新築ではなく、中古マンションを購入する人が増えてきたことが大きく報道されています。これまで住まいを購入する際に日本人は新築志向が強く、分譲マンションであっても、戸建て住宅であっても新築を真っ先に検討してきました。
しかし、ここ数年の消費者の住まい探しを見ると、中古住宅に対する嫌悪感が薄れてきたように感じます。また、マイホームを「終(つい)の棲家(すみか)」とはとらえず、住み替えを前提として資産価値に着目する消費者も増えていようです。中古マンションの成約件数は2016年に3万7189件となり、初めて新築マンションの成約件数を上回りました。2017年には3年ぶりに前年比で成約件数が下回ったものの、3万7000戸台の高水準を維持しています(東日本不動産流通機構調べ)。なぜ今、日本人の住まい選びに変化が出てきたのか、考えてみましょう。
(写真はイメージです)
庶民はもう都内で新築マンションを持つのは無理
中古マンションの成約が増えたのは、ここ数年の地価高騰と建築コスト上昇によって新築の販売価格が高くなり過ぎたためであることは言うまでもありません。これまでは少し背伸びして新築を選んでいた層にとって、単純に手が届かなくなったのです。
不動産経済研究所の発表によると、2017年の新築マンション価格は全国平均で1戸当たり4,739万円(前年比3.9%上昇)と、2015年の4,618万円を上回って過去最高を更新しました。首都圏は平均6,620万円(同11.3%上昇)となり、東京23区では平均7,094万円(同7.0%上昇)と7,000万円台の大台に乗ってきたのです。直近で底値だったのは東日本大震災のあった2011年と翌12年あたりでした。そこから毎年、徐々に上昇し続け、ついに庶民にとって「都内の新築マンション」は高根の花となってしまったのです。
それは以下のデータを見てもよく分かります。東京カンテイが独自に新マンションの割安感と割高感を「マンションPER(Price Earning Ratio)」という指標で毎年「駅別」に算出しています。これは、マンション価格を「現在の評価額」、月額賃料を「現在の収益力」と考えて、マンション価格が月額賃料の何年分に相当するか(何年で回収できるか)を算出したものですが、要するに、数値が低いほど価格が割安(買ったらお得)だと判断できるというものです。
今年の発表によると、首都圏で最も割安なのがJR常磐線柏駅。続いて京急川崎駅とJR高崎線上尾駅が上位3位となりましたが、これらはいわゆるベッドタウンです。
一方、こうした割安感のある駅は都内にも存在します。2016年から割安感が高まった駅は、西側のJR・西武国分寺線国分寺駅や京王線府中駅、城東エリアの都営新宿・大江戸線森下駅と都営新宿線船堀駅など。これらのエリアは必ずしも住みたい街として人気があるわけではなかったのですが、最近は徐々に見直されています。そのあたりは後述します。
ちなみに、割高トップ3は、東京メトロ青山一丁目駅と麹町駅、横浜高速鉄道みなとみらい線の元町・中華街駅でした。元町は横浜市ですが、青山も麹町も都内では高級住宅街として知られるエリアです。
また、所得に問題がなくても中古住宅に食指を動かす層も増えています。郊外エリアは所得と価格とのひっ迫感が限界に近くなっているのは都心部に限らず、郊外エリアでも言えることで、売れなさ加減は都心部と差が開くばかりです。供給戸数が総体的に少ないことも原因ですが、それは企画設定した商品に見合う土地が少ないことが挙げられます。つまり、郊外の新築マンションを建てようとしても、立地が悪いので「そんな立地なら、中古でもいいか」となってしまうのです。
東京は城東・城北地区などの都心アクセスの良さが見直される
ここのところの地価の上昇はマンション価格にもはね返っていることは述べてきましたが、都心部のマンション価格は、実需にとどまらず幅広い消費者の思惑が入り混じっていて、この先さらなる上昇余地を残しているようです。企業業績の回復に加え、2020年東京オリンピック・パラリンピックを控えていることから、東京など大都市部を中心に地価がじわじわと上昇を続けているのです。
国土交通省が今年3月に発表した公示地価でも地価上昇は顕著でした。東京の住宅地は、千代田区六番町や港区赤坂といった超都心にとどまらず、周辺にまで本格的に波及しました。たとえば荒川区や北区、足立区などこれまで住宅地としての人気が今ひとつだったエリアで伸び率が高いのですが、それは高くなり過ぎた都心部を避けて投資マネーが移動した結果といえましょう。
また、地ぐらいの低いエリアであっても、最近の若い人はためらわずに購入するようになり、そうした場所での開発・販売を計画する不動産大手も増えていることもあるようです。これまで「あのエリアは治安が悪い」「あのエリアは東京ではない」などと陰口をたたかれ続けてきたエリアであっても駅前再開発により街の顔がガラリと変わり、人を寄せ集めるようになっていることがよく知られてきました。
