小学館発行の「ビッグコミック」に連載されている漫画『正直不動産』。2022年には山下智久さん主演でドラマ化され、好評を博しています。

 

ある日突然うそがつけなくなった不動産屋会社の営業マン、永瀬財地が渋々ながらも正直な営業スタイルで、嘘八百がまかり通る不動産業界の商慣行に対抗していくというヒューマンストーリーですが、タイムリーな話題も散りばめられており、宅建士である筆者にも勉強になることも多々ある作品です。

 

今回取り上げるエピソードのテーマである「契約解除」は、一部、テレビドラマにも出てきた内容で、マイホーム購入にあたってはよくあるトラブルのひとつです。高額商品である不動産の売買は、日用品を買うように気軽に返品が利くわけではありません。

 

ただ、大きな買い物であるだけに、契約解除が絶対にできないとしてしまった場合に、適正な不動産取引が阻害されるため、法律でしっかりと取り決めがされています。

 

今回は、元・不動産エージェントの経験から、契約解除の基礎的なポイントについて解説していきます。

 

不動産契約

(写真はイメージです)

 

不動産における契約解除とは?

 

契約解除とは「意思表示をすることで、その契約をなかったことにする、もしくはその契約を将来にわたって解消すること」を意味します。契約が解除されると、まだ履行されていない債務は、履行が不要になります。一方、すでに履行された債務については原状回復の義務が生じます。さらに、当事者の一方が解除することによって相手方に損害が生じた場合には、損害賠償責任が生じることもあります。

 

契約解除について詳しく解説します。

 

契約解除ができる場合

 

不動産において不動産の契約解除となるパターンは大きく分けて、以下の6種類です。

 

・手付解除
・契約違反や債務不履行による解除
・住宅ローン特約による解除
・契約不適合責任による解除
・消費者契約法違反による契約解除
・クーリング・オフによる解除

 

順番に解説します。

 

手付解除

 

手付解除は『正直不動産』作中でも出てきた解除で、後述する住宅ローン特約による解除とならび、最も起こりうるケースです。

 

不動産売買における手付金とは契約締結時に売買金額の5%程度の金銭をあらかじめ買主が売主へ預ける(支払う)ものです。契約成立を前提として一定の金銭を売主に預けておき、契約締結後に売買代金を支払う際に返還する場合や代金の一部として充当することになります。

 

契約の解除は相手方が契約履行に着手するまでに限られます。この間なら、買主側が契約を解除する場合は手付金を放棄し、逆に売主側から解除する場合は預かっていた手付金を返したうえで、さらに手付金と同額を支払うことで、相手方の合意がなくとも契約を無条件で解除することができます。

 

「契約したら必ず買わなくてはいけない」ということでは、作中にあったように配偶者が不治の病にかかったなどの事情が生じた場合に、あまりに契約者に酷ということで設けられました。

 

契約違反や債務不履行による解除

 

契約の相手方の違反行為によっても契約解除は可能になります。たとえば、契約した売買金額が支払われないケースや、代金を支払ったにもかかわらず売主が引き渡しに応じないような場合です。ただ、履行されない時点ですぐに解除できるわけではなく(例えば、支払いが1日遅れた、引き渡しが急な都合で少し延びてしまったなど)、1週間程度の履行期間を設けて相手方に催告し、それでも履行されなかった場合に契約を解除できることになります。

 

実際の現場では、こうなるとかなりシビアな雰囲気になりますので、この段階で代理人として弁護士が出てきたり、内容証明のやり取りが発生したりします。

 

住宅ローン特約による解除

 

住宅ローン特約とは、不動産の買主がローン審査に引っかかり、予定どおりの金額や金利でなかった場合に、無条件で契約の解除ができる約定のことです。手付金も買主に返還されます。

 

買主にとってはありがたい仕組みですが、売主にとっては迷惑なことでしかありません。なので、通常はこうならないように不動産仲介会社などは事前にしっかり銀行の事前審査をしっかり固めます。ただ、これが契約解除の最も多いパターンだと思われます。

 

しかし、一定期限内に買主が住宅ローンの申し込みを行わなかったり、必要書類の準備を怠ってローン申請ができなかったりした場合は特約が不適用となります。

 

契約不適合責任による解除

 

