『正直不動産』宅建士のプロはこう見る!SHOJIKI-FUDOSAN
- 公開日:2024年2月13日
『正直不動産2』ドラマ第6話最速レビュー|不動産が若者の夢を邪魔してはいけない! 永瀬も舌を巻いた〝十影劇場〟
ある日突然、嘘(うそ)がつけなくなってしまった不動産仲介会社の営業マンが、独特の商慣習で動く不動産業界で奮闘する姿を描くNHKドラマ『正直不動産2』。第6話が2024年2月13日(火)夜10時に放映されました。
山下智久演じる主人公の不動産営業マン永瀬財地は、前シリーズでは嘘をもいとわないセールストークで売上ナンバーワンでした。ところがある日を境に、不思議な風が吹いてくると嘘がつけなくなることからナンバーワンの座から滑り落ち、客とのやり取りでもしくじって窮地に陥ります。しかし、その正直さが逆に、ライバルのミネルヴァ不動産をはじめとする悪徳業者にだまされそうになる客の心を動かしてきました。
今シリーズでも引き続き、ミネルヴァ不動産とのバトルは続きます。そんな大人気ドラマ『正直不動産2』のレビューを、監修を担当したREDSではどのメディアよりも早く、そして詳しくお届けします。REDSのSNS「X」「Facebook」ではレビューと解説記事がサイトに掲載されたらお知らせ投稿をしていますので、ぜひフォロー&通知ONのうえ、見逃さないようにしていただければ幸いです!
(不動産のリアル編集部)
(写真はイメージです)
今回のゲストキャラは一人暮らしの大学生と女優の卵
マダム(演:大地真央)は登坂社長(演:草刈正雄)に預けた孫の十影健人(演:板垣瑞生)の様子が気になるようです。十影はまだ社会人としては半人前のようで、失礼にも客の面前でため息をついてしまい、永瀬に肘打ちを食らっています。その客とは、この春から一橋大学に進学するという青江慎吾です。
この回のもうひとりのゲスト登場人物は女優志望の清川明日美。小さい役ながら念願の本並劇場でのキャストに決まったのですが、そのオーディションに全力投球したためにアルバイトがおろそかになり、5万9,000円の家賃を3カ月も滞納してしまい、月下咲良(演:福原遥)に相談しています。明日美は次のオーディションも控えていて、今住んでいる場所を失うわけにはいかないとのことでした。
新顔・黒須はフルコミだった!
桐山の紹介で入社することになった黒須。彼の雇用形態が実は「フルコミ」だったことが大河部長(演:長谷川忍)によって明かされました。「フルコミってなんすか?」と尋ねる十影に黒須は「フルコミはフルコミッションの略で完全歩合制ってこと。登坂不動産がフリーの僕と業務提携したって感じだね」と解説。同僚の藤原結弦(演:馬場徹)は「会社名義の名刺も営業に使う手土産も自前。コピーですら1枚10円」とデメリットを付け足しました。
大河は「フルコミは固定給がない分、社員と違って成約を取れば取っただけ儲かる。しかもわが社のフルコミに対する歩合は売上の60%! 月収は青天井だ!」と言います。不動産営業のフルコミは、利益の40〜50%が相場といいますから、登坂不動産は好条件といえます。たとえば6,000万円の物件を仲介すると、会社が得られる利益(仲介手数料)は上限で186万円(税別)となり、歩合率が60%ならば約112万円が報酬となります。
ただ、病気やケガで働けなくなったり、売上がなかったりしたら月収はゼロとなります。向いている人が限られる働き方といえるでしょう。
滞納家賃を全額支払うか、退去せよ!
日が変わり、登坂不動産オフィス。永瀬は藤原から、地主仲間のアパート経営者が家賃を滞納している借主に困っていて、家賃を払わせるか退去させるか、どちらでもいいので速やかに解決してほしい、と相談を受けました。前話で藤原に借りを作った永瀬は受けざるを得ません。
続いて、月下からは家賃滞納した明日美のためにオーナーと直談判に行くのでアドバイスを、と持ちかけられます。板挟みになった永瀬は、十影も伴ってオーナー宅に向かいました。
オーナーは「若者の夢を応援したいから待ってあげたいけど、友人にたしなめられた」「裁判をしてまで追い出したくない」というどっちつかずの主張のようです。
そこで十影が「世間の目が気になるってことですね」と立場をわきまえない突っ込みをすると、永瀬までもが「その頃(昭和)の大家は地方から出てきた若者の親代わりのような存在で、学業や就職、懐具合まで心配したのです! それをあなたはのらりくらり、結局は自分のお金の心配ばかり!」と言い放ってしまいます。
この放言に激怒したオーナーは「滞納分の家賃を放棄するから退去する」「住み続けたいなら滞納分をすぐに全額支払う」の二者択一をたたきつけました。
AD物件とは?
