マンションの売却活動では、売り出しから売買契約締結まで順調に至るケースもあれば、購入希望者がなかなか見つからず時間がかかるケースもあります。後者の事態に陥り、清水の舞台から飛び降りる思いで販売価格の変更を決断したり、売却活動を依頼する不動産業者を変更したという方もいるでしょう。
さまざまな試行錯誤や決断を経るからこそ、売買契約締結となれば、売主としては「大仕事が終わった」と安心してしまうもの。
しかし、売買契約はあくまで売却活動の中間点。契約締結後も重要な手続きは残っています。もしも忘れてしまったら、最終的に売買契約が完了できない手続きもあるのです。今回は、売買契約締結後に売主が認識しておかなければならない注意点や手続きをまとめました。

(写真はイメージです)
しっかり確認すべき売買契約書に定められた期日
売買契約書では、いくつかの条項に期日が定められています。いずれも、よくよく意識しておきましょう。
住宅ローンの融資承認取得期日
買主のほとんどが住宅ローンを利用します。売買契約前に買主側で金融機関から事前審査を受け、資金計画に問題がないという判断が得られてから、売買契約の締結に至ります。しかし、金融機関に正式に融資申し込みをするのは売買契約締結後です。
売買契約締結後、もしも買主の責任が及ばないところで、金融機関の事情により融資が非承認になってしまった場合には、契約を白紙に戻せるよう契約書には「契約後速やかに融資を申込み、○○月○○日までに融資承認が得られない場合には、○○月○○日までであれば、買主は契約を白紙解除することができる」との条文があるのです。
売主は、売買契約が決まってすぐに引越準備を急いでも、上記の期日以前に白紙解約になってしまう場合があります。せっかくの引越準備が無駄になってしまうのでご注意ください。
手付解除期日
「○○月○○日までであれば、買主は手付金を放棄することで、売主は受領済みの手付金を返して同額の金銭を買主に支払うことで、売買契約を解除することができる」という解除条項もあります。
金銭負担が発生するため適用されるケースはまれですが、手付金の金額が少ない場合は要注意です。手付金は契約の一部であり「売買契約の○○%以上」などのルールは特段ありません。極端な話、手付金10万円でも売買契約は締結できるわけです。ところがそれは、上記の期日までであれば10万円を放棄しさえすれば解除できるという至極不安定な契約となってしまいます。
売買契約締結前に条件の一部として確認しておくべきですが、もし少額の手付金を了承して売買契約を締結したのであれば、手付解除期日を過ぎるまでは、引越や家具の廃棄など金銭が絡む売却準備はできるだけ控えた方が良いでしょう。
その他、売買契約では、買主と売主それぞれの事情により、さまざまな特約が付帯するケースがあります。たとえば「今の家の売却がうまくいかなくなったら白紙解約できる」という買主側の買替特約などです。売買契約書の期日や内容はしっかりと把握し、不動産仲介業者にも確認しながら売却準備を進めるようにしましょう。
住宅ローン一括返済の事前連絡は要注意!!
売却するマンションの住宅ローンが完済されていることは少なく、多くの場合、住宅ローンの残債が残ったままで売買契約を締結します。たとえ住宅ローンの残債が3,000万円残っていたとしても、4,000万円で売却できれば、売却資金で住宅ローンを完済できるからです。
実際にマンションの所有権を移転する日には、以下のような手続きが行われます。
(1)所有権を売主から買主へ移転するための書類の確認
(2)売主の住宅ローンの抵当権を抹消するための書類の確認
(3)買主の住宅ローン実行、売主へ売買代金の支払い
(4)売主口座から住宅ローン残債を完済
(5)所有権の移転手続き
この5つの中で、売主側が一番注意しなければならないのは(2)です。住宅ローンを利用していれば不動産に抵当権が設定されています。この抵当権に関する書類は金融機関側が保持していますが、金融機関に「残債分を振り込んだので、すぐに抵当権抹消の書類を準備してください」と頼んでも、すぐにはやってくれません。
なぜなら多くの金融機関では、抵当権に関する書類は各支店ではなく一括で管理されています。住宅ローン利用者から連絡を受けてから、各支店などに準備をする流れになりますので、急な対応ができないのです。
一般的には、所有権移転日の2~3週間前には金融機関に連絡しておく必要があります。この連絡は、不動産仲介業者にも、所有権移転に携わる司法書士にもできません。住宅ローンを利用している売主からの連絡が必要なのです。もちろん不動産仲介業者も注意して売主に促すべき内容ですが、最終的には、売主自身が動かねばなりません。
金融機関への連絡を忘れてしまうと、所有権の移転はできず、売買契約を完結させることもできません。所有権移転の期限は定められており、買主側もそれに向けてご自身の住宅ローンの手続きなどを進めています。当初の移転日に所有権が移転できなければ、大きな問題になります。結果として契約がこじれた場合、違約解約ということでペナルティを請求される恐れもありますので、絶対に忘れずに手続きを進めましょう。
譲渡所得税の確定申告、納付は忘れずに!!
売買代金の精算や所有権移転登記などの決済手続きが完了すると、しばらく手続き関係はなくなります。新しい住居の荷物整理や新しい街の散策など、フレッシュで楽しい新生活が始まることでしょう。
しかしながら不動産売買における最終手続きは決済手続きではなく、確定申告と譲渡所得税の納付です。譲渡所得税とは、買った時よりも売った時の方が高かった場合、つまり利益が発生した場合に課される税金です。決済手続きが完了した翌年の2月頃に確定申告を行い、3月までに税金を納付する必要があります。
マンションは築年数に応じて資産価値が下落することが多く、購入時と売却時を比較して利益が得られることは少ないかもしれません。しかし居住期間中に駅前の再開発があったり、地価の上昇があったりなどで購入時よりも高く売れた、という事例もあります。こういった場合は、しっかりと確定申告を行い譲渡所得税を納めなければなりません。
また利益が得られなかった場合でも、税務署から取引内容をたずねる書面が届くことがあります。確定申告がなければ税務署側では利益の有無を判断できないためです。税務署から書面が来てびっくりしないよう、こうした書面の存在だけは認識しておきましょう。
まとめ
多くの人は、長い人生の中でも「物を売却する立場」になる機会は少ないでしょう。特に高額で、さまざまな権利や手続きが関わる不動産となれば、なおさらです。売主側の心理としては、売買契約が締結された時点で「売却できた」と安心してしまいがちですが、売買契約書をしっかり読み込むと、それはあくまで「売買の約束をした行為」に過ぎないことがわかります。
売却行為の完了は、売買代金を全額受領して所有権が移転した時であり、売却手続きの最終的な完了は確定申告と納税です。売買契約の締結は、売却手続きの大きなステップを踏んだことではありますが、油断しないで後に続く手続きにも漏れのないよう気をつけて臨みましょう。
斉藤勇佑(宅地建物取引士)
大学卒業後、5年間不動産売買業務に従事。その後、不動産管理会社に転職し、分譲マンションの維持・管理を中心とした業務に5年間かかわり、現在は不動産のストック分野の業務に従事。
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