人気コミックが原作のNHKドラマ『正直不動産』第9話が5月31日(火)夜10時から放送されました。今回のエピソード、「正直宅建士」をモットーとし、大手管理会社で不動産管理や個人向け不動産賃貸・売買仲介業に従事してきた不動産営業マンが、ドラマに出てきた専門的な話について解説します。

 

第9話には、間取りは4LDK、息子家族と同居できるマンションで、リビングからドーンと富士山が見えることを最優先で探してほしいという夫妻が登場。そこから成り行きで、登坂不動産の月下と、ミネルヴァ不動産の花澤が、その夫妻にとってどちらがいいマンションを見つけられるかというガチンコ勝負を始めることになりました。

 

対決の過程で出てきた不動産売買の専門的な話について解説します。

 

※REDS「不動産のリアル」編集部では、いち早く当日の放送直後にドラマの内容紹介と、作中で登場した不動産業界の商慣習や不動産売買を考えている方が知っておきたいポイントをまとめて、コラム記事として公表しています。こちらの記事「『正直不動産』ドラマ第9話最速レビュー~ミネルヴァ鵤、花澤の壮絶な過去! 全面戦争前夜の攻防」もぜひ、ご覧ください。

 

スーツ姿の女性からインテリアの説明を受ける

(写真はイメージです)

 

将来の日照権と眺望権に関する法的保護

 

マンションなど住まいを購入した場合、周辺の建築計画によって、日照や眺望、通風、騒音などの環境が変化していくことを防ぐことはできません。今ある環境が将来にわたっても変わらないことが保証されることはありません。

 

このため、今はマンションのリビングから富士山が見えていたのが、3年後に別のマンションが建ったことで見えなくなったとしても、それは何かの権利が侵害されたわけではないのです。

 

ただ、ミネルヴァ不動産花澤の契約への持ち込み方は説明義務違反と言われても仕方がないと感じました。不動産のプロがお客様に勘違いを起こさせたなら、消費者保護の規定を守っていないと見なされかねないからです。契約に至るまでに、あそこまで富士山にこだわりのある人が、担当者の花澤に富士山は絶対に外せない条件であることを相談していないはずがないからです。

 

しかし、仮に法廷闘争に持ち込まれたとしても、商談の録音や提示された資料がなければ、水掛け論になり、長期化したり、勝ち目がなかったりという現実もあります。

 

どうしても契約を解除したいという場合、花澤の言うとおり、手付金を返還できないというケースが大半です。契約後の買主都合での契約解除は、事前に支払った手付金(購入価格の5~10%が相場)を放棄して契約がなかったものとするからです。

 

不動産業界のご法度「飛ばし行為」も登場

 

作中には、不動産業界でタブーとされていることについてもサラリと出ていました。マダムは物件をたくさん所有し、不動産家主業を手広く営んでいますが、面倒な不動産実務を自分ですることはなさそうです。おそらく登坂不動産と専属専任媒介契約を結び、すべての業務をお任せしている関係だと思われます。

 

作中でミネルヴァ不動産は、5,000万円で売出中のマダムの物件をもっと高値の5,400万円で売るので登坂不動産を経由せずにマダムと直接、取り引きしたいと持ちかけています。

 

専任業者がいるのに、他の業者がその業者に内緒でマダムと接点をつくることは「飛ばし行為」といって、不動産業界ではご法度の汚いやり口です。

 

不動産業者しか見られない業者用のサイト(呼称:レインズ)には物件ごとに媒介の種類が載っており、マダムの「リバーサイド神田川」が専属専任媒介なら他の業者はそれを知ることができます。ミネルヴァはそうしたところから情報を入手して仕掛けたのでしょうね。

 

顕在ニーズと潜在ニーズ

 

家探しを始めるとき、まずお客様に希望条件をうかがいます。これを「顕在ニーズ」と呼びます。一方、家探しを進めていく段階で、お客様自身も気づいていなかった希望があることを認識したり、価値観や希望の変化に気づいたりすることがあります。このように、初めは見えてなかったのに、その後に出てくる希望条件を潜在ニーズといいます。

 

おそらく、ミネルヴァ不動産に物件を断りにいった息子夫婦に対し、花澤は「これから長く住む若夫婦やお子さんにとっての環境を最優先してマンションを選ぶべきではないですか?」と息子夫婦の決定を促していたはずです。

 

あの一家のキーパーソンが息子夫婦であり、そして息子夫婦にとって魅力的なマンションを購入することが親夫婦の潜在ニーズだったわけです。ここで、新人営業の月下とトップ営業の花澤との営業スキルの違いが勝敗を分けました。

 

月下の成長にリアル宅建士も涙こぼれる

 

マンション周辺の生活施設を見て、その理由にすぐ気づいた永瀬はさすがです。ただ、永瀬のひと言と島村夫妻の表情で、すぐにそのことを理解した月下に私は注目しました。月下は契約を取り損ねたのですが、そこに新人の殻を破って成長した姿が垣間見えたのです。

 

私の新人時代にも同様のケースがありました。私は契約をお断りされたお客様に無理に笑顔を作ってその場を収めたことを今でも覚えています。そのシーンを思い出して、月下の気持ちが痛いほど分かり、思わず泣きそうになりました。

 

このように、実際の家探しでも、この潜在ニーズの掘り起こしが足りず、案内していたお客様が気づいたら他社で、しかも伺っていた条件とは全く違うマンションを購入していたということはよくあることなのです。

 

不動産の営業担当者は、より多くの物件情報と不動産知識を武器に、お客様の疑問を解消して、いろんな角度から価値を提案するのが仕事。その過程でお客様の信頼を得て、契約を積み上げていくのです。

 

不動産営業の世界は男女や年齢、キャリアの差はなく、本当の意味で実力主義の世界なのです。

 

まとめ

 

これからマイホームを買われる方へお伝えしたいのは、当初の希望条件は途中でいくらでも変わるため、初めからこだわるポイントを持ちすぎず、いろんな可能性を検討しながら柔軟に考えるほうが、結局は素晴らしい物件にたどり着けるのです。

 

そのためには信頼できて頼りになる担当者探しを成功させる必要があります。ぜひ、家探しの際は担当者選びにも時間をかけて吟味するようにしてください。

 

 

柴田敏雄(宅地建物取引士)
龍谷大学理工学部卒。卒業後に司法書士事務所に勤務。その後に宅建士となり、大手管理会社で不動産管理を幅広く経験。
個人向け不動産賃貸・売買仲介業に従事。外資系生命保険会社で金融資産や節税についても学ぶ。