専任媒介契約とは、不動産売却を1社の不動産会社に任せる契約です。他の不動産会社に依頼できないため、売却活動の窓口が一本化され、情報が整理されやすくなります。また、不動産会社には売却状況の報告義務があり、売却活動の透明性が向上します。その結果、迅速な売却が期待できる一方、不動産会社の対応力が売却の成否を左右するため、信頼できる会社を選ぶことが重要です。
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専任媒介契約とは
宅地建物取引業法(「宅建業法」)でいう媒介とは
不動産の売買や賃貸を実施しようとする場合、多くの方は、不動産会社にご相談しようと思うことでしょう。一般に、いわゆる不動産業は、業態別に、開発・分譲・賃貸・管理などに大別されます。
このうち、宅地建物取引業法(以下「宅建業法」といいます)では、宅地または建物を
- 自ら「売買」「交換」
- 媒介して「売買」「交換」「賃借」
- 代理して「売買」「交換」「賃借」
を業として行う場合は「免許」を受ける必要があると定められています。
この「免許」を受けた宅建業者を、社会的には、不動産会社と見做すといってもよいでしょう。ちなみに自己が所有する物件だけを賃貸借する場合は、免許を受ける必要はありません。いわゆる大家さんは宅建業の免許を受ける必要はないのです。
「媒介」とは聞きなれない言葉ですが、宅建業法上の専門用語であり、「仲介」と同様の意味と考えていただいて結構です。宅地・建物といった不動産の売買や賃貸について、取引の当事者の依頼に基づいて、取引の相手方を見つけ出し、金額やその他の条件を整えて契約の成立に向けて努力し、契約に必要な資料や書類を整備し契約を締結させる業務を行います。宅建業法では、こうした業務を「媒介」といい、その報酬を「媒介報酬」といいます。「仲介手数料」と一般にはいわれています。
宅建業者は、売主や買主などといった依頼主から媒介の依頼を受けると、依頼主と媒介契約を結び、宅建業法で定められた事項を明記した契約書を交付しなければなりません。これを「媒介契約書」といいます。
媒介契約には3つの分類
媒介契約は、以下の3種類に分類されます。
1. 一般媒介契約
媒介を他の不動産会社に依頼できる媒介契約
2. 専任媒介契約
ひとつの不動産会社にだけ媒介を依頼することができ、他の不動産会社には依頼できない契約
3. 専属専任媒介契約
専任媒介契約の中でも自己発見取引(依頼者自らが取引の相手先を見つけること)も禁じたもの
不動産会社は、媒介契約締結の際に、その内容や3種の媒介契約の相違点を説明し理解を得ることを求められています。
それぞれの契約の特徴
それぞれの契約の特徴としては、専属専任 > 専任 > 一般の順番で、依頼主は、不動産会社の採用・選択について契約に拘束されることになります。不動産会社は、その対価として依頼主に対する業務の義務が増えることになっています。
以下に媒介契約の3類型について、比較表を掲載しておきます。各契約の相違点やメリット・デメリットについては、後段で詳しく説明していきます。
媒介契約の3類型
内容 |
一般媒介 |
専任媒介 |
専属専任媒介 |
他の業者への依頼 |
可 |
不可 |
不可 |
自己発見取引 |
可 |
可 |
不可 |
有効期間 |
規制なし |
3カ月以内 |
3カ月以内 |
有効期間の延長申入 |
規制なし |
依頼主のみ |
依頼主のみ |
業務処理状況の報告義務 |
規制なし |
2週間に1回以上 |
1週間に1回以上 |
指定流通機構(レインズ)への登録義務 |
規制なし |
契約日から7営業日以内 |
契約日から5営業日以内 |
専任媒介契約のメリット
不動産の売却を依頼する場合、多くの不動産会社からは、専任媒介契約の締結を推奨されることでしょう。専任媒介契約を締結する依頼者側のメリットはどこにあるのでしょうか?
