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「事故物件」は「お買い得物件」とは考えられないか~『正直不動産』をプロが解説(13巻 101・102話より)

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公開日:2022年2月21日

小学館発行の「ビッグコミック」に連載されている漫画『正直不動産』。単行本は、現在第13巻まで発売され、2022年4月にはNHKで山下智久さん主演によるドラマ化も決まっています。

 

ひょんな事から嘘が吐けない体質になってしまった不動産屋の営業マン「永瀬財地」が、渋々ながらも「正直な」営業スタイルで、嘘八百がまかり通る不動産業界の商慣行に対抗していくというヒューマンストーリーですが、タイムリーな話題も散りばめられており、現役の宅建士である筆者にも勉強になることも多々ある作品です。

 

今回は、世間の関心も高い「事故物件サイト」にまつわるエピソードについて解説します。

 

パソコン画面と不動産

(写真はイメージです)

 

「事故物件」とは何か。なぜ社会問題化しているのか

 

事故物件とは、基本的には、入居者が亡くなる場所となったために借主・買主にとって心理的瑕疵(欠点)があるとされる不動産物件を指します。

 

日本人は死を忌避する考えが強く、事故物件を嫌がる人が多いため、事故物件になってしまうと売却価格や家賃の額が相場よりも下がってしまうことが一般的です。

 

作中では「国土交通省が賃貸物件の場合『告知が必要な期間は、死亡してから約3年間に限る』と指針案を公表した」とされていますが、その後、令和3年10月8日に正式に「宅地建物取引業者による人の死の告知に関するガイドライン」が発表されました。

 

従来、不動産取引においては、人の死に関する事案の存在が疑われる場合に、買主や借主に告知すべきかどうかを判断する基準が明確ではなく、どの程度の調査を不動産業者が実施すればよいかもまた明確ではありませんでした。

 

このため、人の死の告知に関する対応や調査の負担が過大となり、円滑な流通と安心できる取引が阻害されるようになってきたことが問題視されるようになりました。多くの人はインターネット上の「大島てる」のような事故物件サイトを情報源とするために、時には作中にあるように不正確な情報や意図的なデマに惑わされることや、不利益を被ることも起こり得ます。

 

また貸主が、死亡理由にかかわらず、すべての死亡事案を告知し事故物件として取り扱わなければならないのではないかという懸案を持つことにより、作中のオーナーの姿勢のように、特に単身高齢者の入居を敬遠する傾向が顕著になったことも社会問題化しました。

 

そのため、人の死が生じた不動産の取引に際しての宅建業者(=不動産業者)の判断基準となるガイドラインを策定するために、国交省は令和2年から「不動産取引に係る心理的瑕疵に関する検討会」を開催して議論を重ねてきたのです。

 

国交省ガイドラインでトラブル防止に期待

 

国交省のガイドラインのポイントは以下の3点です。

 

・取引の対象となる不動産において生じた人の死に関する事案
・居住用不動産を対象とする
・現時点において、裁判例や取引実務に照らし、一般的に妥当と考えられるものとする

 

また、売主―買主、貸主―借主、といった取引当事者間のみならず、取引に関与する宅建業者との間のトラブルの未然防止が期待されるとしています。

 

インターネットによる調査の義務はない!

 

宅建業者が行うべき調査については、「売主・貸主に対して告知書(物件状況報告書)等に過去に生じた事案についての記載を求めることで、通常の情報収集としての調査義務を果たしたもの」としました。調査の過程で照会先の売主・貸主・管理業者より、事案の有無および内容について、不明であると回答された場合、あるいは回答がなかった場合でも宅建業者に重大な過失がない限り、照会を行った事実をもって調査はなされたものとされます。

 

また、近隣住民などの第三者に対する聞き込みなどの調査や、「大島てる」などのインターネットサイトなどの調査は、正確性の確認が難しいことや、亡くなった方や遺族の名誉やプライバシーの不当な侵害につながらないように十分な配慮が必要なことから、調査の義務はなく、慎重な対応を要することに留意が必要とされています。

 

告知の義務と一般的な基準

 

ガイドラインでは、「宅建業者は、人の死に関する事案が、取引の相手方等の判断に重要な影響を及ぼすと考えられる場合には、これを告げなければならない」としています。しかし、できるだけその基準を明確にするために、裁判例や取引実務などを踏まえ現時点で妥当だと考えられる一般的な「告げなくてもいい」基準を示しています。

 

それが以下の3点です。

 

(1)賃貸借・売買取引の場合、対象不動産で発生した自然死(老衰、持病死)・日常生活の中での不慮の死(転倒事故・誤嚥・入浴中の溺死など)。ただし、長期間にわたって放置されたことに伴い特殊清掃等がなされた場合は除く。

 

(2)賃貸借取引において(1)以外の死が発生もしくは特殊清掃等がなされてから、おおむね3年が経過した場合。ただし事件性、周知性、社会に与えた影響が特に高い事案は除く。

 

(3)賃貸借・売買取引において対象不動産の隣接住居もしくは通常使用しない共用部分において(1)以外の死が発生もしくは特殊清掃等がなされた場合。

 

以上(1)(2)(3)の場合以外は、宅建業者は、照会した内容をそのまま告げるだけでいいとしています。

 

事故物件は実は「お買い得物件」?

 

漫画の中では、ライバル会社のミネルヴァ不動産が、主人公の永瀬たちが紹介した不動産物件を事故物件だと物件を探している若い男性客に吹き込み、次の瞬間、デマ情報を自らインターネットの事故物件情報「大島てる」に投稿して営業妨害を繰り返します。また事故物件ではない物件を事故物件と称して、自分たちの実入りのいい物件に誘導する、といった手口が紹介されています。さすがに筆者はここまでする悪徳不動産屋には出くわしたことがありません。

 

そもそも筆者は、事故物件を心理的瑕疵だとは考えません。エレベーターが勝手に止まってくれるのもセンサーの異常だと管理会社に訴えれば解決します。たとえ、その物件内で自然ではない人の死があったとしても、物理的に問題がなければむしろ安く買えたり借りたりできるお買い得物件だとしか思えないのです。

 

永瀬が賃貸オーナーに主張しているように、これからは社会が老齢化していき単身高齢者が増えていきます。むしろ単身高齢者の入居を拒否するような賃貸経営は先細りしていくことが予想されます。高齢者見回りサービスや訪問介護サービスとの提携、人感センサーの導入などに力を注いで「事故物件」を増やさないようにすることが、「事故物件」にまつわる社会的課題の解決のために求められるでしょう。

 

 

早坂龍太(宅地建物取引士)
龍翔プランニング代表取締役。北海道大学法学部卒業。石油元売会社勤務を経て、北海道で不動産の賃貸管理、売買・賃貸仲介、プランニング・コンサルティングを行う。

 

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