長期ローンでの自宅購入をリスクと捉え、賃貸住宅に住みながらいくつもの不動産を所有する「賃貸に住む不動産投資家」がいます。一方、ローンを組んで自宅を買い、税の控除を受けながら余裕資金で不動産投資を拡大する「自宅に住む不動産投資家」もいます。
長所は短所、メリットとデメリットは背中合わせですが、不動産投資にも様々な投資スタイルが存在します。
その中で最近注目されているのは、税制の恩恵を受けながらリスクを抑えた住み替えによる自宅への「不動産投資」です。カッコ付きなのは、純粋な不動産「投資」ではなく、資産性の高い不動産を取得して、自宅として利用し、税制のメリット最大限に受けるという考え方からです。
(写真はイメージです)
自宅の不動産に投資をするという考え方
自宅投資は、全ての方にできる方法ではありません。「住宅ローンが組めて、戦略的な物件を購入できる」方、すなわち、
1)マイホームをお持ちで、住宅ローン残債が少ないまたはゼロの方
2)マイホームをお持ちでない方
に限定されます。
特に、1)住宅ローンの終わりが見えた方で、かつ都内にマイホームをお持ちの方は、自宅投資を始めるのに有利な時期かもしれません。
今回は、都内の資産性のある不動産を売却し、次の物件を戦略的に購入して住み替えることで、将来的にも余裕を持つ生活ができるかもしれない、というシナリオを検証します。
住宅ローン終了から考える資産形成方法
住宅ローンがある間は、住宅ローン控除の恩恵があり、団体信用生命保険で生命保険の減額も可能でした。また「繰上返済で支払う金利を少なくするのが何よりの投資」という考え方に沿えば、着実に繰上返済するのみという、シンプルな資産形成も可能でした。
やがて住宅ローンの終わりが見えると、毎月のローン返済額と繰上返済の準備金を合わせた、まとまった金額の運用を考える必要が出てきます。ここで株やFX、不動産投資などを始める方がいるかもしれません。
株やFXは一瞬で大きな収益も生みますが、バブル崩壊や為替相場の乱高下など不可避の要因で大きな損失を被ることもあり、ハイリスク・ハイリターンと言われます。
一方、不動産投資は短期間で大きな収益をあげるのは難しいですが、家賃や不動産価値が一気に半分になるような事態は考えにくく、長期的・安定的な投資だと言われます。
不動産投資のリスクヘッジ
不動産投資のリスクには、家賃の滞納、家賃の下落、天災などもありますが、最大のものは、空室と不動産価値の下落です。これらに備えるには、簡単に言えば「良い物件を安く買い、収益と節税に配慮しながら良い状態で管理すること」になります。
まずは賃貸需要の安定している地域で、建物残存価値と家賃に見合う物件を探して交渉し、不動産投資ローンをできるだけ安い金利で取り付けて購入します。誰が見ても良い物件は競争相手も多く、なかなか安くは購入できませんから、秀でた情報源や、一癖ある物件を良物件に変える力量などが求められます。
管理においては、センスの良いリフォーム会社や対応の良い管理会社を見つけ、DIYリフォームや客付不動産への営業など自らの努力で利益率を上げるだけでなく、それを税金でもっていかれないための節税も考慮します。
このように不動産投資のリスクは、株やFXとは異なり、ある程度は自らが備えることが可能です。しかしながら、借金を伴う事業ですからノウハウは欠かせず、投資を始めてしばらくは力と時間を割く覚悟が必要です。
成功しているサラリーマン大家さんには、「趣味は物件探しとDIY」という方も少なくありません。私も兼業大家の一人ですが、夫がDIYリフォーム、私は営業と経理に週末も忙しい日々です。「投資は最低限の労力で行い、週末は家族とゆったり過ごしたい」という方もあるでしょう。
自分がどんな投資を望んでいるのか、投資のためにどれだけの労力を割けるのかを、まずはじっくりと考えてみると良いかもしれません。
不動産投資よりも低リスクな自宅への投資
さて、注目されている「自宅投資」とは、ライフステージの変わる10年を一つの目安として自宅を住み替え、マイホームを単なる住宅としてだけではなく、税制の恩恵を受けながら資産形成に利用する方法です。
日本では「新築マンションも入居後に2割価値が下がる」とも言われていますが、築10年でも新築時と同額以上で売れる物件はあります。仮に同額であれば、10年間でまとまった収益を無税で獲得することが可能です。