専任媒介契約のメリットは大別して以下の三つです。
- 売却のスピードが上がる
- 窓口が1本化
- 売却活動の「見える化」
(1)売却のスピードが上がる
媒介契約は成功報酬ですから、一般媒介契約の場合は、どんなに経費をかけて一所懸命に売却活動を実施しても、他の不動産会社が買主を見つけて売主と直接成約してしまえば、どこからも報酬を得ることができません。骨折り損のくたびれもうけになる可能性があります。
専任媒介契約では、依頼主はひとつの不動産会社にしか依頼ができません。したがって、他の不動産会社が売主を見つけても、買主から媒介報酬を得ることができますし、自社で買主を見つければ買主からも媒介報酬を得ることができます。
ただし、専任媒介契約は3カ月で期限が切れて依頼主側からでしか延長ができないという規定がありますから、必ず買主からは媒介報酬が得られると安心して、うかうかしているとせっかくの専任媒介契約を切られてしまう可能性があります。そのため、不動産会社としては、できるだけ3カ月以内に成約をしよう、仮に成約できなくても再契約をしてもらえるくらい一所懸命営業活動を実施し、成約に結び付く努力をすることになります。
一般媒介に比べると熱の入り方・宣伝コスト・マンパワーの注入の仕方が違う、といってよいでしょう。また、他社が顧客を紹介することも想定している媒介契約のため、買主のターゲットが広がることになります。そのため、結果的に売却のスピードが一般媒介契約に比べて早くなる傾向があります。
(2)窓口が一本化
不動産の売却は、査定、販売価格の決定、宣伝内容の決定、問い合わせ・内覧の応答、購入の申し込み、条件交渉、契約・決済・引渡に係る詳細の調整、等々、様々な段階を踏むことになります。こうした段階に応じた打ち合わせや調整・意思決定を、一般媒介契約では、複数の不動産会社と進めていかなければなりません。
専任媒介契約の場合は、一つの不動産会社としか契約ができません。そのため、売買に関する窓口は契約した会社の担当者のみ、となります。窓口を一本化することで、時間や意思決定の機会の削減となりますし、煩わしい応答や言いにくい要求なども、担当者に代弁してもらうことが可能となります。
(3)売却活動の「見える化」
専任媒介契約は2週間に1回以上、専属専任媒介契約では1週間に1回以上の書面もしくは電子メールなどによる業務処理状況の報告義務があります。
また、専任媒介契約では、指定流通機構(通称:レインズ)という宅建業者が加盟を義務付けられている専用の不動産ポータルサイトに物件の詳細を登録して広告する義務が生じます。専任媒介契約では契約締結後7営業日以内に、専属専任契約では5営業日以内にレインズに登録し、登録した内容と依頼主が直接レインズに掲載されている自分の物件を閲覧できるパスワードが記載された登録証明書を依頼主に交付しなければなりません。
また、レインズには販売状況のステータス(公開中、書面による購入申し込みあり、売主都合で一時紹介停止中等)記載の義務や、取引態様(売主・一般媒介・専任媒介・専属専任媒介のどれに該当するのか)の明示義務があります。
一般媒介契約では、不動産会社には業務処理状況の報告義務も、レインズの登録義務もありません。実際に販売状況がどのようになっているのか、どんな広告や営業を実施しているのかを把握する「売却活動の見える化」のためには、義務が明確に規定されている専任契約が望ましいといえるでしょう。
専任媒介契約のデメリット
それでは、一般媒介契約に比べて専任媒介契約にはデメリットやリスクはないのでしょうか?