契約不適合責任とは、売買の目的物が契約の内容に適合しない場合や契約条件を満たさない場合に、売主側が買主側に対して負う責任のことです。ただし、実は再建築不可物件であることが判明したり、住居に適さない何か重大な事情が分かったりなど、売買契約の目的が達せられないほど重要な瑕疵である必要があります。

 

売主側に契約不適合責任がある場合、売買契約の内容が実現できないことになるので、買主側に契約の解除権が発生します。

 

消費者契約法違反による契約解除

 

今では少なくなりましたが、「悪徳不動産業者から市民を守れ」という趣旨の法律条項です。

 

たとえば業者から「将来、高速道路が通って地価が上がるから」と丸め込まれて不動産を購入した場合などです。このような不確定な情報によって買主が事実誤認して不動産を購入したのであれば、消費者契約法の適用によって契約の解除が可能です。あるいは業者が事実と違う説明を行ったケースも当てはまります。

 

ただし、これは事業者と消費者が契約する場合に消費者を守るためのものなので、適用されるには買主か売主のいずれかが不動産会社でなければいけません。

 

クーリング・オフによる解除

 

「悪徳不動産業者から市民を守れ」のパート2です。いわゆる「クーリング・オフ」によって契約を解除できる可能性があります。クーリング・オフは、消費者が業者との間で結んだ売買契約を一方的に解除できる制度です。

 

不動産売買においてクーリング・オフを利用するには

 

・売主が不動産業者
・業者の事務所以外の場所で契約を締結している

 

という要件を満たす必要があります。

 

通常、不動産契約は不動産会社の事務所で行われることが多いので、ほとんどの場合は要件に当てはまりません。また、「事務所以外の場所」というのは、業者が一方的に自宅を訪問して契約した場合や、電話勧誘によって呼び出された場所で契約してしまったケースなどで、買主の方から自宅での契約を申し出た場合は適用されません。

 

このため、これが適用される場合はかなり限定的と考えておいた方がいいでしょう。

 

契約解除にまつわるトラブル

 

今では不動産売買契約書が以前より整備され、手付金での解除の可否や違約金の金額などが契約書にしっかりと盛り込まれるようになりました。悪徳不動産会社の数自体も減ってきたように思います。

 

最もトラブルとして多いのは、「解除期限を過ぎた」「意思表示をした証拠がない」「解除できると思っていたのにできる状態でなかった」の3つです。いずれにしても、かなり精神的にストレスがかかります。基本的に解約を前提にした取引はするべきではないし、「契約解除したい」という際には必ず不動産仲介業者、または費用がかかっても弁護士などに相談を行い、確実に手続きを進めることが重要です。

 

契約解除は買主から申し出る場合が多く、たいていは仲介業者が買主と売主の間を取り持ってくれます。その意味では、信頼できる仲介会社から購入するとか、知り合いであまり悪いことをされないと確信できる不動産仲介業者を選ぶことが非常に有効といえるでしょう。

 

作中では、物件を契約した男性の妻が不治の病にかかり、契約を解除したいと登坂不動産の営業マン黒須に申し出ます。手付金を支払い、中間金まで支払っていて、すでに契約解除には双方の合意が必要、というステージにまできていました。当然、売主は拒否です。

 

売上至上主義の黒須は、本来なら買主のために動くような男ではないのですが、このときは悩みに悩んだ末に、新たな買主を見つけられれば買主を救うことになる、と奔走します。そして、ついに新たな買主を見つけた、というそのとき、錯乱した買主男性の凶刃に倒れることになりました。

 

黒須は一命を取り留めましたが、不動産業からは足を洗うことになりました。でも、病院で見せた表情はすがすがしく、人助けのために奔走した自分に誇りを持っているようでもありました。

 

 

松村隆平。中央大学法学部法律学科卒。新卒で住友電気工業に入社し、トヨタ自動車向けの法人営業、および生産管理に従事。その後、株式会社ランディックスに入社し不動産業界に転身。その後同社のIPO準備責任者となり、経営企画室長を兼任。2019年に東証マザーズへ上場、2021年に執行役員。趣味は司馬遼太郎の小説を読むこと。経営学修士(MBA)、認定IPOプロフェッショナル、宅地建物取引士、ファイナンシャルプランナー(AFP)、統計調査士。