不動産のリアルREALITY OF REAL ESTATE

  • 最終更新日:2018年10月3日
  • 公開日:2017年11月4日

「ボンビーガール」に学ぶシロアリ駆除と瑕疵担保責任

タレントの森泉(もり いずみ)さんが出演する「森泉お嬢様の空き家再生大臣!」は、日本テレビ系バラエティ「幸せ!ボンビーガール」の名物コーナーです。自腹で購入した築52年の古家を、森泉さん自身がDIYで素敵な家にリノベーションする、というドキュメンタリー風の連続企画で、筆者も不動産業界の一員として注目しています。

 

最近では、古屋ならではの問題点や建物の構造を紹介しつつ、華奢な森泉が天井や床をダイナミックに解体していく姿をコミカルに描く、という展開が続いています。現状とリノベーション後のギャップを際立たせるためにも、必要な演出なのかもしれませんね。

 

去る10月31日の放映では、シロアリに侵食された柱を示し、床下に専門業者が潜ってシロアリを駆除する様子が紹介されていました。

 

害虫や害獣の被害は、中古住宅の売買では問題になりやすい事柄です。特にシロアリの被害は、家屋の破損や倒壊をもたらす重大な瑕疵(欠陥)として扱われます。そこで今回は少し趣向を変えて、シロアリの基本的な知識や、シロアリ被害と売買に関する法律的な知識などについてご説明しましょう。

 

古い住宅

(写真はイメージです。)

 

シロアリの種類

 

現在日本にいるシロアリの代表的なものは、ヤマトシロアリ・イエシロアリ・アメリカンカンザイシロアリの3種類です。

 

ヤマトシロアリ

 

土のあるところから侵食する「土壌性」という性質を持ち、結露や雨漏りなどの水分供給があると広範囲に拡大します。北海道東部を除くほぼ全国で確認されており、日本のシロアリ被害を代表するアリとされています。

 

イエシロアリ

 

関東以南の海岸部に生息し、水を運ぶ能力が高いのが特徴です。乾いた木材を自ら湿らせ侵食するため、加害スピードも速く、家屋の2階までも侵食します。東京にはもともと少ないとされていますが、神奈川や千葉県では確認されています。

 

アメリカカンザイシロアリ

 

アメリカ西海岸原産の外来種で、土壌性はなく、直接木材に侵食します。奄美大島以南と小笠原諸島で確認されています。

シロアリは、生物学上は等翅目(とうしもく)という種類に分類され、膜翅目(まくしもく)のクロアリよりはゴキブリに近いとのこと。むしろクロアリはシロアリを食べてしまうため、天敵ともいえるそうです。ただし、クロアリだけを増やしてシロアリを駆除するという方法は実用化されていません。

 

シロアリは土壌性があるため、主に地中から家屋に侵入します。木材は湿り気があると腐朽菌というものが付着し、シロアリの誘因物質を発生させます。匂いによってシロアリが呼び込まれるのです。シロアリは木材の内部のセルロースを探し出し、それを栄養分として巣を造り始めます。

 

また、シロアリは地中から1.5m程度までの高さに巣を作ることが多く、柱だけでなく家屋の土台そのものまで侵食します。適切に除去・予防しなければ、床や柱が壊れたり家屋が崩壊したりする危険すらあります。番組でも家屋の基礎をコンクリートで固める工事が紹介されていましたが、これには基礎を盤石にするだけでなく、シロアリ予防の効果もあるのです。

 

シロアリの駆除方法は2通り

 

シロアリに侵食された柱などを番組で見て、ご自宅を心配された方も多いでしょう。駆除方法や費用も気になるところでしょうからご紹介しますね。
シロアリの駆除方法には、主に以下の2種類があります。

 

ケミカル工法

 

番組内でも紹介されていた、シロアリが嫌がる薬剤を床下に撒く方法です。死滅させるだけでなく、シロアリが近付かなくなるためバリア工法ともいわれます。薬剤の有効期間は5~10年程度。駆除業者の多くは保証期間を設けて期間中は万一シロアリが再発生しても対応してくれるようです。

 

ベイト工法

 

家の周囲に、「ベイトカップ」というシロアリ駆除用の薬剤を混入した餌が入った容器を置き、その餌をシロアリが巣に持ち帰ることで巣ごと駆除できるという方法です。年ごとの維持・管理費用が必要です。薬剤が容器の中にありかつ少量であることから、安全性の高い工法とされています。

 

シロアリ駆除費用は、所得税還付申告対象!

