マイホームにマンションを選ぶ利点のひとつに、売却のしやすさがあります。マンションは家族構成の変化や自身のライフスタイルの変化などに応じて住み替えやすく、その際に売却益を得られる可能性もあります。売却益が得られるのは大きな魅力ですが、売却益が発生した場合にどれくらい課税されるのか不安を感じる人もいるでしょう。マンション売却時にかかる税金について解説します。

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マンション売却における税金の基本的な考え方
まずマンションの売却益に課される税金を「譲渡所得税」といいます。
マンション売却における譲渡所得税
次の計算式で税額が決定します。
(1)課税譲渡所得金額(譲渡所得)の算定
算出式:課税譲渡所得=「譲渡価額-(取得費+譲渡費用)-特別控除」
(2)上記の「税譲渡所得金額」に税率を乗じる
税率は所有期間によって異なり「短期譲渡30%(住民税9%)」「長期譲渡15%(住民税5%)」が原則です。短期譲渡は所有期間が5年以下で、長期譲渡は5年を超える場合です。
所有期間が5年を超えると税率が大きく変わるため、売却する場合は5年を超えてからのほうが節税になるといえます。ただし短期譲渡か長期譲渡かは「譲渡した年の1月1日時点」の所有期間で判断する点に留意してください。
例えば2015年の4月1日に購入・入居したマンションを2020年の4月5日に売却したとします。実際に所有していた期間は5年超ではありますが、譲渡所得の計算においては「2020年の1月1日時点」で所有期間を判断するため、このケースの所有期間は5年未満となります。
マイホームを売ったときの軽減税率の特例
マンションを含むマイホーム売却時の税率には「軽減税率の特例」があります。譲渡所得を算出する手順は先に挙げた計算式と同じですが、所有期間10年間を超える場合は譲渡所得の金額に応じて、6,000万円以下の部分には税率10%(住民税4%)、6,000万円超の部分には税率15%(住民税5%)が適用されます。
こちらの所有期間も売った年の1月1日時点で判断するため注意が必要です。
マンション売却の3,000万円特別控除とは
マイホームを売ったときは、譲渡所得から最高3,000万円まで控除ができる特例があります。要件を満たせば短期・長期の所有期間を問わず適用が可能で、いわゆるマイホームの「3,000万円の特別控除の特例」と呼ばれます。
「3,000万円の特別控除の特例」の主な要件
(1)売却した家がマイホームであること
以前住んでいて、現時点では住んでいない家を売却する場合は、住まなくなった日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売却するなら当てはまります。
(2)売却した年の前年または前々年に同じ3,000万円特別控除の特例を受けていないこと
マイホームの買い換え(交換)特例、譲渡損失における損益通算や繰越控除等について適用を受けていないことも必要です。
(3)売却側と購入側が特別な関係でないこと
特別な関係とは、親子や夫婦のほか、内縁関係や関係性のある法人などが該当します。この控除は所有者ごとに適用することが可能です。つまりマイホームが夫婦共有であれば、夫婦それぞれが3,000万円の控除を受けることができます。
ただしマイホームを買い替える場合で、買い替え先のマイホームで住宅ローン控除は利用できません。両者は併用ができないためです。3,000万円控除と住宅ローン控除、どちらを利用するのかよく検討しましょう。
マンション売却時に買い替え特例もある
マイホームについては「買い替え特例」があります。「特定の居住用財産の買い換えの特例」と呼ばれる制度のことで、マイホームを令和3年12月31日までに売却して買い替えた場合に、要件を満たせば譲渡益に対する課税を将来に繰り延べることができる特例です。次の2点が制度の大きな特徴です。
(1)売却損が生じた場合は対象とならない。
(2)あくまで将来への「繰り延べ」であり、税金が免除されるわけではない。
繰り延べされた課税は将来、買い替えた家を売却する際に課税されます。売却時に資金力が落ちている場合には繰り延べのメリットはあるかもしれません。しかし、将来の売却時に繰り延べ分を清算しなければならないため、それまでに家計を建て直して資金を準備しておく必要があるでしょう。
マンション売却で損失が生じたときの措置
マンションを売却した時の税金は、譲渡益に対して課されます。では譲渡損失が発生した場合はどのような扱いになるのでしょうか。譲渡損失の損益通算と繰越控除の特例についても解説します。
損益通算および繰越控除の特例とは
まず、損益通算と繰越控除について説明します。損益通算とは、譲渡損失をその年の給与所得や事業所得などの所得から控除できる制度です。給与所得から損益通算を行うことで、所得税を減らすことができます。
次に、繰越控除とは損益通算を行っても控除しきれなかった譲渡損失について、譲渡の年の翌年以後3年繰り越して控除することができる制度です。たとえば給与所得1,000万円の会社員がマイホーム売却によって3,000万円の譲渡損失を出した場合、その年の損益通算だけでは控除しきれません。しかし繰越控除を行うことで控除額を使い切れる可能性が高くなります。
損益通算及び繰越控除の特例 2パターン
「譲渡損失」の状態により適用のパターンが異なります。
パターン1:買い替え時
ここでいう損失は、住んでいたマンションの売却益が新たなマイホームの購入費用を下回った場合を指します。売却益は得ていますが、新居の購入金額のほうが大きいので実質的に損失が生じていると考えるのです。新たに購入する家について複数の要件があります。
・譲渡の年の前年1月1日から翌年12月31日までに購入すること
・登記簿面積50㎡以上であること
・購入した年の翌年12月31日まで住み続けること、または住み続ける見込みであること
・返済期間10年以上の住宅ローンを組むこと
パターン2:マンション売却のみ
こちらのパターンは買い替えではないケースで、売却益が住宅ローン残高を下回ったケースです。売却益は得ていますが、住宅ローン残高の方が大きいので実質的に損失が生じていると考えます。ただし、単にローン残高が売却額を上回るだけでは足りず、従前の住宅ローン期間が10年以上残っていなければなりません。この期間は「売買契約日の前日」で判断します。
上記で挙げた以外にも、本特例には次のような共通要件があります。
・住まなくなった日から3年を経過する日の属する年の年末までに売却すること
・売却するマイホームの所有期間が5年超であること
・損益通算および繰越控除の適用を受ける年の所得金額が3,000万円以下であること
マンションの税金は特例によって大きく変わる可能性がある
マンション売却にかかる税金は、所有期間によって税率がかなり変わりますが、「マイホーム」の売却に対しては複数の特例が用意されています。買い替えの有無や住宅ローン残高など、状況に応じて適用可能な特例は異なるため、よく理解することが大切です。
買い替えの場合はさらに注意が必要です。「住宅ローン控除との併用ができない」「住宅ローンを組むことが求められる」などのケースがあるからです。特例は定期的に改正されることが考えられますし、時限的措置が多いことにも注意したいです。よく確認した上で、自身にとってメリットのある特例を選んでいきましょう。
横山晴美
2013年にFPとして独立。お金の不安を抱える人が、自分自身で問題を解決できるよう、お金の基礎知識を底上げするための啓蒙活動を行う。WEBコラム・セミナーなどで家計や住宅ローンなどお金について幅広い情報を発信している。