『正直不動産』はビックコミック連載の漫画作品で、TBSでドラマ化され大ヒットした「クロサギ」を生み出した夏原武氏が原案を手掛けています。不動産取引における一般消費者と業者の情報格差にスポットを当て、不動産業界の暗い現実を浮き彫りにしている話題作です。

 

主人公の永瀬財地は、客に不動産を買わせるためにどんな手でも使ってきた成績トップの営業マンでしたが、地鎮祭のときに祠を破壊してしまったことから、嘘がつけない体質になってしまいました。そこから一転、「正直な営業スタイル」で果敢に不動産業界に立ち向かう痛快劇が繰り広げられます。

 

今回、解説するのは「告知義務」について取り上げたエピソード。不動産取引における告知義務とは、売主が知っていたのに(もしくは当然知っていたと解される)のに、知らせなかった場合、その法的責任が問われるものです。法解釈の余地が大きいものではありますが、買主としては知らなかった場合、しっかりと主張できる権利がありますので、不動産取引を行う際には必ず知っておくべき知識です。

 

告知義務違反

(写真はイメージです)

 

告知義務とは

 

法律の定義上、いくつかのパターンには分かれますが、不動産取引における告知義務とは、売主および不動産業者(仲介・売主含む)は、買主の立場として「最初から知っておきたかった」というような物件に関する情報について、契約締結前に伝えなければならない、というものです。

 

宅地建物取引業法47条に定められており、大きく4種類あります。

 

(1)物理的瑕疵
雨漏りやシロアリ被害、基礎にひび割れがある、廊下の床が沈んでいるなどの物理的な欠陥です。設備が壊れているなど、生活に支障が出るようなことも当てはまります。

 

(2)環境的瑕疵
物件の近所に風俗店など教育上の配慮が必要な施設があったり、火葬場やごみ処理場があったり、工場の振動や騒音、臭気があったりするなど、日常生活を送る上で支障が出るような環境に物件がある場合です。

 

(3)心理的瑕疵
死亡事故や殺人などが起きた物件は、心理的瑕疵となります。暮らしを送る上で人によっては不快感を催すような場合です。

 

(4)法的瑕疵
建築基準法や都市計画法などで、不動産の使用や建築方法に制限があるようなケースです。

 

告知義務の範囲とタイミング

 

前述のとおり、告知義務に該当する範囲はかなり広く、買主側の性格や感覚によって問題になるかならないかは大きく異なります。売主・不動産業者サイドからすれば「何か言っていないことがあって問題になったら嫌だから、とにかく細かいことでも書面にして伝えておこう」というのが本来あるべきスタンスで、これは買主の利益にもなります。

 

ただ、不動産会社のなかには、判例や慣例から「説明する必要がないからしない」というところもあります。

 

買主が告知義務違反を問題にする場合、「当然知り得たこと」「普通に注意していれば知ることができたこと」については、買主側の責任も問われます。損害額や慰謝料の全額が補填されることはないかもしれません。

 

とはいえ、一部は補填される可能性は十分にあります。告知義務違反を問う権利が買主側にあることを理解し、万一その立場になったとき、尻込みせずに主張しましょう。告知義務は契約するまでに完了しておくべきことです。契約後に「それは知らなかった」という事柄が出たら、堂々と告知義務違反を主張し、それにかかった費用や慰謝料を損害賠償として請求することが大切です。

 

告知義務違反で問題になるケース

 

告知義務をめぐって特にトラブルになりやすいのは「心理的瑕疵」です。心理的な瑕疵は目には見えないうえ、人によって気になる、気にならない、の基準に差があるからです。

 

自殺や事故、事件によって人が亡くなったいわゆる「事故物件」は、一般的に発生から6年程度経過するまでは告知が必要といわれています。その後、事故物件を購入した人が売却するときや、建物を取り壊して土地を売却する際には告知不要とされています。

 

ただし、告知が必要な期間については明確な決まりがあるわけではなく、個別の案件によって判断基準が異なることも多いです。作中では、15年前に起きた放火事件によって逃げ遅れた女性が死亡していていた件について、永瀬の上司は買主に告知していませんでした。建物は建て替えられ、すでに1人の借主がいたため、「2人目の入居者以降は告知しなくても問題ない」という判例にそっての判断でした。業界の慣例でも「人が亡くなった場合は10年以内なら告知、建物を建て直した場合は告知しなくても問題ない」とされている、と上司は説明。永瀬は反論していましたが、平行線の様子でした。

 

売主・不動産業者に対して告知義務違反を主張したいとき

 

物件の引き渡し後に、明らかに告知されてしかるべき瑕疵が発覚した場合、売主に告知義務違反を主張し、買主側の判断により以下のペナルティを与えることできます。なので、しっかり主張しましょう。

 

・売買契約の解除
・代金減額
・損害賠償の支払い
・補修工事の費用など金銭の負担を負う

 

告知義務違反を争う場合にありがちなのは、契約書には記載されていないが、言った、言わないでもめるパターンです。不動産会社が行う重要事項説明や売買契約の際の口頭での説明を録音しておくといいでしょう。

 

 

松村隆平(宅地建物取引士)
中央大学法学部法律学科卒。新卒で住友電気工業に入社し、トヨタ自動車向けの法人営業、および生産管理に従事。その後、株式会社ランディックスに入社し不動産業界に転身。その後同社のIPO準備責任者となり、経営企画室長を兼任。2019年に東証マザーズへ上場、2021年に執行役員。趣味は司馬遼太郎の小説を読むこと。経営学修士(MBA)、認定IPOプロフェッショナル、宅地建物取引士、ファイナンシャルプランナー(AFP)、統計調査士。