不動産業者が不動産の売却依頼を受けた場合、宅地建物取引業法ではその業者に対して、定期的な業務報告とともに、売却物件に購入申込みがあった場合にも報告が義務づけられています。

 

ところが、不動産売買の現場では、申し込みがあっても売主に報告しない悪徳業者がいるばかりか、法知識すらない業者が数多く存在します。売主と買主は、どのような不利益を被ることになるのでしょうか。不動産業界歴30年の筆者が、実際の取引現場での体験をもとに詳しく説明します。

 

買付申込書を握りつぶす不動産会社

(写真はイメージです)

 

宅建業者にはどのような報告義務があるのか

 

そもそも仲介の契約を交わした宅建業者(不動産業者)は、どのようなことを売主に報告しないといけないのでしょうか。

 

よく知られているのが、締結した媒介契約の種類によって義務となっている「売却業務状況の報告」です。媒介契約には下表の3種類があり、依頼者の事情や好みによって選ぶことができます。契約別の特色と報告頻度なども表に記載しましたので、参照してください。簡単に言うと、左から右に行くに従って、業者への依存度が高まっていきます。

 

媒介契約の種類 一般媒介契約 専任媒介契約 専属専任媒介契約
報告義務 なし あり あり
報告頻度   2週間に1度以上 1週間に1度以上
レインズ登録義務 なし あり あり
他社への依頼 不可 不可
自ら発見した
買主との契約
不可

 

 

業者が売主に報告する内容は、広告などの販売活動や問い合わせの数、物件内見数などです。一般媒介には報告義務はありませんが、売主から問い合わせがあれば、業務状況を伝えないといけないことになっています。よって、一般媒介で契約した場合でも遠慮せずに、電話やメールで状況を尋ねてみてください。

 

このような業務状況報告は業者内では「定期連絡」などと呼ばれ、専用の報告書面やメール定型文が用意されています。日常業務となっているので、報告義務を怠る業者はほとんど存在しません。

 

ところが、媒介契約とは別に、宅建業法で定められている「購入申込みに対しての報告義務」については、多くの業者で実行されているとはいえないのが現状です。購入の申込みといえば、売却成立に向けて一歩前に進んだ状況への変化といえます。にもかかわらず業者は、申し込みの存在を無視してしまうのです。繰り返しますが、これは法律で定められた行為です。なのに、まともに行われていないのです。

 

なぜ「購入申し込み」は無視されるのか?

 

その目的はただひとつ。この「不動産のリアル」でも頻繁に指摘されている「両手仲介」を実現するためにほかなりません。業者が売買成立の際に受け取る仲介手数料は、売主と買主の両方に請求できます。ひとつの物件の売買で、自社で扱う売主と買主をマッチングさせられれば業者の利益も大きくなります。

 

この両手仲介をやるために売主に不利益を押しつける商慣習が、「囲い込み」や「干し」と呼ばれるものです。「囲い込み」とは、自社の顧客で売買を成立させるために、他社に物件を紹介しないこと。「干し」は売主に価格設定に問題があると認識させる(値下げを促す)ため、売却依頼を受けても広告などを行わないことです。

 

しかし当然ではありますが、業者は売主から売却依頼を受けたら、広く契約の相手方(買主)を探す努力をしないといけません。そのためにレインズ(国土交通省指定の不動産業者専用の物件流通情報システム)があり、そこに登録された売却物件は、加盟業者であれば自由に買主に紹介できることになっています。

 

そうして売買が成立すると、売主側の業者と買主側の業者のそれぞれが、顧客から仲介手数料を受け取ることになります。これを自社利益優先業者は嫌がるのです。つまり、売り買いを同時に担当する両手仲介に比べて手数料額が半分になってしまうために、他社へは自社物件の紹介を行わない「囲い込み」が行われるというわけです。

 

このような囲い込みは、売却依頼者の利益ばかりでなく、買主の購入機会を潰す悪習です。そのため以前から国土交通省や宅建協会などから、繰り返し「囲い込みは違法である」との通達が出されていました。

 

ところが自社利益優先業者の手口はどんどんと巧妙になっていき、他社への紹介はしても、いざ購入の申込みとなったら、途端にまともに取り扱わなくなる事例が多数みられるようになったのです。

 

具体的には、申し込みが入っても売主には報告せず「売主から断りが入った」「その申し込み金額では売主さんは売らないと言っている」などと嘘八百の作り話で買い手側に断りを入れ、契約の機会と可能性を潰してしまうのです。

