フジテレビ系列のバラエティ番組「有吉弘行のダレトク!?」で、芸能人の自宅を査定するという企画があるよ、との話を聞きました。現役の不動産業者として、これは見逃せません!テレビで不動産の査定現場が特集されるのも珍しいので、どんな内容となっているのか、私も視聴してみました。
(写真はイメージです。)
芸能人の自宅を価格査定!
10月17日(火)放送の「出張査定!ダレトク不動産」と題されたその企画は、不動産業者の係長に扮した芸人のザキヤマさんが案内役となって、「購入時と比べて現在の価格はどうなっているのか」という観点から、4名の芸能人の自宅を訪問して価格査定をする、といったものでした。
実際の査定を担当するのは不動産鑑定士の方で、私としては「不動産業者の査定とはどう違うのか」といった点でも興味深いところでした。
「鑑定」と「査定」とは別物か──ボクシング・内藤大助さんの自宅査定
1件目はボクシングの元世界チャンピオン・内藤大助さんの自宅。東京都葛飾区の分譲マンションでした。駅から徒歩5分の好立地で築5年、81㎡の4LDKで、5,300万円で購入したとのことでした。
室内に入った鑑定士は、早々にリビングに併設された和室を見て「残念だ」と言い、査定額ダウンの根拠とします。そして「取り壊してリビングを広くした方が良い」と続けながら、それによって査定がアップするという、いかにも鑑定士的な意見を述べます。
実際にマンションを売却するとなると、和室を取り壊して広いリビングを実現したところで、成約価格が上がるなどということはありません。一般的に好まれる間取りとなるので「売りやすく」はなりますが、だからといって購入者が高い値で買ってくれるかというと、話は別です。
「不動産鑑定はあくまでも『鑑定』であって、売る場合の査定とはやはり違うのだな」
冒頭からそんな感想を抱かせた番組は、続いて、査定アップの裏技紹介へと進みます。いずれも「鑑定評価が上がる」ポイントとのことです。
・ガスコンロキッチンをIHキッチンに……工事費70万円で、評価額100万円アップ
・古い型のトイレをシャワートイレに……工事費10万円で、評価額30万円アップ
いやいやいや、シャワートイレやIHキッチンが付いているからといって、130万円も高く買う人なんていませんよ。購入者からすれば、古いまま購入して自分でリフォームした方が安いし、それに自分好みの設備を入れられるんですから。ここは売主の戦略とすれば、80万円もかけてリフォームするのではなく、80万円値引きしてあげる方がずっと現実的です。
やはり不動産鑑定というのは、売買の現場では実践的ではなく、基本的に資産評価や相続の際に利用されるサービスなんだなと、改めて実感させられました。
とはいえ、不動産会社が行う売買時の査定が、不動産鑑定の方法を基にしているのも事実です。実際の売却の際に参考となるポイントも多く紹介されていました。
例えば、マンションの階数、角部屋か否かによる評価額の違いなどは、購入の際の物件選びにも役立つ情報といえます。実際の売却でも、「上階ほど売れ行きが良くなる」「角部屋の方が高額になりやすい」という傾向はありますので。
こうしたチェックを経て提示された、内藤さん宅の鑑定額は5,100万円。5年前と比較すると都内のマンション価格は上昇傾向にあるのですが、内藤さんにとっては少し残念な結果に終わりました。
一戸建ての評価は、立地が一番のポイント──ザブングル・加藤さんの自宅査定
続いてはお笑い芸人、ザブングル・加藤歩さんの一戸建の査定です。6,800万円で購入した加藤さんの自宅は世田谷区三軒茶屋。渋谷から2駅と好立地ながらも、土地面積52㎡に88㎡の3階建が乗る狭小住宅、隣地との距離といったマイナスポイントが指摘されていました。
それでも鑑定額は7,600万円。渋谷の再開発に伴う地価上昇が三軒茶屋にも及び、土地価格が建物のマイナス面を凌駕したとのことでした。一戸建の場合は土地の値段が第一ポイントとなる良い例で、場所選びの重要性を再認識させる結果となっていましたね。
参考となった情報はこれだけではありません。「通り抜けられない道路はマイナス評価」「角地はプラス評価」など土地形状や周辺環境が価格に及ぼす影響、「バリアフリーの観点から見た室内の段差」などについても紹介されていました。
家を購入する際には、利便性や建物の新しさばかりに目が行きがちですが、こうした見落としやすいチェックポイントを教えてくれたのは視聴者にとって喜ばしいことだと思います。
バブル崩壊のせい、だけじゃない──ファッションデザイナー・ドン小西さんの自宅査定
