分譲マンションで外国人の所有者、居住者が商習慣や文化の違いから、マンション管理上の問題となるケースも少なくない。外国人の区分所有者の管理費の未納の問題や、いま話題のAirbnbで、区分所有者がホストとして貸し出すことになった場合の問題点や中古マンションを購入する際の管理状況の見分け方について神戸靖一郎弁護士に聞いた。
マンション管理規約でAirbnbのホスト利用を制限できるのか
Q.外国人がマンションを購入した後で、管理費を払う習慣がないため、管理費を払わないというケースはありますか?
神戸弁護士:あるにはありますが、それは外国人には限らず、日本人でも払わない人がいます。確かに文化の違いで、管理費を払う習慣がないという人はいますが、根拠を示して説明すれば、わかる人がほとんどです。もともとキャッシュを持っているので、日本の商慣習をきちんと説明すれば済みます。それは知識の差であって、国柄とかそういう問題ではないと思います。
実効性には疑問―管理規約でのAirbnbの利用制限
Q.マンションの管理規約でAirbnbなどの民泊のホスト利用を制限する動きがありますが、どう思われますか?
神戸弁護士:規約で規制することは形式的にはできますが、実効性があるかというと、疑問です。管理規約で規制をして、違反をしたら裁判手続をして、サンクションが与えられますが、管理組合自体が使用禁止を自力で執行する権限はありません。裁判所を通すので時間がかかり、なかなか難しいです。
使用禁止に至らせるまでには、少なくとも半年から1年はかかると考えられますし、そもそも使用禁止の措置が取れるのかという点も微妙です。判例もまだよくわからない。弁護士がいくらで受ける案件かというと、着手金30万円と報酬20万から30万円、少なくとも5、60万円の事件です。「○○さんがAirbnbをやっているから、50万円、60万円かけて止めようよ」という話になるかというと、難しいですね。
対象が1戸だけで「○○さんを絶対に追い出したい」という話でまとまっていればいいですが、タワーマンションで1戸だけがAirbnbをやっているとは、あまり考えられません。複数いた場合、1人につき5、60万円かけて処理するのかというと、あまり現実的ではないです。
あるマンションで現行の管理規約にこの点を織り込んだものを作り、それを大手経済紙が取材したので話題になっていました。あれは、狭いスペースに入居者をいっぱい詰め込む、いわゆる「脱法ハウス」を禁じた規約を少し変えたものです。
先日依頼があって似たような規約を作りましたが、今後、どこの管理会社でも同じような規約を入れるようになるのではないか、という話を住宅ジャーナリストの榊淳司氏から聞きました。
懸念されるセキュリティーの侵害
Airbnbの利用で一番大きな問題は、セキュリティー面ですね。旅館業法はAirbnbを想定していない法律なので、もちろん法に触れるケースが多いと思いますが、実質的な害悪を考えると、セキュリティーを無効化し、セキュリティーホールを作り出す方法であるというのが、一番の問題だと思います。
今のタワーマンションはエレベーター自体にカードキーが必要で、7階のキーだと7階にしか開きません。これは8階の人が7階に泥棒に入れないように、変なことをしないように、という趣旨なのに、Airbnbでは1日1万円で7階の住戸を簡単に借りることができるという話になったら、意味がなくなります。
高価なセキュリティー装置の、セキュリティーホールになってしまう。それを防ぐ手段がないのは大きな問題ですから、事件が起きた場合には、法改正があるのではないでしょうか。
Airbnbを使った窃盗とか、Airbnbを使ったストーカーが出てくるかもしれません。○○さんのマンションにストーカーに入りたい、痴漢に入りたい、と思ったときに、Airbnbで隣の部屋が出ていれば、簡単です。そういう事件が起きたら一定の法規制がされるのでしょうね。
遅々として進まない「標準」管理規約の改正
管理規約のしくみというのは、区分所有法に規定されていて、国土交通省が規約の標準モデルを出しており、多くのマンションはそれに準じた規約を作っていますが、大手のデベロッパーはそれをさらにカスタマイズした独自規約を作っています。
標準管理規約というのは、改定が非常にゆっくりで、新しい流れについていかないので、独自の内容を入れるわけです。
なお、標準管理規約の改定について議論がされていることは、ご存じでしょうか。ただ、この議論で意見が分かれていて、時間がかかっています。前回の平成23年に内容改定されてから、4年経ちます。その間に、現実はいろいろ動いていますが、管理規約には利害関係者が非常に多いので、影響力が大きく、法律に近い意義があるので、改定内容の合意形成にも時間がかかるようです。
意見が分かれている内容は、「コミュニティー活動条項」というものです。マンション管理組合は、無機質な組合ではなくて、コミュニティーが形成されているので、暮らしやすく、セキュリティーの面でも安心となるといった内容です。
具体的に何かの措置があるわけでもない、理念的な条項ですが、その部分を削るかどうかといった意見の対立があるようです。
中古マンション購入時の注意点は?
Q.ところで、よく「マンションは管理を買え」と言われますが、管理のどのような点に注意をすべきでしょうか?
