家や不動産を売る理由はさまざまです。「子どもが増えたので今の家では手狭になった」「結婚したので独身時代に買ったマンションでは狭すぎる」というお祝いごとにちなんだ理由や、「定年を機に、今よりもっと海や山に近い場所に住みたい」「便利な都心のマンションに住み替えたい」というライフスタイルの変化に対応する理由。さらに、近年の老齢化・少子化と密接な、「子どもが独立したので一軒家では広すぎる」「相続した実家を売りたい」という理由や、「事業に失敗したので売らざるを得ない」「離婚による財産分与のため」などなど。
こうして理由を挙げてみると、そこには持ち主にとって大切な人生のドラマがあるように感じます。
そんなさまざまな理由で家を売ることを決めた人々にとっての共通の願いは、「できるだけ早く、できるだけ高く、家を売りたい」ということではないでしょうか? そこで今回は、そんな願いが叶うように、不動産を売却するコツをご紹介しましょう。

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不動産会社の選定が一番のポイント
家を売りたい人にとって、不動産会社とその担当者は「売買を成立させる」という共通の目的を達成するための大事なパートナーとなります。つまり、お互いに信頼関係を築くことができる優秀な不動産会社を見つけることが、売却の一番のポイントなのです。では、どういうところに注意すれば、「ここは信頼できる優秀な不動産会社だ」と判断できるのでしょうか?
優秀な不動産会社を見つけるためには、テレビやインターネットの広告、友人や知人・口コミサイトなどの評判も大切な情報となります。
しかし、一番確かな方法は、いくつかの不動産会社と対象物件について直接会話をしてみて、自分で判断することです。どれくらいの価格で販売できそうかという査定価格とその根拠、得意としているエリアや成約例、賃貸した場合の収益見込み、広告戦略とターゲット層、仲介手数料など、売却に関して積極的に質問をすることが重要です。
はじめての不動産売却ともなれば、「わからないことがわからない」状態だと思いますが、信頼できる不動産会社であれば、客観的なデータや実績に基づいて、真摯な対応をしてくれるはずです。担当者の人となりも自ずと知ることができるでしょう。 1社だけではなく複数の会社と話をして、自分に合う会社を見つけましょう。
不動産会社との媒介契約の種類とそのメリット
不動産会社が決まると、媒介契約を結ぶことになります。不動産会社との媒介契約は3種類あり、契約の種類によって受任する会社のモチベーションや営業活動にも影響を与えかねないため、それぞれの契約の特徴を認識したうえで、どの媒介契約を選択するのかを決めましょう。
一般媒介契約
一つめは、「一般媒介契約」です。依頼者は1社だけではなく、他の不動産会社とも重複して契約ができます。そのため、1社の情報だけに頼ることなく、多くの不動産会社の人脈や情報を利用することができます。
一方で、不動産会社にとっては、多くの労働力とコストをかけても他の不動産会社が成約してしまえば、見返りがない契約となってしまいます。法的には業務処理状況の報告義務や、国交省令による指定流通機構の不動産物件検索システム(レインズ)への登録義務がないため、自社の情報網のみに頼って、積極的な営業努力をしない可能性もあります。
専任媒介契約
二つめは、「専任媒介契約」です。依頼者は、他の不動産会社との媒介契約ができません。自分自身が見つけてきた買主と売買取引を実施すること(自己発見取引)はできますが、仲介で不動産会社を入れる場合では、媒介契約を締結した不動産会社に必ず報酬を払います。不動産会社にとっては、ほぼ報酬が約束されたような契約なのです。従って、依頼主の利益を保護するために契約期間は3ケ月以内であり、依頼者の申し出がない限り更新はできないと定められています。
不動産会社の報酬を保証する代わりに期間を3ケ月に限定することで、その期間の営業努力を促す規定となっていて、レインズへの登録は7営業日以内、2週間に1回以上の業務処理状況の報告が義務づけられています。また不動産会社が情報を囲い込んで、自社の顧客のみに営業活動をすることがないように、レインズへの登録義務も課されています。
