住宅ローンの支払いを滞納すると、最終的には競売にかけられて立ち退きを求められてしまいます。これを回避するための救済策として「任意売却」という手段があります。任意売却とはいったいどのようなものなのか、プロが解説します。
坂爪 潤(宅建士・リフォームスタイリスト)
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家族構成の変化や転勤、経済的な事情など、思いもよらない状況で家を手放したくなったとき、ローンが残っている物件でも売ることはできるのでしょうか?ローン残高がある家を売却する際の注意点や手続きの流れ、成功のためのポイントを詳しく解説します。
(写真はイメージです)
目次
住宅ローンは原則としてローンを組む本人またはその親族が居住する目的で不動産を購入する際に利用されます。
時代により融資の条件は変わりますが、現在の不動産仲介の現場の感覚としては95%以上の方が居住用不動産の購入に際して住宅ローンを利用している印象です。
借り入れをする年齢にもよりますが、一般的な住宅ローンは返済期間が最長35年で、月々の返済額を抑えるため多くの方が最長の期間で借り入れをされます。
しかし、長い返済期間の中で購入当初とは事情が変わってくることは往々にして予想されます。
例えば家族構成が変わる、経済状況が変わる、勤務先が変わる等、様々な理由があることと思います。
結果として住宅ローンが残っている状態で家を売却する必要が発生するわけですが、次項では注意点や具体的な手続きについて説明していきます。
現在、各金融機関が貸付けている住宅ローンの、ほぼ100%が融資に際して家を担保にとります。簡単に言うと「貸したお金を返さなかったら、この家を売って返してもらいます」ということで、購入する家に抵当権を設定するわけです。
この抵当権がついている状態で家を買い受ける人はいませんので、売却に際しては「抵当権を消せる」=「借りたお金を完済する」ことが第一のポイントとなります。
まずは返済しなければいけない住宅ローンの残高を正確に調べる必要があります。ネットバンキング全盛の昨今はパソコンやスマートフォンで簡単にローン残高を確認できる場合もありますので、どの時点でいくらのローン残高があるのかを正確に確認することが重要です。さらに細かな点ですが、家が売れた結果、住宅ローンを約束した期限よりも早く一括返済する場合、金融機関によっては手数料がかかるケースもありますので合わせて確認しておきましょう。
ローン残高と返済に係る手数料の確認が終わったら、次は大まかに不動産の価格を調べてみます。正確な価格は不動産会社に価格査定の依頼をすることとなりますが、まずはその前に自宅の価格の相場を調べてみてください。
マンションであれば、現在同じマンション内で売りに出ている物件がないか、一戸建てであれば近隣で販売している物件がないかを調べてみます。各種ポータルサイトで調べてみたり、自分が購入した際の金額などを参考にしたりして大まかな現在の価格を想定してみます。
この時に注意していただきたいのは自宅を客観的に評価する視点を意識することです。気に入って購入した自宅ですので思い入れもあるでしょうし、競合物件よりも高く売れる(売りたい)と思われる気持ちは理解できますが、大切なのは実際いくらぐらいなのかという観点です。
下調べ1と2が終わったところで最終段階、この家を売ったお金で住宅ローンの残高完済ができるのかを確認します。
この段階で注意すべき点は、売却には各種手数料や費用が掛かるという点です。下調べ1でお伝えした金融機関への返済手数料もそうですが、不動産会社に支払う仲介手数料や抵当権抹消登記を司法書士にお願いする際の費用、戸建ての場合には測量費用、更には引っ越し費用も見ておく必要があります。
ちなみに仲介手数料は成約価格が400万円以上の場合には成約価格の3%+6万円と消費税が法定上限の手数料、司法書士の抵当権抹消登記費用は一般的には2~3万円程度、測量費用は地域や広さによって変わりますが30万円~100万円程度かかります。
前項のローン中の家売却に関する基本知識でローン残高と売却想定価格、売却時の諸費用を比較した結果として以下の3つのパターンが想定されます。
A:売却想定価格>ローン残高+諸費用
B:売却想定価格≒ローン残高+諸費用
C:売却想定価格<ローン残高+諸費用
それぞれのパターンによって売却の流れや依頼する業者も変わってきます。
売却想定価格がローン残高を上回る状態を、アンダーローンといいます。この場合にはある意味自由に売却が可能です。依頼する先はいわゆる不動産仲介会社となります。
この場合、まずは一般的な不動産仲介の会社に相談して、正確な売却想定価格とその際の諸費用を算出してもらいましょう。