神戸弁護士:一番簡単なのは、物件の市場価格です。情報に非対称性がないと仮定すると、価格に織り込まれるはずです。変なマンションは、住民がいちばんよくわかっています。売りに出す動機が強くあれば、売り物が増えてきます。長く住みたい、いいマンションだ、というマンションは、売り物が少なくて、事情がないと売らないですね。
売り物が多いマンションと、少ないマンションでは、当然、売り物が多いマンションの方が価格は下がっていきます。そうすると近隣のマンションに比べて、価値を保っているのは、そんなに変なところじゃないだろう、という指標になります。
要するに、外から見分ける手段はそんなにないのです。住宅ジャーナリストの榊淳司さんは、管理規約と総会決議を3年分見ろ、とおっしゃるけれど、現実的には難しいですよね。中古売買で、この物件いいな、という物件は、だいたい他に人もいいなと思っていて、先に手付を打った人が買うわけです。
管理規約や総会決議をチェックしている間に、他の人に買われます。むしろじっくりチェックできるマンションは、他に欲しい人がいないんじゃないか、という話になります。
「管理を買え」と言われても・・・
神戸弁護士:「マンションは管理を買え」と言われるけれど、どうやって買ったらいいのか、買う方法は示されていませんから、見分ける方法で一番簡単なのは、住民に聞くことです。結局は口コミに頼るしかありません。
それを可視化しようというのが、「マンションノート」や「マンションコミュニティー」などのサイトの価値だと思います。マンションごとにSNSや口コミサイトのコミュニティーを見れば、なんとなくわかってくることもあるでしょう。
ただし、実際にSNSでホントのところが出てくるかどうかはわかりません。所有者は自分の持っているマンションにものすごくコミットしているはずです。ローンを組んで、レバレッジかけて買っているわけだから、株の信用買いのようなものです。自分が買った株の悪口を書くかと言ったら、基本的には書かないはずです。
自分の人生をコミットしているマンションについて、「ここは管理が全然だめだから、どうにもならない、このマンションは滅びるね」といったことを書く人がいるのでしょうか。いるかもしれませんが、それが本当かどうかは疑問ですよね。
SNSや口コミサイトのインセンティブは、所有者にはいい方に働くし、所有者じゃない人、あるいは元所有者などは悪い方に働きます。でも、これから買いたい人が本当に欲しい情報は、「ものすごくコミットしている人からの悪い情報」ですよね。それにはやっぱり、実際に住んでいる人に会って話さないと、ホントのところを知るのは難しいと思います。
「管理を買え」と言っても、住民のクオリティー、日常生活のクオリティーは、隣の人がどうとか、そういうレベルの話が実は多くて、それはランダムに発生する問題なので、あまり防ぎようがありません。「管理を買え」というのが、最低限のことを見るであれば、物件を見に行って、掲示がきれいに並んでいるかとか、掃除が行き届いているかといったチェックはあるかもしれません。ただし、それはちゃんとした管理会社と清掃会社だったら、さほど問題はないはずです。
管理会社は「管理会社で買え」と主張していますけれど、正確には「管理会社のフロントマンを買え」ということになるのでしょう。管理会社のフロントと、理事会、理事長、副理事長、そういう人たちが、まじめできちんとしていて、ビジネス経験のある人だと全然違いますね。ただ、そうしたことは外からはなかなかわからないです。
これから増える!?―マンション管理費の滞納問題は解決できるのか?
Q.マンションの管理費や修繕積立金の支払遅延は、増えていく傾向にありますか?
神戸弁護士:マンションによります。マンションの管理費滞納は、解消されるメカニズムは、制度の中に組み込まれています。区分所有法の第7条、第8条で、次の区分所有者が前の区分所有者の滞納分の管理費を負担するというルールがあり、これが非常に強力な制度となっています。
例えば、マンション管理費を滞納して、にっちもさっちもいかなくなって誰かに売るとき、売主は本来、滞納している管理費を払わなくてはいけないので、1,000万円くらいの市場価値がある物件を、滞納している管理費分100万円を引いて900万円で売ります。管理組合は、区分所有法の第7条、第8条に従って買主に滞納管理費を請求すればいいので、区分所有者が変われば、基本的には払ってもらえます。買主側も、管理費を引いた金額で買っているので、文句が出ないというメカニズムです。
また、抵当権が設定されているケースがあります。管理費を滞納している人は、銀行の住宅ローンも滞納していることが多く、住宅ローンを放置していると、不動産の抵当権が実行されます。管理費には優先配当されるルールがあり、競落人は自分で管理費を背負わなくてはいけないルールもあるので、管理組合は、競売の配当でもらうこともあるし、配当でもらえなかったとしても競落人に請求すればいいわけです。
競落人が不動産業者や身元の確かな人であれば、そこで必ず回収できるという正のメカニズムが働いているので、市場価値が1,000万円以上あるマンションについて言えば、管理費滞納はそれほど深刻ではなく、いずれかの段階で解決される問題です。管理費の時効が5年なので、時効のことにだけ気をつけていれば、遅延損害金が18%や20%と高い分、結果的にマイナスとはならないマンションも多いですね。一般の人はその辺りのメカニズムに詳しくないので、弁護士が関与することが多いです。
