『正直不動産』宅建士のプロはこう見る!SHOJIKI-FUDOSAN

最終更新日:2023年12月25日
公開日:2022年9月5日

「未公開物件あります」という不動産会社を信用してはならない理由~『正直不動産』をプロが解説(10巻 77・78話より)

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『正直不動産』は、小学館発行の「ビッグコミック」に連載されている漫画作品です。単行本は、現在第14巻まで発売されており、2022年4~6月にはNHKで、山下智久さんを主役としてドラマ化され大人気となった、まさにベストセラー作品です。

契約のためなら嘘もいとわない不動産屋の営業マン「永瀬財地」が、地鎮祭の時に祠を破壊したおかげで嘘がつけない体質となってしまい、「正直な」営業スタイルで不動産業界の商慣行にまつわるトラブルやお客・大家のわがままに対応していくというストーリーです。ストーリーの中で不動産業界独特の商慣習を面白おかしく説明していることや、世間を賑わす事件がリアルタイムに挿入されていることで、人気を博しています。

今回ご紹介するのは、第10巻第77・78話の「未公開物件」についてのエピソードです。

未公開物件

(写真はイメージです)

正直不動産『未公開物件』の説明は正しいか?

ページを繰ると、いきなり永瀬が「ありません」と大コマで声を大にして叫んでいます。客である小室晃弘となにやら言い争いをしています。どうやら、小室が「未公開物件があるだろう、紹介しろ」と永瀬に詰め寄っており、永瀬は「そんなものはない」と説明しているようです。

「僕は、絶対に騙されないからな」と未公開物件があると主張する小室に、永瀬は小室がいう未公開物件とは「どこにも販売情報が出ていないお得な物件」だとした上で、「そんな物件あるわけないでしょ」とすげなく言い放ちます。

「『あなた限定で!!』なんて耳ざわりのいい言葉を囁かれたら、特別扱いされたようで、さぞや気分がいいでしょう。そこにつけ入るのが不動産業者の狙いなんですよ」
「『未公開』『当社だけ』『あなただけ』と、希少性を演出され、他と比較しづらい状況を作り、割高な物件を押し付けようって魂胆だってことです」

身も蓋もない、不動産屋にとって都合の悪い発言です。しかし、次のように話す永瀬の言葉には、説得力があります。

「売主は物件をできるだけ高く、早く売りたい。そのためには、できるだけ多くの人に知ってもらう必要があるんです」
「それをわざわざ情報をクローズにして、小室さん(買主)を儲けさせる理由も義理もないでしょ」

永瀬の説明を聞き、未公開物件というものが存在しないことに落胆する小室に、永瀬は「ありますよ」と告げます。先ほどまでの言葉を撤回するような発言に混乱する小室に、永瀬は「どこにも販売情報が出ていないお得な物件」という未公開物件はないが、「売主の希望でサイトやチラシでの広告が禁止されている物件はある」と説明します。「売主がプライバシーを守るためなど、諸事情によって情報をクローズにしているのが、未公開物件」であると説明します。

この点、筆者の認識でも、正直、小室が期待するような「未公開物件」は存在しない、と思っています。特定の買い手にとってだけ都合のいい物件など、不動産市場にはあり得ません。

しかし一方で、電柱に貼られていたりポスティングされたりしているチラシや、不動産業者のネット広告やホームページには、「未公開物件」「未公開情報」「会員だけに教える特別な情報」「カリスマ大家がこっそり教えるお得な物件情報」など、「未公開物件」関連のキーワードであふれかえっている、といっても過言ではありません。

あたかも「未公開物件」マーケットが実際に存在するかのごとくです。実際に、筆者の会社に対しても「未公開物件の情報が欲しいんです」という問い合わせは後を絶ちません。

そこで、売主・買主・不動産業者から見た「未公開物件」の需要や位置づけについてもう少し深掘りしてみようと思います。

「未公開物件」にして売り出してもらう売主側の事情

売主にとって売却の目標は、永瀬の説明のとおり「より高く、より早く」物件を売却することです。そのために、売主は複数の不動産会社に査定をしてもらい、一番高い査定をしてくれた不動産会社や、名前が知れ渡っていて信頼性が高く購入希望者をたくさん抱えていそうな大手不動産会社に、媒介を依頼するわけです。

より高く、より早く、物件を売却するためには、これも永瀬の説明のとおり、できるだけ多くの人に物件の情報を知ってもらう必要がある、と考えるのが普通です。したがって、一般的には売主側に物件を未公開にすることのメリットはありません。

売主が「未公開物件」として取り扱うことを希望する場合は、これも永瀬のいうとおり、「売主がプライバシーを守るため」などの理由がある場合に限られます。町内会でうわさになりたくない、売却の理由や家庭の事情を詮索されたくない、販売額を知られたくないなどの理由がある場合は、「より高く、より早く」よりもそうした事由を優先し、未公開による売り手探しを選択する場合もあり得ます。基本的にはレアケースだといえます。

未公開物件に魅力を感じる買主側の理由

ツイッターの世界では、不動産クラスターといわれるフォロワーを何千人も何万人も持つ不動産投資家・インフルエンサーがいます。その人たちがよく使う言い回しのひとつに「楽待パトロール」があります。また「向こうからくる物件はクソ物件」という言い回しもあります。

「楽待」とは、不動産投資用物件専門のポータルサイトのことで、「楽待パトロール」とは不動産投資家が、楽待で公開されている物件情報を定期的にチェックして、めぼしい物件がないか、市況や物件情報に変化がないかを調べて回ることです。

