人気コミックが原作のNHKドラマ『正直不動産』第9話が5月31日(火)夜10時から放送されました。今回のエピソード、「正直宅建士」をモットーとするキャリア20年の現役営業マンが、ドラマに出てきた「眺望権」について解説します。

 

※REDS「不動産のリアル」編集部では、いち早く当日の放送直後にドラマの内容紹介と、作中で登場した不動産業界の商慣習や不動産売買を考えている方が知っておきたいポイントをまとめて、コラム記事として公表しています。こちらの記事「『正直不動産』ドラマ第9話最速レビュー~ミネルヴァ鵤、花澤の壮絶な過去! 全面戦争前夜の攻防」もぜひ、ご覧ください。

 

笑顔のシニア夫婦

(写真はイメージです)

 

眺望のいい部屋とは

 

日本では、分譲マンションはおおむね階層が上がるごとに価格が高くなるのが一般的です。さらに、最上階はペントハウスとしてプレミア価格が付くことも珍しくありません。

 

階層が上がっていくほど価格が高くなる理由は、ズバリ人気があるからです。マンションでは、低層階より高層階は眺望と日当たりがよくなっています。作中で出たように、首都圏のマンションの高層階には富士山が見える部屋もありますし、東京タワーやスカイツリーが見えたり、浜離宮庭園や上野公園など誰もが知る景勝地が一望できたりする部屋もあります。中古で売却するときにも格好の宣伝文句となり、高値取引されるケースは少なくありません。

 

一方、眺望に関するトラブルもあるようです。作中では、はじめてのマイホーム購入に「富士山が見える4LDKマンションを探している」という夫婦が出てきました。登場した4LDKの中古マンションは、富士山が見えるという宣伝文句こそなかったものの、富士山の写真を広告に掲載していました。ふつうは窓から「富士山が見える」と思うのが自然です。

 

しかしそのマンション、実は3年後に富士山が見える方向にタワーマンションが建設されてしまい、眺望を遮ってしまうという落とし穴がありました。さらに、その事実を知ったのは、手付金を支払い契約も済ませた後という状況でした。このような場合に、買主の夫婦は不動産会社の説明不足を理由に白紙解約することはできるのでしょうか?

 

眺望権とは何か

 

ドラマの中で取り上げられていた「眺望権」について掘り下げて解説します。眺望権は建物所有者などがその部屋から見える眺望や風景などを、マンションなどの他の建造物に妨害されない権利とされています。

 

しかし、眺望権は法律上に定められている権利ではありません。このため裁判で眺望権の侵害を理由に訴訟を有利に進めることは難しいのが現実です。理由は、土地というものは建築許可が下りれば(法令の範囲内ならば)建物は自由に建設できるものだからです。

 

それに、周辺にどんな建物ができるかは建築許可が出て役所で公表でもされない限り、不動産会社でさえわかるものではありません。富士山が見えることを売りにしたマンションを購入した10年後に、富士山を遮るように高層マンションが建設されたとしても、購入時点で10年後に高層マンションが建設されることを不動産会社が説明することは不可能です。よって、眺望権の侵害や説明義務違反を理由に訴訟を起こしても勝つことは難しい、ということになります。

 

売買契約締結直後、眺望悪化を理由に白紙解約はできないのか

 

一般に、締結した売買契約を買主の都合で解除することは、原則可能です(ただ、解除できるのは原則手付解除期日までになります)。しかし、買主都合の場合、契約時に相手側に支払った手付金(購入価格の5~10%)は放棄する必要があります。では、売買契約締結直後に、将来的に眺望が悪くなることを理由に白紙解約はできないのでしょうか?

 

ドラマでは、登坂不動産の月下は富士山が見えるマンションとして、当該マンションをピックアップしていたものの、この夫婦には紹介しませんでした。理由は、3年後に富士山を遮るようにマンションが建つことを知っており、夫婦の希望を叶えられないと思ったからです。しかし、ミネルヴァ不動産の花澤は、富士山が見えなくなることを知っていながら伝えることなく売買契約を結びました。

 

眺望権に関するこれまでの判例を見ると、建物からの眺望が保護されることはないものの、マンションの売買契約時に不動産会社からの説明に不備がある場合には責任を追及できるとしています。

 

ただ、責任を追及するには証拠が必要です。例えば、商談時のセールストークの録音が残っていることや、販売時の広告などが証拠として有効となります。作中の場合は、月下も即座に「説明義務違反ではないですか?」と突っ込んだように、説明の不備は否めません。この夫婦が商談時のセールストークの録音や、眺望を売りとした広告を押さえていれば、白紙解約・手付金の返還・損害賠償の請求が可能となります。

 

眺望のいい部屋を購入するときに注意すべきポイントとは

 

今回のように眺望のいい部屋の購入で失敗しないようにするには、どのような対策が必要でしょうか? 代表的な3つの対策を解説します。

 

  • ・周辺の開発計画を確認する
  • ・周辺の用途地域などを確認する
  • ・不動産会社に周辺の開発予定などを聞いておく

 

周辺の開発計画を確認する

 

一つ目の対策は、周辺の開発計画をご自身で確認することです。インターネット上で周辺に開発計画がないか検索してみて、現地周辺の土地に建築看板が立てられていないか、建物が建設できそうな広い空き地がないかを調べましょう。駐車場、工場、ゴルフ練習場、古いビルなどがあれば今後、建物が建つ可能性があり要注意となります。周辺の開発計画は役所でも確認できます。

 

周辺の用途地域などを確認する

 

二つ目は、用途地域などを確認することです。用途地域とは、街並みを形成するにあたり地方自治体が指定するものとなります。例えば、商業地域はビルやマンションなどの高層住宅が建ちやすいエリアとなりますが、第一種低層住居専用地域であれば原則、軒下10メートル以下の一戸建て住宅が多い、住環境重視の街並みとなります。

 

つまり、用途地域により建てられるものはある程度、決まるということです。さらに、建ぺい率や容積率の設定、高さ制限など地域により設定があるので、これらを確認することで眺望を阻害しそうな建物が建てられる可能性があるのかが分かります。

 

不動産会社に周辺の開発予定などを聞いておく

 

最後に、仲介依頼した不動産会社に、「眺望重視でマンションを選んでいること」をしつこいくらい訴え、周辺に眺望が遮られるようなビルの開発予定がないかを詰めておくことです。不動産会社がつかんでいる開発の情報や、用途地域などにより周辺に建てられる可能性がある建物の規模感(想定)などを確認しておきます。

 

ただ、契約時点で開発計画が出ていなければ、不動産会社も将来的なことを伝えることはできないことは覚えておきましょう。

 

眺望権は永久に主張できるものではない

 

眺望権の侵害を理由に売買契約を解除することは、責任を追及できる証拠があれば可能です。一方で、マンションに入居して10年後に眺望権が侵害されたと主張することは困難です。眺望のいい部屋を最優先に物件探しをする際は、周辺の開発計画や用途地域などを確認しておきましょう。

 

 

戸田亜紀男(宅地建物取引士)
埼玉県出身。帝京大学理工学部卒。新卒で不動産業界に就職し、不動産業界歴20年の現役の営業マン。多くのメディアにて執筆活動を展開。現役営業マンならではのリアルな視点での解説には定評がある。