2020年4月の改正民法施行により、不動産売買のルールも大きく変更されるものがあります。どのように変わるのか、説明します。

 

契約書・女性

(写真はイメージです)

 

民法と民法改正の全体を俯瞰しよう

 

民法とは、私的な法人を含む人と人との関係(私人間)の基本的な規定を定めた法律で、総則・物件・債権・親族・相続に関する事項を律します。総則・物件・債権の部分を財産法、親族・相続の部分を家族法と呼びます。

 

改正民法は2020年4月1日から施行されました。法案自体は2017年5月26日に成立し、同年6月2日公布されました。
※参照:法務省ホームページ

 

通常公布後20日で施行されるのですが、改正民法の施行は、公布後約2年10カ月の期間を要しています。このことからも、その影響の大きさを読み取れるでしょう。今回の民法改正は、財産法の中の「債権法」を改正するので、一部改正と呼んでいます。この債権法の中で契約に関するルールが規定されており、不動産売買に関する契約も関係しています。

 

この債権法は、1896年に制定されて以降、実質的な見直しがされないまま120年以上が経過しました。現在は制定当時と比べて経済・社会の状況は大きく変化し、複雑化・高度化しています。また、法律の改正がない中で多くの判例や解釈が積み重なり、取引の実務として定着したルールもある状況で法律自体が漠然としていました。

 

そこで、以下の事項を目的に改正が行われました。

 

① 社会経済の変化への対応
② 判例や実務で通用しているルールを条文化して明確化かつ容易化

 

債権に関わる約200項目程度の改正をしています。なお売買以外の不動産に関わる部分では、賃貸借に関する見直しも行われています。原状回復に関するルールが明確化されましたので賃貸物件を所有する方はご注意ください。

 

「瑕疵」という言葉が使われなくなる

 

民法第570条に、売主の瑕疵(かし)担保責任が規定されており、この条文の中に「隠れた瑕疵」という、日常では使用しないような用語があります。以下が条文です。

 

(売主の瑕疵担保責任)
第五百七十条 売買の目的物に隠れた瑕疵があったときは、第五百六十六条の規定を準用する。ただし、強制競売の場合は、この限りでない。

 

改正民法では、「瑕疵」という文言は、目的物の種類、品質等に関して「契約の内容に適合しない=契約不適合のもの」に改められ、瑕疵担保責任は、「契約不適合責任」という、債務不履行における責任という位置付けになりました。

 

また「隠れた」とは、「契約時における瑕疵について通常の注意力をもってしても見つけられない」という意味合いですが、本質的に当事者の合意した契約の内容に適合しているか否かが問題であるため、「隠れた」という条件は不必要となりました。

 

不動産売買契約に影響を及ぼす改正内容とは?

 

今回の改正は、用語の変更だけではありません。改正点の1つである「売主の瑕疵担保責任に関する見直し」において、条文の背後にある考え方が変更されています。

 

この瑕疵担保責任について、改正以前は「法定責任」であって、買主側の対抗手段としては、「(瑕疵によって目的を達成できない場合の)契約解除」と「損害賠償」でした。
改正民法では、瑕疵担保責任は「契約不適合責任」という位置付けになり、従来の「契約解除」「損害賠償」に加えて「履行の追完請求(目的物の補修や代替物の引渡しまたは不足分の引渡しを請求すること)」と、履行の追完がない場合の「代金減額請求」が可能となります。

 

さらに、損害賠償の範囲は「信頼利益」に限定されず、要件を満たせば「履行利益」まで可能となりました。
信頼利益とは、その契約が有効であると信じたために発生した損害のことをいいます。また履行利益とは、その契約が履行されていれば、その利用や転売などにより発生したであろう利益を指します。

 

加えて、現行民法下では、瑕疵担保責任の追及は買主が瑕疵を知ってから1年以内の権利行使が必要ですが、改正民法では、買主が契約に適合しないことを知ってから1年以内にその旨の通知が必要(不適合の種類やおおよその範囲を通知することを想定)とされました。

 

改正民法に対して売主はどう備える?

 

このように今回の民法改正は、買主優位に傾いたといえます。「契約内容と異なることがあればペナルティが発生しますよ」という仕組みに変更されました。

 

売主としては、物件の状況と売買契約の中身とを一致させることが必要です。つまり契約書の中身である記載事項、告知書、付帯設備表を、物件の実態に沿った内容とすることです。言い換えれば、契約書の内容に従った欠陥が生じても契約不適合には相当しなくなります。

 

ただ実際のところ、売主が物件の状態を正しく把握しているとは言い難いのが現状です。現状の正確な把握なくしては、物件の状態を知らせる告知書や付帯設備表の記載が不正確になり、契約不適合発生の可能性が高くなります。

 

“彼を知り己を知れば百戦殆(あや)うからず”で、対象物件の姿を正確に把握しなければなりませんが、これは多くの売主にとってハードルの高い難問です。

 

物件の状態を診断する、建物状況調査(インスペクション)という制度があります。これは、建物の基礎や外壁に生じているひび割れ、雨漏りといった劣化事象・不具合事象の状況を目視、計測等により調査するもので、これにより物件の状態が判明します。

 

なお宅建業法の一部改正(2016年)で、不動産仲介会社には、インスペクションと専門業者の紹介・斡旋が可能である旨の説明が義務化されています。

 

また同時に、国交大臣が指定する住宅瑕疵担保責任保険法人が「既存住宅売買瑕疵保険」を運営していますので、売却時にインスペクションを実施し、上記の保険に加入すれば、万が一契約内容に適合しない事態が生じても保険でカバー可能です。

 

上述のとおり、民法改正に伴い不動産売買に関する契約に適用されるルールが大きく変わります。実態として売主側の責任範囲が広くなり、買主の権利が強化されるので、マンション等の売却をお考えの方は、改正内容を踏まえて不動産仲介会社の説明をチェックしてください。

 

 

八木 裕(Life Assets Design 代表)
兼業サラリーマン大家として賃貸物件を経営している。優良経営を実践するために宅建士試験合格後、賃貸不動産経営管理士試験、土地活用プランナー試験に合格し、個人資産のコンサルティングを行っている。(2級FP技能士)