不動産の売買や賃貸借といった取引時に、宅地建物取引業者(いわゆる不動産業者。以下「宅建業者」)は、取引に関する重要事項を事前に説明しなければなりません。これについて国土交通省は、2020年7月17日、地方自治体が作成した水害ハザードマップにおける対象物件の所在地に関する説明を、追加で義務付ける旨を告示しました。
具体的な改正は、「宅地建物取引業法施行規則」の一部を改正する命令と、それに伴う「宅地建物取引業法の解釈・運用の考え方(ガイドライン)」の改正となります。
そこで本コラムでは、2回に分けてこの法改正の意義を説明していくことにします。まず今回は、そもそも不動産の取引で事前に説明しなければならない重要事項とは何か、どのように規定されているのかについてご説明しましょう。

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「重要事項説明」とは宅建業者の説明義務
一般の方たちにとって、不動産の賃貸や売買というのは一生にそう何度も経験することのない、高額のやり取りを伴う取引です。そのため、消費者を保護し不測の損害やトラブルを防止するためには、取引対象となる物件や取引条件などについて、当事者が十分に調査・確認した上で契約を締結する必要があります。
しかし、一般の方が不動産について自力で調査することは困難であり、十分な知識も備えていないというのが普通です。一方で、宅建業者が売主や代理・仲介という立場で取引に介在する場合は、いわゆる不動産のプロであるわけですから、多くの知識や経験、調査能力を備えています。
そこで、宅建業者が不動産の取引をする場合について規定する宅地建物取引業法(以下「宅建業法」)では、第35条で「消費者保護」と「取引安全」確保のために、取引に係る宅建業者に、契約成立までの間に購入者等に対し、取引物件や取引条件、その他の重要な事項について、宅地建物取引士(以下「宅建士」)により書面を交付し説明することを義務付けています。これを重要事項説明といい、その書面を重要事項説明書といいます。
重要事項の説明について
重要事項説明をすべき相手方は、売買契約の場合は買主となろうとする者、賃貸借契約の場合は借主となろうとする者、交換契約の場合は物件を取得しようとする者となります。
また、重要事項説明は、契約締結に先立って、当事者に取引物件の概要や取引条件に関して十分検討・理解してから契約の是非を決定してもらうために行うものです。したがって、説明をすべき時点は契約締結前のできるだけ早い時期が望ましいとされています。
しかし現実には、記名押印などの手続きを何度も実施する手間を省くために、事前に大まかな説明を済ませて納得してもらった上で、契約締結日に重要事項説明をして記名押印してもらうことがほとんどでしょう。
また重要事項説明は、宅建士の専権事項となっています。説明を行う宅建士は宅地建物取引士証を提示することが義務付けられており、宅建士が書面に記名押印をして交付しなければならないと、宅建業法第35条4項および5項に定められています。
実は、宅建士でなければできないことというのは、実務上はこの重要事項説明と書面への記名押印だけなのです。
不動産会社という組織においては、宅建士資格の必要性は他にもあります。宅建業法上の免許を取るには専任の宅建士を置かねばならない、従業員5人に1人は宅建士を置かなければいけない、などです。しかし不動産取引の実務においては、この重要事項の説明に関してだけが専権事項になります。逆に言えば、重要事項の説明こそ、まさに資格を得たプロの知識と経験が必要なほど重要である、といえるでしょう。
説明すべき事項
重要事項説明として宅建士が説明しなければならない項目としては、宅建業法第35条に定める「最小限定型化」した事項に加え、宅建業法第47条1号に規定されている重要な事項が含まれます。また宅地建物取引業法施行規則によって、それぞれの項目や内容が細かく決められています。説明すべき項目の概要は以下の通りです。
1.宅建業法第35条に規定する事項(計14項目+割賦販売の場合の3項目)
(1)宅建業法第35条1項1号~6号:取引物件に関する6項目
(2)宅建業法第35条1項7号~13号:取引条件に関する7項目
(3)宅建業法第35条1項14号:国土交通省令で定める項目
(4)宅建業法第35条2項1号~3号:割賦販売の場合に関する3項目
2.宅建業法第47条1号に規定する事項
宅建業法第47条1号は、重要事項説明書および契約書の内容およびその他の契約に関する判断に重要な影響を及ぼすことに関して、故意に事実を告げず又は不実のことを告げる行為を禁じるという規定です。すなわち、「契約に関する判断に重要な影響を及ぼすことで、故意に事実を告げず又は不実のことを告げることが禁じられるようなこと」は、重要事項として説明せよ、ということになります。
その他に、国土交通省の宅地建物取引業法について公表されている「解釈・運用の考え方」では、宅建業法第34条2項で定める取引態様の別、および宅建業法第35条の2で定める供託所に関する説明を重要事項説明書で明示することが望ましいとしています。
取引態様の別を明らかにする、というのは不動産取引に介在する宅建業者は、売買、交換、賃貸借の当事者であるか代理であるか売買であるか、その取引における立場を明確に告げる必要があるということです。通常、重要事項説明書の冒頭で明示されます。
供託所に関する説明とは、宅建業者は取引の相手方等に対して、契約が成立するまでの間に、営業保証金や弁済業務保証金に関する事項について説明する必要がある、ということです。具体的には以下のいくつかのケースがあります。
(1)手付金の保全措置:宅建業者が自ら売主になる場合に一定額を超える手付金等を授受する場合、保全措置を講じることが義務付けられています。この場合保全方式、保全措置を行う機関を記載・説明しなくてはなりません。
① 未完成物件:手付金等の額が5%または1,000万円を超える場合
② 完成物件:手付金等の額が10%または1,000万円を超える場合
(2)宅建業者が支払金又は預り金を受領して保全措置を講ずる場合
(3)宅建業者が保証協会の社員でない場合は営業保証金の供託所等
(4)宅建業者が保証協会の社員の場合は当該保証協会の名称・住所等
受領印と署名など
重要事項説明書には、登記簿謄本、公図、建築確認通知書等の写しなどの主要な資料や、法令上の制限に関する説明資料などを添付する必要があります。
契約に先立って、買主や借主が重要事項の説明と書面の交付を受けたことを明らかにするために、「日付」「住所」「氏名」の欄へ買主等に記入押印してもらいます。2通本紙を作成し、1通を買主等に渡し、もう1通を売主、写しを宅建業者が保管するという形が一般的です。法律的には、買主等に本紙が渡っていれば問題ありません。
重要事項説明書には、宅建業者および宅地建物取引士の記名押印が必要です。金融機関の融資による購入の場合は、宅建業者と宅建士の記名押印のある正式な重要事項説明書が無いと融資の審査が受けられない場合があるので注意が必要です。
以上が、重要事項説明についての概要となります。次回は、この重要事項説明に、水害リスクの記載がなぜ追加になったのか、どのような記載が必要なのかを詳しく述べたいと思います。
プロフィール
早坂 龍太(宅地建物取引士)
龍翔プランニング代表取締役。北海道大学法学部卒業。石油元売会社勤務を経て、北海道で不動産の賃貸管理、売買・賃貸仲介、プランニング・コンサルティングを行う。