個人間売買とは、「売主・買主の双方が一般消費者の個人で、かつ宅地建物取引業者(不動産会社)が媒介または代理人等として関与せず、売主と買主のみによってなされる売買取引」をいいます。中古マンションの売買においては、この個人間売買の件数はまだ少数ですが、今回は、個人間売買を行う場合の手続きや注意点について解説します。
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個人間売買のメリット・デメリット
まず個人間売買を行うことのメリットですが、これは「不動産会社に支払う報酬を節約できる」のが一番です。現在、不動産売買の媒介手数料の上限は、物件価格が400万円を超える場合は「物件価格×3%+6万円」(消費税別)となり、この上限額が請求されるのが一般的です。物件価格が3,000万円の場合、96万円+消費税となります。
一方、個人間売買のデメリットとしては以下の点が挙げられます。
•重要事項説明がないため、物件の状態、設備、権利関係などを買主が自ら調査・確認する必要がある。
•売買契約書などの書類を自分たちで作成・準備しなければならない。
•所有権移転登記も、司法書士を自分たちで探すか、本人申請で行う必要がある。
•銀行からの住宅ローンによる借入が困難な場合がある。
•万一、後日、瑕疵が発見された場合には、自分たちで交渉・解決しなければならない。
ここからは、実際の個人間売買の流れに沿って、売主・買主が注意すべき点をより詳しく掘り下げていきたいと思います。
物件の確認
不動産会社が物件を仲介する場合には、物件の状態、権利関係を不動産会社が調査し、重要事項説明をしてくれます。しかし、個人間売買では、買主が自らこれらを確認する必要があります。
(1)登記簿謄本の確認
物件の権利関係を確認するには、登記簿謄本(登記事項証明書)を法務局で取得します(窓口申請の手数料は600円)。登記簿謄本では以下の点を確認します。
•「甲区」に表示されている現在の所有者が、売主と一致していることを確認します。万一、所有者が売主と異なる場合には、事前に現在所有者となっている人から売主に名義を変更してもらう必要があります。
•「甲区」の所有者の登記の後ろに「差押え」の登記がついていないことを確認します。あった場合、誰かがその物件を差押えているため、その物件の購入は諦めるべきでしょう。
•「乙区」に抵当権などの担保権の登記がないかを確認します。売主が購入時にローンを組んでいた場合は、そのローン会社の抵当権が付いている可能性があります。その場合には、所有権移転までに抵当権を抹消することを売主に確認する必要があります。そして、これは売買契約書にも明記します。
•最後に、登記簿謄本の表題部に記載されている「敷地権の種類」を確認します。これが「所有権」であれば問題ありませんが、「賃借権」や「地上権」の場合には、地主に土地の賃料などを支払わなければならない可能性があり、注意が必要です。この場合は、売主に土地賃貸借契約書の写しをもらって、内容を確認する必要があります。
(2)物件の現場調査
現地確認は、不動産会社が仲介する場合でも行いますが、個人間売買の場合には、その設備の使用感や損傷具合などもしっかり自身でチェックする必要があります。必要な設備があるか、故障箇所はないか、故障はしていなくても交換が必要な状況になっていないかなど、入念に確認します。
一方で、売主も故障や不具合を隠すのではなく、積極的に伝えるべきです。それによって、後で設備などの瑕疵担保責任の発生を防止できます。
※瑕疵担保責任:物件の瑕疵(欠陥・不具合)によって売主が買主に対して負うべき責任
(3)管理組合等についての確認
マンションは、定期的に大規模修繕を行います。その際に修繕積立金が十分でないと、所有者は追加の費用負担を求められることがあります。従って、買おうとしているマンションは十分な修繕積立金が積み立てられているか、直近の大規模修繕がいつ行われたか、次回の予定はいつかなどを確認しておきます。
また、管理規約なども事前に確認しましょう。ペットの飼育の制限その他、共同生活上のルールを事前に確認しておかないと、後で「そんなはずではなかった」ということになりかねません。
(4)その他の確認事項
不動産会社が仲介に入る場合に行う「重要事項説明」で説明される事項についても確認しておくべきです。売主はその物件を購入した時に「重要事項説明書」を交付されているので、その写しをもらいましょう。これにより、物件の基本的な情報は確認できます。
売買条件の検討
個人間売買では、売買価格は当事者間で協議して決定します。その際は、近隣の類似物件の価格などを住宅情報誌やインターネットで調べてみると参考になるでしょう。
価格以外に決めるべき売買条件としては、以下のものが挙げられます。
•実際に譲渡する日
•譲渡代金の支払日、支払い方法など
•所有権移転登記の手続き(司法書士に依頼するのか、本人申請で登記するのか、登記申請書類の作成、必要書類の手配などは誰が行うのか)
•瑕疵担保責任の範囲(瑕疵担保責任を負う期間、売主の責任の範囲)
特に瑕疵担保責任については、十分に話し合っておきましょう。現在どのような不具合などがあるかを双方で確認することによって、ここで指摘された事項は、売却後に買主からクレームをつけられることはありません。また一方で、それ以外の瑕疵が発見された場合、売主はどこまで責任を負うか、また、その期間責任の内容を明確にしておく必要があります。
不動産会社が仲介する場合は、重要事項説明で説明されなかった瑕疵による損害があった場合、買主は不動産会社に対して重要事項説明義務違反による責任を追及できます。さらに不動産会社に資力がない場合には、不動産会社が法務局に供託している営業保証金や保証協会からの弁済を受けることも可能です。
