ビックコミックに連載中の人気漫画『正直不動産』。2022年春には山下智久主演でドラマ化されることが決まり、今から話題を呼んでいます。主人公の永瀬財地は、客に不動産を買わせるためにどんな手でも使ってきた成績トップの営業マンでしたが、ある日突然、嘘がつけない体質になってしまいます。

 

そこから一転、「嘘がつけない」という、不動産の営業マンとしてはある意味で致命的なハンデを背負いながらも、逆に「正直な営業スタイル」を武器に、果敢に不動産業界の悪しき商慣習に立ち向かう痛快劇が繰り広げられます。

 

今回は「共有名義」のお話です。夫婦共働きの世帯が「夫婦仲良く2分の1ずつお金を出して高級マンションを購入した(ペアローンを組んだ)人たちのその後」のちょっと怖いお話です。

 

夫婦・カップル

(写真はイメージです)

 

共有名義とは

 

共有名義とは、一戸建てやマンション、土地などの不動産を取得するために共同で出資し、出資額の割合に応じた所有持分で登記(権利関係などを社会に公示するため登記簿に記載)することです。

 

今回は、過去に永瀬が仲介した夫婦のお話。かつて夫婦は高級マンションをそれぞれ半分ずつお金を出して(ローンを組んで)購入しました。お金を半分ずつ出し合ったらそれぞれの持ち分は2分の1です。

 

妻が半分お金を出したにもかかわらずマンションの名義を夫一人にしたら、これは妻から夫へお金を贈与したことになってしまいます。持ち分の割合は、贈与にならないように出資割合で行うことが原則です。

 

ペアローンで共有名義

 

夫婦それぞれが住宅ローンを借りて住まいを購入することをペアローンといいます。ペアローンの仕組み上、夫のローンには妻が連帯保証人となり、妻のローンには夫が連帯保証人となります。

 

永瀬は「ご夫婦で協力し合うことで、お互いの負担を減らしつつ、立派なお住まいを手に入れることができる!」「つまり、ご負担は半分、喜びは2倍です!」と新婚夫婦をうまくのせて1億円を超える高級マンションの購入をすすめます。

 

では、ペアローンのメリットとデメリットについて考えてみましょう。

 

ペアローンのメリット

 

ペアローンの大きなメリットは二人とも住宅ローン控除を受けられることです。住宅ローン控除とは、住宅を購入する際にローンを組んだ場合に、そのローンの年末残高の1%をその年の所得税の額から差し引く減税措置です。

 

サラリーマンの場合、毎月のお給料には税金が源泉徴収という形で天引きされているので、住宅ローン控除を利用することで、先払いしていた税金が還付されます。

 

住宅ローン控除はローンの年末残高の1%が10年間減税対象になり、最大額は一人につき40万円となります。住宅ローン控除は年収が多い人が得をしやすい制度になっています。年収が多いと所得税も増えるため、住宅ローン控除のメリットも増えるからです。控除額は住宅ローン残高の1%ですから、住宅ローンの借入額が大きいほど効果が高いのです。

 

ペアローンのデメリット

 

しかし、いい話ばかりではありません。

 

夫婦がそれぞれの収入をあてにして高額物件を購入した場合、考えられるリスクは一方が収入減になることです。妻が妊娠で会社を休んで収入が減少した場合や夫が病気になって以前のように働けなくなった場合、会社の業績不振による減給、あるいは会社の倒産、リストラ、病気などで働けなくなった、などです。

 

限度いっぱいまで住宅ローンを借りてしまうと、上記のリスクにより毎月の返済が困難になってしまう可能性があるのです。

 

また、万一どちらかが死亡した場合、加入していた団信から残債に充当される(支払わなくてよくなる)のは死亡した方の住宅ローン分だけですから、団信の効果は半減です。

 

諸費用が増えることもデメリットといえるでしょう。住宅ローンを2つ組むことになるため、手続きに必要な登記費用や司法書士報酬、印紙代などがすべて2倍になってしまうのです。

 

最大のリスク、それは離婚

 

筆者は行政書士という職業柄、離婚のご相談を受けることも多々あります。

 

「お互いが高収入で離婚しても困らない。ただ、夫婦共有名義で買ったマンションはどうするのか? 住宅ローンがそれぞれ残っていた場合にはどうなるのか?」

 

こんなご相談はよくあるのですが、『正直不動産』のお話も、夫婦が離婚をすることを決め、上記のような問題を抱えて永瀬を訪れるところから話が始まります。

 

共有名義だと、売却するにしても賃貸に出すにしても、共有者全員の承諾が必要です。つまり、お互いの意見が一致しなければ売ることはできないのです。

 

では、住宅ローンを支払いたくないから単独名義にしてほしいと妻は主張しますが、そんな簡単にできることではありません。まず、名義を変えるには借入先の銀行に伝えなければなりません。

 

所有権を買い取る側(今回の話では夫)が妻の住宅ローンを完済するか、新たに借り換える、あるいは妻の住宅ローンを引き受ける(「免責的債務引受」といいます)ことが必要になります。しかし、現在の夫の他のローンを含む借り入れ状況や収入状況で、銀行側がイエスと言わないケースもあります。

 

永瀬は最も負担の少ない妻名義の住宅ローンを夫名義の住宅ローンに借り換えるということを銀行に相談することでその場をしのぎます。

 

ただ、永瀬は「愛は目減りしても残債が目減りするわけではないので」と正直に言ってお客様夫婦を激怒させてしまい、最終的に売却するしかないということになってしまいます。

 

現れた購入希望者は新婚夫婦でした。永瀬はつい「離婚の可能性を視野に入れていますか?」と聞いてしまい、その夫婦は激怒していったんは逃げ出してしまいます。無理やりマンションの内覧に連れてきますが、売りに出されていた理由が離婚だったと知った妻は「縁起が悪すぎます。新婚なんですよ、私たち。絶対にここは買いません」と言われてしまいます。

 

しかし、永瀬はペアローンの仕組みを説明し「互いの連帯保証人になるというのは、二人分の人生を人質に取られているようなものだということです」「結婚は相手の人生をも背負うことではないですか?」などと切々と訴え、夫婦を翻意させることに成功します。

 

まとめ

 

ペアローンを組んで共有名義にすれば、一人では買うことができないような立派な住まいが買えるなど大きなメリットがあります。しかし、リスクも大きいことをご承知ください。片方のローンが支払えなくなったら必ず片方が返済していかなければならないのです。

 

個人的に、今回のエピソードでいちばん胸に刺さったのは、永瀬の「夫婦の数だけ夫婦の形があっていい。ただ、名義やローン形態よりも、夫婦にとって大切なのは、お互いを思いやる気持ちとお互いが納得するまで話し合うことじゃないですか?」でした。ペアローンを利用するには、この言葉を自然に受け入れられることが条件かもしれませんね。

 

 

坂井田啓介(宅地建物取引士、行政書士)
司法書士事務所に勤務後、行政書士として独立開業。数多くの不動産取引を担当。その後、外資系生命保険会社に勤務。不動産売買契約や重要事項説明のリーガルチェック、不動産を含むトータルの資産形成のコンサルティングを行う。