2019年10月1日には、消費税率が8%から10%に引き上げられることが予定されています。これは2017年4月に予定されていたのですが、2016年9月に30カ月の先延ばしとなったものです。安倍総理大臣は、「リーマンショック級の経済悪化がない限り消費税引き上げは実施する」という方針を発表しています。
不動産のマーケットは、2013年頃から都心部のマンションを中心に価格の上昇傾向が続いています。ご自宅の購入や不動産投資をご検討されている方にとっては、消費税増税が不動産市場にどのような影響を与えるのか、とても気になるところだといえるでしょう。そこで今回は、不動産売買における消費税の位置づけや税率引き上げの影響について、ご紹介していくことにしましょう。
(写真はイメージです)
消費税がかかる不動産取引、かからない不動産取引
不動産取引では、全ての取引に消費税がかかるわけではありません。消費税のかからない以下の2点の取引を覚えておきましょう。
(1)土地の売買・賃貸借
(2)個人所有の住宅の売買・賃貸借
消費税の課税対象は、消費税法第4条で以下の通り、定められています。
・国内取引
・事業として行う取引
・対価のある取引
・資産の譲渡・貸付および役務の提供取引
・非課税取引・免税取引・不課税取引に該当しない取引
課税の対象としてなじまない取引や、社会的配慮から消費税の対象とならない取引は、非課税取引として消費税法第6条に具体的に定められています。
では、上述の2点の非課税項目を個別に見ていきましょう。
(1)土地の売買・賃貸借
土地については、いくら売買を繰り返しても消費される資産・役務ではないことから「消費税の課税の対象としてなじまない」として、非課税取引とされています。具体的には土地の所有権の売買、借地権・地役権の売買、賃貸借の取引などには消費税が課税されません。
ただし、1カ月以内の短期の土地使用契約や、駐車場や遊戯施設など施設の利用を伴う賃貸契約は、役務(サービス)の提供とみなされ、消費税が課税されます。
土地をめぐる消費税の課税・非課税は以下のように整理できます。
土地の売買・賃貸には、基本的に消費税はかからない。
駐車場を借りる場合には、賃借料に消費税がかかる
土地を借りて駐車場として使用する場合、消費税はかからない
1カ月以内の賃借期間で土地を借りて駐車場として使用した場合は、消費税はかかる
(2)個人所有の住宅の売買・賃貸借
上述したように、建物の取引は、基本的に消費税の課税対象です。しかし、住むことが目的である「住宅」の「貸し付け」は、「社会的な配慮」を理由として消費税の非課税取引の対象となっています。住居の家賃に消費税はかからないのです。
また消費税は「事業として行う取引」を対象に課税されますので、「個人」が所有する「自己が居住する住宅」を「売買」する場合も、消費税はかかりません。ただし、個人が所有する建物でも、賃貸借を目的とする事業用のアパートやテナントビルなどとして売買した場合は消費税の課税対象となります。
建物についての消費税の課税・非課税を整理すると、以下のとおりです。
1.住居の家賃は、非課税
2.テナント・事務所の家賃は、課税
3.個人の自己が居住する住宅の売却は、非課税(個人の中古物件売却は非課税)
4.事業者の売却物件は、課税(新築物件は事業者が所有するケースが多い=課税)
5.事業用物件(テナント等)の売却は、個人所有でも課税
また、マンションや戸建てを販売する場合、土地分は非課税となり、建物分については課税・非課税分をそれぞれ算出して、合計した価格が全体の価格となります。
消費税の税率アップは、不動産の価格動向に影響を与えるか?
たとえば、3,000万円の建物の消費税は、税率8%の現在は240万円です。税率が10%にアップすれば、300万円になってしまいます。不動産の売買は金額が大きいですから、消費税も資金計画に大きな影響を与える金額になってしまいます。同じマンションや戸建てを購入する場合は、2019年10月の税率アップ以前か以後かで、消費税額が何十万円も違ってしまうことになります。
ただでさえ、消費税率のアップは消費マインドを低下させる影響があり、経済不況をふたたび招きかねないと懸念されています。不動産市場においても、「増税を嫌う駆け込み需要によって、2019年の消費税率変更直前には仮需が発生し、市場は一時的に過熱するが、税率変更後は仮需の反動と増税効果により市場全体が冷え込み、不動産市場の上昇傾向は終焉を迎える」という見解の不動産コンサルタントや経済評論家が多いのも無理はないように思われます。
しかし、本当に消費税の税率アップは、不動産の価格動向に影響を与えるのでしょうか?