 

シロアリ駆除の料金相場は、1階床面積の坪当たり6,000円~10,000円程度が一般的です。ただし業者によっては、坪単価は安くして薬品代や事前調査費用、作業料、アフターサービスなどを別料金とする場合もあります。実際に建物の構造や面積によっても作業の難易度が変わるため、依頼をする場合は数社から見積を取って比較することをお勧めします。

 

「シロアリは気になるけど、駆除にも結構お金がかかるんだ……」と思った方へ、ちょっとしたお得情報です。実はシロアリ駆除費用は、「雑損控除」扱いで、所得税の還付申告の対象となります。

 

雑損控除とは、震災や落雷などの自然災害、火災や盗難、爆発などの人為災害、害虫などの生物による被害を受けた場合に、損害に応じた金額を所得から差し引ける制度です。確定申告するか、過去5年以内であれば還付申告ができます。駆除費用の領収書はきちんと取っておいて、税務署に確認してみましょう。

 

なお、シロアリの被害を受けた家屋の修繕費用や、シロアリ駆除の費用は雑損控除の対象となりますが、シロアリ予防のための工事や業者費用は雑損控除の対象となりません。この点は、国税庁もはっきりとホームページに掲載しています。

 

シロアリの駆除費用/国税庁

 

 

中古物件を購入したら、シロアリ被害が…。損害賠償できる?

 

法律用語では、売買の目的物の欠陥のことを瑕疵(かし)といいます。そして不動産の売買において、シロアリ被害は重大な瑕疵と見なされます。目的物である建物の、欠損や倒壊の恐れがある被害ですから当然でしょう。

 

また、不動産取引について定める宅地建物取引業法(宅建業法)では、不動産会社は取引の「相手方等の判断に重要な影響を及ぼすことになるもの」について、「故意に事実を告げず、または不実のことを告げる行為」を禁じています。シロアリ被害などの瑕疵についても、この規定に該当します。

 

売主および不動産会社がシロアリ被害を知っていたにもかかわらず、その事実を買主に伝えなかった場合、買主は駆除や修繕の費用を損害賠償請求することができます。そのため、売主はシロアリ被害などの有無を「告知書」で提示するのが一般的です。

 

なお、シロアリ被害を告知されている上で買主が購入した場合、その損害賠償はできません。双方納得した上での契約になるからです。番組の森泉さんも、シロアリ以外にも雨漏りなど目に見える瑕疵もたくさんある古家を購入しており、その説明がなかったとは考えられません。そうであれば、損害賠償の請求はできません(しないでしょうけど)。

 

それでは「売主や不動産会社はシロアリ被害を知らなかったが、購入後、シロアリ被害が判明した」という場合はどうなるのでしょうか?

 

このような、契約時には分からなかった欠陥を「隠れた瑕疵」といいます。民法では、売買の目的物に隠れた瑕疵があった場合には、善意無過失の買主は損害賠償の請求や契約の解除ができるとし、瑕疵を発見した時から1年以内に責任追及をしなければいけない、としています。

 

ただし、中古不動産の売買では、使用期間が長く責任期間が長期にわたってしまうこと、経年変化や自然損耗もあり瑕疵が契約時にあったかどうかの判断が困難なことから、隠れた瑕疵についての責任(瑕疵担保責任)を制限する特約を付けることが一般的です。瑕疵担保責任を引渡し後2か月以内などと期間を限定したり、瑕疵担保責任を免除したりする特約です。

 

こうした特約がある場合は、購入後にシロアリ被害を見つけたとしても、期間外であれば損害賠償は請求できません。契約書の締結時は瑕疵担保責任の特約について十分注意する必要があります。

ただし不動産会社が売主の場合は、宅建業法40条で瑕疵担保責任を負う期間を2年以上と定められているため、それ以下の特約(「期間は1年以内」など)は無効になり民法の規定に従うこととなります。また特約があっても、売主が知っていながら告知しなかった場合も瑕疵担保責任を負うことになります。

 

この瑕疵担保に関する定めは、シロアリ被害だけではなく、雨漏りや床の抜け、配水・配管の故障などの不具合にも適用されます。また新築住宅は「住宅瑕疵担保責任履行法」により、住宅の主要構造部分については住宅事業者に「引き渡しから10年間」の瑕疵担保責任が定められています。併せて知っておきましょう。

 

今後の「空き家再生大臣」に望むこと

 

「空き家再生大臣!」のコーナーですが、今の段階では「空き家『解体』大臣!」になっていますね。早く「再生」の段階に進んでもらいたいと思っています。

 

個人的には、電力を再生可能エネルギーで賄うとか、壁や天井をエコ素材とするなど、デザインだけではなく、次世代住宅のエッセンスを取り入れてもらえれば面白いし、視聴者の参考にもなるのではないか、と思います。

 

いや、「次は雨漏りの修理方法やネズミの種類について解説するの?」なんて危惧しているわけじゃありませんよ……。

 

早坂龍太(宅地建物取引士)
龍翔プランニング 代表取締役。1964年生まれ。1987年北海道大学法学部卒業。石油元売り会社勤務を経て、2015年から北海道で不動産の賃貸管理、売買・賃貸仲介、プランニング・コンサルティングを行う。

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