赤羽や北千住などはイメージがガラッとよくなったエリアの代表例です。赤羽エリアは商業施設の誘致などで不動産大手が新築分譲を供給するようになったし、北千住では大学誘致によって混沌(こんとん)としていた街に学生が増えて活気が増しています。
これまでの不人気エリアに抵抗がなくなってきたのは、街がある程度の発展を見せてきたこともありますが、そもそも都心部までのアクセスには申し分ないことが挙げられます。赤羽も埼京線で池袋や新宿、渋谷にすぐに行けますし、北千住は5路線が乗り入れ、どこに行くにも便利な駅です。「地ぐらい」よりも「実利」を求める人が増えているといえるでしょう。
初めてマンションを買う人も新築より「リフォーム・リノベ物件」に好感
エリアの選定のほか、住宅の一次取得者層(初めて購入する層)である若者にとって新築にこだわりがなくなってきているのは、築年数が経過しているマンションや戸建て住宅を再生する技術が発達してきたことが知られてきたことにもあります。部分的なリフォームに加え、全面的に内装を刷新するリノベーションを施すと、新築住宅と見まちがうくらいに再生されますし、住宅設備も新築と同等クラスを備えることができます。
不動産関連のサイト「スマイスター」を運用するシースタイルが、中古住宅を購入する際にリフォーム前とリフォーム済みのどちらを購入するかをアンケートした結果、「リフォーム済みの住宅」を選ぶ人が約7割に上りました。部屋がキレイになることと、中古住宅を購入した後に自らリフォームやリノベーションを発注するわずらわしさがないことが人気のようです。
特にリフォームしたい箇所は、「キッチン」(48.9%)、「バスルーム」(43.1 %)、「トイレ」(37.9%)と水回りを気にする消費者が多いという結果がでました。裏を返せば、この水回りさえ新品同様にすれば、住むのに問題はないということです。再生住宅は、新築相場に比べて2~3割ほど安いのが一般的なので、新築が高い今、そちらを選ぶ人が増えるのも納得です。
さらに、そもそも立地のいい場所には新築マンションの供給が少ないこともあります。絶好の立地はすでに中古マンションが建っているからです。マンションは立地がすべて。いくら安くて新しいマンションでも、駅から遠くては選ばれないという現実があります。
売れるマンションは駅から「徒歩5分」
東京カンテイによると、2017年に新規供給された首都圏マンションの最寄り駅までの徒歩時間は「5分」が最も多く6261戸でした。次いで「4分」(5228戸)、「3分」(4020戸)、「8分」(3637戸)、7分(3410戸)、6分(2926戸)でした。ここまできてようやく2ケタの「10分」が出てきますが、「10分以上」になると供給戸数はみるみる減っていきます。どうやら、今や売れるマンションの立地は「駅から5分」が目安となっているようです。
一方、戸建て住宅の供給で一番山が高いのが徒歩15分の3619戸でした。マンションと戸建てとの駅までの距離感は大きく違うようです。
立地最優先で買い求めるのであれば、既に場所を押さえている中古が割安な分お得感が強くなります。新築は、土地の仕入れ代や建築コストに不動産会社の利益分が積み上げられているためそもそも割高で、純粋な地価相場以上のモノが加えられているのが新築マンションの実態です。
冒頭で新築マンションの首都圏平均価格は1戸当たり6,620万円だったと伝えましたが、中古マンションはどうでしょうか。東京カンテイによると、2017年の首都圏平均は3,577万円(前年比2.9%上昇)、東京都平均が4,825万円(同1.3%上昇)、東京23区が5,319万円(同1.3%上昇)となっていました。中古マンション価格も新築に引っ張られる格好で高くなってきていることが分かります。
首都圏では中古住宅ですら、買いづらさが強まっていると言わざるをえません。マンション価格が年収の何倍かを示す指標は昔から「5倍が限度」とされてきました。ところが、同社が昨年7月末に発表した年収倍率は築10年の中古マンションであっても「7.13倍」とかつての基準を大幅に上回っています。東京都に至ってはなんと「9.13倍」に達する始末です。
東京は、経営者を除いた平均年収が634万円と、全国の平均に比べて200万円ほど高いのですが、いくら全国平均より収入が高いと言っても、住宅価格の高騰に追いついていないのです。東京で働く一般サラリーマンにとって、新築は言うに及ばず、中古であってもマイホームは高根の花になってしまったといえるでしょう。
(不動産のリアル編集部)