タレントの森泉さんが、自力で空き家を再生する企画で話題の日本テレビ系列のバラエティ番組、「幸せ!ボンビーガール」ですが、ますますヒートアップしてきております。
今回は森さんの自力リフォームの続編と、「東京穴場路線どこが幸せ!」と題打った、首都圏の穴場路線で暮らすボンビーガールを紹介するといった2時間のスペシャル特番でした。
もちろん、首都圏で不動産業に携わる私が見逃せるはずがありません。予定を切り上げて帰宅し、定刻前にはテレビの前に座り、放映開始を待ち構えていたのは言うまでもありません。
(写真はイメージです)
今回のスペシャルは?
番組は今回のスペシャルボンビーゲスト、芸人のバービーさんとテレビリポーターの阿部祐二さんの生い立ちを紹介し、本人たちの登場で始まりました。
バービーさんが北海道の田舎町から上京し下積み時代を過ごしたのも、阿部さんが生まれ育ったのも東武東上線沿線だったとのことで、今回の企画にはもってこいのゲストだったのでしょう。
というのも、続いて始まったメイン企画、「東京穴場路線・どこが幸せ!」で紹介される穴場のひとつに、ゲストのお二人が過ごした東武東上線が登場するからなのです。
「東京穴場路線・どこが幸せ!」では、東京を起点に千葉方面に延びる京成線、神奈川へ南下する京浜急行線、埼玉県からのアクセスとなる東武東上線の3路線が穴場だと詳しく紹介され、続いて恒例の空き家再生企画、「泉ちゃんの空き家再生大臣」が放映されました。
穴場だとの理由は賃貸物件の賃料相場が安い、とのことでしたが、街の人気に比例するのは売買相場も変わりません。紹介された路線は、売買取引の場においても穴場であるといえます。
そうした観点から、まずは3路線それぞれの魅力を探り、賃貸や購入の際の確認ポイントを、細かくみていくこととしましょう。
穴場路線その1・京成線
最初に紹介されたのは、東京23区の中でも最も家賃が安いとされる、足立区と葛飾区、江戸川区を通る京成線でした。
リポーターとなった芸人の平野ノラさんの登場に続き、街の人々への京成線沿線のイメージについてインタビューが紹介されたのですが、それは「治安が悪い」「ちょっと怖い」といった、街としてはマイナスイメージとなるものばかりでした。
実際に犯罪件数統計では沿線の江戸川区と足立区がトップ5に入っており、人気の街とはいえない状況の根拠となっていました。更には大きな川に囲まれ、海抜0エリアであるため、水の被害が想定しやすいことも不人気の理由とされていました。
こうした事情からこの3区は賃料相場が安く、外国人の居住も増えているとのこと。ボンビーガールとして紹介された女性もエチオピア出身の方でしたが、外国人居住者が増えていることが治安面での不安につながり、不動産価格を押し下げる要因となっているのでしょう。
では、売買相場はどうなっているのか、国土交通省が発表するデータを基に相場分析を行っているサイト、『ウチノカチ』にて中古マンションの取引価格を確認してみましょう。取引されるマンションの規模がそれぞれ異なるので、坪単価の平均値を比較してみます。
中古マンション取引坪単価・上位3区
第1位 港区 356 万円/坪
第2位 千代田区 329 万円/坪
第3位 渋谷区 311 万円/坪
中古マンション取引坪単価・下位3区
第1位 足立区 125 万円/坪
第2位 葛飾区 131 万円/坪
第3位 江戸川区 153 万円/坪
※参照サイト:ウチノカチ
サイトでは全ての区の取引坪単価が並んでいますが、価格順に並べ替えてみるとこのようになります。上位3区が坪300万円を超えているのに対し、京成線の3区は100万円台、それも前半に留まり、売買相場においても「穴場」だと確認できます。
23区全体を見ても、他に坪単価が200万円を割っているのは荒川、板橋、練馬区だけでした。その3区も100万円台後半をつけており、100万円台前半が平均相場となるこの京成線3区は、極端なお買い得エリアであるといっても過言ではないでしょう。
賃貸だけでなく購入の際も割安な京成線エリア。その事実を改めて実感させられましたが、不人気の理由となっている街の状況を受け入れられるかどうかが、購入の際には前提となるでしょう。
外国人居住者が増えているということは、これまでの日本人がメインの街の環境や習慣が、外国人にも対応したものへと変化していっていることを意味しています。
番組でもカルチャーセンターや外国人向けのお店が増えている点が紹介されていましたが、そうした環境の変化によって、日本の社会に馴染んだ私たちには、暮らしにくいものとなる可能性があります。
地域として共存はうまくできても、個人の暮らしは合わない、となる人も少なからずいるので、安いという理由だけで住まいを借りたり購入したりを決めてしまうのは、早計だと考え慎重になった方がよいでしょう。
