『正直不動産』宅建士のプロはこう見る!SHOJIKI-FUDOSAN

最終更新日:2023年12月25日
公開日:2022年6月10日

ダブルそしてトリプルで消費者を欺く両手仲介という不動産業界の罠~『正直不動産』をプロが解説(5巻 36・37話より)

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小学館発行の「ビッグコミック」に連載されている漫画『正直不動産』。2022年春には山下智久さん主演でドラマ化され、好評を博しています。

ある日突然うそがつけなくなった不動産屋会社の営業マン、永瀬財地が、渋々ながらも正直な営業スタイルで、嘘八百がまかり通る不動産業界の商慣行に対抗していくというヒューマンストーリーですが、タイムリーな話題も散りばめられており、現役の宅建士である筆者にも勉強になることも多々ある作品です。

今回は、不動産業界の悪しき慣習として根強く横たわる「両手仲介」の中でも「トリプル両手」と呼ばれる取引にまつわるエピソードについて、元不動産エージェントの経験をふまえて解説します。「トリプル両手」という言葉は不動産業界でも一般的、ということではありませんが、取引自体は行われています。また、ダブル両手ともなると、頻繁に起こっているといってもいいでしょう。

すべての不動産会社が悪徳ということではありません。ただ、こういうことをする業者もいるということは、知っておいたほうがいいかもしれません。

あざむくビジネスマン

(写真はイメージです)

片手仲介、両手仲介とは?

不動産の売買をするとき、基本的には不動産仲介会社に依頼することになります。仲介を引き受けた不動産会社が真っ先に考えることは、「両手取引」「片手取引」のどっちになるかです。ほとんどの不動産会社は「両手仲介」にすることを考えています。これは業界内の用語ですから、一般の方にはほとんど知られていない言葉でしょう。

まず、片手取引は、売主側に1社、買主側にも1社が立ち、不動産会社は売買に際して間にそれぞれの利益を代弁する役割を務めます。一方、両手取引は、1社の不動産仲介会社が、売主と買主の両者の間に立ち、両方の代理人となるわけです。

先ほど「ほとんどの不動産会社は両手仲介にすることを考えている」と書きました。なぜかというと、それが不動産会社にとってほぼ唯一の収入減となる仲介手数料の額に直結するからです。

不動産売買が成立すれば、依頼人は成功報酬として不動産会社に仲介手数料を支払います。この仲介手数料の法定上限は「物件価格の3%+6万円+消費税」です。片手取引では、売主か買主のどちらか一方からですが、両手取引の場合、売主と買主の両方から手数料が入ります。

ちなみに、外国では(例えばアメリカ)これは「双方代理」にあたると解釈されています。つまり、本来なら代理人の利益になるような行動をとらなくてはいけないのに、代理人の好きに取引をまとめられることから、利益相反になる、という解釈がされています。日本では両手仲介は法的には認められていますが、合理的に考えれば両手仲介は、売主・買主と仲介者の関係で言えば「フェア」とはいえないと思います。

囲い込みとは?

売主から不動産売却の依頼を受けた不動産仲介会社は、レインズという不動産業者が物件情報を共有している業者サイトに登録することが法律で義務付けられています(専任媒介、専属専任媒介契約の場合)。できるだけ早く買主が見つかるようにするためで、不動産仲介会社が故意に情報を隠したり、独占したりすることは法律で禁じられています。

ところが、不動産事業者としては上記で紹介したような「両手」の方がもうかるので、自分で買主を見つけるため、他の不動産仲介業者から連絡が入っても「すみません、すでに他のお客様と交渉中です」と嘘をつき、他の不動産仲介業者をシャットアウトしてしまいます。これを業界では「囲い込み」と呼びます。

囲い込みは法律で禁止されているため、作中では永瀬&月下の罠にかかったミネルヴァ不動産が営業停止を免れるために不正を認め契約を白紙撤回した、というシーンがありました。

ダブル両手、トリプル両手を分かりやすく

作中では、ダブル、さらにトリプルの両手仲介について説明されていました。まずダブル両手から説明します。以下の3ステップです。

(1)不動産会社が相場より安い価格で取引を成立させる(最初の両手取引)
(2)その不動産会社が安く買わせてあげた不動産買い取り業者からさらに仲介を任せてもらう
(3)相場の価格で仲介を成立させる(2回目の両手取引→ダブル両手)

ここで疑問に思うのは「なぜ相場より安い価格で取引が成立してしまうのか?」というところですが、これは後ほど説明します。

次にトリプル両手ですが、上記ダブル両手において(1)で安い価格で不動産を売ってしまうことになる売主について、住み替え先の物件も両手で取引が成立している場合に「トリプル」となります。