長所と短所は表裏一体といいますが、専任媒介契約は「ひとつの不動産会社にだけ媒介を依頼できる」ことで様々なメリットがありますが、その特色は「ほかの不動産会社に媒介を依頼することができない」といいかえることができ、以下のデメリットを生む可能性があります。
(1)不動産会社の能力に売却の成否が左右される
他の不動産会社に媒介を依頼できない以上、売却の成否は、専任の不動産会社に依存することになります。不動産会社やその担当者の、市場に関する知識や経験、広報・販売活動や価格に関する適切な立案・展開等のマーケティング能力、依頼主や購入希望者とのコミュニケーション能力等、様々なパフォーマンスによって、売却の成否や時期が左右されることになります。
(2)契約の切り替えに時間がかかる
専任媒介の契約期間は、宅建業法で3カ月以内と定められており、一般的には3カ月が採用されています。専任契約は、自動延長は認められず、依頼主の意向によってのみ再契約は可能、と宅建業法で定められています。売却が3カ月以内にできなかった場合、依頼主が、不動産会社の能力や販売努力に不満を持っていた場合は、契約を終了し他の不動産会社に依頼しやすいように定められているのです。
しかし、その反面、媒介契約期間中には、依頼主も、不動産会社に特段の背信行為や不正・著しく不当な行為などがあった場合のみ解約ができるとされます。つまり、なかなか売却ができない、不動産会社や担当の能力に不満や疑問を持っている、という程度では、契約期間中は他の不動産会社に媒介契約を切り替えたり、並行で媒介を依頼したりすることは、契約違反となるのでできません。不満を解消するためには、不動産会社に改善してもらうか、契約期間が満了するまで待つしかありません。
(3)「囲い込み」の可能性
不動産会社は、媒介契約を売主とも買主とも締結することができます。これを業界用語では「両手取引」といいます。それに対して売主か買主かどちらか片方とだけ媒介契約を締結することを「片手取引」といいます。
民法では、利益相反の禁止という原則から売主と買主の双方を代理するような取引(双方代理)は禁止されていますが、宅建業法上では両手取引は認められています。判例では、媒介業務は依頼者を代理して売主や買主として法律行為を行うものではなく、また一方の当事者となるものでもない、単に公正中立に媒介業務を行う義務を持つにすぎない、として、両手取引を認めています。
両手取引は、不動産会社は当事者の両方から報酬を得ることができます。媒介報酬は、宅建業法によって取引高に応じてその上限が規定されています。
つまり、片手取引の報酬の最大額は定められています。一方で、うまく買主を自力で見つけて両手取引とした場合は、片手取引よりも最大2倍の報酬を不動産会社は得ることができるということです。
そこで、収益性を追求し「両手取引」を達成するあまりに、売却物件の情報を非公開とし、他の不動産屋の問い合わせには答えず、自分たちの顧客という狭い範囲だけに売り込もうとする不当な手法が業界では横行しています。これを「囲い込み」といいます。テレビでコマーシャルを頻繁に流すような大手の不動産会社でも、こうした手法を使うことが度々あり、法規制や指導が年々厳しくなっているのが現状です。
専任媒介契約は、一社にだけ媒介を依頼するため不動産会社が売却情報を他社と共有しない「囲い込み」をしやすい環境となるため、依頼者は、適切な販売活動が実施されているか不動産会社と連絡を密にしてチェックする必要があります。
専任媒介契約の有効期間
専任媒介契約の標準的な契約期間は3カ月間となっています。これは宅建業法によって定められた期間の上限が3ヵ月であることからです。特段下限については定められていないので、2カ月など短めに期間を区切るのは自由ですが、売り出し価格を定める場合は、一般に広告など販売活動を実施して3ヵ月以内には販売できると思われる査定価格を基にするため、3カ月間という期間は妥当と考えられます。
専任媒介契約では、契約満了時には、自動更新と定めることは宅建業法で禁じられています。契約の更新には依頼者の申し出が必要とされています。一般媒介契約は自動更新も可能です。
これは、専任媒介契約は専任という特権を不動産会社に与えているために、契約期間内に売却が成立しなかった場合に、
- その不動産会社と媒介契約をせず他の会社と媒介契約をする
- 一般媒介契約に変更して他の不動産会社とも契約する
- 継続して媒介を任せる
という選択肢はまず依頼主に与えられる、ということを意味します。
