「ホームステージング」は、中古マンションの「売却必勝法」として注目を集める販売促進策の1つです。平成25年頃からテレビやインターネットで紹介され始めました。
マンション売却の際には、誰しも「早く」「高く」売却することを目指します。そのためには、「ホームステージング」の内容やメリットを理解し、その利用を検討してみるのも必要かもしれません。

(写真はイメージです)
ホームステージングとは何か
「ホームステージング」とは、売却しようとする中古マンションを、新築マンション販売時のモデルルームのようにプロの手でインテリアコーディネートし、マンションの魅力を最大限かつ具体的に買主にアピールするサービスです。
一般のインテリアコーディネートとは、家具や小物などのインテリアを、所有者の生活様式や趣味、嗜好に合わせて配置することを意味し、所有者が心地良く生活することを第一に考えて実施されます。
これに対し、ホームステージングにおけるインテリアコーディネートは、「マンション本来の魅力をアピールすること」を目的とします。そのため、売主の趣味や嗜好は考慮されません。
事前の調査に基づき買主像を設定し、マンション本来の魅力がどこにあるのか、その魅力をどうやって買主にアピールするかを主眼として実施します。いかに買主に、その家での生活を具体的に想像させ、より良く印象付けるかが重要なのです。
ちなみに、ホームステージングの本場といわれるアメリカでは1980年代から実施されており、スウェーデンでも、中古住宅売買の約80%で実施されています。中古物件の売買比率が高い欧米では、ホームステージングもまた一般的で、専門業者も数多く見られます。
マンション売却におけるホームステージングのメリットとは?
ホームステージングのメリットは、ズバリ一般の販売手法に比べて「早く」「高く」売却できることです。
物件の内覧に行く多くの買主は、その物件の予算や立地といった購買条件をおおむねクリアしています。
それでも、内覧から購入に至らない理由の多くは、「具体的な生活のイメージを持つことができない」「想像していたよりも良いイメージが持てない」など、マンションの実像と抱いていた期待にギャップがあったからでしょう。ホームステージングは、買主により美しい生活空間を具体的に印象付けることを可能にし、このギャップを解消するものです。
ホームステージングの実施により、買主は具体的な生活イメージが目の前にあるため、自分に合うか合わないかの意思決定は一般的に早くなるという効果があります。
中古マンションの売却に要する期間は平均90日といわれますが、ホームステージングを実施した場合、45日前後で販売が可能とされています。業者のセールストークという面を割り引いても、売主にとっては、この差は魅力的です。
また、ホームステージングを実施しているマンションは、高く売れる傾向があるといわれています。住宅への印象を良くし「手に入れたい」という気持ちを強めるため、買主が値引きを強く要望しない傾向があるようです。実際、欧米では相場よりも20%前後高い価格で取引されるといわれています。
ホームステージングの費用はどのくらい?
ホームステージングの依頼内容は通常、以下の通りとなっています。
(1)調査・相談(コンサルティング)
(2)清掃・整理・収納
(3)インテリアコーディネート
(4)インテリアのレンタル
(5)設営
(6)内覧会の運営・開催のサポート
(7)売主の家具・荷物の一時預かり
(8)インテリア購入の斡旋
これら一連の手順を細分化し、「コンサルティングだけならこの価格」「インテリアコーディネートまでならこの価格」「フルコースならこの価格」と価格を定めている会社が多いようです。
ある専門業者のサイトを確認したところ、料金はコンサルティングだけでも5万~10万円程度、フルコースで売買価格の1~2%程度のようです。統一価格のようなものはなく、業者ごとに自由に価格を設定しています。
不動産会社の仲介手数料が3%+6万円だとすると、フルコースならば、仲介手数料の半額程度が必要になる計算です。しかし、ホームステージングで販売価格が本当に約20%も高止まりすると考えれば、このコストも合理的なものと考えられるかもしれません。
20%というと、5,000万円のマンションが6,000万円で売れるかもしれないのです。1,000万円高く売れる可能性に対してホームステージング代2%(120万円)をどう判断するかは売主次第でしょう。もちろん20%増が保証されているわけではなく、あくまで期待値です。
ホームステージングが可能なエリアは?
日本でのホームステージングの歴史はまだ浅く、2010年代の初めから実施され始めたばかりです。2013年に、民間団体の(一社)日本ホームステージング協会が設立され、業界団体の体裁が整ってきました。マスコミで取り上げられる機会も増えています。
専門業者も、東京・大阪などを中心に増え始めていますが、コストやインテリアコーディネーターの問題から、まだまだ都心部に多く、地方都市では対応可能な業者の選定に苦労する状況です。今後もしばらくはそうした状況が続くのではないでしょうか。
ホームステージングの今後の動向について
マンション開発を主とする不動産会社が、ホームステージングに本格参入する動きがあります。新築マンションでのモデルルーム設営・インテリアコーディネーターとの連携・営業のノウハウを活用し、中古マンションを「早く」「高く」売れるホームステージングの特色を、売主へのメリットの1つとするものです。
大京グループは、2016年10月グループの事業方針説明で、大京穴吹不動産と大京リフォームデザインの2社で、ホームステージング事業に進出することを発表しています。
また、野村不動産アーバンネット株式会社では、一定のエリアや売却価格などの要件に当てはまるマンションについて、無料でホームステージングを利用できるサービスを2014年から実施しています(無料といっても仲介手数料の範囲内ではありますが)。
不動産仲介業者にとって、仲介手数料は売買価格に比例して増加し、販売経費は販売に至るまでの期間が短いほど少なくてすみます。「早く」「高く」販売できるホームステージングは、仲介業者にとっても魅力的な手法といえるでしょう。今後もこうした不動産会社のホームステージングの導入例は増加していくと予想されます。
中古マンションの売却とホームステージングの発展
日本の住宅市場は、老齢化・人口減少・建築費の上昇などを背景に、中古物件の流通が増加するといわれています。そして、住宅性能の適正評価やリフォーム・リノベーションによる付加価値アップが、中古マンションの流通を促進させる手法として注目されています。
しかし、リフォームやリノベーションは、高い工事費用をかけても売価に反映できるかどうかは不確実で、売主にとってもリスクが大きいものです。そのため、リフォームやリノベーションを実施するのは売主ではなく、転売目的の買取業者であるケースが多くなっています。
工事費用についても、売主個人よりも、依頼件数の多い買取業者の方が安価で実施できるという事情もあります。こうした買取業者が行うリフォームやリノベーションによる利益は、残念ながら売主に還元されることはありません。
ホームステージングは、インテリアコーディネートによるイメージの向上ですから、リフォームやリノベーションほど費用をかけずにマンションの付加価値を高めることが可能です。そして、その付加価値は売主に還元される仕組みです。
都心部の高価格帯のマンションを中心に、ホームステージングの需要は今後とも広がっていくと予想されます。皆様も、中古マンションを売却する際には、ホームステージングの利用を不動産会社と検討してみてはいかがでしょうか?
■マンション売却フローの詳細は「マンション売却で知っておきたい3つのポイント」をご参照ください。
早坂龍太(宅地建物取引士)
龍翔プランニング 代表取締役。1964年生まれ。1987年北海道大学法学部卒業。石油元売り会社勤務を経て、2015年から北海道で不動産の賃貸管理、売買・賃貸仲介、プランニング・コンサルティングを行う。
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