 

これが「申し込み無視」、「売主への申し込み報告つぶし」の実態です。他社からの申込みを断った業者は、両手仲介となる自社顧客での申し込みが入ったなら、それが最初に断った他社申込みの申込み金額より低い額であっても(=売主の希望売却価格を下回っていても)必ず売主に報告します。

 

申し込み書面を持って売主宅を訪れ、そして何食わぬ顔で「あなたの希望売却金額より下回ってはいるが、ぜひ契約すべきだ」と売主に迫るのですから、非常に悪質であるとしか言いようがありません。

 

法改正で「購入申し込み」の報告が義務化

 

こうした囲い込みや申し込み無視といった不動産業界の悪習は、依頼者(お客)の利益を著しく損ないます。ところが、テレビCMなどで有名な大手仲介業者の手数料率(1件の売買契約で業者が領収する仲介手数料の割合)は、軒並み4%を超えています。

 

契約の片側から領収できる手数料の上限は売買価格の「3%+6万円(税別)」ですから、大手各社がいかに両手仲介にこだわっているか、そして囲い込みなどの行為を堂々と行っているかの証左となるでしょう。業界を主導すべき立場の大手ほどこの悪習をやめないのですから、囲い込みがなくなるわけなどありません。そのため国もその実態を重くみて、平成28年に「書面による申込みがあった場合は、業者は売主にその旨を報告しないといけない」という法改正を行いました。

 

しかし法律が変わったといっても、国土交通省の担当者が業者の事務所や店内に出向き、業務状況を監視するわけにはいきません。そのため、法改正後も他社からの購入申込みは、相変わらず業者の意向しだいとなっているのです。実際の不動産売買の現場でどのようなやりとりが行われているのか、実例をご紹介します。

 

実例告発その1。仲介会社と建設会社がグル

 

神奈川県に土地を持つAさんは、相続した古家付きの土地50坪を売却することになりました。数社に査定依頼を出し、その中で感じの良かったB社に専任媒介で任せることにしました。

 

そして売却スタートから1カ月。定期報告によると物件見学者は数十組にのぼり、これなら早期に売却できそうだとAさんは喜んでいました。ところが、その後いくら待っても購入申込はありません。たくさんの購入希望者が見に来ているのにどうしてなのだろうと、Aさんは不思議で仕方がありませんでした。

 

しかしこの間に業者には、購入申し込みが2件も入っていたのです。1つは近隣に住むCさん、もう1件は都内から見に来たDさんで、2組とも希望額は4,800万円と、Aさんの売却希望額5,000万円から200万円値下げの価格交渉のある申込みでした。

 

200万円の値下げ程度なら、Aさんは応じるつもりでした。ところが業者はその申込みをAさんに告げることなく、4,200万円の別の申込書を持って、Aさんの自宅を訪れてきたのです。

 

名義はX建設株式会社。Aさんの土地を2分割し、新築住宅を2棟分譲しようという思惑を持っていました。周辺相場を考えると土地仕入れ価格が4,500万円を上回ると収益的に厳しくなるため、4,200万円で価格交渉を申し入れてきたのです。

 

売主にとってはX建設株式会社の4,200万円より、Cさん、Dさんの4,800万円の申し込みのほうが条件がよいのは誰でもわかります。しかも3者ともB社の自社顧客です。どの顧客で契約しても、B社は両手成約となるのです。ならばどうしてB社は、一番条件の悪いX建設株式会社の申込みを優先したのでしょう。実はB社とX建設株式会社との間には、新築分譲2棟の販売をB社に任せるとの約束があったのです。

 

土地の仕入れ契約に加えて新築2棟、合計3件の契約を仲介することができます。B社にとっては1粒で3度おいしい契約となるため、売主の利益などどうでもよいというわけです。これが価格の安い業者買取りを優先した理由です。

これが「申込み無視」の一例です。結局Aさんは知らずの内に、600万円もの金額を損してしまいました。

 

残念ながらこうした申込み無視は、不動産業界ではなかば常態化しています。特に建売住宅が可能な土地やリノベーション可能なマンションの売却では、かなりの割合で個人の買主よりも業者買取りが優先されています。法改正などどこ吹く風で、自社利益を優先する業者が後を絶たないのです。

 

どの媒介契約でも「購入申込み」の報告は法的義務

 