売却が成立しなかった場合は、報告義務やレインズの登録義務が果たされてきたか、囲い込みをしていないか、アットホームやスーモなど情報サイトへの掲載など営業活動がきちんと行われているか、価格設定や内見に対するアドバイスは的確で信頼できると感じられるか、など、総合的かつ冷静に不動産会社を評価して、契約更新するか他の方法を選択するかを判断するべきでしょう。
専任媒介における売却活動の報告義務
宅建業法では、専任媒介契約を締結した不動産会社は2週間に一度、専属専任媒介契約を締結した場合は1週間に一度、依頼者に対して業務処理状況を報告する義務が課せられています。
報告の内容は、契約の相手方を探索するために行った措置としてレインズやポータルサイトへの登録、広告活動、問い合わせの数、内見の結果や印象、価格変更等の提案・アドバイス等であり、報告書式は法的に定められていないものの、報告手法が書面か電子メールかは契約で定めるのが一般的となっています。
売却活動の報告は、依頼主と不動産会社が、売却状況や問題点を共有するために極めて重要な要因となります。逆に報告が不十分だと不信感の原因となり売却活動の成否も大きく左右するといってよいでしょう。
専任媒介契約を結ぶ際の留意点
専任媒介契約においては、国土交通大臣が告示した「標準媒介契約約款」(以下「標準約款」)に基づき、消費者保護を目的とした契約が推奨されています。不動産会社が標準約款を使用しているか、記載事項に漏れがないかを確認することが重要です。
確認すべきポイント:
- 媒介契約の種類
- 物件の表示
- 業務内容
- 有効期間
- 指定流通機構(レインズ)への登録義務
- 媒介価額
- 仲介手数料
契約書には内容や金銭に関する事項が明確に記載されている必要があります。また、不動産会社が依頼者の質問に真摯に対応し、丁寧に説明しているかを確認しましょう。専任媒介契約は高価な財産を扱う重要な契約です。不安や疑問に真剣に対応しない不動産会社とは契約すべきではありません。
専任媒介契約の解除方法
専任媒介契約を結んだものの、不動産会社が期待通りの販売活動をしてくれず、物件が売れそうにない場合、依頼者は契約を解除できないのでしょうか?
専任媒介契約は途中で解除できる?
契約期間の途中でも解除は可能です。ただし、解除に至るまでの経緯によっては、違約金などの金銭を請求される場合があります。
違約金が発生しないケースとは?
契約解除の原因について、不動産会社側に原因があった場合には違約金は発生しません。
具体例を挙げると、標準約款契約では、以下の3つを「成約に向けた義務」と定めており、
これらを不動産会社が果たさなかった場合は、契約を解除することができるとされています。
違約金が発生するケースとは?
反対に、不動産会社側に原因がなく、依頼主が契約違反をして契約解除をした場合には、違約金が発生する可能性があります。代表的なものが、専任媒介契約を締結しているのにもかかわらず、他の不動産会社とも媒介契約を締結してしまったケースです。この場合、不動産会社は依頼者に違約金を請求することができます。
費用償還
加えて、不動産会社はそれまでの販売活動の履行に要した費用について、その実費を売主に請求できるとされています。これを「費用償還」といいます。以下が対象となる項目で、明細書を作成し領収書等で金額を立証して請求するものとされています。
<費用償還の具体例>
- 現地調査に要する交通費、写真代
- 権利関係等調査に要する交通費、謄本代
- 販売活動に要する費用として新聞・雑誌等の交通費、通信費、現地案内交通費
報酬請求権
このほかに、「報酬請求権」があります。これは、媒介契約の有効期間終了後2年以内に、依頼者が不動産会社の紹介によって知った相手方と直接取引をした場合に、不動産会社は契約成立に寄与した割合に応じて相当額を請求することができるというものです。
専任媒介契約を解除する際は、これらの条件を確認し、慎重に対応する必要があります。
専任媒介契約が適しているケース
ここまで説明してきたように、専任媒介契約は、不動産会社がより真剣に販売活動に取り組み、依頼主との信頼関係を構築しやすい契約です。
適しているケース:
- 迅速な売却を希望する場合
- 条件が悪い物件(郊外、築古など)で細かな営業や工夫が必要な場合
- 窓口を一本化し、手間を減らしたい場合
専任媒介契約の締結時には、不動産会社の信頼性や説明の丁寧さをよく見極めることが重要です。
プロフィール
早坂 龍太(宅地建物取引士・賃貸不動産経営管理士)
(株)エー・エムコーポレーション代表取締役。北海道大学法学部卒業。石油元売会社勤務を経て、北海道で不動産の賃貸管理、売買・賃貸仲介、プランニング・コンサルティングを行う。