また不動産投資の最大リスクの一つは「空室」ですが、自宅に空室はありえません。しかも、ご家族が満足できる住居を選びやすく、大切に使えば不動産としての価値は維持されます。
さらに不動産投資ローンの金利は一般的に2~4%が中心ですが、住宅ローンは0.5%~と非常に低金利。10年間に及ぶ住宅ローン控除も大きいです。
自宅投資のシミュレーション
住宅ローンの終わりが見えている方が、家賃16万円以上で楽に貸せる都心・新築分譲マンションへ、家賃16万円を支払うつもりでローンを組んだ住み替えを試算してみます。
「長者」となるには、購入時より高く売れなければなりませんが、仮に同額でも、以下の通り10年間で約1,470万円の収益となり、今の自宅売却による買替一時金と合わせると、まとまった金額となります。
自宅売却一時金 |
売却金額-売却諸費用-ローン残高 |
X円 |
買替物件 |
優良住宅マンション |
4,850万円 |
返済期間(ボーナス返済なし、変動金利1%) |
35年 |
買替初期費用 |
頭金 |
0円 |
修繕積立金 |
450,000 |
他の初期費用(物件5%) |
2,425,000 |
計 |
2,875,000 |
買替一時金 |
自宅売却一時金-買替初期費用 |
X-287.5万円 |
年間費用 |
返済額(毎月) |
136,900 |
管理費/修繕積立金(毎月) |
20,000 |
固定資産税(年1回) |
180,000 |
計 |
2,062,800 |
家賃換算(÷12.75月*) |
161,788 |
10年後の収支 |
売却金額 |
48,500,000 |
売却諸費用** |
-1,696,200 |
ローン残高 |
-36,327,700 |
計 |
10,476,100 |
住宅ローン控除額 |
4,190,600 |
計 |
14,666,700 |
*12月+(更新料1月+保証料0.5月)÷2年
**仲介手数料、抵当権抹消登記費用、印紙税
自宅投資の注意点
自宅が購入金額よりも高く売れた場合、長期譲渡所得の課税の特例などの適用を受けられますが、住宅ローン控除は適用されなくなります。
住宅ローン控除の恩恵を最大限に受けるために、資産では頭金を0円としました。また、変動金利1%の設定ですが、金利が上昇した際には10年を待たずに繰上返済をした方が有利な場合があります。金利には注意が必要です。
そして住み替え物件選びに重要なのは、資産価値の安定性。暮らしやすさはもちろん、エリア・立地・建物仕様などの諸条件が売却しやすさを備えているかどうか、投資対象としての目も併せ持つことが資産形成には大切です。
暮らしの選択肢を広げる、資産価値が下がらない住まい
資産価値が下がらない住宅の条件とは何でしょうか。一般的に、アクセスと買い物などの利便性と静かで安全な住環境をあわせもつ住宅街は需要が減る可能性が低く、さらにその最寄駅から徒歩10分以内なら資産価値は下がりにくいと言われています。マンションは管理の良さと分譲会社ブランドも影響が大きく、戸建は土地の道路付や日当たりも重要です。
また、客観的な不動産価値と、販売価格の差に注目すべきでしょう。どんなに優れた物件でも価値よりも大幅に高く買ってしまえば、最初から資産価値は下がっていることになります。
不動産価値は積算価格(路線価による土地値+再調達価格から割り出す建物価格)と、収益価格((年間の家賃収入-諸経費)÷還元利回り5%など)の二つがあります。
特に、購入物件周辺での類似物件の賃料は、住宅価値の簡単な指標となり、賃料の高さは人気の現れです。
10年後に更地売却か建替の選択肢を持つ、古い中古戸建を最初に購入したことが、私の資産形成の土台になりました。10年の間には、子供の進学のように予定できるイベントばかりではなく、転職、介護など様々な変化が起こる可能性があります。
10年ごとに住み替えをするかしないかはさておき、資産価値が下がらない住宅は、何かあれば「売る」ことができます。固定資産たる不動産でありながら流動性を併せ持つ住宅を選ぶことが、家族の生活の変化に対応できる自由を生み出すのではないでしょうか。
吉久 凛(よしひさ・りん)
ライター 兼 大家。IT関連会社でワーキングマザーのかたわら夫を巻き込み不動産投資歴10年。現在RCマンション2棟24部屋と貸家4軒所有。宅地建物取引士。上智大学卒。
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