しかし、こうしたポータルサイトをチェックしている投資家はそれこそ全国で星の数ほどいますので、本当に何かの事情でめぼしい物件が掲載された場合は、秒で売れます。比喩ではないくらい「秒」です。

そして掲載されている物件は、基本的には何らかの理由で「秒では売れなかった物件」です。だって売主は、そんなすぐに売れるくらい安値で値付けされたら損ですから。普通は、少し高めに最初は値付けしますからね。

しかし、買主にとっては、公開されている物件は、「秒では売れない物件」つまり「価格となんらかの諸条件が市場価値と合致していないと判断された物件」、平たくいえば「何らかの理由での【売れ残り物件】」だといえるわけです。

ポータルサイトを熱心に見ている買主ほど、理想の物件と実際に掲載されている物件の諸条件に差がある経験を数多く重ねることになります。こうした経験を重ねると、買主は「市場に出ている物件はクソ物件」という認識が形成されます。

また「公開情報はクソ物件」という認識が固定されると、その反動として「未公開物件の中にこそ宝がある」という幻想があたかも真実のように買主の中に形成されていきます。そうした認識はいつしか買主の中では「未公開物件こそが宝である」という形で醸成され、「未公開物件」であることそのものに魅力を感じ、需要が生まれることになります。

「囲い込み」と「未公開物件」を結びつける不動産会社

売買契約における不動産会社の仲介手数料とは、売買契約の成立の手助けをすること(媒介)に対する報酬ですが、不動産会社は、自社が売主も買主も両方を見つけて売買契約を成立させた場合、売主側からも買主側からも報酬を得ることができます。これを一般に両手取引といいます。

これに対して、売主側もしくは買主側のどちらかを違う不動産会社が見つけてきて売買契約が成立した場合は、売主側・買主側それぞれの不動産会社は自社が見つけてきた依頼主からのみ媒介報酬を得ることとなります。これを片手取引といいます。

媒介報酬は、宅地建物取引業法の規定でその上限額が契約価格によって定められていますから、単純に計算すると両手契約の報酬は最大額で、片手契約の最大額の2倍となります。したがって、多くの不動産会社は、基本的には、常に「できれば【両手契約】になればいいなあ」と思いながら仕事をしていると考えてもいいでしょう。

両手取引_片手取引

不動産業界では、不動産会社が両手取引を追い求めるために「囲い込み」が横行してきました。「囲い込み」とは、売却を依頼された不動産会社が、もともと売却情報を市場に流さないことがあったり、市場に流していても他の不動産会社から問い合わせがあったときに「もう売れた」「すでに申込あり」「他業者お断り」などと返答したりしてブロックすることで、自社の両手取引のみが成立するように売却情報を社外に出さないようにすることです。

ここで、先に述べた売主事情の「未公開物件」という設定にすれば、他社は物件を知りようもなく扱えません。囲い込みには最適の方法となります。

また前述したように、未公開物件とした場合には、買主側には「市場に出ていないということは素晴らしい物件である可能性が高い」という錯覚にとらわれた需要があります。まさしく永瀬が言うとおり、希少性を演出すれば割高な物件を押し付けることさえ可能となるかもしれません。

売主側は、早く売れる可能性がそれだけ減ることになりますが、「私どもの優良な顧客ネットワークにお任せください」などと言いつくろうことは可能でしょう。囲い込みの利益の前には売主の都合など二の次にする不動産会社がいかに多くても、未公開物件をうたう広告の多さの前では、筆者は驚きません。

「未公開物件」として売り出すことは違法である可能性が高い

こうした囲い込みは、大手不動産会社でも公然と実施されていた時代もあったため、売主の利益や機会損失になるだけでなく、買主の機会損失にもなり健全な市場形成も阻害するとして、宅地建物取引業法でも何度かその規制が改正されています。

現在では、売主がひとつの不動産会社にしか媒介を依頼できない専任媒介契約や専属専任媒介契約を結んだ場合は、不動産会社は一定の営業日(専任:7日、専属専任:5日)以内に、必ずレインズという不動産会社専用のポータルサイトに物件の売買情報を登録し、その進捗状況を都度登録して売主もその情報が閲覧できるように定められています。

つまり、現在の宅地建物取引業法の規制では、「自社だけの売り物」つまり「他の不動産会社が売主側の媒介業者として扱うことのできない専任もしくは専属専任媒介契約を締結した物件」は、最低1週間の営業日以内にはレインズに登録・公開しなければいけないため、未公開物件として扱い続けることは、宅建業法違反となります。

一方、一般媒介契約を締結すれば、レインズに登録しなくても構わないので、不動産会社は未公開物件とすることは可能です。しかし、他の不動産会社が媒介業者として売主と契約することを妨げることは、宅建業法違反となります。やはり「自社だけの売り物」「未公開物件」とし続けることはできないことになります。

筆者は「未公開物件」と不動産業者がうたう物件の多くは、一般媒介契約を締結しているか、もしくは媒介契約を締結せずに、レインズへの登録義務を免れている物件だと想定しています。しかし、いずれにしても、未公開物件をうたって媒介行為を行う業者は、厳密には宅建業法違反であると判断しています。

また、百歩譲ってそうでないとしても、不動産市場の適正な形成に逆行する商行為であり、敬意を払うに値しない残念な企業であると断じます。

 

早坂龍太(宅地建物取引士)
龍翔プランニング代表取締役。北海道大学法学部卒業。石油元売会社勤務を経て、北海道で不動産の賃貸管理、売買・賃貸仲介、プランニング・コンサルティングを行う。

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