穴場路線その2・京浜急行線
続いて紹介されたのは、京浜急行沿線でした。京急線は、品川を起点に横浜・横須賀方面へと東京湾岸を進む路線です。横浜までは東海道線や京浜東北線と並走した格好となっていますが、私鉄らしく駅の数が多いので、駅間の長いJR線の隙間を埋めるような形で小さな地方駅が点在しており、ターミナルの拠点駅を除くと、割安の不動産相場となっているとのことでした。
こちらも街の人々にインタビューがあり、「空気が悪そう」「匂いや色が洗濯物につきそう」といった、京浜工業地帯の中心地のイメージそのものの回答が多く寄せられていました。
番組では大気汚染や光化学スモッグは大幅に改善したとしていましたが、環境が悪いというイメージが不動産相場を押し下げているのは間違いのないところでしょう。実際に横浜では古くから京急沿線の不動産相場は安めで、東京に至近であるのに、郊外エリアの旭区や戸塚区に近い価格帯の相場形成となっています。
ウチノカチで確認してみると、沿線の中心となる鶴見区の中古マンションの土地引き坪単価は135万円で、JR線や東横線の沿線となる隣接区の神奈川区の170万円に比べるとかなり割安となっています。
品川まで30分も掛からない鶴見区の都内への利便性は抜群ですから、ほぼ同等の交通便となる東横線の武蔵小杉や田園都市線の鷺沼やたまプラーザに比べると、相当な穴場であるといえるでしょう。
京急線エリアを賃貸、購入する際には、環境面での不安を払拭できるかがカギとなります。大気汚染が改善されたのは事実ですが、工場や流通拠点が多く、港湾部へのアクセスルートでもある為に幹線道路が張り巡らされ、タイヤローラーやトラックの交通量が非常に多く、安全面での不安が拭えない土地柄であるのです。
また、番組で紹介されたように公営のギャンブル場も多いうえ、肉体労働者の集まるエリアであることなどから、治安面が不安視されている点も否めません。このほか、企業の社屋や工場建設が優先されて街が形成されてきた経緯を持つので公園や文化施設が乏しく、子育て世代には不向きであるのも事実であるともいえるでしょう。
穴場路線その3・東武東上線
番組のコーナーの最後は副都心線の開通によって東横線・みなとみらい線と相互乗り入れとなり、渋谷や横浜まで直接のアクセスが可能となった埼玉方面の大動脈、東武東上線の紹介でした。
東武東上線エリアの不動産相場が穴場な理由は、沿線別の地価ランキングで首都圏最下位になるほど、土地の価格が安いのが主な要因のようです。マンション価格もウチノカチで確認すると、沿線の川越市で坪74万円と割安、都心に近い朝霞市や志木市でも100万円台前半と、穴場沿線との紹介が頷ける相場となっています。
東武東上線沿線の不動産を借りたり購入したりするにあたっては、都内や神奈川方面に比べ、都市施設や交通網が整っていない点に納得できるかが重要でしょう。
東横線直結でアクセスがよくなったとはいえ、他の沿線との協調性や高速道路の整備は立ち遅れており、渋滞や駅前の混雑が激しいエリアであるのは事実です。
とはいえ、番組で紹介されたように生活の費用面では助かる地域となっているので、賃料相場同様、金銭的には暮らしやすいエリアであるのは間違いないでしょう。治安や環境面での不安も少ない地域なので、子育て世代にも安心な、都心への通勤可能な穴場エリアであるといえます。
「東京穴場路線どこが幸せ」・まとめ
今回紹介された3路線は、確かに周辺の別エリアと比較すると割安で、穴場沿線であるといえるでしょう。
しかし賃料や売買相場が安いのには、当然ですが理由があります。不人気となるわけは一般的には「住みたくない」と思われている街であるのが現実なので、売却するときには購入時同様に安値となることを受け入れないといけません。
そうした現実を直視できるのであれば、穴場路線はコストパフォーマンスに優れた生活を約束してくれることでしょう。
京成線は何といっても都内ですし、京急線は人気の横浜エリア、東横線直結となった東武東上線も都心部へのアクセスは劣りません。しかも、地価や賃料が安いので生活費を抑えることが可能。そんな有難い毎日を提供してくれるのは、首都圏では今回の3路線だけであると、今回のボンビーガールは再認識させてくれました。
伊東博史(宅地建物取引士)
大手不動産仲介会社で売買仲介に約10年間の勤務。のべ30年間以上にわたり、大手と中小、賃貸と売買と、多角的に不動産業務に携わる。現職では売買と賃貸仲介と管理、不動産投資や相続のアドバイスを行う。
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