6月2日に住宅新報社による主要不動産流通会社の売買仲介実績が発表されました。この調査結果の中から、特に大手3社の業績報告についてクローズアップすると共に、そこに垣間見える、不動産業界全体にも関わる根深い問題点を掘り下げます。
2019年度の主要不動産流通会社の売買仲介実績が発表されました。
これは、株式会社住宅新報社が毎年主な不動産会社に売買の仲介実績などをアンケート調査して発表しているものです。例年は5月下旬には発表されていたのですが、今年は新型コロナの感染拡大の影響で集計が遅れ、今のタイミングになったということです。
この調査結果から、当方で前年実績を把握している27社をピックアップして集計表を作成しましたので、今年の特色を分析していきましょう。

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(住宅新報社 2019年5月28日、2020年6月1日記事より数値抜粋 筆者にて表作成)
「トップ3」は健在。取扱高・件数・手数料ともダントツ!
結論から申しますと、2019年度も「トップ3」といわれる三井不動産リアルティグループ(以下、リハウス)・住友不動産販売(以下、スミフ)・東急リバブル(以下、リバブル)の牙城は崩れませんでした。4位以下を圧倒的に引き離しています。
まず取扱高はトップ3が1兆円を大きく超えるのに対して、4位の野村不動産は約8,700億円にとどまり、5位のセンチュリー21グループは約6,300億円と、3位のスミフ(約1兆2,900億円)の半額にも及びません。
この取扱高の差は、決して高額な住宅のみを扱っている結果ではありません。1件当たりの取扱高はトップ3平均4,100万円。27社の平均4,506万円よりも低いのです。トップ3の合計年間取扱件数106,970件が他24社の合計102,742件を上回るというダントツの成約数が、その高い売上を支えています。
また売上が高い理由の一つに、店舗数の差もあるでしょう。リハウスは282店、スミフが276店、リバブルが190店。27社平均の100.8店を大きく上回っています。店舗数だけなく1店舗当たりの売上高も、リハウスが約63億円、リバブルが約69億円、スミフが約46億円と、27社平均の34億円の1.35倍~2倍以上となっています。
各店舗の成約数が他社より断然多いのは、知名度、広告力、営業力、顧客ネットワークの整備など全ての戦略・戦術が他社よりも優秀であると認めるべきでしょう。日本の不動産業界は、ひた走るトップ3に対して、何とか彼らを上回る個性を追求・発揮してマーケットで存在感を出し追従していこうとする他社との闘いといえるかもしれません。
トップ3の集計方法が今年から変化した?
一方で、本年度(2019年度)から、このトップ3の数字は「仲介手数料には賃貸仲介料や賃貸管理収入を含む」という注釈が付くようになりました。このような条件が加わると、前年比の計算や他社との対比において正確な分析が困難になると筆者は考えていました。これによってトップ3の取扱高や手数料収入、手数料比率が前年より大幅に上昇してしまうと予想されるからです。
しかし実際には、前年に比べ手数料収入、手数料比率ともに3社合計は減少しています(下表参照)。3社とも連続性にさほど違和感がありませんでした。
主要3社の前年の業績比較
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取扱高(百万円) |
2019年度 |
前年 |
三井不動産リアルティ |
1,783,232 (前年比 104.5%) |
1,706,843 |
東急リバブル |
1,315,942 (前年比 105.7%) |
1,245,530 |
住友不動産販売 |
1,287,508 (前年比 97.1%) |
1,326,357 |
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主要3社計 |
4,386,682 (前年比 102.5%) |
4,278,730 |
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手数料(百万円) |
2019年度 |
前年 |
三井不動産リアルティ |
84,985 (前年比 100.0%) |
85,008 |
東急リバブル |
67,063 (前年比 96.3%) |
69,615 |
住友不動産販売 |
62,261 (前年比 103.5%) |
60,149 |
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主要3社計 |
214,309 (前年比 99.8%) |
214,772 |
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手数料率(%) |
増減 |
2019年度 |
前年 |
(%) |
三井不動産リアルティ |
4.77% |
4.98% |
▲0.21% |
東急リバブル |
5.21% |
5.25% |
▲0.04% |
住友不動産販売 |
4.73% |
4.83% |
▲0.10% |
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主要3社計 |
4.89% |
5.02% |
▲0.13% |
ここで筆者に、「今年のトップ3の手数料の報告・集計は、昨年の集計同様の方法・基準で行われているのではないか?」という疑念が生まれました。
昨年までの数値との連続性に違和感がないこと、また今年からあえて違う手法・基準で報告する必然性がトップ3には本来ないこと(少なくとも過去4年は、住宅新報社は同様の報告・集計を実施しています)から、数字自体は昨年同様の基準で報告されたと考えたほうが、つじつまが合うからです。
そしてここから先に述べることは、あくまで筆者の疑念であり推論です。念のため繰り返して明記しておきます。
トップ3は、手数料率が高い理由が「両手仲介」だとは思われたくない?
なぜ3社はそろって今年から「仲介手数料には、他の手数料も含まれる」と発表したのでしょうか?
