転勤、親との同居、家族構成の変化に合わせた住み替えなど、お住まいのマンションを売却する理由は十人十色かと思います。しかし売却活動を始めるプロセスに大きな違いはありません。基本的な流れは、初めに不動産業者に査定を依頼し、その結果からマンション売却価格を決定し、売却活動を不動産業者に依頼する、というものです。
マンション売却価格を査定に近い金額で設定する方もいれば、もう少し高い金額からチャレンジする方もいます。場合によっては、早い時期での成約を目指すため、査定価格を下回る金額で設定されるかもしれません。さまざまな思惑の中でマンション売却がスタートするわけですが、売却活動が全て思い通りに進むことはなく、なかなか購入希望者に巡り合えないケースもあります。
不動産の売買において、同じ商品は世の中に二つとありません。同じマンションの隣同士でも、日当たりや間取り、内装状態などは違います。また購入希望者も、急いで購入を検討される方、お子様の学区内限定で探している方などさまざまです。
売る側と買う側のさまざまな条件が合致して売買が成立し、その積み重ねが周辺相場を形成します。とはいえ、個々の事例だけを取り上げれば、査定価格より高く売れる事例もあれば、反対に査定価格を下回る価格でも良い購入希望者が現れない場合もあるのです。
マンション売却活動がうまくいかない場合、売主が出来る施策のひとつが「価格変更」。価格を下げれば成約しやすくなるのは当たり前ですが、売主としてはできるだけ高く売りたいという思いがあります。
今回は、効果的な価格変更を実現するために「変更する時期」と「変更する金額の幅」について解説します。

(写真はイメージです)
マンション売却時の価格変更、その前に
マンション売却がうまくいかないのを「不動産業者の売却活動に問題がある」と考える売主様がいます。「サイトに載せているセールスコメントが魅力的でないから、問い合わせや内覧希望者が少ない」「折込広告の掲載サイズが小さい」など売却活動の実態を疑問視するものです。この考え方は、半分は正解ですが、半分は間違っています。
ホームページに載せる写真やコメント、折込広告の範囲や掲載サイズなどは不動産業者の能力によるもので、これによって成約の可能性が変わることは否めません。では、マンション売却活動の依頼先を変更したら必ず事態が好転するかといえば、そうならないケースも多々あります。
マンション売却依頼を受けた不動産業者は、「レインズ」と呼ばれるインターネットサイトに物件情報を掲載します。このレインズは、売却情報の囲い込みの禁止と情報の共有を目的としており、日本のほとんどの不動産業者がこれを閲覧できます。
複数社に依頼できる一般媒介ではレインズ掲載の義務はありませんが、依頼先が1社に絞られる専任媒介・専属専任媒介では一定期間内に掲載する義務があります。つまり、多くの売却情報は他の不動産業者とも共有されており、他社を通じてマンションを探している購入検討者にも、情報は行き届いていることになります。
また一昔前までは、周辺地域に売却情報を展開する方法として折込広告がとても有効でした。新聞の購読率低下により、現在の折込広告が物件情報の周知にどの程度の役割を果たすのか疑問ですが、一定の効果は見込めるでしょう。
それまでのマンション売却活動を振り返り、既に情報が行き届いているようであれば、不動産業者を変更しても事態が大きく好転する可能性は低いと考えられます。
マンション売却価格を変更する時期
価格変更を行うタイミングですが、結論から申しますと、一番適切なのは「売却情報が行き届いた時期」です。
売却情報が行き届かなければ、まず価格変更が変更と認識されにくくなります。当初のマンション売却価格が5,000万円だった物件を、購入希望者がなかなか見つからないので4,800万円に下げたとしましょう。ここで、当初の販売価格5,000万円を認識していない購入検討者がいれば、その人にとっては4,800万円が販売価格のスタートになります。
「購入検討者がどのように認識しているかより、4,800万円で売れるか売れないか、が問題だ」と捉える方があるかもしれません。しかし、価格変更が実施されたことを認識しているかどうかは、最終的な価格交渉に影響を与えることがあるのです。
多くの売買契約では、契約締結前に価格などの条件交渉が行われます。先ほどの例で、4,800万円スタートと認識している購入検討者は「もう少し価格が下がらないか」と考えるでしょう。一方、5,000万円からすでに200万円値下げしたと知っている購入検討者は、価格交渉の幅を抑える意識が働くというケースもあります。
次に、当初の販売価格がマンションを探している方々に認識されるまでには、どのぐらいの期間が必要なのでしょうか。この答えは、依頼した不動産業者がマンション売却活動をどのように進めるかを考えればわかります。
不動産業者がマンションの売却依頼を受けて最初に行うのは、自社顧客への紹介と自社ホームページへの掲載です。自社で購入希望者を見つけられれば、売主と買主の両方から仲介手数料を受領できるためです。これらは通常、3~5日以内で行われます。
その後、専任媒介であれば1週間以内にレインズに掲載され、他の不動産業者に情報が伝わります。他社はレインズを見て資料を取り寄せ、希望条件が合致する購入検討者に物件を紹介します。また、その間も自社では折込広告などの入稿を行い、売却依頼を受けてから2週目ぐらいで折込広告が掲載されます。
こうした活動の結果、興味を抱いた購入検討者は現地を内覧することになります。スケジュールの調整などで延びるケースもありますが、マンション売却活動の開始から1カ月が過ぎた頃には、多くの購入検討者に情報が伝わり、購入検討者の大勢が見えてくるでしょう。
それゆえ、マンション売却活動を開始して1カ月程度が経過した後、良好な反応が得られていなければ、価格変更を検討する適切な時期に至っているといえます。
マンション売却の価格変更の幅(金額)
マンション売却時の価格変更の幅については、販売価格が各物件で異なるため、一律「○円」という答えはありません。はっきりしているのは、購入検討者の意識に訴求する幅でなければ、価格変更の意味がないということです。
マンション売却開始時の価格が5,100万円であった物件を5,050万円に価格変更した場合、購入検討者の立場としては、どのように思うでしょうか。50万円も小さな金額ではありませんが、しかし購入検討者への訴求効果は小さいでしょう。
マンション売却時の価格変更の効果を大きくするための一つの基準が、インターネットの物件情報サイトの検索区分です。情報サイトの多くは、販売価格は500万円単位で検索区分が違ってきます。前述の例だと、5,000万円を下回る販売価格に設定すれば、一段階下の予算区分で探していた購入検討者にも訴求できるようになります。
しかし例えば4,900万円でマンション売却価格を設定している場合、上記の考え方では400万円以上値下げしなければなりません。ここまで大きな価格変更は難しいケースもあるでしょう。
その場合は、当初設定したマンション売却価格の5~7%を減額幅と捉えて価格変更します。その理由は、5~7%というのは購入検討者が物件価格以外に必要になる「諸経費」の金額に該当するからです。諸経費は購入検討者が意識しやすい出費なので、「諸経費分、安くします」というアプローチは、購入検討者に再検討を促す効果を得やすいでしょう。
最後に
マンションの売却活動を始めたら、売主の方も、インターネットなどでご自身の売却物件がどのような位置にあり、どのような物件が競合するのかを確認してみましょう。
マンション売却時の価格変更については、全ての物件に共通する正しい答えはありません。しかし、購入検討者の立場に立って、ご自身の売却物件がどのように映るかを客観的に考えることが効果的な価格変更のために最も重要です。
斉藤勇佑(宅地建物取引士)
大学卒業後、5年間不動産売買業務に従事。その後、不動産管理会社に転職し、分譲マンションの維持・管理を中心とした業務に5年間かかわり、現在は不動産のストック分野の業務に従事。
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