その結果売却想定代金>ローン残高+諸費用であればAですし、売却想定代金<ローン残高+諸費用となればCとなっていきます。
売却想定価格がローン残高を下回る状態を、オーバーローンといいます。売却の想定価格が明らかにローン残高と諸費用の合計よりも安くなってしまう場合には、いくつかの選択肢の中からご自身の状況と希望に合わせて売却方法を選択していくこととなります。
返済額の不足分を自己資金で補填して売却をする方法です。この場合にはAのパターンと近い流れとなりますので一般的な不動産仲介会社に相談することがお勧めです。
借り入れ先の金融機関の同意を得て不動産を売却し、とりあえず売れた金額を金融機関に返済することで物件に設定された抵当権を抹消してもらう方法があります。
注意が必要なのは抵当権を消してもらえても、借りたローンが完済された訳ではない点です、残りの借り入れを再度分割で返済する約束(債務承認)が抵当権抹消の条件となる場合もありますし、所謂個人信用情報に影響が出ることもあります。
このような売却方法を一般的に「任意売却」と言いますが、任意売却を利用する多くの場合にはすでにローンの返済が滞って金融機関から返済の催促が来ているケースとなります。売却活動には債権者とのやりとり等も含まれるため、任意売却を専門に取り扱っている会社がお勧めです。
●ローン中の家売却に関する特殊な手法
前項では売却という点のみにフォーカスして説明を進めましたが、ここでは特殊な売却手法を2つご紹介します。
これはCのパターン(売却想定価格<ローン残高+諸費用)で、マイホーム売却の理由が住み替えの場合に利用できる方法です。
例えば、現在の自宅マンションのローン残高が3300万円、一般的な市場価格としては3000万円程度ですと売却をしても300万円+諸費用100万円で合計400万円の赤字が出てしまいます。
そこで住替え先の新居4000万円を購入するにあたって銀行から4400万円を借り入れて、売却のマイナス分400万円を埋め合わせする方法です。
この場合には売却・購入の2つの売買契約について資金計画や引き渡しのタイミングを合わせる必要がありますので仲介会社は売り買い同じ会社に依頼した方がスムーズに手続きが進みます。
ただし、売却の赤字分を補填できる額を必ず金融機関が貸してくれる訳ではありませんので、依頼した仲介会社に相談しながら慎重に資金計画を進めることが重要です。
これは売却ではあるものの、売却したあとに賃料を払ってその家に住み続けるという方法です。住宅ローンの返済が月々の家賃へと切り替わるかたちになります。
ローンの返済が厳しくなった場合や老後資金・事業資金等まとまったお金が必要になった場合などに利用されますが、一般的に買取価格は市価よりも低額となる、賃料は相場よりも高くなる、賃貸借契約が定期賃貸借で更新ができない場合がある等の問題も指摘されているため業者選びは慎重に進める必要があります。
ここでは先述のC-1の売却時に自己資金を充当するパターンでの売却について、具体的な流れを見ながら注意点を確認していきます。
できればプリントアウトして依頼する不動産会社に提出しましょう。
ポータルサイトに掲載されているのは売り出し価格であって成約価格ではないので、実際の成約価格は多少割り引いて計算してください。
会社の規模等ではなく信頼できる不動産会社(担当者)を見つけることが最も重要です。売却予定の不動産について査定を依頼して自分の感覚と近い金額を出してくる会社を選ぶのも一つの方法です。根拠もなく高い査定額を出してくる業者は要注意です。
きわめて重要な作業です。とくに売却予想価格がローン残高に届かない場合には最悪のケースを見越して予算を建てる必要があります。境界が不明確で測量が必要になる場合などは測量費用も発生するので、しっかりとした見積もりを取りましょう。
物件が売れた場合に完済する手続きにどの程度の日程が必要かを確認しておきます。
早ければ販売を開始して1週間で売買契約、更に1か月後には引き渡しというケースもあります。引き渡しの時期についてご希望がある場合には依頼する不動産会社と打合せをし、賃貸に引っ越すのであれば物件探しや引っ越し見積もりも取っておきましょう。
今回の事例のように売却で自己資金充当が必要になるようなケースは、信頼できる1社に専任媒介で任せるのがお勧めです。
不動産会社は受任した物件情報をREINSという不動産会社間の物件情報サイトに掲載する義務があります(専任媒介の場合)。REINS登録証明書には二次元コードやURLが記載されていて、売主は自分の依頼した物件の登録内容が確認できます。
物件購入に興味を持ってくれた方の見学に備えて、可能な限り物件を整理整頓しましょう。また不具合のある個所はメモを取るなどして不動産会社の担当者に事前に伝えておいてください。