筆者は、住宅新報社の発表を根拠にトップ3を始めとする不動産会社の仲介手数料の高率に注目されることが増えた昨今の状況に、トップ3の経営陣や広報が危機感を抱いたのが原因ではないかと勘繰っています。
一般の商社や流通・小売業であれば、料率の高さは企業努力の表れであり、誇りを持ってアピールすべきものかもしれません。しかし不動産の仲介手数料は、宅地建物取引業法(以下「宅建業法」)により上限額が定められていることが重要な問題となります。
※400万円以上の取扱高の場合、取扱高の3%+6万円(簡易計算法による)
2019年度のトップ3の平均仲介手数料率は、取扱高の4.89%。一見、宅建業法の上限額を超えてしまっているようですが、これには理由があります。不動産売買の仲介手数料は売主・買主の双方から依頼を受ければ、その双方から上限値までもらえるのです。これを「両手仲介」「両手取引」といいます。(なお売主・借主のどちらか一方の依頼者からのみ報酬を受け取る場合は「片手仲介」「片手取引」といいます)
売買当事者の両方から仲介手数料をもらえる両手仲介を実現できると、不動産会社は、最大で取扱高の6%+12万円を報酬として受け取れます。仮に全取引のうち半分が両手仲介だとすれば、最大で取扱高の4.5%+9万円を受け取れる計算です。
つまり、トップ3の4.89%という高料率は、両手仲介の比率が相当高いことの裏返しではないでしょうか?
トップ3だけではありません。大手不動産会社27社の仲介手数料率平均は4.42%ですから、不動産会社はどこも両手仲介比率が高いと考えられます。さらにこうした手数料率を維持するために、各社とも「両手仲介の達成」を第一目標としてノルマ化しているのでは、とさえ想像できます。
先に述べた、トップ3が声を揃えて「仲介手数料の集計には、賃貸仲介料や賃貸管理料も入っている」と言い出しているのは、この高い手数料比率が「両手仲介を強硬に追求してきた故の結果だ」という推測を否定したいためではないか、と筆者は思っています。
両手仲介の過度な追求は「囲い込み」を呼ぶ
もし筆者の推測が正しいものとすると、なぜトップ3は、「両手仲介」に注目が集まることを否定するような態度を取るのでしょうか? それは、両手仲介は日本の不動産業界独特の商慣習であり、ともすれば「囲い込み」や「こなし」といった買主や売主の利益に反する行為につながる行為だとして、事あるごとに批判されてきているからです。
欧州の複数の国や米国の州法では、不動産会社は売主・買主の両方から依頼を受ける行為は禁止されています。これは、売主の利益と買主の利益は相反すると考えられるからです。例えば売買価格を上げるのは売主の利益になる一方、買主の不利益につながりますよね。当事者双方の代理になっても同時に各々の利益追求はできないため禁止されているのです。日本の民法でも108条で「双方代理」は禁止されています。
しかし、日本の不動産取引を規定する宅建業法では「仲介業務は、当事者の法律行為(不動産売買)の代理ではなく、その成立を手助けする行為であるから、双方から依頼を受けることができる」という解釈がなされています。これを盾に、多くの不動産会社は手数料率を上げて採算性を良くするために両手仲介を目指すようになります。今回の集計からもその傾向は明らかです。
また不動産会社の中には自社の収益を重視するあまり、両手仲介でなければ取引を成立させないという動きをするものも後を絶ちません。その一つが「囲い込み」という手法です。
これは文字通り、売却を依頼された物件を非公開とし、他の不動産会社からの問い合わせなどには応じず自社の情報網・顧客網でのみ取り扱う(囲い込む)行為をいいます。当然、他社の顧客の購入希望はかないませんし、売主にとっても売却機会の損失が発生します。売主・買主双方の利益を損失させ、公正な市場も形成されません。
さらに、こうして売却機会を意図的に失わせた物件の価格を値下げさせる「値こなし」、買い取り業者に「こなした」物件を安く買い取ってもらいリフォーム後にまた仲介を依頼してもらうことを条件とする「専任返し」など、両手仲介から端を発してどんどんアコギな手口が行われています。こうした用語が流通するくらい、不動産業界では、ある意味ポピュラーな手口となっているのです。
トップ3が「両手仲介により、高収益化を実現している」という世評を避けたいのではないか?という私の疑念は、こうした両手仲介にまつわる不透明な手口が業界にはびこっていることが背景となっています。
不動産会社の高収益化に両手仲介は欠かせない
トップ3の仲介手数料に、賃貸仲介料や賃貸管理料が入っていようがいまいが、両手仲介なしにこれほどの高収益は達成できないのは間違いありません。1件当たりの仲介手数料の上限額が取扱高の比率で定められている以上、収益を増やすためには、取扱高が大きい物件を扱うか、両手仲介の比率を上げるか、他の分野の収入を算入するしかないからです。
トップ3は、全国ネットで駅前の一等地に支店網を築き、独自の顧客管理システムと物件検索サイトを構築し、テレビを始め様々な媒体でイメージ広告を打ち、優秀な人材を確保し、人事労務体制も整備しています。さらに今後は、ウィズコロナ時代のために率先して新たなVR技術を導入した内覧システムやテレワークも洗練させていかねばなりません。
こうした諸々のコストを回収するためには、ますます不動産市場の寡占化を進め、手数料率向上のために両手仲介の比率を増やすことを主要目標とせざるを得ないのではないでしょうか。
それならば、両手仲介が不公正な市場環境の拡大につながらないように、常に状況を分析し軌道修正していき、売主・買主といった一般消費者が安心・信頼できるような不動産市場の形成に努力することが、不動産市場に身を置く業者の責任だと思います。
プロフィール
早坂 龍太(宅地建物取引士)
龍翔プランニング代表取締役。北海道大学法学部卒業。石油元売会社勤務を経て、北海道で不動産の賃貸管理、売買・賃貸仲介、プランニング・コンサルティングを行う。