新築マンションを買う時は、チラシやウェブ情報、モデルルームなどを見て物件を決めることがほとんどです。また、多くの場合は工事途中での販売、すなわち青田買いでありますので、実際の間取りや階数を見て決めるわけにはゆきません。
これに対し、中古マンションを買う場合はどうでしょうか?
大部分の買主さんは、購入検討の時点ですでに理想のライフスタイルがあり、その理想により近い条件の中古マンションを(リフォームも想定して)、実際に見て購入しようと考えています。
- ・都心で駅から近く、夜もタクシーや深夜バスが使えところに住みたい
- ・子どもの教育のため、学校が近いところにしたい
- ・ドックランのある公園の近くで愛犬の散歩ができるような場所がいい
- ・眺望の良いワンルームでワインパーティーをしたい
要するに、そのマンションが希望のライフスタイルに合致する買主さんと出会えるか。マンション売却はそれで決まります。
この「出会える」確率を上げるためには、マンション売却の全体フローを事前に把握しておくことが大切です。
これから、そのポイントについてご説明します。
(写真はイメージです)
ポイント1 マンション売却の価格を決める
「敵を知り、己を知れば、百戦して危うからず」。有名な『孫子の兵法』の言葉ですが、マンション売却にも当てはまる言葉です。
- 敵を知る=競合マンションの有無と価格把握
- 己を知る=売却マンションの相場把握
- 戦う=売り出し価格決めやタイミング
これが実践できれば、マンション売却は「百戦して危うからず」となるでしょう。
競合マンションの情報を知る
「敵」とは競合マンションのことで、その売却価格の状況把握が必須です。不動産会社に媒介委託する前に確かな情報を持っておけば、担当者との価格のすり合わせも主導権を持って進められます。
価格情報は、折込チラシを見たり、他マンションの情報をネットで調べたりすれば把握できます。
不動産ジャパンや大手不動産会社サイト、SUUMOやHOME’Sなどの不動産ポータルサイトを使えば、同じような広さや間取り、最寄り駅、築年数などの売却マンションデータを検索できます。
ただし、同じマンションの部屋がほぼ同時期に何件も売り出されている場合は、「敵」は自分と同じとあって、無理な競争意識や情報が飛び交い、心理的に消耗してしまいます。できれば、「敵」に振り回されないように検討することが一番なのかもしれません。
売り出し価格を決めるためには
次に「己を知る」というのは、ズバリ売り出し価格をいくらにするかです。
売却マンションとして公開されている価格はあくまで希望価格であって、実際に購入される価格とはなりません。5%程度は値下げされて決まっていくことも多いです。また実際の購入価格は、ほとんど一般に公開されないのが難しいところです。
買主の購入意欲にかかわる「売り出し価格」と、最終的な「購入価格」は重要なポイントとなるので、相場観に基づいてご自身が「ここまでなら下げてもよい」という幅を決めておく必要があります。売り出し価格からの値下げ可能額は、すぐ口頭でも答えられるようにしておき、価格重視のお客様にタイミングよく提示すれば、購入につながる確率も上がります。
価格の設定にあたり筆者がおすすめするのは、第三者的な鑑定会社「株式会社東京カンテイ」のサイトです。
「売ったらいくら」はもちろん、周辺マンションの価格情報や履歴まで分かります。サイトの情報は冊子(PDF)でも入手可能。費用は1件5千円程度なので安心です。
参照:マンション価格情報サービス/東京カンテイ
「一括査定サイト」のメリットとデメリット
不動産関係のネット広告で最近よく見られるものに「一括査定サイト」があります。不動産会社各社の、売却予定マンションや個人情報をもとにした見積もり査定額を、一括して集めることができるものです。(査定サイトそのものは不動産会社とは別の情報提供会社が運営)
ただし、各社とも媒介契約を結びたいと考えるため、高めの査定額になることが多いといわれています。
また一括査定サイトを利用すると、各社からメールや問い合わせが一斉に来たり、訪問査定をすすめてきたりして、混乱させられることにもなりかねません。
一括査定サイトは、その査定結果で媒介契約する会社を決めるというよりは、あくまで不動産会社のリストアップ、相場の再確認に役立てる程度にとどめるほうが良さそうです。
なお、一括査定サイトでは「訪問査定でもっと詳細な価格が分かります」と勧めてきますが、訪問査定で違ってくる金額は、そう大きなものでもないのではないでしょうか。実際のところ、マンションの時価は、ほとんどが土地の価格と建物の償却年数で決まるため、訪問査定にあまり大きな意味はありません。
どちらかというと訪問査定は、不動産会社側の都合(現地の再確認、媒介契約締結の推進)であることが多いので、あまり期待しすぎないほうが良いでしょう。
ポイント2 マンション売却を依頼する不動産会社を決める
マンション売却にあたって一番悩ましい問題は、不動産会社をどこにするかです。