しかし、個人間売買では、もし買主に損害が発生し責任を追及しようとしても、売主の資力にはそれほど期待できず、また、売主と連絡がとれなくなってしまう可能性もないとは言い切れません。こうした点も考慮して、しっかり契約書で瑕疵担保責任について定めておく必要があるのです。
また、「既存住宅売買瑕疵保険」を利用するという方法も考えられます。この保険は、それなりの費用がかかりますが、既存建物の調査も行ってもらえるため、第三者に物件を適正に検査してもらうという意味でも、利用を検討する価値はあると思われます。
資金の調達・手当
買主は、売買条件の交渉と並行して、購入資金の調達を考えねばなりません。現金での一括払いが可能ならば問題ありませんが、住宅ローンの利用を考えている場合は注意が必要です。不動産会社が関与しない個人間売買には、銀行が住宅ローンに難色を示すことが多いためです。
その理由として、以下の点が挙げられます。
•物件に関する情報が正確であると客観的に保証されないため、物件の担保価値を確認できない。
•第三者が客観的に契約に関与していないため、売買契約が真実に締結されたか確認できない。
従って買主は、事前に金融機関と十分に相談しておく必要があります。どのような資料を提出すれば良いか、売買契約締結に弁護士や司法書士の立ち会いをもって対応できないか、上述の既存住宅売買瑕疵保険に伴う検査で物件価値の保証とならないか、不動産鑑定評価を取得すればどうか、など具体的な方法を検討してみましょう。
売買契約書の作成・締結
売買に関する基本的条件が合意できたら、「売買契約書」を作成します。売買契約書には合意した内容を正確に記載します。物件の瑕疵についての責任範囲も明確に定めます。さらに、買主が住宅ローンを利用する場合は、ローンがおりなかった場合の取り扱い(買主が解除権を有する、当然に売買契約は解除されるなど)についても明記する必要があります。
相手が身内や友人など知っている者同士でも、必ず契約書は作成してください。予期しない事態が発生した場合に、解決の基準となるのは契約書です。また、万一、相手方が約束を守らないということがあっても、契約書があるのとないのとでは、相手方に請求できる内容や、かかる手間には雲泥の差が生じます。
(1)売買契約書の雛形について
売買契約書は、不動産会社や業界団体などがウェブで雛形を公表していることがあります。これらを参考にするのは問題ありませんが、それをそのまま使うのには注意が必要です。雛形は一般的なケースしか想定していませんので、実際の取引に際しては、具体的な内容に応じた修正が必ず発生すると考えるべきです。
特に、個人間売買で瑕疵担保責任の範囲などを詳細に合意した場合には、それを契約書に明記しておく必要があります。契約書の作成については、できれば弁護士、司法書士、行政書士などの法律の専門家に相談すると良いでしょう。
(2)売買代金の保全についての規定
売買代金が一括で支払われる場合や、銀行の住宅ローンがおりる場合には、代金回収についての心配はありません。
ただ、代金が分割払いであれば、残金の支払いについて保全手段を契約書に定めておく必要があります。具体的には、連帯保証人を付けてもらい契約書に署名・押印してもらったり、不動産に抵当権を設定することを契約書で定めたりします。
(3)売買契約書の締結
売買契約書の内容・条項に双方が合意できたら、売買契約書を締結します。契約書への署名は自筆、押印は実印で行い、印鑑証明書を添付します。
また、売買代金に応じた収入印紙を契約書に貼り付けます。印紙を貼っていないと、後日、高額な過怠税を課される危険がありますのでご注意ください。印紙代は、売買価格が1,000万円を超えて5,000万円以下の場合で1万円です。なお平成30年4月1日以降は、印紙代が高くなる予定です。
代金の決済
売買契約の締結後、売買契約書で定めた期日に代金の支払いと、所有権移転登記に必要な書類の授受を行います。銀行ローンや現金振込で代金を支払う場合は、その銀行を決済場所とし、そこで支払い手続きを行った上で、所有権移転登記の書類を交付するのが最も間違いでしょう。また、弁護士や司法書士に立ち会ってもらうという方法も考えられます。
所有権移転登記
代金決済、登記に必要な書類の授受がなされたら、所有権移転登記を申請します。移転登記は司法書士に依頼するのが一般的ですが、売主と買主が連名で直接申請もできます(これを「本人申請」といいます)。
司法書士に依頼する場合は、事前に必要書類などを確認しておきます。本人申請ならば、登記申請書や必要な書類の一覧などを法務局のサイトからダウンロードできます。
また所有権移転登記には、不動産の評価額の1,000分の20に相当する額の登録免許税を納める必要があります。
(ここでいう「不動産の評価額」とは、固定資産課税台帳に記載された、固定資産評価額です。市区町村役場で取得できる固定資産評価証明書で確認できます)
ただし平成31年3月31日までは、以下の要件を満たす場合には、登録免許税は不動産の評価額の1,000分の15に軽減されます。
・自己の居住用の物件であること
•取得後1年以内に登記されること
•マンションにおいては25年以内に建築されたものであるか、または、既存住宅売買瑕疵保険に加入しているものであること
•床面積が50㎡以上であること
最後に
個人間売買の手続きおよび注意事項についてご説明してきました。
不動産売買は、登記が完了して終わりではありません。特に個人間売買では、実際に住み始めてからの不具合などへの対応が難しいため、今回ご説明したような、事前の条件交渉、売買契約書の作成、瑕疵についての対応の手当を入念に考えておく必要があるでしょう。不安がありましたら、ご自分だけで判断されず専門家に相談されることをお勧めします。
石賀 美涼(行政書士)
不動産取引をはじめとする契約書等の作成、相続関係、ペット問題などの民事関係の業務を中心に行う。現在は上場企業の法務責任者を兼務。