このメカニズムが働かない場合に、どうやって動かすか、というのが弁護士の仕事になってきます。タワーマンションでは、まだ深刻な問題になってきません。ローンが払えなくて残債が残っていても、競売にかけられても、滞納管理費の処理はそのときに実行されるからです。またタワーマンションに限らず、山手線沿線のマンションだったら、そんなに深刻な問題は起こりません。
既に問題となっているのは、郊外の物件です。物件の価値が1,000万円を割ってくるようになると、買い手もつかず、滞納だけが残るという事態が起こります。将来的には、正のメカニズムが働かない事案、つまりキャッシュで買ったけれども放置するという事案は増えていくと思います。
相続人のいない所有者が亡くなった場合は・・・
神戸弁護士:キャッシュで買われたマンションが放置されて問題になるのは、相続人がいない所有者が亡くなってしまう事案で、文字通り放置されるケースです。独身でひとりっ子の人が亡くなったら、相続する人がいません。最終的には残された財産は国のものとなりますが、実務上、自動的に国に納められるようなメカニズムにはなっていません。相続財産管理人を選任して、その人が売ったり競売にかけたりして換価した上で、管理費等を払うという手順です。
相続人がいないまま放置されている物件でも、銀行が抵当権をつけていれば、回収のために処理がされますが、キャッシュで買われた物件は処理する人がいません。弁護士に依頼が来る案件は、誰も手が付けられないような事案です。管理費回収のためには、管理組合が相続財産管理人の選任をしなくてはなりませんが、その際、裁判所への予納金が、関東近辺だとおよそ100万円かかります。
実際にこうした相談は増えています。管理組合が相続人を探すことは難しいので、司法書士や弁護士に任せることになります。相続人が見つかればいいのですが、相続人がいなかったり、相続人がみんな放棄していたりすると、相続財産管理人を選任しなくてはなりませんが、選任したとしても、滞納管理費を取れるかどうかわかりません。隠れた借金がたくさんあったり、管理費より税金の方が優先されたりして、100万円の予納金をかけても、返ってくるという保証はなく、やってみないとわからないという状況です。
タワーマンションの管理組合であれば、おそらく100万円程度の費用は負担できるでしょうが、50戸程度の戸数で、一戸あたりの市場価格が1,000万円程度のマンションの場合、管理組合にとって100万円の負担がどれだけ大きいかということです。3戸、4戸の区分所有者が、年間に払う管理費に相当するのですから、規模の小さなマンションの管理組合にとっては大きな額です。
相続財産管理人に係る予納金の見直しが必要
そろそろ制度改革をしないと、管理費をめぐる正のメカニズムから外れた事案は増えていくばかりです。制度改革をするとすれば、まずは相続財産管理人の選任について、裁判所に納める予納金を下げるということでしょう。20万円くらいに下げれば、解決につながるのではないかと思います。
一人っ子で独身の方でも、マンションを買っている方は多いですね。お亡くなりになる頃には、ローンが終わっているか、あるいは、団体信用生命保険でローンがなくなります。そうなると、普通に暮らしていて、マンションを買って、孤独死する人にはマンションが残ります。そのマンションの後処理に困ることになります。
解決方法のひとつは、遺言を書いてもらうことです。しかし、遺言書で財産全部をあげる人がいればいいのですが、なかなかいないし、組合が区分所有者に対して「遺言を書いてください」というのは難しいですね。
Q.リバースモゲージは解決策になるのでしょうか?
神戸弁護士:確かにリバースモゲージはよい制度で、管理費を正のメカニズムに乗せる制度です。彼らが根抵当を設定して、必ず債務が残る状態にして、勝手に抵当権を実行してくれるのでいいのですが、実際に効果が上がるのは資産価値の高いマンションでしょう。市場価値で1,000万円以下のマンションが、リバースモゲージを受けられるのか? という話です。マンションはどんどん価値が下がっていきます。
特に郊外や地方で、ひと昔前に2,000~3,000万円したマンションが、今は数百万円に下がっても買い手がつかないところがたくさんあります。郊外の駅からバスで20分といった団地も、当時は1,500万円とか2,000万円したと思いますが、数百万になっています。全体として、リバースモゲージは増えていくかもしれませんが、一定以上の資産価値がないと付けられないところに制約があります。
タワーマンションであれば、弁護士を立てて、予納金を積んで、処理すればいいのですが、それができない、あるいは、できにくいところが増えていって、管理不能になるマンションが多くなると思います。そろそろ対策を講じることが必要になるでしょう。そのひとつとして、相続財産管理人の制度の改革ですね。先の予納金100万円というのはあり得ない金額だと思います。
神戸 靖一郎 弁護士 第二東京弁護士会所属
慶應義塾大学法学部政治学科卒業、千葉大学大学院専門法務研究科法務専攻卒業、平成19年弁護士登録。仕事の中心は、交通事故等の損害保険、労働災害、マンション管理。
麹町パートナーズ法律事務所
※本記事は「storie」での2015年10月28日の記事を関係者の許可を得て再編集し、掲載したものです。