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『正直不動産』第5話を「正直宅建士」が解説。二度も不動産会社に騙されたコンサルマンを救った「住宅のインスペクション」

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公開日:2022年5月5日

人気コミックが原作のNHKドラマ『正直不動産』第5話「優しい嘘」が5月3日(火)夜10時に放送されました。

今回は、主人公の永瀬財地(演:山下智久)の後輩である月下咲良(演:福原遥)の失踪していた父親が8年ぶりに姿を現したかと思うと、永瀬たちのライバル会社のミネルヴァ不動産に危うく欠陥マンションを購入契約させられそうになってしまいます。契約寸前、月下と永瀬が割り込んでなんとか食い止め難を逃れる、というお話です。今回、キーマンとなったのはホーム・インスペクション(住宅診断)を実施するインスペクターでした。

現実の世界でも、中古住宅の売買が盛んになりつつある中で、その品質の維持・保証の必要性がますます大きくなっており、住宅の品質を確認するホームインスペクションの重要性もまた日増しに増しています。そこで、本コラムでは、ホームインスペクションの定義や、その意義、関連法令などについて詳しく説明することとします。

※REDS「不動産のリアル」編集部では、どのメディアよりも早く、当日の放送直後にドラマの内容紹介と、作中で登場した不動産業界の商慣習や不動産売買を考えている方が知っておきたいポイントをまとめて、コラム記事として公表しています。こちらもご覧ください。

インスペクション

(写真はイメージです)

ホームインスペクションとは何か

月下の父親はミネルヴァ不動産から高級マンションを売りつけられそうになります。そのとき永瀬は、「問題ある中古物件を表面だけ『リノベーション済み』と取り繕って高く売りつけようとしている」「欠陥住宅だからだ」と寸前で阻止しようとします。

ミネルヴァ不動産からは「営業妨害どころか名誉棄損で訴えるぞ」と詰め寄られますが、月下は「永瀬さんを信じます」とミネルヴァ不動産が売ろうとしているマンションに対し、ホームインスペクションの実施を要求します。

ホームインスペクションは「住宅診断」と訳されます。売主・買主に対して、第三者的・中立的な立場から、住宅の欠陥や劣化状況、改修すべき場所やその時期、おおよその費用などを、専門的に調査し、アドバイスする業務を指します。

中古住宅市場が日本よりも大規模な米国では、住宅の性能の確認は公正な流通に欠かせないため、取引の70~90%でインスペクションが実施されているようです。

インスペクションと「建物状況調査」

インスペクションと混同しやすいものとして「建物状況調査」があります。建物状況調査とは、国土交通省の定める講習を修了した建築士(建築士は国家資格です)が、建物の基礎や外壁など建物の構造耐力上主要な部分および雨水の侵入を防止する部分に生じているひび割れ、雨漏り等の劣化・不具合の状況を把握するための調査です。宅地建物取引業法(宅建業法)に定められた約40項目について原則として目視・非破壊検査を実施します。これを単に「インスペクション」と呼ぶ場合もあるので混同しがちです。

一方で、ホームインスペクションの調査項目は各サービス提供会社によって異なります。先の「建物状況調査」の項目に加えて、屋根裏や床下、設備など、欠陥住宅でないかを確認するために必要な調査をしたり、調査後の対応についてアドバイスをしたりします。

ホームインスペクションの調査は、日本ホームインスペクター協会が実施する認定試験に合格したインスペクターが実施します。インスペクターの試験は民間資格であり国家資格ではありません。

いずれも実施を検討される方は、不動産会社に相談してみてください。

建物状況調査の説明義務

月下は、父にミネルヴァ不動産からインスペクションの説明を受けたか確認しています。

2018年4月に施行された改正宅地建物取引業法によって、中古住宅の取引の際にホームインスペクションの実施有無についての説明が仲介する宅建業者に義務として課されるようになりました。義務化された内容は次の3点で、いずれも仲介する宅建業者に課せられたものです。