ファッションデザイナー・ドン小西さんの自宅は、港区白金台の高級マンション。バブル期に購入したという築29年、158㎡の分譲価格は5億4,000万円でした。しかしバブル期らしく、分譲時にはほとんどの部屋を不動産会社が押さえてしまい、ドン小西さんが購入したのは転売物件。購入価格は6億4,000万円と、1億円も高値での取引だったようです。
その鑑定額は、なんと半値以下の2億300万円。マイナス評価となった一番の理由は、バブル期からの大幅な相場下落でしたが、元は3LDKであった間取りを1LDKに変更したのも評価ダウンの理由とされていました。1LDKは一般的な間取りではなく、どうしても需要が薄くなってしまうのだとか。
また、隣地にビルが建設されたことによって、高級マンションなのに眺望が良くないという点も悪材料にされていました。隣に将来ビルが建ちそうな空き地があるかどうか、購入の際のチェックポイントとしてぜひ知っておきたいですね。
間取りの一般性や隣地の問題など、普通ならなかなか気付かないポイントに踏み込んでくれたことで、視聴者も役立つ情報を得られたのではないかと思います。
建物構造や部材の質も評価対象ではあるが…──漫画家・江川達也さんの自宅査定
4人目の漫画家・江川達也さんの自宅は、都内でも有数の高級住宅街である渋谷区松濤でした。「漫画家というのはそんなに儲かるのか~」とまず驚かされましたが、松濤に立つ邸宅は、さらに驚愕の豪邸でした。
仕事場も兼ねた築17年、総面積587㎡の7LDKは総額6億2,000万円での購入だったとのこと。趣味性の高い内装や高級素材の多用など「一般的」な建物ではないため、鑑定では苦戦が予想されましたが、提示された鑑定額は6億6,000万円。購入時を上回る金額に、江川さんも思わずニンマリといった様相でした。
高い鑑定額の理由は建物の構造でした。木造と鉄骨鉄筋コンクリートで出来ているために評価が高く、設備や部材に高級素材を使用している点も、査定アップのポイントとなったようです。
しかし実際のところは、土地値の上昇が一番の理由でしょう。構造や部材の質によって建物の耐用年数が変化するのは事実ですが、趣味性の高い高価格帯物件を購入するような層の需要は独特で、いくら高級かつ質の高い住宅であっても、額面通りの値で売れることは稀だといえます。
また、建物価格が下がらなかった理由に関して、鑑定士の方は「建物は年数が経つと価値が低下する」という定説を否定し、「都市伝説だ」と言い切っていましたが、これはどうでしょうか。
骨とう品や美術品を鑑定するのと同じ目線で不動産を評価する鑑定士の世界では、それが常識なのでしょうが、実際の売買では、建物は築15年を目途にほとんど評価されなくなるのが常識です。
内藤さんの章でも触れましたが、資産評価(鑑定)と取引価格(価格査定)は全くの別物。評価の目的が異なるのでそれも当然ですが、その事実を改めて実感させられる江川さんの自宅査定でした。
※ちなみに、放送中のテロップに「松濤の土地は200㎡以下だと売買禁止」とありましたが、正しくは、200㎡以下となる土地への分割が禁じられているだけで、元から200㎡以下の土地であれば問題なく売買は可能である、と訂正しておきます。
「格差付け」のポイントを知って、間違いのない物件購入を
今回の企画「出張査定!ダレトク不動産」を総じて見ると、鑑定・査定という評価の目的は異なれど、不動産査定にあたってのチェックポイントが、番組を通して多数紹介されたのはとても有意義であったと思います。
しかし、査定評価の基となる「近隣の取引事例」に全く触れられていなかった点は少し残念でしたね。
番組では、角地やマンション角部屋の優位性、また「マンションの所在階が上になると1階につき2%の評価アップになる」など紹介されましたが、これらは「格差付け」と言われるチェック項目で、標準的な価格と比較した場合の評価の上下に利用されます。
では、その標準的な価格は何を根拠に提示されるのでしょうか。それが近隣の取引事例なのです。つまり、ある査定物件の近隣の取引事例が平均2,500万円だったとすると、この2,500万円という相場に対して「査定物件は最上階の角部屋だから〇〇%アップ」と格差付けが行われるわけです。
格差付けのポイントを知って購入すれば、損をしない売却も可能となるということになります。しかし実際は、物件選びの際に見落としてしまいがちな項目も多々あります。不動産会社の担当者の説明をよく聞いて、間違いのない物件購入の1つの指針としたいところですね。
伊東博史(宅地建物取引士)
大手不動産仲介会社で売買仲介に約10年間の勤務。のべ30年間以上にわたり、大手と中小、賃貸と売買と、多角的に不動産業務に携わる。現職では売買と賃貸仲介と管理、不動産投資や相続のアドバイスを行う。