冒頭の大学生、青江が友人の片桐紀一を連れてオフィスにやってきました。以前、片桐に青江と同じマンション(家賃9万円)を黒須が仲介。同じ家賃で、青江は仲介手数料がゼロだったのに、片桐は9万9,000円になっていたというのです(仲介手数料は消費税をプラスして請求する)。
黒須が「明らかにミスです、直ちに返金させていただきます」と謝罪したのですが、永瀬は黒須の不正を疑いました。青江と片桐、それぞれに渡された物件図面を見比べると、青江のほうにだけ小さく「AD200」の文字が。これは「AD物件」と呼び、「200」とは200%の意味で、オーナーが不動産会社に賃料の2カ月分を広告料として支払う、という意味です。
ドラマではこう説明していました。“AD物件とは、貸主や管理会社がなるべく早く借主を探してもらいたいときに、頑張ってくださいねー、という意味で、広告料という名の紹介料を仲介業者に支払っている物件のことである。つまりは、この物件に関して、我々は仲介手数料を取らなくても収益を得ることができるのだ。”
全日本不動産協会は、AD(広告料)について、以下のような見解を示しています。
●賃貸の媒介に関して依頼者の双方から受けることのできる報酬の額の合計額は、借賃(消費税等相当額を含まない)の1月分の1.1倍に相当する金額以内である。
● 依頼者の依頼によって行う広告の料金に相当する額については、報酬規程に定められる報酬とは別に受けることができる。
●しかし、報酬と別に受けることができる広告の料金は、大手新聞への広告掲載料など報酬の範囲内で賄うことが相当でない多額の費用を要する特別の広告の料金である。通常必要とされる程度の広告宣伝費用は、営業経費として報酬の範囲に含まれている。
●宅建業者は、定められた額をこえて報酬を受けてはならない。ADなどと称して、通常必要とされる程度の広告宣伝費用を報酬規程の範囲外で広告料を受領することは、宅建業法に違反する違法行為である。
登坂不動産では、AD物件は仲介手数料を取らないという内規にしていたようです(あくまで登坂不動産の内規であり、現実には取る会社もあるようです)。
ミスだという黒須に対し、永瀬は黒須の不正を追及。しかし、会社にとっては客の前で醜態をさらしているだけであり、大河部長に一喝されてその場は収まりました。
マダムが明かす十影の過去
永瀬はマダムに呼ばれ、月下を伴ってレストランに向かいました。そこにいたのはマダムと十影。しかし、マダムの前でも、仕事に対する姿勢をめぐって十影と永瀬、月下の話はかみ合いません。ついに月下がマダムに「十影はどうしてあんなにねじくれ曲がってるんですか? Z世代だからじゃすみませんよ」とぶちまけてしまいます。
マダムは「私のせいよ」と切り出しました。なんでも、十影の祖父(マダムの死別した夫)はマダムにほれ込み、借金をして貢いでいて、前妻との間にできた息子(十影の父)のことは気にかけてなかったとか。借金の肩代わりは十影の父が行い、十影は子供の頃から家中が督促状の山。借金取りが自宅の呼び鈴を鳴らすのを息を潜めてやり過ごす日々で、父はまもなく借金に追われたままこの世を去ったということでした。
「扱いづらい子を押しつけちゃったみたいね」とわびるマダムに永瀬と月下は改めて一人前に育てることを約束するのですが……。
「夢をかなえるために退去せよ」
月下は永瀬と十影を伴って明日美に話を伝えに行きました。保証人となっている両親に家賃を肩代わりしてもらうという提案も、いったん実家に帰って生活を立て直すという提案もNO。ついに十影が「家賃が払えないのに夢がどうとか言ってないでさっさとアパートを出て行くべきですよ。悪あがきをしないで現実を見るべきっす」と言ってしまいました。
永瀬はパワハラにならないようにと我慢していますが、風に吹かれて「無駄に思えることも、振り返ってみれば意味や価値があったなんてこと、いくらでもあるんだよ! 仕事で結果も出したことのない奴に何が分かる? お前なんか本当は失敗が怖くてかっこつけてるだけだろ! そんな奴もう辞めちまえ」と十影を面罵。十影も「じゃ、辞めます」と切り返します。
「家賃を払えない私は、夢をあきらめなきゃダメですか?」と食い下がる明日美。そんな彼女に十影は意外な言葉を返します。「逆っす。夢をかなえるために、あのアパートを出るべきだって言いたかったんすけど。滞納している家賃を払うために、朝から晩までバイトしてんすよね? それでも全額は払えない、借金は残る。しかも、その間、舞台のことはできてないっすよね? なんか違くないっすか? あのオーナー、出て行くなら滞納金はチャラでいいって言ってんだし……。それだと、選択肢は決まってくるっつーか……」
ここで風に吹かれた永瀬、明日美に「通訳しますと、あの部屋を出て今より安い物件に引っ越す以外に選択肢はないということなんです!」と説明しました。
その後の話し合いで、明日美は今より1万4,000円安い4万5,000円の物件を紹介することになりました。立地は悪いものの、リフォームもされて防犯カメラも設置されています。明日美は「みなさんにこれほど寄り添っていただけて……今、とてもうれしくて」と泣き崩れました。
永瀬はオーナーに「昭和の大家は地方から出てきた若者の親代わりのような存在で、学業や就職、懐具合まで心配した」と言いましたが、令和の時代にその役を担っているのは、まさに永瀬たち「カスタマーファーストな正直不動産」であるように感じた一幕でした。
ただ、「すぐに退去するなら滞納家賃(17万7,000円)はチャラにする」というオーナーの提案も、実はかなりの恩情が込められたものではないでしょうか。明日美はこのオーナーにも大いに感謝するべきでは、とも感じました。もちろん、敷金(賃料の未払いや退去時の原状回復費用に備えてオーナーや管理会社に担保として預ける費用)から差し引かれるのでしょうけど……。