作中の例で言えば、次の流れです。

(1)不動産会社の口車に乗って、まず住み替え先の物件を契約してしまう(両手1つ目)
(2)本当はもっと高く売れるはずなのに、早く売らないといけないため、相場より安く売らざるを得ない状況になってしまう
(3)相場より安い価格での売却が完了(両手2つ目)
(4)不動産仲介業者は安く買わせてあげた不動産買取り業者からさらに市場価格でその不動産を売却(両手3つ目)

最初からこの3つの取引を狙って買主に先に住み替え先を契約させる(いわゆる買い先行)こともそう簡単ではないため、こうした例が多いかというとそういうわけではないと思います。ただ、「どうしてもいい物件で逃したくない」ということで、買い先行する買主さんは一定数います。「騙されて」というより「先のことを見通せていなかった」ばかりに早く売らなければいけなくなってしまう誤算と言えるでしょう。

実はよくあるダブル両手

トリプル両手は頻繁にあるわけではありません。一方、ダブル両手は不動産業界では「あるある」であり、大手の不動産会社ほど意識的に狙っています。実は、相場より安く売買が成立するパターンというのは存在します。そこで「安く買わせてあげたのだから、売るときはもう一回仲介を任せてね」と事前に合意をとっておき、次の取引でも仲介に参加するわけです。

さて、相場より安く売買がされるパターンとは例えば次のような場合です。

・売主が高齢で相場を認識しておらず、不動産会社の言いなりになってしまう
・相続が発生しており、相続税を支払うために売り急いでいる場合(相続人が多額の財産を相続した場合、納税資金のために土地を売却する必要がある場合があります)
・土地が大型の場合、一括で買ってくれる一般人がいないため、不動産会社に有利に話を進められてしまう(もしくは、大型の土地を小さく切って分譲すると単価が上がる)
・土地上に古家があったり、荒れていたりする場合や、一般人相手に仲介に出しても売れにくい場合、業者に買ってもらう方が楽なため、相場より安い取引が実現する

他にもいろいろなパターンがありますが、不動産仲介会社の立場としては、相場より安い価格で買い取る、もしくはつながりのある不動会社に買い取らせたほうが、大幅に利益が伸びるケースは多いです。

「カモ」にされないためには

資金的に無理な場合は買い先行をしない

先に住み替え先を買ってしまった場合、売却に期限がついてしまいます。現在の住まいを売らなくとも次の住み替え先の不動産産を購入できるのであれば何の問題もありませんが、そうでないなら買い先行には慎重になるべきです。

現在の住まいの売却が決まってから住み替え先を探す場合「購入に期限がつく」というデメリットは存在しますが、もしいいところが見つからなければ引っ越しをすればいいのです。確かに大変ですが、不動産は金額が大きいので、その労力を払う価値は十分あります。

真剣に探せば、3か月以内に購入物件を見つけるというのは全く無理な話ではありません。(むしろ、相場で絶対に3か月以内に売ることのほうが難しいといえます)

相続後、不動産売却には早めに着手する

相続税は330日以内に相続人が納税する必要があります。そのため、相続が発生したら相続登記を早めに済ませ、資産処分にかかりましょう。親が亡くなってそういう気分でもない、というのも理解できますが、大事な資産だからこそしっかりマネジメントしていくことが大事です。

まずは一般媒介で仲介による売却を検討してみる

古家があったり、大型の土地だったりと売れにくそうな場合でも、まずは仲介で売りに出してみるのは一つの手です。不動産事業者が購入する場合、結局は市場で売却するということになるわけなので、相場よりは1~2割程度安く買われると考えられます。

不動産仲介会社に「高く買ってくれる業者がありますよ」と言われても、「いや、そのつもりはない」とはっきり伝えることで、不動産仲介業者に「仲介で売らざるを得ない」と思わせ、まずは一般の買主にそのまま買ってもらうことにチャレンジすることができます。

今回は、漫画『正直不動産』に登場した両手取引について解説しました。こうした話は、大手の不動産会社を使って仲介してもらうときにはまず出てきません。ぜひ、みなさまにとってよい不動産取引が実現しますように。

 

松村隆平(宅地建物取引士)
中央大学法学部法律学科卒。新卒で住友電気工業に入社し、トヨタ自動車向けの法人営業、および生産管理に従事。その後、株式会社ランディックスに入社し不動産業界に転身。その後同社のIPO準備責任者となり、経営企画室長を兼任。2019年に東証マザーズへ上場、2021年に執行役員。趣味は司馬遼太郎の小説を読むこと。経営学修士(MBA)、認定IPOプロフェッショナル、宅地建物取引士、ファイナンシャルプランナー(AFP)、統計調査士。

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