公開日:2022年5月20日
NHKドラマ『正直不動産』第7話を「正直宅建士」が解説。リバースモーゲージは老後の住み替えに潜む恐ろしい罠なのか
山下智久主演で人気のNHKドラマ『正直不動産』、2022年5月17日に第7話「過去の自分と今の自分」が放映されました。
今回は主人公の永瀬財地が、なぜ不動産仲介の仕事についたのか、なぜライアー永瀬と呼ばれるほどの嘘つき営業となったのか、というドラマの核心部分が出てきます。また、老夫婦が自宅を売却するか、銀行員の榎本美波(演:泉里香)が勧める「リバースモーゲージ」という金融商品を利用するかとの決断に際し、永瀬が正直営業を展開していく、というストーリーとなっています。
少子高齢化が進む現代では、高齢者だけの世帯の割合がどんどん増えています。退職してからの生活は、公的年金だけでは心もとないものです。老後の不安に応える金融商品のひとつとして最近注目されているのが「リバースモーゲージ」。本記事では、ストーリーを追いながら「リバースモーゲージ」について詳しく説明していきましょう。
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(写真はイメージです)
賃貸併用住宅のメリット・デメリット
競合するミネルヴァ不動産のスパイであった中村課長を解雇した登坂社長は、永瀬を課長代理とします。課長業務を代行することに忙しい永瀬のところに、3年前に3階建ての賃貸併用住宅を永瀬が売りつけた松永が怒鳴り込んできます。
賃貸併用住宅というのは、一棟の建物に自宅部分と賃貸部分を持つ住宅のことです。ドラマの中で永瀬は「メリットだけを強調し、われながらあくどいやり方で売りつけさせていただきました」といい、永瀬がつい最近まで舌先三寸で営業をしてきたエピソードとして挿入されています。そのため賃貸併用住宅のメリット・デメリットはサラリと紹介されています。せっかくですからもう少し詳しく説明していきましょう。
賃貸併用住宅のメリットは以下のとおりです。
(1)住宅ローンが使える・・・賃貸用住宅は事業用ローンとなるため住宅ローンよりも金利が高く、返済年数も短い場合が多い。投資を目的とした場合、有利な資金調達ができることになる
(2)住宅ローンの返済に家賃収入を回せるため、実質ただで住居を取得することも可能となる
(3)住宅ローン控除、相続税、固定資産税などでメリットがある場合がある
(4)住宅ローンの返済が終われば、家賃収入による資産形成も可能
(5)自宅と賃貸物件が隣接するため、自主管理が容易となる
確かにこうしたメリットのみを強調すれば売りやすいのかもしれません。しかし、メリットがあれば当然デメリットもあります。賃貸併用住宅のデメリットは以下のとおりです。
(1)住宅ローンが使えるのは自宅居住部分の床面積割合が50%以上の場合、あるいは自宅居住割合分だけしか使えない、という金融機関も多い
(2)そもそも不動産投資という観点からみると「自宅居住部分は、他の人に貸せば相場の家賃収入があるものを自分が住んでいるために収入がマイナスとなっている」ということ。例えば、相場の家賃が15万円だとすれば15万円を自分で払って住んでいるのと一緒だから「ただで住んでいる」というのは錯覚といえる
(3)住宅ローン控除は自宅居住部分の床面積割合が50%以上でなければ受けられない
(4)家賃収入については、通常の賃貸同様に空室リスクや滞納リスク、老朽化による家賃下落リスク、原状復帰費用・修繕費などの支出も見込まなければならない
(5)入居者との物理的な距離が近いとクレームも受けやすく、ストレスとなりやすい
とくに(2)については、わりと錯覚しやすく、(4)のデメリットをついつい軽視しがちなので、賃貸併用住宅を検討する場合は注意が必要です。また、賃貸併用住宅は、賃貸物件としても自宅用物件としても、長所よりも短所を併せ持つ側面があるため、いったん売却しようとすると売りにくかったり流動性が低かったり、という問題があります。賃貸投資を考えている人には自宅部分の造作が無駄ですし、自宅購入を考えている人には賃貸部分が余計なコストと映るからです。
賃貸併用住宅を買った松永さんは、最後にちゃんと永瀬が売ってくれてむしろラッキーだったと思います。
リバースモーゲージ、ドラマに出ていないデメリット