一般論としては、売買実績が多いことはやはり重要なポイントといえます。また、街の小さな不動産会社よりも、上場もしくは上場企業グループに属している会社なら、より安心できます。
もし「少しでも仲介手数料や登記費用などを削減したい」、「住み替えが必要でつなぎ融資などを考えざるを得ない」といった場合は、特に早期の売却をタイミング良く成立させてくれる不動産会社を選びます。
インターネットで不動産会社を探す場合は、まず「マンション」「売却」で検索して、候補となる会社をピックアップします。次に、今回のマンション売却で求められる機能やサービス(買い替えの二重ローン対応、仲介手数料値引き対応など)を提供している不動産会社に絞ります。この時は、検索キーワードに「仲介手数料」、「二重ローン」なども加えると良いでしょう。
なお、依頼する会社の規模とあなたの物件を売却する担当者スキルが高いかは別問題です。大手であっても、大企業にありがちな「上から目線」で、気分を害されるようではいけません。やはり社内の営業スタッフの情報がホームページ上で公開されており、売買仲介の実績があり、人間力・交渉力のある人材を育成し重用している不動産会社をおすすめします。
■不動産会社のタイプ別、特色や対応についての詳細は「マンション売却で最適な不動産会社を見つける方法」をご参照ください。
不動産会社の企業スタンスは納得できるか
マンション売却の不動産選びの際に注意したいのは、その不動産会社や担当が物件の「囲い込み」をしない会社か、という点です。囲い込みとは、売却の仲介をする不動産が、売却の仲介手数料だけではなく、購入者(買主)からの仲介手数料を得たいがために、自社で把握している購入希望者しか売主に意図的に紹介しないことです。
つまり、不動産が仲介手数料の二重取りを狙い、他社からの購入希望者の内見や購入申し込みを、何らかの理由をつけて受け付けない行為をすることです。これは売主の利益を損なう行為であり、売主にとっては「百害あって一利なし」といえます。
こうした「囲い込み」行為は、表向きにはどの不動産会社も公言することはないですが、大手でも、街の不動産会社でも規模を問わずに一部で行われているため、媒介依頼をする前に念入りに確認をした方がよいでしょう。
最近では、「囲い込み」はもちろん、その温床となる「両手仲介」が利益相反にあたる場合があるので避けるという企業もみられます。こうした企業は、「片手」での仲介手数料でも経営が成り立つよう業務の効率化の経営努力をしています。
さらに「仲介手数料」を無料から半額で対応する不動産流通システムや、ソニー不動産などのように顧客のエージェント(代理人)として動くことを宣言するなど、これまでの大企業型不動産会社のようなビジネスモデルとは異なる独自のサービスの提供も見られるようになりました。
企業ポリシーや企業理念、また新しい付加価値サービスを自ら創造している企業により、不動産売買の環境は少しずつ良い方向へ向かおうとしています。今後は日本全体に少子高齢化が進み「空き家」比率が激増すると言われる中、不動産流通をさらに円滑化させることで、国土の健全な発展や住居環境のクオリティ・オブ・ライフ向上に期待したいものです。
そして、これらの付加価値サービスを提供する有為な企業群をサポートしていくこともあなたの選択肢として提示されつつあると考えます。
ポイント3 売却マンションの内見で購入申込みを決める
全体フローの3番目は「内見」です。
当たり前のことですが、「内見に来られるお客様は、少なからず購入の意思を持ってあなたのマンションに来られている」とポジティブに考えましょう。
お客様が確認に来られたのは、現地でないと分からないことがあるからです。
- ・実際の生活利便性(買い物、バス便、育児施設、日当たり、共有設備、日当り、管理組合の健全性など)。
- ・隣近所に暴力団などの活動はないか、マンション周辺の治安は良いか。
- ・住民同士のコミュニティが普通か
それとお客様が期待しているのは、売主と価格交渉はできるのか、という点です。
売主としては、値下げできる限界値を事前に把握しておきましょう。またお客様がリフォームを考えているようなら、その費用の一部を負担するという形も良いでしょう。
また内見にあたって、次のような対応には留意をしておきましょう。
- ・できる限り玄関やベランダ、水回りは綺麗にする。共有部分なら管理組合に清掃を依頼
- ・騒音がある、施設やゴミ処理場、葬祭場がある、など不利な条件は隠さずに告知する
事前準備ができ、また当日に臨機応変の対応ができたら、購入申し込みも期待できます。成約に結びつくかは、あなたのポジティブなスタンス次第ということです。
ここまで、マンション売却フローの全体を決めるための重要な3つのポイントを説明してきましたが、参考になりましたでしょうか。この情報が役立ち、ご自宅のマンションが無事に売却できることを祈っています。
執筆者:すずき忠(宅地建物取引士)
電器メーカー勤務後にコンサルタントとして独立。東京でWEB活用の宅建業を実施。マンションサイト構築・運営やライティング活動に従事。