今住んでいるマンションの売却や住み替えを考える時、最も重要なのは、マンションがどの程度の価格で売れるかを正しく知ることです。そこで、ほとんどの人は不動産仲介会社に売却価格の査定を依頼するわけですが、そもそも、このマンション売却の査定価格とは、どのように決められるのでしょうか?

 

不動産価格は、一般の人たちにとってはとても分かりにくい、いわばブラックボックスです。不動産会社にいいように丸め込まれないために知識を持っておきましょう。今回は不動産会社のマンション査定価格について解説します。

 

ビジネスマン・女性

(写真はイメージです)

 

マンション売却の基本的な流れ

 

マンションの価格には、どのような種類・意味合いがあるのでしょうか?それをひも解くカギは、マンションの売却プロセスにあります。マンションは、各プロセスの段階において価格が変化するのです。

 

【一般的なマンション売却の流れ】
① マンションの売却を企図
② 会社に価格査定を依頼
③ 査定価格入手
④ 会社と媒介契約を締結
⑤ 会社が売却活動を開始
⑥ 会社が買主を見つけて売買契約を締結
⑦ 代金の受取とマンションの引渡し

 

上記の売却フローの中で登場するマンションの価格には
② 査定依頼を受けた会社が提示する「査定価格」
⑤ 媒介契約締結後に売主との協議を経て決まる「売出し価格」
⑥ 買主との交渉で決定する「成約価格」
の3種類があります。

 

3種類の価額それぞれの意味合い

 

1つめの査定価格は、不動産会社が「この程度で売ることが可能です」という意味合いを持たせた価格です。よって、会社サイドとして、仕入れのための「まき餌」的な要素が含まれていることもありますので、高値だからといってぬか喜びは禁物です。

 

次の売出し価格は、不動産会社と売主の協議を経て決められる、広告などに掲載される価格です。例えば査定価格に対して売主が「もう少し高値で売れる」と思い高値をつけることもあります。また、早期の売却を狙って多少ディスカウントする場合もあります。

 

最後の成約価格は、買主との交渉で決定した最終的な売却価格です。公的不動産情報提供サイトである「土地総合情報システム」や「レインズ」に掲載されている実際の取引価格になります。

 

査定価格の算出法とは?

 

不動産会社が依頼を受けて提示する、マンション売却の査定価格ですが、その意味するところは何でしょうか?

 

査定とは、物事を調べてその等級・金額・合否などを決めることです。従って不動産会社は、何らかの方法で物件を見極めます。
不動産は、それぞれ独自の特徴を有し同じものは2つとしてありません。一方、専門家と門外漢との情報格差が大きいのも特徴です。そこで国は不動産鑑定評価に関する法制度を発足させ、不動産鑑定士による不動産の鑑定評価を法定し、適正・透明な不動産価格の形成を促進しています。その基準が「不動産鑑定評価基準」です。
参照:http://www.mlit.go.jp/common/001204083.pdf

 

この不動産鑑定評価基準では次の3種類の不動産評価の方法が定められており、複数の方法で評価するよう推奨されています。不動産会社はマンションの査定依頼を受けると、これらの方法で査定価格を求めます。

 

(a)原価法
(b)取引事例比較法
(c)収益還元法

 

原価法

 

原価法は、対象の不動産と同等のものを新たに調達(再調達)した場合に必要な原価を基に評価する方法です。
原価法による査定価格のことを積算価格といいます。積算価格は、対象不動産の再調達にかかる原価を算定し、新築時点から査定依頼時点までの価値の毀損分を減価修正します。

 

原価法による査定価格=積算価格=再調達原価-減価修正

 

再調達原価とは、要は同じマンション物件を新たに建てた場合の建築費用に相当します。この建築費用の見積は、材料費や人件費などを積み上げて算出する直接法と、同様の物件の費用から類推する間接法があります。
また経年変化や使用による劣化を見積もる減価修正にも、耐用年数を考慮する減価償却費的な考え方と、物件の観察を基にする方法があります。

 

この原価法において、査定価格が売主の想定と離れてしまう場合、その理由は再調達原価と減価修正に対する見解の違いにあります。再調達原価の大きな割合を占める材料費や人件費は、その時々の経済情勢に左右されます。当然、好景気の時は高価に、不景気の際には安価になります。
また減価修正に関しても、手入れの良し悪しや修繕の有無によって大きく変化します。査定のタイミングやマンション管理の評価によって査定価格は大きく変化しますので、売主が思わず、「安すぎ…」となってしまうケースもあるでしょう。

 

取引事例比較法

 

取引事例比較法による査定価格は、近隣における取引事例の中から対象不動産と似た物件を探し、その両者の事情補正や時点補正、地域的要因、個別的な要因による補正を行うものです。

 

前述の土地総合情報システムやレインズを用いれば、対象不動産の近隣や同一市区町村の取引実績データは誰でも比較的容易に入手できます。
ただ、その補正に関しては誰にも単純に分かるものではありません。マンション所在地の利便性、公共施設・商業施設・嫌悪施設との距離、地形、近隣住民の生活レベルなど複雑な要素があります。これらの要素に、売主の入居時の印象と査定依頼時点とで変化があれば、査定価格にも影響してきます。

 

収益還元法

 

収益還元法による査定は、本来は名前の通り、収益物件の投資判断に用いる手法で、その物件が有する収益力を基に元本部分の大きさを評価する方法です。住宅の場合は、賃貸に提供したと仮定して計算することになります。

 

この収益還元法には、直接還元法とDCF法の2つがあります。一定期間(通常は1年間)の純収益を還元利回り(収益の期待値)で割るのが直接還元法、不動産の保有期間中の純収益および売却価格を、その所有時期に応じて現在価値に割り戻して合計するのがDCF法です。

 

査定依頼した物件の想定賃料と、マンション所在地の還元利回りの想定値によって大きく査定価格は異なります。都心部以外では賃料はデフレ傾向であり、還元利回りは低下しているので、入居時と査定依頼時点を比較すると安価査定になりがちです。

 

マンションの査定価格を受け取った時に注意すべき事項とは?

 

このような方法によって決められた査定価格には、多くの場合、不動産会社の思惑が込められています。
例えば、優良物件や自社の得意物件は、独占的に契約できる専任(専属専任)媒介契約に持ち込むために高額な査定価格を提示する場合があります。専任媒介であれば、自社で買主を見つけたら売主・買主の双方から媒介手数料を受け取ることができるからです。
逆に、不得意な物件であればお断り見積として安価な査定価額を提示する場合もあります。

 

いずれにしても、査定価格に少しでも不審に思う点があれば必ず不動産会社に査定の根拠を確認するようにしましょう。その際は、本稿でご説明したような価格査定の知識がお役に立つかと思います。

 

 

八木 裕(Life Assets Design 代表)
兼業サラリーマン大家として賃貸物件を経営している。優良経営を実践するために宅建士試験合格後、賃貸不動産経営管理士試験、土地活用プランナー試験に合格し、個人資産のコンサルティングを行っている。(FP2級技能士)