購入希望者が見つかったら、不動産取引の慣例で購入の申し込みは書面で行います。この書面には購入希望者側の金額などの希望条件が記載されています。
購入申込書をベースに購入希望者側と仲介会社を通じて価格や引き渡しの条件などのすり合わせを行い、合意ができれば契約へと向かいます。
契約書の中に、物件の引き渡し日などの各期日・金額が記載されていますので⑤の金融機関の期日を逆算して物件引き渡しまでのタスク管理をしていきます。
不動産会社によってはこのタイミングで仲介手数料の一部の支払いが必要になります。
売買価格が住宅ローン残高を下回っている場合(オーバーローンの場合)、手付解除時のリスクなどをふまえて契約時の手付金を決済日まで仲介会社が預かる取り扱いも行われます。
買主側のローンの承認が出たタイミングで決済日(代金支払いと物件引き渡しの日)を決定、その決済日に住宅ローンを完済して、金融機関から抵当権抹消に必要な書類を受領します。
抵当権抹消の書類は事前に手続きすることで司法書士が代理で受領する事も可能です。
原則として決済日には完全に物件の明け渡しをしますので、計画的に引っ越しをすることと、電気・ガス・水道などのライフラインの切り替えについても依頼した不動産会社に相談のうえ、必要に応じて手続きを取っておきましょう。
不動産の売却に際して売主は登記識別情報通知(権利証)・実印・印鑑証明書(取得後3か月以内)ご本人確認の免許証等、が必要となります。
引っ越しの荷物に紛れてしまったり、大切にしすぎてどこかにしまい忘れてしまったりしないように注意が必要です。
住宅ローンの完済に自己資金の充当が必要な場合には、事前に金融機関に確認の上、必要な金額を指定の口座に入金しておきます、一般的には住宅ローンの返済用の口座に自己資金を準備しておきます。
売主、買主、司法書士、仲介会社が集まって売買代金や各種費用の精算を行い物件のカギを買主に引き渡します。買主から支払われた売買代金は、売主の指定の口座に入金し売主のローン返済資金に充当されます。
同日付で売主の借り入れにかかる抵当権は抹消登記がされ、物件の名義が売主から買主に移転します。このタイミングで司法書士に登記費用・不動産会社に仲介手数料を支払い手続きがすべて完了します。
ローン中の家売却に際して必ず発生する費用は以下の3つです。
この中で注意が必要なのが仲介手数料です。先ほども成約価格が400万円以上の場合には成約価格の3%+6万円と消費税が法定「上限」の手数料とご案内しましたが、3%+6万円と消費税は法定の上限金額ですので、これよりも安い金額で仲介してもよいわけです。
不動産会社の中には3%+6万円と消費税が「法定の手数料」と言っている会社もあるので要注意です。
さらにローンの借入先や販売方法、購入希望者との交渉の結果発生する可能性がある費用が以下の4つです。
この中で注意が必要なのが、測量・解体費用です。しっかりと見積もりを取らないと思ったよりも高額になるケースがあります。
ここまでローン中の家売却についてご案内をしてきましたが、失敗しないためのポイントを再度確認しておきましょう。
不動産会社は売却の依頼を受けたいが為に、売り主に対して査定価格を高め高めに伝える傾向があります。
不動産会社の査定価格を鵜呑みにして資金計画をたてた結果、当初予定していなかった自己資金の充当が必要となることや売却自体を断念する結果になることもあります。
少しでも早く・高く売りたいというのが不動産を売却される方の一番の希望ではありますが、そのために物件の問題点を隠したり、不実の告知(事実と異なる説明をすること)をしたりしてはいけません。
2020年に民法も改正になり、売主側の契約不適合責任についても規定が変更となっています。本当はご近所の方とのトラブルが原因で売却するのに、その事実を隠して売却してしまったような場合には、売買契約を解除される可能性もあります。
売却成功のためのポイントは、しっかりと信頼できる正直な不動産会社(担当者)を選ぶこと、時には売主にとって喜ばしくない情報もきちんと伝えてくれるような担当者をえらぶことが売却成功への第一歩です。
住宅ローン返済中に自宅を売却することは、珍しいことではありません。まずは、ローンの残高や手数料、そして自宅の現在の相場を把握することが大切です。売却予定価格がローン残高と諸費用を上回るかどうかによって、手続きや選べる選択肢が変わってくるので、自分の状況に合った最適な方法をしっかり検討しましょう。
また、信頼できる不動産会社や担当者を見つけることも、売却を成功させるための重要なポイントです。複数の不動産会社に相談し、話を聞くことで、自分に合った相談相手を見つけることが、売却成功への近道です。
嬉しい口コミも
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