東京都によると、都内に分譲マンションが約5.3万棟(約184万戸)。その内、23区には約9割の4.6万棟(約160万戸)あります(平成25年8月調査)。世田谷区が一番多く、上位10区で半数を占めています。

1位 |
世田谷区 |
4,384棟 |
2位 |
大田区 |
3,522棟 |
3位 |
新宿区 |
2,825棟 |
4位 |
杉並区 |
2,539棟 |
5位 |
板橋区 |
2,537棟 |
6位 |
渋谷区 |
2,506棟 |
7位 |
品川区 |
2,356棟 |
8位 |
港区 |
2,245棟 |
9位 |
練馬区 |
2,148棟 |
10位 |
豊島区 |
2,102棟 |
合計 |
|
27,164棟 |
東京都「都内区市町村マップ」より抜粋
前回の不動産のリアル「23区で2次相続が生じやすいエリアとはー都内に親の持ち家がある方は必見!」で、親の持ち家が戸建てだった場合の2次相続を説明しました。
今回は、マンションの場合はどうなるかを考えてみます。ある港区のタワーマンションの例をもとに説明します。タワーマンションといえば、最近、国税庁による相続税の課税強化の方針が打ち出されたことで注目度が高まっていますので、評価方法がこれからどうなるか気になるテーマですが、それは次回にします。
マンションは相続税でどう評価される?
今回の例で、相続する財産は、港区内にあるタワーマンション1戸で、広さは70㎡程度。山手線の最寄り駅から徒歩圏内、上層階(22階)、専有面積67㎡、土地持分0.13%、築10年です。
また、相続人は子供2人(税金のかからない基礎控除額は4,200万円)という前回と同じ条件とします。
マンションの財産としての評価は、土地の評価額+建物の評価額で、持ち家と同じ評価方法です。
今回の例では、相続税路線価での敷地全体の土地評価額は約46億円、持分(敷地権の割合)が0.13%です。そうなると、土地の評価額は約611万円。固定資産税の建物評価額は1,041万円。このため、相続税でのマンションの評価額は、611万円+1,041万円=1,652万円となります。基礎控除額が4,200万円となりますので、だいぶ余裕があります。
相続対象の財産がマンションの場合に、どのように評価額を算出するのか、もう少し詳しく見ていきましょう。
手元に「平成○年度固定資産税・都市計画税課税明細書」(以下、課税明細書と表現します)がある場合とない場合に分けて説明します。
課税明細書がある場合
土地の「価格」欄がマンション敷地全体の評価額です。ただし、この評価額は固定資産税上の評価額ですので、相続税の場合は1.14倍する必要があります。1.14倍する理由は、固定資産税評価額は公示価格ベース×約0.7、相続税路線価は公示価格ベース×約0.8ですので、価格を0.7で割り戻し0.8を乗じる(0.8÷0.7)からです。ただし、23区内では、明細書に持分の表示がありませんので、戸数で割ってみるか、登記簿で持分を確認するしかありません。
建物については、家屋欄の「価格」がマンション全体価格です。所有部分の評価額は「固資税課税標準額」に記載されています。
課税明細書には「登記床面積」と「現況床面積」の2つの床面積が表示されています。登記床面積は専有部分の床面積を表すのに対し、現況床面積は専有部分の面積に共用部分を含んだ床面積、すなわち共用部分の総床面積を個々の持分によって按分された数字を加えたもので表しています。マンションの価値には、専有部分の価値のほかにエントランスや廊下、エレベーター、駐輪場などの共用部分の価値が含まれます。そのため、マンションの価値評価には、現況床面積が重視されます。
課税明細書がない場合
土地については先述したようには、持分所有が一般的なので、マンションの敷地全体の評価額×持分です。持分は、登記簿で「敷地権の割合」を確認して、おおよその評価額を算出します。
土地価格は、国税庁のホームページにある路線価図(http://www.rosenka.nta.go.jp/)か、全国地価マップ(http://www.chikamap.jp/)で調べることができます。全国地価マップの地図の右下には縮尺(スケール)表示がありますので、定規でマンションの敷地らしい場所の縦と横を測って敷地面積を出します。敷地面積に路線価を掛けてマンションの戸数で割ると、おおよその土地評価額になります。
次に、建物の固定資産税評価額を推測します。東京都(平成26年度)の調査によると、鉄筋コンクリートや鉄骨造など木造以外の住宅やアパートの評価額は、23区平均で6.1万円/㎡。都心5区(千代田・中央・港・渋谷・新宿)では当然これよりも高くなり、6.3万円/㎡(新宿)~8.0万円/㎡(港)です。
この場合で使う床面積は、登記床面積ではなく、現況床面積です。共用部分の面積が分からないと現況床面積は正確には分からないのですが、ざっくり算出するには、登記床面積を2~3割ほど増やせば目安になります。最初に例として挙げた専有床面積70㎡のマンションでは、6.1万円/㎡(23区平均)×70㎡×1.2~1.3=512万円~555万円程度が、相続税での建物評価額になります。
今回の港区のタワーマンションの例から見ると、2次相続でのマンション評価額を気にする必要はなさそうです。しかし、全く気にしなくてもよいとは言い切れません。特に、土地評価額は路線価の価格や敷地面積の広さ、戸数によって変わるからです。相続財産を知っておくために、身近にある課税明細書を一度チェックされることをお勧めします。
マンションの問題点はどこにある?