一般媒介に通常の業務処理状況の報告義務はありません。しかし、書面による購入申込みがあった場合は別で、不動産業者はそのことを売主に報告しないといけないのです。「この申し込み金額では売主は納得しないだろう」と、業者が勝手に判断して報告しないケースも目立ちますが、それもあってはならないことです。たとえそれが売主の希望額を大きく下回る額だとしても、その是非を判断するのは売主であって、業者ではないのです。

 

むしろ、「売主の希望額を大幅に下回る申込みが続くようであれば、それが相場価格なのだ」と売主にきちんと説明することこそが、業者の本分ともいえる仕事なのです。相場より高い価格であれば、買おうという人は現れません。売れるはずのない高値をつけていることを売主が知らなかったり、知る機会を与えてもらえなかったりということは、売主にとっても不利益なことといえます。

 

したがって売却を業者に依頼する際には、きちんとした相場の説明をしてくれ、囲い込みや干し、無視を行わない誠実な業者を選ぶことが重要です。では、そのためにはどうしたらよいのでしょう。最後にその対策を説明して、この記事を締めようと思います。

 

実例告発その2。客への迷惑行為をためらってたら会社がつぶれる業界構造

 

筆者は某私鉄系の大手不動産仲介業者での勤務経験があります。その際の囲い込みはひどいものでした。媒介を受けたらレインズ登録を遅らせるために契約書に日付を入れない、建売用地やリノベーション可能なマンションは媒介即購入申込扱いとし、買取り業者へのセールスを終えるまでは他社への紹介は全てお断りといった状況でした。

 

買い取りでの申込みが入ると、売主への干し(焦らし)が始まります。「案内はあるが決まらない」「問い合わせもなく見向きもされない」などの嘘の業務状況報告を行い、もちろんチラシやネット広告などにも物件情報は掲載しません。

 

売れない日々を売主に経験させることによって、「売主に価格設定が高すぎたのだろうか」という意識を植え付けていくのです。そして頃合いを見て業者は、買い取りの申込書を持参して売主を訪問します。「高すぎるのでは」と思い始めていた売主心理を上手にあおり、価格交渉を成功させ、買い取り契約を成立させるのです。こうしたやり方はどこの会社でも似たようなものでした。この業界は横のつながりも多く、同業他社に聞いたところ、大手各社だけでなく、中堅業者や地域密着業者も「右へならえ」だったのです。

 

売主自身が不利益を被らないように

 

したがって売却にあたってご自身が不利益を被らないようにするには、物件情報を社内に留まらせないよう、購入申し込みを無視すると業者側が不利になってしまうように仕向けることが重要です。ひとつの方法は、専任や専属専任は避けて、一般媒介で売却依頼を出すことがあります。一般媒介だと複数社への依頼が可能です。他社と成果を競わせれば、業者も両手成約になどにこだわってはいられません。申し込みが入ったらすぐに売主に報告しないと、他社に契約を持っていかれてしまうからです。

 

ただし、一般媒介で売主が複数の不動産会社と媒介契約をした場合、売主自身が不動産会社とのやりとりなどの販売活動の管理をする必要があるという意味で、より手間がかかるというデメリットもあります。また、一般媒介で依頼した各社が、競って販売活動を行う状況に持って行くためには、相場的に魅力のあるよう価格設定する必要があります。業者には「早くしないと他で売れてしまうかもしれない」と焦らせないといけないのです。

 

一般媒介で重要なのは、価格査定時に相場の説明をよく受け、売れる価格を売主自身がきちんと認識しておくことです。安すぎない相場価格で、かつ、各社を競わせることが、売主の利益を守ることになります。実際に売却活動が始まったら、業者のウェブサイトや不動産ポータルサイトをチェックして、ご自身の物件が掲載されているか確認をしてください。新聞折り込みの予定を問い合わせ、実施状況を確認することまでやればバッチリです。

 

こうした一般媒介の利用は、どちらかといえば売却経験のある売主の方向きといえるかもしれません。売却が初めてとなる方にとっては、本来は信頼できる不動産会社、営業マンを見極めて、一元管理が可能な専任媒介を活用するのが有効な選択といえるのです。ただし、業者に任せたから安心、ではないのだと肝に銘じてください。自分の資産は自分で守る。そうした姿勢こそが、悪質な業者に売却依頼をしないための心構えといえます。

 

 

伊東博史(宅地建物取引士)
大手不動産仲介会社で売買仲介に約10年間の勤務。のべ30年間以上にわたり、大手と中小、賃貸と売買と、多角的に不動産業務に携わる。現職では売買と賃貸仲介と管理、不動産投資や相続のアドバイスを行う。

 

 

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