・媒介契約締結時に宅建業者がインスペクション業者の斡旋の可否を示し、媒介依頼者の意向に応じて斡旋(あっせん)する義務
・重要事項説明時に宅建業者がインスペクション結果を買主に対して説明する義務
・売買契約締結時に基礎、外壁などの現況を売主・買主が相互に確認し、その内容を宅建業者が売主・買主に書面で交付する義務

ミネルヴァ不動産が主張したように、日本では、売主が拒否した場合は買主が希望してもインスペクションを実施することはできません。住宅の欠陥が売主にとって不利になるため明らかにしたくない、という売主の意向を、まだまだ仲介する不動産屋が覆せない現実を表しているともいえるでしょう。

インスペクションにより、不具合が判明!

わずかな床の沈みが気になった永瀬は、インスペクターの町村に調べてもらうように依頼します。しかし、町村は事前にミネルヴァ不動産から「調査依頼をそちらに回すようにするから、分かっているよね」と不利な結果を出さないように依頼を受けていました。

ホームインスペクションが一般化している欧米では、
・売主側が早く売りたいために物件の不具合を隠すようにインスペクション業者に依頼
・リフォームやシロアリ駆除、修繕などを目的とした、必要のない不具合の報告
などの不正が発生したようです。

日本でもこうした不正を禁じる法律やルールは確立されていません。ホームインスペクションが普遍化するほど、こうした業界の信頼を高める努力が必要だと思われます。

原作漫画では、町村インスペクターは、サーモグラフィーカメラでの調査をしてすぐに、水漏れの可能性を報告し、「私は私の仕事をするだけです」とビシッと決めました。カッコいい!

しかし、ドラマでは、ミネルヴァ不動産の懐柔に屈したのか、調査後しばらく無言で、永瀬から罵倒されています。月下たちが床材を剥がしてから、やっと「私は私の仕事をするだけ」と言い放ちました。

このシーン、真っ当に仕事をして信頼を得ながら国内にインスペクションを浸透させようとしているインスペクション業界の反発を招かないか心配です。

インスペクションの必要性

前述しましたが、売主はインスペクションの実施については、不都合が見つかると、値引きの材料にされたり余分な修繕費がかかったりするため、実施に消極的な方が多いです。しかし筆者は、仲介の立場では、インスペクションを奨励しています。

中古物件として、現在だけでなく将来的な修繕や取替について計画を立てることも可能となりますし、買主側だけではなく、売主側にとっても、現状を適正に把握することで安心感を得ることができ、納得感の高い取引が可能になるからです。中古住宅の流通が加速していく今後、標準的な取引条件として一般化していくことが望まれます。

月下の『優しい嘘』

月下の父の家探しは振り出しに戻り、月下は「私がお父さんの家を探す」と申し出ます。口ごもる父の横で永瀬は「お前のお父さん、再婚するんだ。家族のことに口出して、ごめん」と打ち明けます。月下は、てっきり父が自分と母親と住むための家を探していたと思っていたのです。しかし、月下は「知ってたよ。どんなに立派でも、どんなに高くても、住む人が幸せじゃなきゃ、価値なんかないんだよ」

月下は、父が幸せに暮らせるよう、優しい「嘘」を吐いたのでした。泣ける……。

それにしても、月下の父は、タチの悪い不動産会社にそそのかされて無理な住宅ローンを組んで破綻して8年前に離婚・失踪までしているのに、またしても不動産屋にコロっとその気にさせられて、9,000万円以上のマンションを即決しそうになるなんて、学習しないなあ。

そんな人でも、9,000万円以上のマンションを買えるなんて、コンサルティング会社って不動産会社より儲かるんだなあ。大成功したんだなあ。もう少し早く娘や元嫁に連絡とるのが普通じゃないかなあ。大丈夫かな、お父さん。

 

早坂龍太(宅地建物取引士)
龍翔プランニング代表取締役。北海道大学法学部卒業。石油元売会社勤務を経て、北海道で不動産の賃貸管理、売買・賃貸仲介、プランニング・コンサルティングを行う。

 

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