2022年3月14日、NHK『逆転人生』が「巨額の投資詐欺事件 銀行の不正を暴け」というタイトルで、大手地方銀行と不動産会社が起こした、巨額の投資詐欺事件について取り上げました。

 

同事件の被害者は、ごく普通のサラリーマンや主婦。彼らは購入価格の半分の価値しかない不動産を多額の融資を組み買わされました。番組では、そんな被害者たちが大手地方銀行と不動産会社の不正に敢然と立ち向かう姿に迫りました。

 

詐欺

(写真はイメージです)

 

「家族のためにお金を残したい」という想い

 

不動産投資に興味のあるお客様の大半は「将来のために資産形成したい」という理由を持っています。不動産投資は株や金とは違い、収入が固定化されやすいというメリットがあるため、一時は人気を博しました。番組に登場する不動産会社のスマートデイズも、そんな時代に活動していた会社の一つです。

 

取材によると、ある被害者の場合、スマートデイズが提案した価格は1億8700万円だったそうです。男性サラリーマンの平均年収が約600万円前後だとすると、この物件購入のためにスルガ銀行は年収の30倍以上の融資をしたことになります。通常、不動産投資をする上で借入額の最大額は収入の約8~10倍だと言われています。収入以外にも通勤先や通勤年数、保有資産、実家の場所や資産を総合的に考慮し判断をすることがありますが、30倍は異常です。

 

番組内でも、返済プランが月80万円になることが示されていましたが、収入を考えれば当然成り立つはずのない資金計画です。しかし、スマートデイズの社長は「ローンは大丈夫」と言い切っていました。

 

プロの不動産エージェントであればこの異常な提案に気づきますが、不動産の知識のない人はプロから「融資は心配ない」「ローンを差し引いても月20万はプラスになる」「30年間の家賃保証」という甘い言葉を並べられ、次第に融資について検討するようになってしまったようです。

 

スルガ銀行で行われた契約

 

次に、スルガ銀行と契約をするシーンが紹介されましたが、ここでは銀行担当者が矢継ぎ早にさまざまな書類を提出し、被害者たちにサインを求めていました。その中に「自己資本確認書」という書類があったのですが、これは預金通帳や資産に関する書類が原本と内容が間違いないことを確認したことを示す書類でした。番組では、この書類へのサインが被害者を巨額の詐欺へ巻き込むことになったと伝えています。

 

通常の融資ローン時でも、一文字書き間違えただけでその書類はすべて書き直しになります。そのため、非常に神経質な場になってしまうのが、銀行との契約締結です。そのような書き間違えのできない書類が何枚も出てくると「書く」ことに集中してしまい、書類の内容をしっかりとチェックできないことが多いものです。

 

取材では、スルガ銀行は契約時の独特な空気を巧みに使うことで、自己資本確認書にサインをさせていたと説明。そしてこの書類が、スルガ銀行が自己保身するために必要な書類となってしまったと伝えていました。

 

団結する被害者たち

 

オーナー宛てに賃料の支払いができない旨の手紙が届き、オーナー向けにスマートデイズが説明会を開催。そこで被害者たちが団結し、情報交換することで詐欺の全体像がわかるシーンがありました。

 

ここで、もしスマートデイズとスルガ銀行がつながっており、この詐欺事件に関与していたのであれば借金をなくすことができるのではないか。被害者たちはそう思い、河合弁護士とともに代物弁済の交渉をスルガ銀行と始めます。

 

スルガ銀行のワナ

 

番組内で映し出された銀行から取り戻した預金通帳のコピーは、なんと預金額が改ざんされていました。「資産を多く見せかけて巨額の融資を行ったのではないか」、被害者たちはこの証拠をもとに弁護団交渉に挑みます。

 

そこでスルガ銀行の弁護団が提示してきたのが、あの「自己資金確認書」の書類でした。「提出された自己資金に関する書類はすべて、原本と内容に間違いない」この書類にサインした以上、お客様が自己資金を偽り、不正に融資を受けたとし、むしろ銀行側が被害者だと、弁護団は言い放っていました。

 

番組内でも詳細な説明がありましたが、スルガ銀行はこの方法をテンプレートとして使用し業績を伸ばしていたようです。訴えられた際の逃げ道を作ってまでの手口には、「地域貢献」という本来、地方銀行が持つべき存在意義はカケラも残されていないようでした。

 

また、担当者個人へのキャッシュバックも100~200万円近くあったと伝えられていましたので、自分の年収をはるかに超える「謝礼」を受け続け罪悪感がなくなってしまったんだと思います。

 

さらにスルガ銀行内では業績を伸ばせない銀行員に対し、「死ね」などのパワハラ行為が日常化していたと番組で言及されていました。このことからも、「アメ」と「ムチ」が自然と混在してしまう企業文化が形成されてしまっていたのでしょう。

 

被害者たちは、スルガ銀行に打ち勝つには決定的な証拠が必要と考え、苦渋の決断を下すことにしました。
それは、スマートデイズの罪を問わないという決断でした。

 

不正を認めたスルガ銀行

 

再度開かれたスマートデイズのオーナー説明会。そこで被害者たちは経営者に一つの提案をしました。それはまさに苦渋の決断と呼べるものでした。

 

「スマートデイズの罪は問わない。その代わり、この詐欺に関する証拠を提出してほしい」

 

この交渉が成功し、スマートデイズは証拠の提出を約束。すると、その下につながる販売会社や建築会社からも続々と証言を得ることができました。

 

そして2018年5月31日。スルガ銀行は不正を認め、謝罪しました。金融庁からは重い処分が下され経営陣は一新することになり、すべてが解決した。かのように被害者たちは思っていました。

 

しかし、肝心の借金が帳消しにはならなかったのです。

 

変われない体質

 

番組では、罪を認めたものの、融資に関しては個別相談で対応するというスルガ銀行の姿勢を伝えていました。代物弁済による借金帳消しは認めない。被害者たちの声はまったく届いていなかったのです。

 

実はこれまで銀行が不正をした場合、その後の対処に関する法律がなく、銀行側に一任されているのが現状でした。

 

交渉に勝っても泣き寝入りするしかない状況に、被害者たちはチラシを配り、デモ活動や株主総会での抗議をするなど、世間を巻き込んだ戦いを続けました。次第にメディアも取り上げるようになり、世間の注目は大きくなっていったのです。

 

そして2020年3月26日。スルガ銀行は代物弁済を認め、物件を手放せば借金が帳消しになることを決定。ついに被害者の交渉が実った瞬間でした。

 

スルガ銀行については現在も問題が多く、まったく変わっていない社内体制のことがさまざまな面で浮き彫りになっています。

 

大きな組織になればなるほど変革は難しく、できあがった流れで生まれる「アメ」はとても甘いものです。一度手にしてしまったその「アメ」を手に入れ続けるためには何度でも人を騙す行為をする。スルガ銀行の組織内にはそういった雰囲気が未だにあるのではと思います。

 

銀行法は成立して約40年、大きな改正はなく昔のルールを保ったままきています。スルガ銀行が本当の意味で再生するには、企業風土の改革がもっとも必要なのではないでしょうか。そのためには、やはり人の入れ替えと、業務内容を見える化する法整備が早急に求められると考えます。

 

 

向井翔二(宅地建物取引士、相続診断士)
2013年より、不動産仲介業に従事。不動産の売却と購入の両側面を担当し、複数店舗の店長として店舗運営を実施。2020年12月からは社内のDX導入と人材開発を担当。最新の法律情報と売主様/買主様の動向分析にもとづいた提案ができる不動産のプロを育成している。