専属専任媒介契約
三つめの「専属専任媒介契約」では、依頼者の自己発見取引が禁じられており、売買が成立した場合は、必ず不動産会社に報酬が支払われることになります。不動産会社の営業活動を促すために、レインズへの登録は5営業日以内、業務処理状況の報告義務は1週間に1回以上と、専任媒介契約よりもさらに厳しい条件が定められています。
例えば、交通の便が良くて築年数が浅い物件などは、一般媒介で多くの不動産会社と契約して、競争原理を働かせた方が早く決まる可能性が高まるかもしれません。郊外の一軒家などは、そのエリアでの成約率が高い不動産会社と専任媒介契約をした方が、きめ細かい営業が期待できるため、早く決まることが多いでしょう。 物件の特色に合わせた媒介契約を選択することで、物件を早く販売することが期待できます。
販売条件で大事なのは、やはり価格設定
買主にとって、購入を決める重要なポイントは「価格」です。物件の価値・内容・近隣の相場に見合った適正な価格が設定されていれば、魅力的な物件となります。このため売主にとっても売買価格の設定は、早く・高く物件を売るための大事なポイントです。
不動産会社は、売買価格について意見を述べるときには、固定資産税評価や地価公示価格、路線価、近隣の取引事例などの根拠を明確に提示する義務があります。売主はそれを参考に、「売りたい価格」と「売ることができる価格」にギャップがある場合は、それを正しく認識し、価格設定をすることが重要なのです。
一括査定の「使い方」には要注意
ここ最近は、不動産価格の「一括査定」と銘打ったWebサービスが増えています。一度の申し込みで、そのサービスに登録している複数の不動産会社が簡易査定をして、連絡をくれるサービスです。自分で不動産会社を調べなくてもよく、一度の申し込みで複数の不動産会社から査定を受けるので、ある程度の相場観を知ることができるというメリットがあります。
しかし、一括査定のWebサイトを運営する主体は、不動産会社でないことが多く、「不動産会社からの広告収入」と「売主と物件の(見込み客の)情報の提供料」を稼ぐビジネスモデルであることがほとんどです。つまり、こうしたWebサイトの運営者自体は、査定結果に責任を持つことがありません。また、Webサイトと契約して査定を連絡してくる不動産会社も、その査定はあくまで概算査定であり、正式な査定は後日ということになっています。
そのため、一括査定サイトを利用している不動産会社の中には、見込み客から媒介契約を獲得するために、概算査定では相場より高めに設定してお客の注意を引き付け、正式な査定では値を下げる、あるいは高値でいったんは売り出してから様子を見て価格を下げる、という手法を取るケースがあります。
そうなってしまっては、結果的に早く、そして高く家を売ることは叶いません。一括査定サイトで一番高値をつけてくれた不動産会社だからと安易に契約をすると、そういう羽目に陥らないとも限りませんので、注意が必要です。
また、媒介契約を見込んで正式な査定を依頼する不動産会社を絞り込む場合は、事前にその会社のWebサイトを検索し、会社概要や沿革、従業員数やどんな物件が専門なのか、内容や実績などを自分の目で確認するという作業が重要です。大事な財産ですから、そのくらいの手間は惜しまない方がよいということですね。
これまで見てきたように、不動産会社の選定、媒介契約の選定、価格設定を上手に実施することが、早く・高く家を売るポイントです。不動産売却の基本的な流れとしては、
- 評判やネット情報等で気になった不動産会社に簡易査定を申し込む (一括査定には、要注意)
- 相談した中で査定価格の説明や根拠が明確な不動産会社を絞り込んで、正式な査定を依頼する
- 不動産会社・媒介契約の種類を選択し、契約する
- 媒介契約した不動産会社と情報交換を密にして、売却を成功させる
というステップで進めることになるでしょう。
早坂龍太(宅地建物取引士)
龍翔プランニング 代表取締役。1964年生まれ。1987年北海道大学法学部卒業。石油元売り会社勤務を経て、2015年から北海道で不動産の賃貸管理、売買・賃貸仲介、プランニング・コンサルティングを行う。
監修 :不動産流通システム