永瀬は、銀行員の榎本美波に誘われ、年金生活で日々の暮らしに赤字が出ているという藤崎夫婦の自宅売却の相談を受けます。最寄り駅から徒歩20分の戸建てで、永瀬は、ざっと5千万円弱で売却できそうだが駅から遠いこと、隣地にマンションが建設中で日当たりが悪くなりそうなことから、すぐに売れるかは保証できないと見立てます。榎本はそこですかさず、高齢者には部屋を貸さないという大家も多いと前置きしたうえで、ちゃっかり自行の金融商品であるリバースモーゲージの売り込みに入ります。
リバースモーゲージとは、自宅を担保にして、自宅に住みながら老後資金を一括もしくは毎月借り入れて、毎月利息だけを返済して、借入満期もしくは借入者が死亡した場合に一括返済もしくは担保を処分して返済する、という高齢者向けの金融商品です。
この金融商品は、老後の生活資金に不安がある人が、住み慣れた愛着のある家、生活空間に住み続けることができることが最大のメリットだと思います。転居と転居に伴う生活習慣や人間関係の変化は、高齢者には大きな負担です。これらを避けられる点では、高齢者のニーズに応える優れた商品といえるでしょう。また、使途が自由ですので、ビジネスを始めるなどして老後の生活に余裕が生まれる可能性があることもメリットといえます。
一方でデメリットもあります。まず、永瀬も言うように「長生きリスク」といわれるものがあります。長生きすればするほど、最初に設定された融資限度額まで借金が増えていき、一括返済を迫られれば、80代という高齢時に家を失うリスクもあります。また、生存中に土地・建物の価値が下落すれば、融資限度額の見直しがされるリスクがありますし、変動金利のみのため、金利変動リスクがあります。
さらに、ドラマでは触れられていない大きな問題が。リバースモーゲージの融資の限度額は自宅の不動産評価の40~70%で、一般に50%前後とされています。利息は毎月回収しますから、「家に住み続けたいという老人の弱みに付け込んで、死んだら相場の半額で相続人がいるいないに関わらず家屋敷を召し上げる」という契約ともいえるのです。老後の住み替えに潜む恐ろしい罠ともいえます。
永瀬が取り戻した「初心」に宅建士も胸熱
永瀬が不動産仲介の道を志したのは、大学時代に実家の任意売却を登坂社長にしてもらい、「不動産屋になりたい。お客からも感謝されて金も儲かるなんて最高じゃないっすか」と心から思ったことでした。
しかし、登坂不動産に就職しても成績が全然上がらず、営業トップの完全コピーに徹してもトップにはなれなかった、客を人だと思わないことで、初めて営業トップになったと回想します。永瀬は月下に「今は嘘がつけなくなっただけ」とつぶやきます。
そんな永瀬ですが、家を売却することに決めたと言った藤崎夫妻に、「幸せの形は人それぞれです。お孫さんのためだけではなく奥様のためにも家を売るべきではありません」と伝えます。「それでは登坂不動産は困るのでは?」という藤崎夫妻に「私たちは物件をただ右から左に仲介しているのではありません。家を通じてお客様の人生を豊かにする、そのお手伝いをするのが不動産屋の仕事です」と伝えます。
嘘がつけなくなっただけではこんなセリフは出てきませんね。不動産屋を志した初心が再び永瀬の胸に戻ってきたかのようです。筆者も胸が熱くなりました。
そんな気持ちが藤崎夫妻にも通じたようです。結果的には永瀬は藤崎夫婦から「信頼できる永瀬さんにお任せする」と、家の売却と賃貸アパートの契約を任されることになりました。営業成績的にもバッチリです。
榎本美波からの信用も回復したようですね。過去はともかく正直に生きていく覚悟を決めた永瀬の現在そして未来は前途洋々に思えてきました。
それにしても榎本美波の「へばっ!」、可愛かったなあ……。
早坂龍太(宅地建物取引士)
龍翔プランニング代表取締役。北海道大学法学部卒業。石油元売会社勤務を経て、北海道で不動産の賃貸管理、売買・賃貸仲介、プランニング・コンサルティングを行う。
※この記事は2022年に放映されたNHKドラマ『正直不動産』に関するものです。記事中に出てくるデータや内容は放映当時のものです。2022年『正直不動産』の記事一覧はこちら。
過去の放送内容はNHKオンデマンドやAmazon Prime Videoで有料視聴できます。2024年1月3日(水)夜9時からは『正直不動産スペシャル』が、続いて『正直不動産2』が翌週1月9日から毎週火曜、夜10時に全10回が放映されます。
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