(※2017年2月8日に公開した「階層で変わるタワーマンションの固定資産税を不動産鑑定士が解説一公平性には疑間も」で一部の記事の内容に誤りがありましたので、以下に訂正いたします)
平成30年度からタワーマンションの課税方法が変わります。
総務省から提出されていた、いわゆるタワーマンションについての固定資産税と都市計画税、不動産取得税に関する法律の改正案が国会を通り、平成29年4月1より施行されました。条文では「タワーマンション」という表現はなく、「居住用超高層建築物」となっています。(以下では、 固定資産税と都市計画税を合わせて「固定資産税等」と表現します)

(写真はイメージです)
今回の法改正のポイントは2つです。一つは、税額を算出する時に使われる専有床面積を「階層別専有床面積補正率」によって上階ほど広くなるよう補正すること。二つめは、その課税の適用が平成30年度からになるということです。訂正は一つめの補正率についてです。
税制改正によるタワーマンションの固定資産税等は具体的にどうなるのか
1.60mを超える建物が該当
これまでは「タワーマンション」の定義があいまいでしたが、今回の改正でその定義が「高さ60m超」と明確になりました。
2016年の12月の政府「平成29年度税制改正大綱」では、「超高層建築物とは高さが60mを超える建物」と定義されるだけでしたが、改正の法律では、その根拠が建築基準法第20条第1項にあると明記しています。そこには、「高さ60メートルを超える建築物」かどうかという基準があり、これが「60m超」の元となります。
2.専有面積の考え方が変わる
マンションの相続税評価額は、土地と建物それぞれの評価額の合計です。(詳しくは、拙稿「港区のタワーマンションで二次相続がどうなるかを検証する」をご参照ください)
土地の評価額は、 マンション敷地全体の価格に敷地権割合を乗じて算出します。 通常、敷地権割合は、各部屋の専有床面積(壁心)の割合によって決められます。ここでは階数の区別は考慮されず、同じ専有床面積であれば、2階も最上階も同じ敷地権割合としています。
一方、 建物の評価額は、東京都(23区内)や各市町村が課税する固定資産税での評価額が使われます。
課税される床面積は、専有面積 (内壁・登記上の床面積) のほかに、エントランスや廊下、 エレベーターなどの共有部分の按分面積 (全体共有床面積を専有面積の割合で按分)を加算した「現況床面積」が使われます。
では、 タワーマンションが新しい課税方法になると、固定資産税等はどう変わるのでしょうか?
税制大綱では、専有部分の床面積を 「階層別専有床面積補正率」によって補正した「みなし床面積」を使い、その率は、 「1階を100とし、1階増すごとに39分の10を加算する」でした。この補正率は、改正の法律(地方税法)にはなく、総務省令(第26号)で、次のように定められ、居住用部分に適用されるため、以下の表現となっています。
人の居住の用に供する専有部分の床面積×{100+(10/39)×(人の居住の用に供する専有面積の所在階-1)}
(※訂正は、税制大綱と総務省の留意事項には「100+」の文字がなかったため、40階では床面積が10倍になると誤って説明した点にあります。なお、法律や総務省令には、税制大綱にある「階層別専有床面積補正率」の文言はありません)
正しくは、40階の専有面積は10%増えることになります。例えば、 40階の100㎡の住戸は、100㎡x {100+(10/39)×(40-1)}÷100 =110㎡に、21階なら5.1%増の105.12㎡に補正されます。
前回(訂正前の本稿で)、「この補正率の 「10/39=0.2564」 という数値のインパクトは大きく、 論議を呼びそうです。」と書きましたが、正しくは「0.002564」ですので、ワンフロアーの違いが0.25%、4フロアーの違いで約1%の差になります。
また、上記補正率は、①専有部分の天井の高さ、附帯設備や仕上げ部分の程度の差異に応じた補正率や②各階ごとの取引価格を勘案した補正率も決めることができます。ただし、いずれも区分所有者全員が市町村長に申し出て、それが認められることを条件としています。(省令第15条3の2、4項及び5項)
改正趣旨は、建物全体の税額は今までの算出方法を変えずに、各住戸の税額負担を今までの同一税額から、 床面積を補正することで、 上層階をより多く、 下層階をより少なくしようとするものです。改めて試算してみましょう。
ここでは、専有部分の床面積=課税上の現況床面積と仮定します。課税上は、共用部分を専有面積で按分した面積がさらに専有部分の床面積に加算されます。
40階建てと20階建てのタワーマンションで試算してみると、真ん中の階(21階と11階)は今までと同じ税額です。40階建て見ると、40 階は今までの1.046倍(4.6%増)、2階は0.954(4.6%減)。 20階建てでは、最上階の20階は今までの1.035(3.5%増)、2階は0.965(3.5%減)になります。
この差をどう考えるかですが、「分譲価格の差よりは、小さい」あるいは「固定資産税等は毎年支払う税金だから、この差は大きい」と思うか、受け止め方はそれぞれでしょう。
3.すでに建っている建物は影響を受けない
今回の改正は、平成30年度から新たに課税される建物について適用されます。平成29年4月1日前に売買契約が締結された住戸を含むものは除かれますので、それまでにすでに建っているタワーマンションに住んでいる方は対象外となります。
固定資産税等が課税される基準日 (賦課基準日) は、 毎年1月1日です。 したがって、平成30年1月1日時点での登記簿の所有者または家屋補充課税台帳に登録されている方が納税義務者となります。
また、「平成29年4月1日前に売買契約が締結された住戸を含むものは除く」とは、平成29年4月1日以降に、青田売り (未完成マンションの販売) で売買契約した方は、 今回の改正を適用するという意味です。
ただし、固定資産税等はマンションが現実に建っていなければ課税されませんので、青田売りで購入したマンションが、平成30年1月1日に建っていれば平成30年度から課税されますし、建物が平成31年1月1日に建っていれば、平成31年度からになります。
結局、税制改正による影響の大きさは?
前回(訂正前の本稿で)、改正点で問題だと指摘した点は、租税の基本原則の一つ 「公平の原則」 に反するのではないかということでした。しかし、上記のとおり、40階建てのタワーマンションでは±約5%、20階建てでは±3.5%の格差となっています。
筆者の個人的意見としては、固定資産税等での影響は少ないのではないかと思われます。
いずれにしても、今回明確になったのは、従来の階層にとらわれない専有床面積という一律の考え方でなく、程度の差はあっても、税制上、タワーマンションの階層には格差があるとしたことです。さらに、上記補正率のほかにも、一定の手続は必要ですが、それぞれのタワーマンションの天井の高さなどの違いや取引価格の違いによる独自の補正率も認めるとしました。
今回の改正によって、固定資産税等の税制上の問題にとどまらず、従来の管理費や修繕積立金についての考え方に影響を及ぼす可能性が出てきました。今までも、管理組合の運営において、高層階と低層階の住民同士の意見の相違がありましたが、今回の改正により、それが表面化するかもしれません。管理組合の運営が問われることになりそうです。
三浦雅文(みうら まさふみ)米国国際資産評価士・不動産鑑定士
土地家屋調査士・行政書士・宅地建物取引主任士の資格も保有。1954年北海道生まれ。大学卒業後、測量、登記、鑑定、総合不動産会社を経て独立。多分野での経験を活かした不動産のアドバイスとオールラウンドの鑑定評価の業務を中心に活動中。
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