以上、見てきたように今回の例の場合、2次相続での相続税の課税対象としてマンションの評価額をあまり気にする必要はないとは言えるかもしれません。しかしながら、2次相続後のマンション所有を考えた場合、課税対象とはならなくとも、注意すべき点があります。
今、多くのマンションは、大きく3つの問題点を抱えています。
それは、①建物の老朽化と建て替えの問題、②居住者の高齢化の問題、③管理組合の問題です。
①建物の老朽化と建て替えの問題は、避けられない問題です。区分所有法によると、建て替え決議は区分所有者及びその議決権の各5分の4以上の多数の賛成により成立します。所有者一人一人にはそれぞれ事情がありますので、5分の4以上の賛成を得ること自体が大変なことです。次に、建て替え反対者に対する時価での買取がいつ終わるのか、全員の引っ越しはいつ完了するのかなど、スケジュールが見えにくいことがあります。さらに、建築資金をどう負担するのか。これまでに建て替えが実現できた例は、震災時の例を除くと、土地の容積率に余剰があり、現在の戸数よりはるかに多く建築できて、それを売却した資金で建築費がまかなえたというケース、つまり住民の自己負担がなかったがほとんどです。建築費が住民の一部負担となると、さらに難しくなります。
②居住者の高齢化の問題は深刻です。高齢になればなるほど、今の住まいを変えたくないもの。建替えるために時価で買い取るとしても、半ば強制的に引っ越しさせることは難しいことです。また、年金暮らしの高齢者は、できればおカネをかけたくないので、建替え資金の負担の問題もあります。
③管理組合はマンション管理の主体です。マンションはいわば大家族が住む一軒家のようなもの。ただ、家族以上にいろいろな考えを持っている人が集まっています。管理組合の運営がうまくいっているかどうかで、居住性や資産価値が大きく変わります。例えば、共用部分を修繕するには修繕積立金を使います。修繕積立金が不足しているマンションでは、積立金とは別に一時金の徴収が必要になります。デフレ経済で所得が伸び悩む現在では、管理組合の総会で積立金の値上げや一時金の徴収を決議するのも難しい状況です。しかし、適切な修繕が行われなければ、建物の劣化が進んで資産価値に大きな影響を及ぼすことになります。
マンションの2次相続では、戸建ての場合と異なり、相続人の考えだけでなく、共用部分を維持管理している管理組合の運営状況も考えなければなりません。
これまでは市場価値がある時に売却を想定した資産価値で考えるという面が強かったマンション所有ですが、これからは修繕におカネをかけながら自己使用や賃貸を想定した使用価値で考えるという考えも大事だという識者もおり、マンションに対する考え方が分かれる時代に入りました。どちらの考えを取るか、相続人の間で話し合うことをお勧めします。
三浦雅文(みうら まさふみ)米国国際資産評価士・不動産鑑定士
土地家屋調査士・行政書士・宅地建物取引主任士の資格も保有。1954年北海道生まれ。大学卒業後、測量、登記、鑑定、総合不動産会社を経て独立。多分野での経験を活かした不動産のアドバイスとオールラウンドの鑑定評価の業務を中心に活動中。