二千平方メートルを超え、三千平方メートル以下のもの 八メートル
三千平方メートルを超えるもの 十メートル

引用:東京都建築安全条例

道路との接道状況は基本的に変更することができません。それに合わせて延べ床面積を制限されるとすると、かなり小さなマンションになり、おそらく既存の所有者の住戸数や専有面積を維持できなくなるでしょう。そう考えると、金融機関が既存不適格マンションに住宅ローンなどを融資するのが難しいことも納得できるのではないでしょうか。

建て替えには区分所有者の5分の4以上の合意が必要

作中で不動産ブローカーの桐山は、大手デベロッパーの伊集院に既存不適格マンションを紹介します。所有者の7割が建て替えに同意していると説明した上で、デベロッパーとして参入もお願いしたいと提案します。

建て替えについて、5分の4以上の合意を得ることが難しいことを体感している伊集院はその提案に乗ります。既存不適格のマンションを買うことによって、建て替え工事が受注できれば、こんなに楽でおいしい話はありません。

前述のとおりマンションを建て替えるには区分所有者の5分の4以上の合意が必要です。住戸が多ければそれだけ意見をまとめるのは大変な作業になります。国土交通省によると、これまで建て替えが実現したのは比較的小規模なマンションが多いそうです(実現した8割の事例マンションは100戸以下)。
また建て替えは賛成でも、負担する費用によっては合意できないという所有者もいるでしょう。

こうした建て替えに反対している人や費用が捻出できない人に対して、建て替え組合は住戸を時価で売り渡すように請求することができます。建て替えに反対しても少数派であれば、マンションから退去しなければなりません。

全国のマンションの総供給数は約655万戸で1,500万人が居住しており、10年後には築40年以上のマンションが198万戸になるといわれています。これまでに建て替えが実現したマンションは2019年の4月時点で累計244件(約19,200戸)とされ、今後建て替えを検討しなければならないマンションが増加することは間違いないでしょう。

マンションは管理会社が毎日の管理業務を担い、大規模修繕を計画・提案してくれますが、建て替えには関与してくれません。建て替えに対して向き合わなければならず、建て替え費用も捻出しなければなりません。当事者意識をもたなければならないでしょう。

既存不適格マンションを売れやすくする超ウラ技

作中に戻ります。不動産ブローカーの桐山は、報酬を値切った大手デベロッパーの伊集院に見切りをつけて、新たなカードを切ります。住元不動産に切り替え、既存不適格マンションの売却はもちろん、隣地地権者の合意まで取り付けます。

より大きな敷地にし、適合にした上でより大きなマンションにする計画です。場合によっては新たな住戸を増やすことで、建て替え費用の捻出までできるかもしれません。

土下座をする伊集院に対し、桐山が用意された契約書を破り捨て、「あなたの土下座に、価値なんかない」と言い捨てた姿は痛快でした。

 

桜木理恵(宅地建物取引士)
大学4年時に宅地建物取引士に合格。新卒で私鉄系不動産会社入社し約8年間、売買仲介担当として従事。その後出産・子育てのため、大手ハウスメーカーのリフォームアドバイザーに転身し、5年間勤務。信託銀行にて不動産調査や不動産管理会社にてPMの経験あり。保有資格は他に2級ファイナンシャル・プランニング技能士(AFP)。

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