過去の消費税率アップと不動産の価格動向
消費税は、1989年4月に税率3%で導入されました。その後1997年4月に5%、2014年4月に8%と、税率は2回のアップを経ています。
添付のグラフは、不動産経済研究所の資料から作成した新築マンションの供給戸数と平均価格の推移を表しています。消費税導入年および税率アップ年のデータの抜粋が下記の表となります。
消費税導入・税率アップ時の新築マンションの供給戸数と平均価格
年 |
1977 |
1988 |
1989 |
1990 |
1991 |
供給戸数(戸) |
95,658 |
110,512 |
128,259 |
144,697 |
84,993 |
平均価格(万円) |
2,784 |
3,142 |
3,833 |
4,403 |
4,488 |
年 |
1995 |
1996 |
1997 |
1998 |
1999 |
供給戸数(戸) |
178,330 |
181,561 |
146,654 |
13,4647 |
162,744 |
平均価格(万円) |
3,546 |
3,623 |
3,756 |
3,582 |
3,648 |
年 |
2012 |
2013 |
2014 |
2015 |
2016 |
供給戸数(戸) |
93,861 |
105,282 |
83,205 |
78,089 |
76,993 |
平均価格(万円) |
3,824 |
4,174 |
4,306 |
4,618 |
4,560 |
新築マンションから見ていきましょう。1989年の消費税導入時は、いわゆるバブル経済全盛期であり、新築マンションの価格・供給戸数はともに消費税の導入の影響をみじんも感じさせず増大しています。
一方で、バブル崩壊後の「失われた20年」といわれる経済低迷期の1997年にアップされた時には、供給戸数が減少し、価格も1997年は前年を上回るものの翌年には前年を下回り、その後も長く低迷しています。
2014年は、現在の価格上昇局面の最中にアップしたことになりますが、平均価格は上昇しています。
一方、中古マンションの価格はどうでしょうか。首都圏では2013年1月から2017年12月まで60カ月連続で成約㎡単価および成約価格が、前年同月を上回っています(東日本レインズ月例速報より)。2014年の消費税率アップは、中古マンション市場にも影響を及ぼしてはいないといえるでしょう。
過去の経緯からは「消費税率アップが、必ずしも不動産市場に大きな影響を及ぼすとはいえない」という推論が成り立つようです。
不動産市場は、消費税率アップに直接左右されはしない
一方、不動産市場は景気に大きく左右されることは間違いないようです。新築マンションの価格推移からもバブル景気とバブル崩壊、リーマンショック後とアベノミクス景気、といった景気の浮き沈みと同様の曲線を描いています。不動産取引が単に土地の価格だけではなく、建設・家具・部材・流通など多くの産業に密接にかかわっていることが原因です。
では、景気の動向は消費税の税率がアップで左右されるものなのでしょうか。それは「必ずしもそうではない」というのが答えです。もちろん重要な要因の一つとなりえますが、確実に不景気となる要因ではありません。
消費税が不動産の価格の決め手となる土地については対象外ということも、消費税率のアップによる不動産市場への影響が限定的な一因と推定することもできるでしょう。
つまり、消費税率のアップは、不動産市場の低迷をもたらす「可能性のある要因」ではあっても、「決定づける要因」ではないのです。決定するのは「景気の良し悪し」ですから。
大事なことは景気が良いこと
好調と言えたアベノミクス景気も今年に入って少し暗雲が立ち込めてきたと見る向きも出てきました。最近では、年明けに24,000円を超えた日経平均株価が3,000円近くも下落しました。税収を司る財務省においては、決裁文書の書き換え疑惑で大混乱しています。北朝鮮や中国をめぐる安全保障も予断を許さない状況です。こうした状況が「リーマンショック級」とされて、消費税増税が再び先送りされるかもしれませんね。
消費税増税が先送りされたからといって不動産市場に良い影響を期待するのは本末転倒です。景気が悪くなるかもしれないので消費税増税が先送りされるのですから。消費税増税が実施されても問題ないくらいの好景気がやってくることを期待するしかありませんね。
早坂龍太(宅地建物取引士)
龍翔プランニング 代表取締役。1964年生まれ。1987年北海道大学法学部卒業。石油元売り会社勤務を経て、2015年から北海道で不動産の賃貸管理、売買・賃貸仲介、プランニング・コンサルティングを行う。